前号の「情報:農業と環境」(83号) でお知らせした通り、他機関との連携をこれまで以上に重点的な取り組みとするために名称と内容を変更した、平成18年度農業環境研究連携推進会議を、平成19年2月23日に開催しました。この会議には農林水産省の各部局、関係する独立行政法人、公立の農業試験研究機関などから担当者が出席しました
ここでは、この会議の内容について概略を報告します。
午前は、行政部局、公立試験研究機関、他の独立行政法人試験研究機関などから、農業環境にかかわる情勢の報告や農業環境技術研究所への要望をいただきました。
以下に、出席者から出された、おもな要望を要約して紹介します。
(1) 農林水産省消費・安全局 (栗山氏)
ポジティブリスト制度の施行後に生じてきた各種の技術的課題の解決につながる研究・開発にご協力願いたい。(たとえば、土壌残留性の高い農薬に対応できる吸収抑制技術の開発など。) また、農薬に関する新しい科学的知見・データなどの情報やアイデアがあれば、ご提供願いたい。
(2) 農林水産省生産局 課長補佐 (金澤氏)
農地・水・環境保全向上対策 (ページのURLが変更されています。2015年1月) を実施するが、その効果を定量的に評価することが重要と考えているので、技術的助言をお願いしたい。 また、今後、有機農業を推進していくこととなるが、有機農業には転換期における生産の安定など技術的課題があると考えているので、研究に協力いただきたい。
(3) 農林水産省農村振興局 課長補佐 (菅原氏)
外来生物対策指針策定調査において、外来植物が土地改良施設に及ぼす影響評価等の取りまとめについて引き続き協力願いたい。 農地の作物生産力や気候緩和機能、地下水涵養機能等の多面的機能の水準を評価する手法を構築し、気候変動に対応した有効な生産基盤整備につなげたいと考えており、引き続き協力願いたい。
(4) 農林水産省農林水産技術会議事務局 研究開発企画官 (小泉氏)
有害化学物質、炭素・窒素循環、物質循環が農林水産業や国民生活にどう関わるのか、それが社会にどう反映されていくのかを明確にしつつ研究を行ってほしい。 時代が大きく変わる中で、先見性をもって研究を行ってほしい。 農環研の研究が全体の中でどう位置づけられるかを俯瞰してほしい。
(5) (独) 肥飼料検査所 理事 (今井氏)
リスクは海外に由来するものも多いので、農環研には海外のリスクの情報を収集していただきたい。 また、当検査所で行っているカドミウムに関する汚泥肥料の施用試験について、農環研から情報提供等の協力をいただきたい。
(6) (独) 農薬検査所 検査部長 (阪本氏)
今後は除草剤のシジミへの残留が課題となるので技術的ご指導等協力を願いたい。
(7) 滋賀県農業技術振興センター 環境研究部長 (柴原氏)
農環研に対しては、将来的な課題として多成分の農薬を総合的に評価する手法について協力を得たい。 また、現在取り組んでいる課題として、地域の物質循環の実態,持続性・永続性の評価方法,生物多様性の保全をめざした農法(例:「魚のゆりかご水田」水田をニゴロブナの繁殖の場として琵琶湖に棲み付く外来魚に食べられないようにする)の技術評価等にも協力を願いたい。
午後は、当研究所の主要な研究成果を3題紹介した後、重要問題の検討として「農業環境におけるリスク評価」を取り上げ、講演と討論を行いました。まず産業技術総合研究所の内藤航氏に「環境リスク研究の現状と課題」について講演いただき、その後、当研究所から4つの話題提供を行いました。
「農業環境におけるリスク評価」についての討論の概要を以下にご紹介します。
・ 生態系のリスク評価をどう行うかは、たいへん難しい問題である。環境負荷物質による人の健康へのリスクについては比較的整理されてきているが、生態リスクについてはまだ手法上の問題点が多い。内藤氏の講演で紹介された順応的管理(生物の状態をモニターして、その変化に柔軟に対応していく管理手法)が生態リスク管理のゴールであろうと考えられる。このためにはモニタリングが重要である。
・ 産業技術総合研究所の化学物質リスク管理研究センターでは、順応的管理に注目してケーススタディを行っているが、どのような生物をモニタリングするかが重要である。また、同じ物を調べても人によって結果が大きく異なることがあり、ヒューマンエラーも問題になる。だれもが同等な結果を得られるモニタリング手法の確立が重要だろう。
・ モデリング手法を用いてリスク評価を行う研究者は、評価のために必要なデータを明示し,モニタリングを行っている生態学分野の研究者に対して、その提供を呼びかけるべきである。