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情報:農業と環境 No.80 (2006.12)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 215: 地球・環境・人間、 石 弘之 著、 岩波書店 (2006) ISBN4-00-007464-4 C0336

本書は、「地球環境報告」「酸性雨」「地球環境破壊 七つの現場から」「世界の森林破壊を追う−緑と人の歴史と未来」など地球環境問題に関する数々の書を著している著者が、月刊誌「科学」に連載したコラムをまとめたものである。したがって、ここに取り上げられている一つ一つの「環境問題」が読切りとなっていて、その現状、それに対する視座が平易かつ簡潔に述べられている。著者がいうように「環境に関心のある人たちの勉強や研究のヒント」になる読み物として好個の書である。

たとえば、今日の大豆ブームについてみてみよう。2002年後半から始まった大豆ブームはBSEが引き金になっていること、それはアンチョビーの深刻な不漁がもたらした1970年代の空前の大豆ブームと同じ構造であること、このブームは、世界第4位の大豆生産国である中国が世界最大の輸入国に転じたことによって加速されていること、また、GM大豆が大半を占める米国、アルゼンチン、ブラジル南部はもとより、非GM大豆への日本やEUの消費選好がその主要生産地であるアマゾン地域での生産拡大をも引き起こしていること、などが簡潔に記載されているのだが、目から鱗(うろこ)が落ちる思いがする。そして、世界最大の対外債務を抱えるブラジル政府は、その返済のための外貨獲得手段として、大豆輸出を後押しするという現実の政策がアマゾンの熱帯林破壊の背景にあることを知るとき、熱帯林の破壊という環境問題と私たちはどう向き合えばよいのか深く考えさせられる。

こうした古典的な意味での環境問題だけでなく、旧来の環境問題にはおさまらない問題も積極的に取り上げたと著者がいうように、言語多様性の問題、エイズ感染爆発の問題なども取り上げられている。日本では、10年前に比べて新規感染者が約2倍に増え、先進国で感染者が増えている例外的な国であるという状況への警告は繰り返し繰り返し発せられているにもかかわらず、減少に転じる様子が見られないという現状に、考えさせられ、そして困惑する。

本文中のなじみの薄い用語については、それを解説するコラムを設け、読者の理解を助ける配慮がなされているのはありがたい。その出典に、当研究所のウェブサイトが記載されている。その存在の意義を多少なりと証してくれているのもありがたい。

目次

まえがき

<地球・環境・人間>

スマトラ沖地震で明るみに出た環境破壊

地球の生態系が危機状況に

狂牛病(BSE)が加速するアマゾン破壊

枯渇する海―漁獲量の減少がはじまった

野鳥の二割が絶滅の危機

中国の建設ラッシュを支える違法木材

どうなっている北朝鮮の環境

エイズ感染者4000万人を超える

初の「高潮難民」の集団移住

アフリカ人はモルモットか

武器取引の規制運動、世界に広がる

宇宙はゴミため

ウミガメの危機

キリマンジャロの雪が消える

世界のスラム人口、10億人を突破

<地球のあちこちから>

ダム取り壊しのその後

滅び行く言語

つづく地球温暖化の異常現象

黄砂の当たり年

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