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情報:農業と環境 No.94 (2008.2)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 247: Alien Species and Evolution: The Evolutionary Ecology of Exotic Plants, Animals, Microbes, and Interacting Native Species
by George W. Cox, Island Press (2004) ISBN-13: 978-1559630092
(外来生物種と進化:外来の植物・動物・微生物、および関係する在来生物種の進化生態学)

外来生物の影響を遺伝子レベルで見てみたらどうなるかということを多くの事例をあげて解説し、著者の考える解決策を提示している本。英語ではあるが、わかりやすく書かれているので、遺伝子解析の専門知識を持たない読者にも興味深く読めるだろう。

外来種と一口に言っても、原産地では隔離されていた集団が新天地で出会ったり、あるいは新天地の在来種と交雑したり、ありとあらゆることが起こり、予想外の特性を持つ生物が生まれたりしている。本書のページをめくるたびに、次はどんなことが起こっているかとワクワクしながら読んだ。

もし、これがSF映画のようなフィクションであれば安心なのだが。でも、この本で述べられているさまざまな事例は、「外来種との交雑種が倍数化してスーパーグラスが出現」したことや「作物に導入した遺伝子を土壌菌が獲得」したことを含めて、すべて実際におきたことである。私たちの日常生活にすぐに影響する問題はそう多くないかもしれないが、「外来種問題」や「生態系保全」に関わっている者にとっては、いろいろな問題をどう解決するのか、解決する手段はあるのか、そもそもこの流れを止める必要があるのかなど、容易には答の出せない疑問がつぎつぎとわきあがってくる。

本書の最後で、「外来種は、地球温暖化も含めた人間による環境改変とあいまって、かつてない速度でさまざまな生物の進化を加速している。そのような状況下で、固有の種を保全するには、そのような生物の持つ進化能力を最大限発揮させて、新しい生物学的・非生物学的変化に適応できるようにすることが重要だ。」と著者は述べている。いったいそのようなことが可能なのだろうか? 「現実を良い方向に変えていくには、まず事実を知ることだ。」 と、どこかで読んだことがある。その意味で、環境問題や生態系保護に関心を持つ多くの人にぜひ読んでほしい本である。

著者は、サンディエゴ州立大学の生物学名誉教授である。本書のほかに、Alien Species in North America and Hawaii (1999)、Conservation Biology: Concepts and Applications (2005) など、多数の著書がある。

以下に、本書の目次とともに各章の簡単な要約を示すので、参考にしていただきたい。

目次と各節の概要

Part I. Basic concepts of Alien Invasion and Evolution

(外来種が関わる進化生物学の概要を説明し、その中核となる拡散能力と遺伝的変異の基本的事項を解説。)

1. Alien Species and Accelerated Evolution

(新たな場所に導入(非意図的導入も含む)された植物、動物および微生物の影響について経済的な面も含めて紹介し、これらの導入に伴う急速な進化とその重要性についても解説。)

2. Adaptation of Alien Species for Dispersal and Establishment

(生物の持つ本来の拡散機構と人間の活動による長距離移動に関わる選択圧を検証。生物が新しい場所に到達し、定着、拡散することを可能にする適応と進化的反応についても述べる。)

3. Founder Effects and Exotic Variability

(外来種の遺伝的変異のパターンの考察。遺伝子解析技術について簡単に紹介し、導入・定着過程が創始者集団の遺伝子構造に及ぼす影響について述べる。)

4. Introduction Sources, Cryptic Species, and Invasion Routes

(原産地および導入先における外来種の遺伝子構造の解析により、導入(侵入)源および導入経路の解明が可能となる。さらに、隠蔽種(形態的に非常によく似ているため、遺伝子解析により初めて認識される種)について述べる。)

Part II. Processes of Evolutionary Change and Adaptation

(進化的変化のおもな作用機作について。また、それらが、外来種が新しい生物学的・非生物学的な環境に適応する際にどのように作用するか。)

5. Hybridization and Evolution of Exotics

(外来種の導入に伴う交雑頻度の増加について。交雑は外来種同士、外来種と在来種のどちらのパターンでも起こりうる。世界的に有名な侵入種には、交雑種起源のものもある。)

6. Hybridization and Transgenic Organisms

(野生植物、動物、微生物に組換え遺伝子が流入したら? その可能性と予想される結果。)

7. Invasion Resistance of Native Communities

(侵入生物に対する生物集団の抵抗性を決定する要因と侵入生物がそのような抵抗性を克服する要因。)

8. Adaptation of Alien Species to New Habitats

(外来種の新しい環境−生物学的・非生物学的に−への進化的適応。あまり影響のない生物型から大きな影響を持つ生物型へと突然に変化した外来種にはこのような適応性を獲得したものが多い。)

Part III. Evolutionary Interaction of Aliens and Natives

(食物連鎖によってつながった生物の間には、外来種の導入によって劇的な進化が起こる場合がある。これらの進化的変化は、外来種のみ、外来種と関係のある在来種のみに起こることもあるが、多くは、関係する外来種と在来種の両方が変化する。また、新しい場所に導入されたさまざまな外来種の間にも進化的な交互作用が見られる。)

9. Evolutionary Adaptation by Alien Herbivores

(外来の植食者に起こる進化的適応)

10. Evolutionary Adaptation by Alien Predators and Parasites

(外来の捕食者および寄生者に起こる進化的適応)

11. Adaptation of Alien Diseases to Hosts and Vectors

(外来の病原体の新しい寄主や媒介者に対する適応)

12. Adaptation of Plants to Alien Herbivores and Diseases

(植物の外来植食者および病原体に対する適応)

13. Adaptation of Native Herbivores to Alien Plants

(在来植食者の外来植物への適応)

14. Adaptation of Animals to Alien Predators, Parasites, and Disease Agents

(動物の外来の捕食者、寄生者、病原体に対する適応)

15. Accumulation of Herbivores, Predators, and Parasites by Alien Species

(外来植物あるいは動物が植食者、捕食者、寄生者を獲得していく過程。これは、外来種がその地の生態系に統合されていく最初の過程となる。)

Part IV. Global Evolutionary Consequences of Alien Invasions

(世界各地で起こっている外来種の導入は生物の多様性に多大な影響を与えている。在来の植物相および動物相は外来種の導入により、恒久的に変化し、「生物学的均一化」が懸念されている。外来種と在来種との間に起こる進化的交互作用はこれら種を変え、結果的に群集を変化させる。)

16. Alien Species as Agents of Extirpation and Extinction

(外来種の導入は、在来の種の絶滅や個体群の消滅の主要因となる。種の絶滅へとつながる外来種の影響について検証する。)

17. Evolutionary Ecology of Alien Biological Control Agents

(外来種を、生物学的防除のために意図的に導入することがある。このような外来種が、在来種の絶滅に関与するかという論争を検証する。)

18. Counteradaptation and Integration into the Biotic Community

(外来種の侵入には、生態系の多様性を高めるという側面もある。外来種のもたらす負の影響が緩和され、在来の生態系に統合されていく過程について解説する。)

19. Dispersing Aliens and Speciation

(外来種の在来生態系への同一化に加えて、外来種と在来種の交互作用は、新しい種の誕生につながるかもしれない。そうなれば、絶滅を引き起こす外来種の影響はある程度緩和される。この章では、外来種の導入が種分化を促進するという側面を考察する。)

20. Permanently Altered Biotic Communities

(外来種の導入が他の地球的規模の変化、とくに気候変動と作用し合い、生物群集を恒久的に変える過程を検証する。全地球の陸界、水界の生態系で現在起こっている変化に対応するには、「生物は外来、在来を問わず進化し、それには危険性と利点がある」ことを正しく認識する必要がある。)

(生物多様性研究領域 西田智子

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