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情報:農業と環境 No.78 (2006.10)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(3) 温暖化モニタリングRP

農業環境技術研究所は、中期目標期間 (平成18−22年度) における研究・技術開発を効率的に推進するため、15のリサーチプロジェクト(RP)を設けています (詳細は、情報:農業と環境 No.77農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(1) を参照してください)。

ここでは、温暖化モニタリングRPについて、リサーチプロジェクト(RP)のリーダーが紹介します。

温暖化モニタリングリサーチプロジェクト

最近では、植物工場での野菜生産のように屋内で行う農業も増える傾向にありますが、コメ・ムギ等の穀物、牧草などの主要な農業生産は、依然として野外の広い土地を利用して行われており、今後もこの状況は続くと思われます。これらの農業生産の現場は、森林や草原などと同じように、大気、植物、土壌からなる生態系(農業生態系)を形成しており、地球上には多様な農業生態系が広く分布しています。

地球の温暖化が現在予測されているように進行すれば、今世紀中にも農業生態系にさまざまな影響が出ることが予想されます。一方、農業生態系は、森林・草原生態系とともに、地球温暖化の原因となる二酸化炭素などの温室効果ガスを吸収または放出し、地球温暖化の進行に影響を及ぼしていると考えられています。

このような農業生態系と地球温暖化との相互関係を理解し、温暖化が進行しつつある中で農業生態系がどのようような影響を受け、どのように変化するのかを明らかにすることは、将来の農業生産の安定的な発展だけでなく、地球温暖化の将来予測のためにも重要です。このため、温暖化モニタリングリサーチプロジェクトでは、農業生態系を対象に長期的な監視(モニタリング)を行っています。モニタリングの要素は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの吸収・放出量と、温暖化の結果として現れる気温などの大気環境やそれにともなう生態系の変化ですが、今回はこのうちの前者について紹介します。

農業生態系では、植物が光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収するとともに、植物の呼吸により二酸化炭素が大気中に放出されたり、土壌中の微生物が有機物を分解する過程で二酸化炭素やメタンが生成されて大気中に放出されるというように、温室効果ガスの吸収・放出が活発に行われています。

これらのガスのフラックス(単位時間当たり、単位土地面積当たりのガスの吸収・放出量)は、生態系の種類によって大きく異なり、日射量や気温などの環境要因の時間変化にともなって、日変化、季節変化、年々変動を示します。また、森林・草原生態系とは異なる農業生態系の特徴として、ガスフラックスが農作業という人間活動の影響を大きく受ける点があげられます。

ガスフラックスを長期的に観測し、その変動の要因や機構を明らかにすることにより、農業生態系が地球温暖化に及ぼす影響を解明するとともに、ガスフラックスの変動を通して、温暖化の農業生態系への影響を検出することが可能になります。そこで、私たちは日本国内およびアジア地域の代表的、特徴的な農業生態系を対象として、ガスフラックスのモニタリングを行っています(表1、図1)。これらの観測点では通年観測が行われており、すでに数年間の観測データが蓄積されています(MYM観測点は、2006年1月観測開始、JND観測点は2007年1月観測開始予定)。

これまでの観測により、植物の生育期間が短い高山草原(QHB観測点)では、植物が成長を始める春先の気象条件が生育期間全体の二酸化炭素吸収量に大きな影響を及ぼすことや、人間による管理が行き届いた水田(MSE観測点)でも、年々の気象条件やほ場管理の違いにより、二酸化炭素の年間吸収量が1ヘクタール当たり2トンもの変動幅を示すことなどがわかってきました。今後もこの観測を継続するとともに、これまでに蓄積された膨大な観測データの解析を進め、生態系ごとのガスフラックスの変動の特徴やその機構を明らかにする予定です。

この研究を実施するにあたり、農業環境技術研究所は農水省、環境省、文部科学省、(社)日本草地畜産種子協会などの研究プロジェクトに参画し、他の研究機関や大学と共同で観測を行っています。また、アジアフラックス (http://www.asiaflux.net/(対応するページのURLは変更されました。2011年5月) などの国際的な組織を通じて、同様の研究を行っている国内外の研究グループとの連携を進めています。

表1 温暖化モニタリングリサーチプロジェクトが研究に参画している観測点
図1 各観測点の位置と観測タワー周辺の状況(地図と写真)

温暖化モニタリングRPリーダー 宮田 明
大気環境研究領域 主任研究員)

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