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農業と環境 No.141 (2012年1月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第10回東・東南アジア土壌科学会連合 (10月 スリランカ(コロンボ))参加報告

東・東南アジア土壌科学連合 ( International Conference of the East and Southeast Asia Federation of Soil Science Societies,以下 ESAFS) は、稲作を主要な農業生産システムとする12か国 (バングラディシュ、中国、インド、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、スリランカ、台湾、タイ、ベトナム) の土壌・肥料・植物栄養関連の学会が加盟する国際会議です。ESAFS は、東アジアと東南アジアの稲作農業の持続的発展と研究者の情報交換・交流を目的として設立されました。ESAFS の第1回が1991年に日本で開かれ、その後原則2年ごとに開催され、2007年のつくば大会(ESAFS8)、2009年の韓国大会(ESAFS9)をへて、今回はその第10回大会(ESAFS10)が、スリランカの主要都市、コロンボで開催されました。農業環境技術研究所からは、八木、小原、白戸、三島、吉川、高田、赤羽(報告者)の7名が参加しました。2011年10月10日から13日までの会期のうち、前半の2日間が会議 (会場:Cinnamon Lakeside Colombo)、後半2日間がスリランカの内地を探索するフィールドツアーと、盛りだくさんな大会でした。ここでは、報告者が参加した会議を中心に報告します。

東・東南アジア諸国では、人口の急激な増加による食糧、飼料、繊維等の需要を満たすため、伝統的な農法から集約的な農法への転換が進みました。そのため、土壌や水資源に対する汚染物質の負荷や、世界的な気候変動への寄与が問題視されています。ESAFS10 では、「貴重な天然資源: 農業生態系、環境衛生と気候変動 ( Soil, a Precious Natural Resource: Agricultural Ecosystems, Environmental Health & Climate Change )」 をテーマとして、10のセッションが設けられ(表1)、60の口頭発表と、70のポスター発表がありました。会議には、11か国、約160名 (うち日本人32名) の参加者があり、土壌や水資源の効果的かつ生産的な、そして、持続可能な管理について、活発な情報交換が行われました。

オープニングセレモニー(ESAFS10)(写真)

写真1 オープニングセレモニー

ポスター会場にて報告者(赤羽)(ESAFS10)(写真)

写真2 ポスター会場にて報告者(赤羽)

報告者(赤羽)は、「植物栄養と環境 ( Plant Nutrition & Environment )」 のセッションにおいて、現在、研究開発を進めている、カドミウムの土壌洗浄法についてのポスター発表を行いました (題目:オクラの Cd 吸収に対するアルカリ資材施用および土壌洗浄法の影響 [ Effect of liming and soil washing on cadmium uptake by okra (Abelmoschus esculentus)] )。このセッションは、発表数がもっとも多く、土壌中のカドミウムの挙動に関する学術的な知見から、現地を対象とした応用技術まで、幅広く議論することができました。また、スリランカではオクラの栽培が少なからず行われており、オクラ畑の肥沃度に関する質問もありました。話題はオクラの調理法にまで及び、スリランカではオクラを煮込み料理に使うことが多いとのことで、現地の食文化を知る良い機会にもなりました。

私の ESAFS への参加は、この大会で三度目となりました。ESAFS8 では、台湾、韓国、日本の研究者から農耕地のカドミウム汚染に関する報告があった際、カドミウムよりも広範囲に汚染の生じているヒ素汚染についてどう考えるかという議論がありました。それがとても印象に残っていたので、今回はヒ素汚染に関連した発表にも注目し、聴講しました。「持続可能な生産のための水田土壌管理」 のセッションでは、ヒ素に関する報告が2題あり、いずれも台湾の研究者からの報告でした。一つは、地下水を利用した灌漑(かんがい)による水稲のヒ素汚染に関するもので、ヒ素を含む地下水が水田土壌を汚染し、水稲中のヒ素含量が増加することを示す結果が報告されました。もう一つは、水稲根の鉄被膜がヒ素吸収に及ぼす影響についてでした。栽培期間中、水稲の根には、しばしば鉄の被膜(鉄サビのようなもの)が生じます。ヒ素は土壌中で鉄と反応しやすいことから、鉄の被膜が形成されることにより、ヒ素が被膜に取り込まれ、水稲に吸収されにくくなることが期待されます。

どちらの報告も、今後、ヒ素汚染対策に取り組む際に、ヒ素の汚染源と、土壌−植物間におけるヒ素の挙動を考慮する上で、重要な知見になり得るものでした。また、東・東南アジア圏内に限らず、食の国際化が進むなかで、食品中のヒ素に関してもカドミウムのように世界共通の安全基準やリスク管理技術の開発が必要であると感じました。

表1 ESAFS10 会議におけるセッションテーマ

植物栄養と環境(Plant Nutrition & Environment)
土壌データベースとデジタル土壌マッピング(Soil Data Bases & Digital Soil Mapping)
水文学と水管理(Hydrology & Water Management)
土地劣化とその管理(Land Degradation & Management)
土壌生態系と人の健康(Soil Ecosystems & Human Health)
持続可能な生産のための水田土壌管理(Management of Paddy Soils for Sustainable Production)
気候変動と土地利用(Climate Change & Land Use)
土壌生物学と作物生産(Soil Biology & Crop Production)
作付け体系と持続可能な管理(Cropping Systems & Sustainable Management)
土壌および地域環境における物質循環(Material Cycling in Soil & Regional Environment)
:ESAFS10 参加者(集合写真)

写真3 ESAFS10 参加者

ところで、開催国・スリランカは、会議会場のホテルの名前 (Cinnamon Lakeside Colombo) にもなっている Cinnamon(シナモン)の産地として有名です。会議で配布された資料によると、世界で生産される質の高いシナモンの約8割がスリランカ産とのことです。スリランカでは、多種多様なスパイスが身近な存在であり、滞在期間中は、スパイスの利いた料理をほぼ毎食(一日三食カレー等)楽しめました(写真5)。また、スリランカは世界有数のお茶の産地 (生産量はインドに次いで第2位)でもあります。会議においては、スリランカの茶園土壌の肥沃度管理に関する発表もありました。会議のティータイムには、本場のセイロンティーを堪能することができました。

参加記念のスパイス詰め合せ(ESAFS10)(写真)

写真4 参加記念のスパイス詰め合わせ

スリランカカレー(ESAFS10)(写真)

写真5 スリランカカレー(会議の昼食)

最後に

このような会議は、国内外の土壌の専門家が集まるので、日々の成果や研究技術を議論し、研究者間の交流を深める場として大変重要です。今後も ESAFS を通じて、持続可能な土壌管理に少しでも貢献できればと思います。また、東・東南アジア圏における最新の研究情報を得るためにも、ESAFS に注目していきたいと思います。

(土壌環境研究領域 任期付研究員 赤羽 幾子)

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