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33.松本平(長野)

松本平の自然と農業

 <1984年10月26日観測画像>

「信濃の国は十州に,境連ぬる国にして,聳ゆる山はいや高く,流るる川はいや遠し,松本伊那佐久善光寺,四つの平は肥沃の地,海こそなけれ物さわに,万ず足らわぬ事ぞなき」と,多くの県民が親しみ,うたい継がれている県歌「信濃の国」は,本県の地形や自然を的確に捉えている。

長野県は,日本の屋根と呼ばれる日本アルプスや南アルプスなど,海抜3,000メートル前後の高山に四方を囲まれている。これらの高山は,諸河川の源をなす。天竜川,木曽川は南に流れて太平洋に,千曲川と犀川は合流して,信濃川となり日本海にそれぞれ注ぐ。県内の平地は,これら諸河川の間にあって,千曲川流域の佐久平と善光寺平,木曾川流域の木曾谷,諏訪湖を中心とする諏訪盆地,天竜川流域の伊那谷,そして,この画像に示される梓川,奈良井川,犀川流域の松本平に分かれる。

松本平は,本県のほぼ中央に位置し,北アルプス山麓に広がる。農耕地の標高は,520〜1,400メートルにわたり,北の安曇の水田地帯,南に桔梗ヶ原の畑作地帯を形成する。平坦地は,年平均気温10〜12℃,年降水量1,000〜1,400ミリと観測され,内陸気候である。画像左側の飛騨山脈東縁部と,右側の千曲山地とでは,地形,地質,気候などが著しく異なり,土壌にも明瞭な差がみられる。西部山地は,花崗岩類と古生層を母材とする。山地帯の中腹には褐色森林土が,沢沿いには湿性褐色森林土が分布する。尾根筋には乾性ポドソル化土または乾性褐色森林土が広く分布する。東部の千曲山地では,第三紀層が主体をなす。美ケ原一帯は,隆起準平原上に流出した安山岩溶岩からなる山頂斜面である。山頂斜面とその周辺には,湿性褐色森林土が分布する。

松本平は,フォッサマグナ糸魚川−静岡構造線の西縁にあり,その中心部を盆地が南北に長く伸びる。盆地は,高瀬川,梓川,鎖川,奈良井川などの複合的な扇状地から構成される。扇状地の上流部にある桔梗ヶ原,岩垂原,朝日村,山形村などでは,黒ボク土が広く分布する。

本画像は,10月末に観測されたものであるが,画面茶褐色部分は,レタス,ハクサイ,加工トマトなどの野菜が栽培される地帯である。黄緑色部分では,リンゴ,ブドウ,ナシなどの果樹が圧倒的に多い。大町市から塩尻市に至る沖積低地,扇状地では,灰色低地土がおもに分布し,水田地帯を形成する。水田地帯は,画面の上部から下部にかけて,広く分布する白灰色部分である。この地帯の肥沃な土壌は,夏季気温の日較差が大きく,日照時間が多いなどの好適気象条件と相まって高水準の収量を達成する。

松本平の農業は,土地,労働生産性ともに県内で最も高いという。高い農業生産が,品種改良,機械化,肥料,農薬などの投与によってもたらされていることはいうまでもない。しかし,今求められている技術開発は,この豊かな自然の特性を見直し,生態系と人為の世界とのバランスをとることにある。

樋口太重(農業環境技術研究所)

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