2009年12月18日から22日まで中国広州市において開催された第1回アジアアレロパシー学会に参加しました。この学会は、2007年3月にパキスタンのファイサラバード市で Zahid Cheema 教授が主催されたアレロパシーに関する国際ワークショップに集まったメンバーで設立が相談され、今回、華南農業大学の Luo Shiming 教授が中心となって第一回会議が開催されたものです。
18日成田空港を出発し、午後2時に広州空港に到着、すぐに会場のFurong(芙蓉)会議場に移動しました。国際会議場とホテルが一体になった施設で、ダム湖に面した風光明媚なところでしたが、町の中心からは離れており、4日間ホテルに缶詰になって会議に専念することができました。
19日は開会式のあと12時まで基調講演がありました。まず、国際アレロパシー学会の会長である米農務省の Stephen Duke 博士が 「世界のアレロパシー研究の現状」 について概説し、アジアにおける研究の重要性が指摘されました。次に、国際アレロパシー学会の前会長である藤井が 「革新的なアレロケミカルの単離・同定とその持続的な農業への利用」 という演題で、現在日本で進めている生研センターのプロジェクト研究を中心に紹介しました。
午後から一般講演が行われ、シンポジウム1ではアレロケミカルの単離・同定・生合成・作用機構、シンポジウム2では生物的侵入におけるアレロパシーの役割、シンポジウム3では農業と林業におけるアレロパシー、シンポジウム4ではアレロパシー研究の手法、シンポジウム5では自然生態系におけるアレロパシー等のテーマが、それぞれ発表されました。
19日夜にアジアアレロパシー学会の準備委員会が開催され、学会の規約と役員人事について各国の代表者が相談しました(写真1)。
20日午前には、台湾の Chou 教授の基調講演 「持続農業におけるアレロパシーの役割」がありました。Chou 教授はカリフォルニア大学で研究された碩学(せきがく)で、ご高齢ですがまだ第一線で研究を継続しておられます。Chou 教授から主催者の Luo 教授へ、資料の贈呈(写真2)があり、研究上は中国本土も台湾もなく仲良くしようと握手されました。
写真2 中国本土と台湾の研究者との握手
(これまでアレロパシーに関して大きな業績のある台湾のChou教授 (左) から、会議主催者でアジアアレロパシー学会 (AAS) 会長に選出されたLuo教授 (右) へ資料が贈呈された)
午後は一般講演が行われ、アジア各国のアレロパシー研究の進捗(しんちょく)状況や問題点について多くの発表がありました。農環研の加茂主任研究員は 「Cyanamide contents of black locust Robinia pseudoacacia and insect species feeding on its leaves」 の演題で発表し、北米から来た外来植物として日本で要注意外来生物に指定されているニセアカシアに含まれるシアナミドについて紹介しました。
21日は近郊の農家を訪問し、アレロパシー現象の見学会がありました。Xhaoqing 市の農家では、アレロパシー活性のある被覆植物によるパパイヤ畑でのリビングマルチが試みられていました。しかし、農地の周辺にナガエツルノゲイトウ、ランタナ、ホテイアオイ(写真3)などの侵略的外来植物がまん延しているのが気になりました。
午後は Dinghushan(鼎湖山)自然保護区で植生に関する実験サイトを見学しました。仙女湖の湿地生態系保存島と七星岩という景勝地も見学しましたが、周辺の山にはギンネムが旺盛(おうせい)に生育しており、生態系保全との両立が懸念されました(写真4)。
22日には華南農業大学の Luo 教授の基調講演があり、「中国におけるアレロパシー研究の歴史」 という演題で中国のアレロパシーの研究の歴史が紹介されました。アレロパシーが関与していると思われる興味深い事例が古くからあること、その多くがいまだに科学的に解明されていないことをあらためて知り、感銘を受けました。
続いて行われた学会総会では、今回の主催者の Luo Shiming 教授が会長、次回の主催者のインド・パンジャブ大の Ahluwalia 教授が副会長、中国・華南農業大学の Rensen Zeng 教授が幹事長、日本・農環研の藤井上席研究員が会計長にそれぞれ選出されました。また、アジア各国から20名の評議員が選出され、日本からは農環研の加茂主任研究員と香川大学の加藤尚教授が評議員に選出されました。
最後の閉会式では、2012年にインドで次の会議を開催することが紹介されました。閉会式後、会場のホテルを出発して、夕方には成田空港に着きました。日本と中国は本当に近いと感じました。
今回の会議への参加国は15か国、参加者総数は約250名でしたが、その多くは中国人であり、中国におけるアレロパシーの研究がますます盛んになっていることがわかりました。地域のアレロパシー学会としては、2002年に設立されたヨーロッパアレロパシー学会に次いで2つめです。アジアは植物資源が豊富であり、長い歴史に基づく伝統農法もあります。これらを背景とするアジア独特のアレロパシー研究が盛んになることが期待されます。
(生物多様性研究領域 藤井義晴・加茂綱嗣)