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情報:農業と環境 No.94 (2008.2)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 250: 水戦争 ―水資源争奪の最終戦争が始まった、 柴田明夫 著、 角川SSコミュニケーションズ (2007) ISBN978-4-8275-5019-1

これまで、わが国では「水と安全はただ」と思っている人が多かった。しかし、近年の水不足は、砂漠化や水源の枯渇をはじめとする環境への影響とともに、食糧生産の面からも深刻な問題になっている。地球温暖化による異常気象は降雨量を減少させ、世界の食糧不足を加速し、さらに、バイオ燃料の需要にともなうトウモロコシや大豆など飼料穀物の争奪にも発展していく構図が描かれる。

著者の柴田明夫氏は、丸紅経済研究所の所長であり産業政策・国際商品市況分析の専門家として知られる。昨年(2007年)12月に、農業環境技術研究所が東京都内で開催した 第28回農業環境シンポジウム「温暖化によって何が起こり、どう対応できるのか」 では、基調講演として「これからの日本を取りまく食糧事情」についてお話いただいている。

本書は、「水の時代」といわれる21世紀について、エネルギー、鉱物資源などと同様に水資源が有限な戦略物資として、国際的にどのような問題が生じてくるかが多くの統計データに基づいて解析されている。とくに、食糧自給率が40%に満たないわが国は、輸入国での食糧生産に必要な大量の水消費の問題について、真剣に検討する必要があるとしている。原油価格や水関連ビジネスによる世界の巨大利権など、将来を見すえた地球規模での経済問題も含めて論じられているが、ここでは地球環境と食糧生産に関連する内容について紹介したい。

「21世紀の世界の食糧生産の鍵を握るのが水なのは間違いない」。世界の水使用は、農業用水が約7割、工業用水が約2割、生活用水が約1割で、農業は最も多量の水を必要とする産業である。増え続ける人口を養うため食糧の増産が必須の状況にあるが、不適切な農業活動も多く見られる。過放牧、過剰な地下水の汲み上げ、水漏れなど、農業用水の管理が最重要の課題となっており、今後の食糧増産には潅漑(かんがい)の普及が求められる。

「地球温暖化がさらなる温暖化を招き、それがさらなる温暖化を招く絶望的な連鎖反応、いわゆる「温暖化の暴走」という恐ろしい事態が起きる」。世界の主要穀物産地で、干ばつ、洪水、台風などの異常気象がみられ、農産物の大きな被害も生じるようになった。世界各国で発生している異常気象と農産物に対する影響との関係に加えて、穀物市場の動向を比較し、治水、利水、水環境などのバランスを図り、量と質の両面から水資源の利活用の在り方を再検討することを提言している。

「世界経済の爆発的成長は、食糧需要の飛躍的増大を招く」。穀物をめぐって、米国を中心とする国家間の争奪戦、バイオ燃料増産に向けたエネルギー市場と食糧市場の争奪戦、そして、中国やインドなどで見られる工業部門と農業部門における水と土の争奪戦が深刻になっている。穀物市場は、輸出国の国内生産の変動に反映され、また、世界の食糧供給の半分は、コメ、コムギ、トウモロコシ、ジャガイモ、大豆の5種類の作物に依存している。このような特定の作物にかたよった状況において、気候変動に対する作物生産の脆弱性(ぜいじゃくせい)を指摘している。

「日本は膨大な食糧を海外から輸入し・・・国内の水資源を使わずに済んでいる。食糧輸入を介しての世界の水に依存しているのが我が国」。日本人は世界の水資源を使って生産された食糧で生きているという事実を受け止め、水不足から派生する食糧価格の高騰や食糧不足などによる危機の到来に備えるべきである。地球温暖化と同様に、地球レベルでの水の質と量に対する不安が広がっている現在、本書は、具体的な数値や世界経済の動向などから水の問題を精査し、今後のわが国における水問題への考え方を示唆している。

目次

はじめに

序章  世界各地で起こっている水資源戦争

「2025年、世界人口の半分が水不足に直面」とする国連報告 / 生活から水が消える日 / 欧州、インド、アフリカで水を奪い合う紛争が勃発

第1章 枯渇の危機に瀕する水資源

圧倒的に少ない地球上の淡水 / 人口増による砂漠化のひろがりで水源が枯渇へ / 農業用水の管理こそ最重要課題 / 汚染水の悲劇 / 世界で使われる水の量 / 水はただではない

第2章 地球温暖化がもたらす水と食糧の危機

人為的な原因で引き起こされる地球温暖化 / 宮沢賢治「グスコーブドリの伝記」にみる先見性 / 地球温暖化による異常気象で、干ばつが増加 / 北朝鮮の政治体制を揺るがしかねない干ばつと大洪水 / 黄河が干上がった中国の水不足 / 深刻化する中国の水問題

第3章 巨大な利権とビジネスが動かす水

水問題への世界的な取り組みが始まった / 地球の水を商品化する巨大企業 / 世界の水市場を支配する「水男爵」 / 水道事業民営化に遅れる日本 / 海水淡水化事業 / 水の使用は水を汚染することでもある / 水関連市場で活躍する日本企業 / 注目を集める水関連ファンド

第4章 資源大量消費時代の到来

エネルギー・資源価格の「均衡点の変化」が始まった / 市場メカニズムが働かない資源市場 / 塗り替わる世界のパワーバランス / 資源は「市況商品」から「戦略商品」へ / 活発化する資源外交 / 資源高騰時代は日本企業の出番 / 1970年代との類似

第5章 穀物をめぐる3つの争奪戦と穀物メジャーの戦略

旺盛な需要に追いつかない食糧生産 / 個別作物で見た需要動向 / 穀物をめぐる3つの争奪戦(国家間、都市間、農業と工業間) / 穀物市場の脆弱性 / 不安定化するロシアの穀物生産 / 見えてきた穀物メジャーの戦略 / わずか5種類の作物に食糧供給の50%を依存する危うさ

第6章 水の超大量消費国・日本はどうすべきか

バーチャルウォーター貿易 / 世界の水に支えられる日本 / 難しい日本の河川管理 / 水管理は「押し込める」方式から「なだめる」方式へ / 都市化と水問題 / 水環境の高度化を進める / 日本に必要な水資源確保

あとがき 〜世界からミツバチが消える日〜

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