無機・有機化学物質の中には、農業環境中に長期間残存してヒトや環境に悪影響を及ぼすものがあります。化学物質に対する国際的な安全基準がますます強化される中、このような有害化学物質のリスク評価やリスク管理に対する取り組みが国内外で強く求められています。このため、農林水産省では、農業環境技術研究所を中心として残留性有機汚染物質 (POPs) やカドミウムを対象にしたプロジェクト 「農林水産生態系における有害化学物質の総合管理技術の開発」 (平成15〜19年度)を実施し、これら汚染物質の汚染実態および動態の把握、リスク評価およびリスク低減化技術の開発に取り組んできました。
そこで、このアウトリーチ活動の一環として、「食と環境の安全を求めて−農林水産生態系における有害化学物質−」 と題して、2007年11月29日(木曜日)、つくば国際会議場において研究成果発表会を開催し、約200名の方に参加いただきました。
日本大学の矢木修身氏による基調講演をはじめとして、一般講演9題、ポスター発表66題の発表がありました。なお、当日の要旨集が下記のWebサイトで公開されていますので、ご覧ください。
プロジェクトWebサイト:http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/project/toxpro/
研究成果発表会要旨集 (PDFファイル 1.55MB): http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/project/toxpro/071129.html
開催日時: 平成19年11月29日 (木曜日)
開催場所: つくば国際会議場 (中ホール200、多目的ホール)
参加者数: 198名 (農環研 48名、他の独立行政法人 28名、大学 24名、公立農試 48名、行政 19名、関連団体 31名)
講演題目と講演者
[ 基調講演 ]
土壌修復技術の現状と今後の展望 矢木修身(日本大学教授)
[ 一般講演 ] (カドミウムチーム:3、有機化学物質チーム:6)
イネを利用したカドミウム汚染土壌の修復 茨木俊行(福岡農試)
オンサイト土壌洗浄によるカドミウム汚染水田の修復 牧野知之(農環研)
有機性廃棄物の農耕地利用に伴うカドミウム汚染リスク 川崎 晃(農環研)
農薬の水生生物への影響を評価するための、新しい試験法の開発 堀尾 剛(農環研)
東京湾における有機スズの動態モデルの開発 橋本伸哉(静岡県立大学)
日本やアジアで使われた農薬のゆくえ? 西森基貴(農環研)
ダイオキシンやDDTを効率的に分解する酵素系の開発 福田雅夫(長岡技術科学大学)
品種および資材を利用してキュウリのディルドリン吸収を抑制 大谷 卓(農環研)
各種汚染土壌のリスク低減化技術を包括的に評価する 井上 康(名古屋大学)
[ ポスター発表 ] 66題(カドミウムチーム:30、有機化学物質チーム:36件)
概要
成果発表会会場のようす
基調講演では、日本大学の矢木修身氏が、「土壌修復技術の現状と今後の展望」 と題して、重金属やPOPsで汚染された土壌、水、大気環境を、生物を利用して修復する 「バイオレメディエーション(生物的環境修復)」 について、最新情報を紹介しました。
一般公演におけるトピックをいくつか取り上げると、カドミウムについては、植物を利用して汚染土壌を浄化する 「ファイトレメディエーション」 技術のひとつとして、カドミウムの吸収量が高いイネ品種の選抜や、落水時期とカドミウム吸収量との関連性を明らかにしました。実用化に向けては、そのイネを焼却してカドミウムを回収したり、カドミウムを吸収したイネからバイオエタノールを生産する技術の開発に向けた取り組みがなされています。さらに、化学的手法として、塩化第二鉄を利用することにより、カドミウムで汚染された現場において低コストで迅速に汚染土壌を浄化できる土壌洗浄技術を開発しました。
一方、有機化学物質については、POPsの一つであるディルドリンの吸収率が低いキュウリの台木品種 (カボチャ) を利用したり、活性炭にディルドリンを吸着させたりして、キュウリへの吸収を抑制する技術を開発しました。これらの技術は、労力やコストの観点からも実用化が大きく期待されています。
また、POPsや重金属等による汚染レベルの異なる土壌における、さまざまなリスク低減化技術について、ヒトに対するリスク、総費用、二酸化炭素の排出量などを用いて、包括的に評価する指標を提案しました。この評価指標によって、各技術のランキングや他の技術に対する競争力を示すことができます。
その他にポスター発表においても、食と環境の安全に関するさまざまな研究が紹介され、熱心に議論されるとともに、その後のアンケート結果からも、参加者の期待の大きさが分かり、わが国におけるこれらの研究の緊急性・重要性が再認識されました。