2010年6月29日から7月1日の3日間、オーストラリアのゴールドコーストで開かれた International Climate Change Adaptation Conference: Climate Adaptation Futures Preparing for the Unavoidable Impacts of Climate Change (気候変化適応国際会議:不可避な気候変化に向けた気候適応の将来)に参加しました。この会議は、オーストラリアの National Climate Change Adaptation Research Facility (国立気候変化適応研究機構)と CSIRO Climate Adaptation Flagship (該当するページが見つかりません。2015年6月) (連邦科学産業研究機構)が共催したものです。
写真 気候変化適応国際会議の会場となったゴールドコースト会議・展示センター
会議の目的は会議名が表すとおり、研究者ならびに政策決定者が集合して気候変化が自然、社会一般に及ぼす影響とその適応に関する研究手法、実際の場面への適応、その効果について議論する場を提供することでした。開催地がアメリカ、ヨーロッパではなくオーストラリアであること、会議の主たる対象が気候変化への適応であること、この2点において初めての大規模な国際会議でした。会議の日程、内容などの詳細はホームページ(アドレスは下記)に発表のアブストラクトとともに見やすく整理されています。また、会議終了後も twitter (ユーザ名:nccarf) を通じての会合案内や最新情報の配信が行われています。ご関心のある方はそちらもご覧下さい。
(会議のHP: http://www.nccarf.edu.au/conference2010/ )
会議は3日間、それぞれにプレナリーセッション(全体会議)とパラレルセッション(分科会)(口頭発表とポスター発表)が行われました。プレナリーセッションでは、気候変化影響評価の分野ではおなじみの Martin Parry さん(インペリアルカレッジ・イギリス)や Stephen Schneider さん(スタンフォード大学・アメリカ)など大御所たちが、IPCCの第4次報告書、コペンハーゲン合意の総括と今後の課題を提示しました。日本からは茨城大学の三村信男教授が、環境省の研究プロジェクト(S−4「温暖化の危険な水準及び温室効果ガス安定化レベル検討のための温暖化影響の総合的評価に関する研究」)の成果に基づいて、わが国における気候変化影響の総合評価の結果について講演されました。
写真 ブブゼラを吹く Martin Parry さん(気候変化適応国際会議の写真サイトより)
写真 プレナリーセッションで演説する Stephen Schneider さん(気候変化適応国際会議の写真サイトより)
日本からは国立環境研究所、東北大学、茨城大学などの研究機関から参加がありました。農環研からは横沢と飯泉の2名が参加しました。私たちは、それぞれ “Modeling rice cropping schedules in the Vietnam Mekong Delta for adapting to changes in flooding, salinity intrusion and monsoon rains” (ベトナム・メコンデルタにおける洪水、塩水遡上および季節雨季の変化への適応に向けた水稲作付け暦のモデリング)、“Modeling interannual variation of crop productivity: Towards global crop forecasting” (作物生産の年々変動のモデル化:全球作物生産性予測に向けて) というタイトルで研究発表を行いました。発表内容について、さまざま意見や質問が寄せられ、とりわけ作付け暦推定モデルの検証にあたって、オーストラリアの研究者より収穫日の現地データについての情報を得ることができました。これまで現地のベトナムでも十分なデータを得ることができず、あきらめていましたが、オーストラリアでこのような情報が入手できたことはとても驚きでした。
この会議への参加は地元オーストラリアからがもっとも多かったのですが、東南アジアや南米をはじめとする多くの発展途上国の研究者も渡航費用の援助を受けて参加しており、熱心に発表、聴講、議論に加わっていました。彼らは現に起きている災害も含めた気候変化への適応について、とくに強い関心を持っているようでした。
私たちは、パラレルセッションのうち、“Adapting agriculture to climate change” (農業の気候変化への適応) に参加し、近年の気候変化影響・適応に関する最新の研究状況について情報を収集しました。セッションのオーガナイザーの一人は、気候変化が農業へ及ぼす影響評価の第一人者である Cynthia Rosenzweig さん(NASA、コロンビア大学・アメリカ)でした。
セッション全体の印象としては、気候変化に関する研究は、適応策とその効果の評価手法開発が研究のメインストリーム(主流、本流)になったという感を強く受けました。とくに農業分野での適応策の開発については、農家が保有する伝統的な栽培技術の調査・整理と気候変化に対する効果の評価方法の開発に世界的な関心が集まっていました。これは、とくに発展途上国の場合、コストが高い最新の適応策を導入するよりも、すでにある技術を低コストで上手に活用したいという希望が強いことによります。今後、こうした研究は、現場の栽培技術に関する知識と栽培技術のコスト計算とセットになって行われていくだろうと感じました。
また、新たな手法として、生態系の構成要素間の相互作用をネットワークとしてとらえ、環境変動がそのネットワーク構造へ及ぼす影響を評価することにより、その系の脆弱性(ぜいじゃくせい)を測るという研究が目を引きました。全体的に、影響評価だけでなく、適応についての方策を勘案する方向へ研究指向がシフトしていく中で、相互作用系を包括的に解析する手法は非常に興味深く思いました。
海外の知己とも再会したり新たな知り合いができたり、充実した3日間でしたが、この会議が終わって間もない7月19日、Stephen Schneider さんは心臓発作のためにイギリスでの講演旅行からの帰途亡くなられました。気候変化の原因を早い時期に指摘し、その影響と対策の探求を続けてこられた先駆者の訃報に接し、気候変化に関する研究が変わり目を迎えていることを強く感じました。
(大気環境研究領域 横沢正幸、飯泉仁之直)