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38.伊勢・伊賀(三重)

品質で勝負する伊勢・伊賀の農業

 <1986年3月13日観測画像>

画像では右から伊勢湾,伊勢平野を中心とした三重県北中勢地域,雪の残る鈴鹿山脈と布引山地,そして忍者の里で知られる上野盆地を中心とした伊賀地域が見られる。また,画像の右上端に木曽川と揖斐川に囲まれた輪中が見える。気候的には,年平均気温が13〜15℃,年降水量は1,500〜2,000ミリであり,伊賀地域ではやや内陸的な気候となっている。さらに,冬になると「鈴鹿おろし」と呼ばれる冷たい北西の季節風が伊勢平野に吹きつける。ここは「伊勢は津でもつ,津は伊勢でもつ,尾張名古屋は城でもつ」と伊勢音頭にも歌われ,古くからお伊勢参りの参拝客が絶えない。

県の面積は5,775平方キロ,人口179万人で全国の中ほどに位置している。耕地面積の割合は13%(72.54ヘクタール:平成2年)で,農業就業人口率は5%である。また,1戸当たりの耕地面積は87アールで全国平均の半分強である。しかし,本県は恵まれた自然条件と,中京,京阪神といった大都市圏に隣接する立地条件を生かして,地域の特性に応じた各種様々な農業が行われている。

米の作付面積は40.9千ヘクタールで,伊勢平野では「コシヒカリ」,伊賀地域では「ヤマヒカリ」がそれぞれ主に栽培されている。

野菜の作付面積は6.3千ヘクタールで温暖な気候に恵まれ,大消費地に近い利点を生かし,多くの種類が栽培されている。ダイコンは,萎黄病に対する抑止型土壌である非火山性黒ボク土壌が分布する四日市市や鈴鹿市で多く栽培されている。さらに,キャベツ,サトイモ,ネギやハクサイといった露地野菜が都市近郊で作られている。一方,温室やビニールハウスを利用したトマトは木曾岬町で,イチゴは松阪市やその近辺で主に栽培されている。なお,画像右下の多気町では特産の「伊勢イモ」が作られている。

果樹は3.9千ヘクタールで,ミカン類がほぼ半分を占めているが,県南部で主に作られている。画像の中では津市の南隣の久居市一帯ではナシ,上野市南部の国営青蓮寺開拓地域から名張市にかけてはブドウが知られている。

花き生産はシクラメンや観葉植物,キクを中心に順調な伸びをみせている。さらに,花木の60%以上を占める特産の「三重サツキ」やツツジは全国第1位の生産を維持しており,津市と四日市市から亀山市にかけて栽培されている。

茶の栽培面積は4.0千ヘクタールで生産量ともに静岡県,鹿児島県に次いで全国第3位のシェアを占めており,主に四日市市から亀山市にかけての鈴鹿山脈東麓の台地(画像では黄緑色に見える)に栽培されている。ただし,生産量や品質の割りには知名度が低く,今後,流通・消費段階で「伊勢茶」のブランドを確立することが重要な課題となってくる。

畜産では「松阪牛」が全国的にも有名であるが,「伊賀牛」や「伊賀豚」などの消費拡大も図られつつある。

以上のように,伊勢・伊賀の農業は,稲,野菜,花き,花木,茶など多様である。これからは農産物の需要が多品目化,高級・本物志向や健康・安全志向,加工・業務用需要の拡大など質的に一層変化すると見込まれている。これに対し,地域の特性を活用した付加価値の高い農業生産が進展するだろう。

土屋一成(北海道農業試験場)

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