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情報:農業と環境 No.115 (2009年11月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

石郷岡康史 大気環境研究領域主任研究員: 国際水田・水環境工学会論文賞を受賞

農業環境技術研究所の石郷岡康史 大気環境研究領域主任研究員が、国際水田・水環境工学会論文賞(沢田賞)を受賞しました。

国際水田・水環境工学会 (International Society of Paddy and Water Environment Engineering) (PAWEES)は、日本、韓国、台湾が中核となりアジアモンスーン地域の農業工学関連の学会と国際機関などが連携して、2003年1月に設立された国際学会です。PAWEES の中心的な活動として、論文誌「Paddy and Water Environment (PWE)」を Springer 社から年4回発行しています。これは、かんがい排水、土壌保全、水保全、土地・水資源管理、多面的機能、農業政策、地域計画、生物環境システム、生態系の保全や回復など、水田農業における土地、水、環境に関する科学・技術を広く扱う英文学術論文誌です。

2009年10月8日にインドネシアのボゴールで授賞式が開催されました(参加はできませんでしたので、受賞のあいさつを代読していただきました)。

授賞論文とその概要は次のとおりです。

Modeling of continental-scale crop water requirement and available water resources
published in Vol. 6, issue 1, pp. 55-71

Drs. Yasushi Ishigooka, Tsuneo Kuwagata, Shinkichi Goto, Hitoshi Toritani, Hiroyuki Ohno, Sin-ichi Urano

(論文の概要)

大陸スケールの作物水需要と利用可能な水資源量のモデリング

水は農業にとって欠かすことのできない要素であり,また利用可能な水資源の大半は農業によって消費されている。その一方で,不適切な農業水利用が原因と考えられる水資源の枯渇や,それによる環境破壊も世界各地で報告されている。そのため,農業における安定かつ持続可能な水利用は,食料を安定的に供給するのみならず,自然および生活環境を保全する上でも極めて重要である。本研究ではユーラシア大陸東部を対象領域として,変動する気候条件下での農業地帯における水の過不足の時間的・空間的な特徴を明らかにできる大陸スケールの水循環モデルを開発した。

水循環モデルは、鉛直方向の水収支を小規模な流域毎に計算するための「流域流出モデル」と,各々の流域からの流出量から河川流量を計算する「河道流下モデル」の2つで構成される。この2つのモデルを結合することによって,広域での水循環と,河道から農耕地への灌漑水の供給を含んだ農業的な水循環の再現が可能になっている。さらに本モデルでは,農耕地での作物栽培において作物が水ストレスなく十分に生育できるために必要な水の量(灌漑要水量)と,農耕地に供給可能な水資源量が算定できる。

過去(1901-2000)の広域気象データをモデルに入力し,計算結果から灌漑要水量の平均的な分布図を作成すると,灌漑要水量の値が高い領域は,乾燥・半乾燥地域である中央アジア,パキスタン,インド西部のほか,インドシナ半島や中国華北,黄河流域でも見られた。次に,農耕地における灌漑要水量に対する農業に供給可能な水資源量の関係を見ると,作物が水ストレスを受けないで生育するために必要な最低限の水を,利用可能な水資源のみではまかなえないような地域が存在することがわかった。

本研究で開発した水循環モデルは,温暖化に代表される将来の予測される気候変化が農業水需給関係に及ぼす影響の評価に適用可能であり,農業における安定かつ持続的な水利用のための適応策の検討に貢献できると思われる。

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