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32.甲府盆地(山梨)

富士山と「くだもの王国」甲府盆地

 <1984年10月26日観測画像>

画像の右下は,日本を代表する火山・富士山(標高3,776m)である。また,画像中央のV字状の盆地は甲府盆地である。

いつもは横から眺め,その円錐型の美しさに魅せられている富士山も,こうして宇宙から眺めるとまた美しい。山頂の火口を中心に,頂上付近は雪で覆われ,それをとりまくように黒い溶岩が撮し出され,さらに下部は同心円状に植生の緑が変化し,高度とともに植生が変わっていく様子がよくわかる。一方,北東側に目を移すと御坂山地にまで達した古い溶岩流とそのせき止めによってできた河口湖・西湖・精進湖・本栖湖(東から)が見える。また,この溶岩流の上には大室山をはじめとした寄生火山がいくつも見え,景観に変化を与えている。この広大な富士山麓では,西で酪農,北で野菜栽培が行なわれているが,最近は,観光・リゾート開発と結びつけた観光農園経営も行なわれている。

甲府盆地は西縁と南縁を活断層で限られた構造性の盆地である。とくに西縁の断層は日本を二分するフォッサマグナの糸魚川−静岡線の一部である。この両方の断層に平行に走る釜無川と笛吹川両河川は盆地内を大きく3つの地域にわけ,盆地南端で合流して富士川となって南流する。

両河川にはさまれた中央部に甲府市が位置している。そして,両河川と山地にはさまれた西部と東部は土地利用図でみると果樹園で大部分が塗りつぶされているほどの大果樹栽培地域となっている。画像では,その果樹地帯が他の地域に比べてややぼんやりとしたようにみえる。これは果樹の枝やビニールハウスで地面が覆われているためであろう。東部は勝沼町・山梨市を中心に耕地の80%以上が果樹園でブドウ・モモが,西部で西から釜無川に合流する御勅使川の扇状地を中心にモモ・スモモが栽培されている。

山梨県における果樹栽培は農業の中心であり,耕地面積の約3分の1(13.5千ヘクタール),粗生産額の約半分を占めている。そして,ブドウ(全国生産量の24%)・モモ(22%)・スモモ(43%)は全国一の生産・出荷量を誇り,他にもオウトウ,カキ,リンゴ,ウメの生産が多く「くだもの大国」を誇っている。甲府盆地はその中枢である。

この地域でのブドウの商品作物としての栽培は江戸時代から始まり,マスカット・巨峰・デラウェアなど多くの品種が栽培されている。また,ブドウを原料としたワイン醸造も盛んで,全国の約半分を生産している。

甲府盆地で果樹栽培が盛んな要因として,水はけのよい扇状地や暖かい山地斜面の発達,長い日照時間などの自然条件のほかに,大消費地の京浜地方に近接していることがあげられる。しかし,それにもまして,出荷時期・出荷量の調整や新芽の生長を促進させる枝先のビニール袋かけ,ビニールハウス栽培とその温度調整など栽培技術や出荷・販売方法の研究に取り組む果樹農家の意欲と努力があるという。これが「くだもの王国」の地位をささえる原動力となっているのである。

今川俊明(農業環境技術研究所)

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