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情報:農業と環境 No.84 (2007.4)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 226: The World is Flat - The Globalized World in the Twenty-first Century、
Thomas L. Friedman、 Penguin Books (2006) ISBN 9780141022727
(日本語版: フラット化する世界(上・下)、伏見 威蕃 訳、 日本経済新聞社)

バンガロールが、インドのシリコン・バレーと呼ばれるように、IT産業の拠点となってインド経済の発展を牽引している。アメリカ企業のIT部門を担う役割を演ずることによって、そこにインドでのIT産業の拠点化が進んでいる。こうしたインドのIT産業発展の根底には、「商品は交易されるが、サービスは生産の現場で消費される。だから、理髪を輸出することはできないが、輸出に極めて近いことならばすることができる。たとえば、望みの理髪や希望する理髪店などを予約することは、遠く離れたコール・センターを通じてもできる」という発想がある。

現在は第3のグローバリゼーションが進んでいる時代であると著者は言う。第1のグローバリゼーションは、1492年にコロンブスがインド大陸を目指して船出をしたときに始まり、1800年ころまで。この時代は、「筋力」、すなわち、筋肉、馬力、風力などが駆動力となり、世界を大規模なレベルから中規模なレベルへと収縮させた。第2のグローバリゼーションは、1800年から2000年ころまで。この時代は、市場と労働を世界に求めた「多国籍企業」が駆動力となった。ハードウェアにおける発展、すなわち、前半では、蒸気機関や鉄道による輸送費の低下、後半では、電報、電話、パーソナル・コンピュータ、サテライト、光ファイバー・ケーブルなどの普及による遠距離通信費の低下によって、世界は中規模レベルから小規模なレベルへと収縮した。そして、第3のグローバリゼーションは、2000年ころから始まった。この時代は、光ファイバー・ケーブルによりパーソナル・コンピュータを集合させるプラットフォームのもとで、距離に関係なく、デジタル・コンテンツによって「個人が地球規模で協働や競争する力」が駆動力となり、小規模なレベルからさらにちっぽけな規模かつ平坦な世界へと収縮した、と。

コロンブスは、インド大陸を目指して航路を西に向けて船出し、実際にはインド大陸に到着することはできなかったが、地球が丸いことを確信した。しかしその世界は、現在、平坦になったと言う著者は、10の主たる原動力を挙げて、いかに平坦となった世界にわれわれはいるかを熱っぽく語る。

その冒頭には1989年11月9日に起きたベルリンの壁の崩壊が挙げられる。2番目には、英国のコンピュータ科学者ティム・バーナーズ=リーが考案したWWWブラウザを、1995年8月9日にネットスケープ社が Netscape として公開したことだという。これによってインターネットはだれもが使えるものとなり、コンピュータ・ネットワークの多様な活用が加速された。そして、地球上のどこにいるかを問わず大勢の人と交信することができるようになった。これは平坦となった世界をさらに平坦化させる基盤となった。第3にワークフロー・ソフトウェアによるコンピュータ間の接続、第4に、ブログのように、ウェブサイトへのアップロードがだれにでもできるようになったことである。これによって、だれもが、情報の消費者ばかりでなく生産者にもなることとなった。5番目にアウトソーシング(業務の外部委託)を、第6にオフショアリング(業務の海外移転)、第7にサプライ・チェイン(製品の生産・運搬・販売の全体管理と最適化)、第8にインソーシング(企業内資源の有効活用、専門的業務受託)、第9にサーチエンジンによる情報の獲得、そして10番目には、デジタル、モバイル、バーチャルで個人的に第5から第9までのすべてを協働させるもの(それは単なる無線技術ではなく著者はこれを「ステロイド」とよぶが)を挙げている。この「ステロイド」によって、人々と人々、コンピュータとコンピュータ、人々とコンピュータとがより遠く、より早く、より廉価に、より容易に会話することができるようになった。

著者は、インド、中国、中近東を訪ね、訪問する先々で知識や各種の資源が世界中で結びついているさまを描写する。そして、グローバリゼーションが進む21世紀を「平坦化が進む世界」として描き出す。「情報化」社会と言われる今日、その根底で日々進化しているIT技術やそれを駆使したシステムが眼前に広げられる本書の世界はたいへん刺激的で興味がつきない。

Contents (「フラット化する世界」目次)

Introduction to the Updated and Expanded Edition (序文)

How the World Become Flat (第1部 世界はいかにフラット化したか)

One: While I was Sleeping (第1章 われわれが眠っているあいだに)

Two: The Ten Forces That Flattened the World (第2章 世界をフラット化した10の力)

Flattener #1. 11/9/89 (フラット化の要因1 ベルリンの壁の崩壊と、創造性の新時代)

Flattener #2. 8/9/95 (フラット化の要因2 インターネットの普及と、接続の新時代)

Flattener #3. Work Flow Software (フラット化の要因3 共同作業を可能にした新しいソフトウェア)

Flattener #4. Uploading (フラット化の要因4 アップローディング:コミュニティの力を利用する)

Flattener #5. Outsourcing (フラット化の要因5 アウトソーシング:Y2Kとインドの目覚め)

Flattener #6. Offshoring (フラット化の要因6 オフショアリング:中国のWTO加盟)

Flattener #7. Supply-Chaining (フラット化の要因7 サプライチェーン:ウォルマートはなぜ強いのか)

Flattener #8. Insourcing (フラット化の要因8 インソーシング:UPSの新しいビジネス)

Flattener #9. In-forming (フラット化の要因9 インフォーミング:知りたいことはグーグルに聞け)

Flattener #10. The Steroids (フラット化の要因10 ステロイド:新テクノロジーがさらに加速する)

Three: The Triple Convergence (第3章 三重の集束)

Four: The Great Sorting Out (第4章 大規模な整理)

America and the Flat World (第2部 アメリカとフラット化する世界)

Five: America and Free Trade (第5章 アメリカと自由貿易――リカードはいまも正しいか?)

Six: The Untouchables (第6章 無敵の民――新しいミドルクラスの仕事)

Seven: The Right Stuff (第7章 理想の才能を求めて――教育と競争の問題)

Eight: The Quiet Crisis (第8章 静かな危機――科学教育にひそむ恥ずかしい秘密)

Nine: This Is Not a Test (第9章 これはテストではない)

Developing Countries and f the Flat World (第3部 発展途上国とフラット化する世界)

Ten: The Virgin of Guadalupe (第10章 メキシコの守護聖人の嘆き)

Companies and the Flat World (第4部 企業とフラット化する世界)

Eleven: How Companies Cope (第11章 企業はどう対処しているか)

Geopolitics and the Flat World (第5部 地政学とフラット化する世界)

Twelve: The Unflat World (第12章 フラットでない世界――銃と携帯電話の持込みは禁止です)

Thirteen: Globalization of the Local (第13章 ローカルのグローバル化――新しい文化大革命が始まる)

Fourteen: The Dell Theory of Conflict Prevention (第14章 デルの紛争回避理論――オールド・タイム vs カンバン方式)

Conclusion: Imagination (結論 イマジネーション)

Fifteen: 11/9 Versus 9/11 (第15章 2つの選択肢と人間の未来――11・9 vs 9・11)

Acknowledgments (謝辞)

Index (索引)

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