2008年11月17日から19日まで、第14回環境中における重金属の国際会議 (14th International Conference on Heavy Metals in the Environment、以下14th ICHMET) が台湾 (台北市、国立台湾大学) で開催されました。農業環境技術研究所からは土壌環境研究領域に所属する荒尾、牧野、石川、村上、前島、赤羽(報告者)の6名が参加しました。私たちは現在、「重金属汚染リスク評価手法及び汚染土壌修復技術の開発 ( http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/rp/jukinzoku_rp.html )」の研究を進めており、これまでに得られた成果を口頭およびポスターで発表しました。会議の参加者の多くはアジア地域からでしたが、約35か国から、約250人の参加者があり、各国の重金属問題や重金属のリスク管理等について、報告と意見交換がありました。
写真1 開校80周年を迎えた国立台湾大学
写真2 会場となったGIS Convention Center
14th ICHMET では、環境中の重金属に関して12のセッションが設けられ (表1)、約100の口頭発表と、約80のポスター発表がありました。参加者の専門分野は環境科学、農学、医学、衛生学、理学、工学など、さまざまでした。参加機関も大学、国立研究所、企業、行政と多様で、重金属への関心の高さがうかがえます。
今回、報告者が興味をもって参加したのは、Risk assessment and risk management pertaining to toxic metals in the environment (環境中の有害金属のリスクアセスメントとリスク管理)、Soil remediation and soil quality criteria (土壌修復と土壌環境基準)、そしてCrop and food safety related to heavy metals (重金属に関連した作物と食品の安全) でした。なぜなら、私たちが研究対象としている農耕地のカドミウムに関連した発表を期待したからです。数は多くはありませんでしたが、作物の重金属吸収量の低減を目的とした資材添加試験や、Hyperaccumulator (重金属を高濃度で蓄積する植物) を用いたファイトレメディエーション (植物の働きによって汚染物質を低減し、環境の改善を図る技術) の発表がありました。感想としては、どちらも一定の効果は認められるものの、実際のほ場レベルでの確認がもう少し必要であると感じました。また、全体を通して、水銀に関する発表が多くありました。ある国においては、近年、漁獲量が年々増加傾向であり、魚身の水銀調査に力を入れているとのことでした。現在、食品中の重金属含量に関して、国際連合食糧農業機関 (FAO) と世界保健機関 (WHO) 合同による食品規格委員会 (Codex委員会) がその限度基準を策定しています。そして、今日までに策定された Codex 規格をもとに世界中でその基準値作りが始まりつつあります。日本も例外ではなく、これまで以上に厳しい数値目標が設定されることが予想されます (Codex における精米中カドミウム含量:0.4 ppm など)。食の国際化が進む中、食品中の重金属に関する世界共通の安全基準やリスク管理技術がますます重要になるだろうと思いました。
表1. 14th ICHMET のセッション
写真3 ポスター会場にて(報告者)
写真4 オープニングセレモニーで披露された Taiwan Aboriginal Dancing Show
会議のスペアタイム中には,いくつかのサプライズと発見がありました。オープニングセレモニーでは Taiwan Aboriginal Dancing Show (台湾原住民の踊り) がありました。その開始時刻 (午前 8:30) にも驚きましたが、目が覚めるような民族衣装と音楽に迎えられ、気持ちが高まりました。そして、台湾には日本と共通した食文化がある、といった発見がありました。たとえば、お昼に配布されたお弁当はジャポニカ米でしたし、緑茶を飲む機会もありました。
写真5 会議2日目お昼のお弁当。日式(日本料理)とのことで、ご飯はジャポニカ米でした
次回の ICHMET 開催予定は、2010年、ポーランドです。このような会議は、世界中から重金属の専門家が集まるので、私たちが開発する技術を議論する場として大変重要です。そして、最新の重金属問題や食品安全規格の情報を得るため、今後も ICHMET に注目していきたいと思います。
(土壌環境研究領域 赤羽幾子)