Similar Response of Labile and Resistant Soil Organic Matter Pools
Changming Fang et al.,
農業環境技術研究所では、気候変化や人間による営農管理の変化が土壌環境にどのような影響を及ぼすかを予測し、将来の土壌肥沃(よく)度の変動や土壌からの二酸化炭素の発生量を正確に見積もることを目的の一つとして、さまざまな研究を実施し、また関連情報を収集している。ここでは、地球温暖化による土壌有機物の量への影響を予測する際に重要となる、有機物の分解速度と温度の関係について述べた論文を紹介する。
要約
土壌有機物の分解速度と土壌温度との関係(温度依存性)は、温暖化が土壌炭素蓄積量の変化に及ぼす作用の予測に大きく影響する。現在、分解されやすい形態の土壌炭素(易分解性土壌炭素)の分解速度は温度の上昇によって急速に増大するが、分解されにくい形態の土壌炭素(難分解性土壌炭素)の分解速度は温度が変化してもあまり変わらないとされていることが多い。
これに従えば、亜寒帯やツンドラ地域の土壌炭素量は易分解性の割合が大きいため、温暖化により大きく減少するが、難分解性の割合が大きい熱帯地域の土壌炭素量は温暖化の影響をあまり受けないと予測される。だが、易分解性と難分解性土壌炭素の温度依存性が、それほど違わないのであれば、温暖化時の土壌炭素変動の予測結果は大きく変わってくる。
そこで、著者らは、温度変化を短いサイクルで繰り返しながら、土壌の室内培養実験を行った。その結果、土壌有機物の分解によるCO2発生量(土壌呼吸量)は、土壌の深さ、試料採取方法、培養時間の経過に伴う土壌有機物中の易分解性炭素と難分解性炭素の割合の変化などにより大きく異なった。いずれの場合も、時間の経過とともに土壌中の易分解性の炭素が減少し、それに伴って土壌呼吸速度も小さくなった。しかし、土壌呼吸量の温度依存性を示すQ10(温度が10度上昇すると反応速度が何倍になるかを表す係数)の値は、時間が経過しても変化しなかった。
易分解性土壌炭素量が減少していくと、土壌呼吸全体に占める難分解性土壌炭素由来の分解量の寄与率が増加するので、難分解性土壌炭素の分解速度のQ10が易分解性土壌炭素よりもあきらかに小さければ、土壌呼吸量のQ10は時間の経過とともに小さくなるはずである。しかし、この実験ではQ10の時間変化はみられず、易分解性と難分解性の土壌炭素の温度依存性には有意な差はないと結論することができる。
温度依存性Q10は、温度と分解速度の関係を示すべきものであるが、温度の違いとともに他の条件にも違いが生じている場合がある。たとえば、過去の多くの土壌培養実験では、一定の温度で長時間の培養実験を行い、設定した温度と分解速度の関係からQ10を決定しているが、有機物の組成が時間とともに変化することを考慮していないため、Q10の値は正しく評価されていない。この実験では温度変化を短いサイクルで繰り返すことによって時間の経過に伴う有機物組成の変化の要因を取り除き、温度だけの影響を評価している。
この論文の、土壌の易分解性炭素と難分解性炭素の温度に対する反応には差がないという結論から、地球規模の土壌炭素の変動を予測する際には、温度上昇によって難分解性土壌炭素の分解量も大きく増大することを考慮する必要があるといえる。その結果、難分解性の割合が大きい熱帯地域の土壌炭素量の減少など、土壌炭素蓄積量の全球的な分布や規模の予測結果に違いが出ることになる。
(地球環境部 白戸康人)