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農業と環境 No.126 (2010年10月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第20回国際植物生長物質会議 (6月〜7月 スペイン(タラゴナ)) 参加報告

第20回国際植物生長物質会議 (20th International Conference on Plant Growth Substances (IPGSA Conference 2010)) が、2010年6月28日から7月2日まで、スペインのタラゴナで開催されました。この会議には、植物ホルモンの研究に携わる研究者が世界中から参加します。植物ホルモンの研究の黎明(れいめい)期から重要な発見がいくつも日本の研究グループから報告されていることからもわかるように、わが国は伝統的にこの分野に強く、3年に1度開催されるこの会議には、毎回多くの日本の研究者が参加しています。

タラゴナのコロシアム(写真)

写真1 タラゴナのコロシアム

タラゴナは、古代ローマ時代の遺跡が多く残された都市です。その時代のコロシアム (写真1)などは、2000年に世界遺産に登録されています。タラゴナは、スペインの北東部、バルセロナを中心とするカタルーニャ地方に位置しています。この地方の公用語はカタルーニャ語とスペイン語で、車内放送などでは両方が連続して放送されます。一般にカタルーニャ語はスペイン語の方言ではなく別の言語とみなされているように、両者は大きく異なります。筆者はそれほど大きな違いがあると思っていなかったため、到着当初、カタルーニャ語で書かれたレストランのメニューや街中の看板に面くらいました。

学会は Universitat Rovira i Virgili において開催されました。初日はオープニングセレモニーと基調講演が行われました。その中で、帝京大学の横田孝雄教授がシルバーメダル受賞記念講演として、ブラシノステロイドに関する研究を紹介されました。ブラシノステロイドは1990年代以降に植物ホルモンとして認知された化合物群で、現在、この分野の研究が盛んに進められています。発表の中には、植物中に含まれる微量成分の分析方法に関して、他の研究者にも参考になる事項が多く含まれていました。

29日の午前中には、名古屋大学の東山教授が、受粉の際の輸精管の研究を紹介されていました。ビデオなどを効果的に利用したプレゼンテーションの技術もさることながら、研究手法の面で創意工夫が感じられ、分野が異なるとはいえ学ぶ点が多い発表でした。

ポスター会場のようす(第20回国際植物生長物質会議)(写真)

写真2 ポスター発表会場のようす

30日午後に1日めのポスター発表がありました。屋外に設置された仮設テントがポスター発表会場となっており、真夏の日中ということで非常に蒸し暑い環境ながら、多くの聴衆がディスカッションに参加していました (写真2)。

7月1日の午後には2日めのポスター発表があり、この日は筆者が発表しました。植物体に含まれる微量シアナミドの分析法について、従来と比較して100倍から1000倍の検出感度で分析した例を報告しました。シアナミドは、農薬や肥料として20世紀初めから合成され、世界中で使用されてきた化合物です。この10年間の研究で、植物もシアナミドを生産していることが明らかになりました。その研究の一環として、シロイヌナズナのようなモデル植物にシアナミドが含まれている可能性を追求した研究成果を発表しました。ディスカッションの中で、分析前の精製に用いるカートリッジカラムの選択等について、他の研究者より有益なアドバイスを受けました。

最終日の昼過ぎにクロージングセレモニーがあり、会議はすべて終了しました。全体的な印象として、説得力のある優れた研究は、化学から分子生物学まで通した骨太なものが多いと改めて感じました。また、新しい会長には、理研の神谷勇治先生が選ばれました。次回は2013年、上海で第21回の会議が開催される予定です。

(生物多様性研究領域 加茂綱嗣)

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