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情報:農業と環境 No.93 (2008.1)
独立行政法人農業環境技術研究所

第28回農業環境シンポジウム 「温暖化によって何が起こり、どう対応できるのか ―農林水産業に与える影響の評価とその適応策―」 が開催された

2007年、気候変動に関する政府間パネル (IPCC) は第4次評価報告書を取りまとめました。さらにアル・ゴア氏とIPCCがノーベル平和賞を受賞し、温暖化への関心が高まっています。また、8月には日本の最高気温が更新されるなど、温暖化は私たちの身近な問題となっています。さらに、本年(2008年)7月に開催される洞爺湖サミットにおいても温暖化対策が主要課題となることが決まっています。そのような中、最近のマスコミ等の報道では、温暖化による農業被害の面に焦点があてられている傾向があるようにも感じます。

そこで、2007年12月11日に、温暖化によって農林水産業で何が起こっているのか、将来はどうなるか、どのような対策が考えられるのかを広く一般の方にも知っていただき、理解を深めていただくことをめざして、「温暖化によって何が起こり、どう対応できるのか〜農林水産業に与える影響評価とその適応策〜」をテーマに第28回農業環境シンポジウムを、東京の新宿明治安田生命ホールで開催しました。

当日の参加者は307名で、その内訳は、行政39名、研究・大学71名、企業・関係団体等79名、マスコミ32名、個人を含むその他45名、農環研41名でした。

講演者と講演内容

1.柴田明夫(丸紅経済研究所):これからの日本を取りまく食糧事情

当日資料 [PDF]

世界の食糧需給のひっ迫とバイオマス燃料ブームによって、食糧をめぐる国家間の争奪、食糧市場とエネルギー市場との争奪に加えて、水と土地をめぐる農業と工業の争奪が強まる公算が大きい。これらに対して、日本農業は自給率の向上、資源の徹底利用、アジア共通農業の模索の必要性が述べられました。

2.鮫島良次(北海道農業研究センター):今、北海道で起こっていること

当日資料 [PDF]

近年の農村地帯の気温上昇の程度は、都市域と比較してそれほど大きくない。しかし、農地開発や農業生産が温暖化に寄与していること、北海道の温暖化による農業影響は、水稲生産にははっきりあらわれていないが、十勝地方での積雪の早期化で土壌凍結深が浅くなったため、収穫時にこぼれた塊茎が雑草化する「野良イモ」が問題になっていることが紹介されました。

3.森田敏(九州・沖縄農業研究センター):今、九州で起こっていること〜水稲に注目して〜

当日資料 [PDF]

近年の九州産水稲の作柄・品質の低下は登熟不良によってもたらされたこと、その要因として、日照不足、高湿度、台風等の影響があることが解説されました。また、高温、特に高夜温の影響も否定できず、その回避技術として出穂期が遅い品種の利用や高温耐性の品種開発の状況が報告されました。

4.西森基貴(農業環境技術研究所):気候モデルによる温暖化予測とそのダウンスケーリング〜身近な地域への影響を知るために〜

当日資料 [PDF]

IPCCの報告により温暖化が進行することは疑いの余地がないが、将来の水稲生産を予測する作物収量モデルに入力する気候変化は、全球気候モデル(GCM)に依存している。GCMを使って狭小な日本への影響を評価する際の問題点とそれを解決するためのダウンスケーリングという手法が解説されました。

5.長谷川利拡(農業環境技術研究所):温暖化による水稲の収量変動〜そのしくみと適応〜

当日資料 [PDF]

温暖化による水稲生産の変動をより確実に予測し、有効な適応技術を提示する研究に取り組んでいる。高CO濃度による増収と高温による減収のしくみ、そして、温暖化時の水稲生産を考える上で大きなヒントとなる、2007年夏の異常高温の影響について報告されました。

6.杉浦俊彦(果樹研究所):温暖化が日本の農業生産に及ぼす諸問題とその適応策

当日資料 [PDF]

全国の農業関係研究機関を対象に行った温暖化による農業影響のアンケート結果をもとに、温暖化の影響と思われる現象、それらに対して現在考えられる対策について、水稲、小麦、大豆、果樹、野菜さらには畜産まで、具体的な例を示して紹介されました。

7.伊藤進一(東北区水産研究所):温暖化の漁業生産への影響〜どこまで予測できるのか、対応策はあるか〜

当日資料 [PDF]

温暖化がさらに進行すると、海水面の上昇や海洋中の循環の低下などが起こり、栄養塩の供給が減少して、魚の餌となるプランクトンの生産が低下すること、それらをモデル化することで、サンマは成長が遅れるが個体数の増加が予測されることなどが紹介されました。

これらの発表に対して、コメの品質低下とその要因、東南アジアのコメ輸出国への影響、海流の動きを左右する要因などについて、会場との質疑が交わされました。また、温暖化と生産の関係だけでなく、温室効果ガス排出削減とのバランス、土壌中の養分循環あるいは影響を引き起こす現象の閾値を考慮する必要性が指摘されました。

また、参加者にアンケートへの記入をお願いしたところ、171名の方から回答をいただきました。多くの方が温暖化、食料生産、水問題に関心を持っていました。シンポジウムについては、「時宜を得ていた」、「プログラム構成がよく、説明もわかりやすかった」など好意的な意見が多くありました。また、発表時に使用した資料を公開してほしいとの要望も多く、当研究所のWebサイトで公開する予定です。また、温室効果ガス削減など緩和策についてのシンポジウム開催を要望する意見もありましたが、これについては、本年(2008年)5月14日(水曜日)に、新宿明治安田生命ホールにおいて開催する予定です。

講演を熱心にきかれている参加者のみなさん(写真)

講演を聞かれる参加者のみなさん

シンポジウム会場の全景(写真)

シンポジウム会場の全景

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