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情報:農業と環境 No.79 (2006.11)
独立行政法人農業環境技術研究所

農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(4) 重金属リスク管理RP

農業環境技術研究所は、中期目標期間 (平成18−22年度) における研究・技術開発を効率的に推進するため、15のリサーチプロジェクト(RP)を設けています (詳細は、情報:農業と環境 No.77農業環境技術研究所リサーチプロジェクト(RP)の紹介(1) を参照してください)。

ここでは、重金属リスク管理リサーチプロジェクトについて、リサーチプロジェクト(RP)のリーダーが紹介します。

重金属リスク管理リサーチプロジェクト

重金属リスク管理RPでは、おもにカドミウムという重金属に関する研究を行っています。重金属の中には亜鉛のように人間にとって必要な元素がありますが、カドミウムは人間には不要です。カドミウム濃度の高い食品を長年にわたって摂取すると、腎機能障害を引き起こす可能性があります。

人が一生にわたって摂取しても健康影響が出ないと判断される、1週間・体重1kgあたりのカドミウムの摂取量(暫定耐容摂取量)は0.007mg、すなわち体重50kgの人で1週間あたり0.35mgまでとなっています。厚生労働省の調査 (http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/12/h1209-1c.html#04) では、食品からのカドミウムの摂取量は暫定耐容摂取量の約4割に当たり、その約半分が米に含まれるカドミウムです。

米をはじめとする農作物には微量のカドミウムが含まれています。農林水産省が37,250点の玄米のカドミウム濃度を調べていますが(http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_cd/cyosa/pdf/an2.pdf (ページのURLが変更されています。2014年12月) )、平均すると米1kgあたり0.06mgのカドミウムが含まれていました。日本人一人の米消費量は平均で年間約63kg (平成14年)ですので、0.06mg/kgのカドミウムを含む米からは年間約4mg(1週間あたり約0.073mg)を摂取する計算になります。

国際的な食品基準を決定する機関において、精米のカドミウム濃度として0.4mg/kgが国際基準値として最終採択されました。上記の農林水産省の調査では、この基準値を超過する米が0.3%ありました。そこで、重金属リスク管理RPではこの基準値を超過する米を産出する水田の浄化技術の開発に取り組んでいます。

浄化技術としては化学洗浄法とファイトレメディエーションがあります。

(1) 化学洗浄法 (http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/press/050701/press050701.html

水田を畦板(あぜいた)で囲んで漏水(ろうすい)を防止した後、塩化第二鉄溶液を施用して代かきを行うことによって、カドミウムを水中に溶出させ、田面水を排水し、現場設置型の排水処理装置でカドミウムを回収します。洗浄処理によって、土壌のカドミウムは無洗浄区の50%程度まで大きく低下します。洗浄処理の後に栽培した水稲に収量減少などの悪影響はなく、玄米および稲わらの中のカドミウム含量は大幅に低下しました。現在は洗浄効果の持続性、浸透性の高い圃場(ほじょう)における下層浸透による地下水汚染などについて検討を行っています。

化学洗浄法によるカドミウム汚染水田の浄化技術

(2) ファイトレメディエーション (http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/envchemi/body/cd/phytorem.html

ファイトレメディエーションとは植物を用いて汚染土壌を修復する技術です。私たちは、ある特定のイネ品種を畑状態で栽培すると、土壌中のカドミウムをたくさん吸収することを見つけました。現在、高カドミウム吸収品種を汚染された農耕地で栽培し、カドミウムを含む稲わらを焼却等によって安全に処分するシステム作りに取り組んでいます。

重金属リスク管理RPでは、このほかに、カドミウムに関連して、

1) 作物中のカドミウム濃度を迅速測定するためのイムノクロマト法等の検討

2) ナスのカドミウム低吸収台木品種選抜

3) 水稲のカドミウム吸収関連遺伝子座の特定に向けた系統解析

他の有害元素について、

1) 有機ヒ素汚染土壌の培養試験による土壌中の動態解明

2) ウランの土壌から植物への移行係数算出

3) 作物・土壌中における放射性物質の長期モニタリング

などの研究に取り組んでいます。

重金属リスク管理RPリーダー 荒尾 知人
土壌環境研究領域 主任研究員)

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