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農業と環境 No.141 (2012年1月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

米国農学会・米国作物学会・米国土壌学会2011年国際大会 (10月 米国(サンアントニオ)) 参加報告

ポスター発表会場のようす(写真)

写真1 学会会場(ポスター発表会場のようす)

10月16日〜19日まで、米国(サンアントニオ)で開催された 2011 International Annual Meetings “Fundamental for Life; Soil, Crop, & Environmental Sciences”(写真1) に参加しました。

この大会は、米国作物学会、米国農学会と米国土壌学会に関係する研究者が集まる国際会議で、期間中に、シンポジウム、口頭発表やポスター発表を含む41の分科会で400以上のセッションが行われました。報告者(レオン)は、口頭発表をおこなうとともに、気候変動、あるいは土壌炭素と農地管理に関連するセッションや女性研究者の集まりに参加し、多くの情報収集をおこないました。

口頭発表

報告者は 「 Factors Controlling Organic Amendment Application in Paddy Field in Japan 」 というタイトルで発表し、(1) 日本では、京都議定書の基準年(1990年)以前から土壌炭素貯留量の変動を調査しており、インベントリー作成に必要なデータを保有していること、(2) 土壌炭素貯留量の変動を調査する際は、たとえば水田ほ場では、水田の利用形態、土壌のタイプ、水田経営農家の家畜保有の有無、専業農家か兼業農家かでグループ分けが必要であることを報告しました。この発表に対して、定点調査データの取り扱いや地点の代表性に関する質問、日本における茎葉の処理方法や定点調査データについてのコメントと質問をもらいました。

気候変動、または土壌炭素と農地管理に関連するセッション

学会の期間中に、気候変動に関する33のセッションが開催されました。米国コロンビア大学の Hillel 氏は、農業が気候変動の解決に貢献する方法について考えないといけない時がきたと述べ、その方法として、農業活動による環境管理や炭素貯留の強化、気候変動に適応するための遺伝的改良を挙げました。また、他の講演者からも、適応策や緩和策を促進するために、(1) ネットワーク化された環境でのモニタリングと同時に農家レベルでのモニタリングが必要である、(2) 世界中の農家が使えるような情報伝達システムや意思決定ツールを整備する必要がある、(3) 農地管理の変化にともなう温室効果ガス排出の変化について正確な情報を提供することが重要である など、さまざまな提案がなされました。

農地管理が土壌炭素に与える影響(不耕起栽培、作物残渣、土壌炭素量変化、Biochar(バイオ炭)など)や、農地管理が一酸化二窒素(NO)の排出に与える影響(不耕起栽培、Biochar、化学肥料とたい肥の施用など)も注目されていました。また、デューク大学の Eagle 氏は、NO排出抑制を炭素市場に加えるなど、NO排出の抑制によって農家が利益を得ることができるようなシステムを構築すべきであると報告していました。

女性研究者の集まり(写真)

写真2 女性研究者の集まり

女性研究者の集まり

Women in Agronomy, Crops, Soils and Environmental Sciences (WACSES)(農学、作物学、土壌学と環境科学における女性)」 が開催するワークショップに参加しました(写真2)。前回は、昼食をしながらメンター賞受賞者の講演を聞くというものでしたが、今回は講演はなく、昼食をしながら同席した人と与えられたテーマについてディスカッションするものでした。この集会のリーダーはフロリダ大学の Balser 氏で、テーマは 「自分を他の人にどのように説明するか」 がテーマでした。

Association for women soil scientists(写真)

写真3 Association for Women Soil Scientists

ディスカッションの中では、ロシア人女性研究者が 「ロシアでは『自分のことを良く思わないと他人は自分のことを良いと思ってくれない』としつけられている」 と言っていたこと、また、アメリカ人女性研究者が 「自分の良い面を話すのは自慢ではなく、上司にどのような人間であるかを知ってもらうのに必要です」 と言ったことがとても印象的でした。

学会では、WACSES とは別の女性土壌科学研究者のための NPO 法人 「Association for Women Soil Scientists(AWSS ; 女性土壌科学研究者のための組織:現在の会員は157人、うち50人が学生、男性会員も含む)」 が、女性研究者を支援していくためにTシャツを販売していました(写真3)。この法人は、2人の女性研究者 (アメリカ人と南アフリカ人) に本学会参加費の支援も行ったそうです。

成果と今後

この国際大会に参加して、世界各国で気候変動または土壌炭素と農地管理についてどのような研究が行われているかなど、多くの最新情報を収集できました。また、口頭発表を行い、自分の研究を他の人に知ってもらうことができ、同じような研究をしている Crozier 氏(カロライナ州立大学)とも情報交換ができました。

研究生活や女性研究者の活動についても貴重な情報を得ることができました。また、WACSES のワークショップでは「自分の経歴を他人に話すテクニック」について外国の女性の姿勢を学ぶことができ、とても刺激的でした。

報告者が現在関わっている事業については、多くの研究者と情報を交換することができ、とても有意義でした。帰国後も、知り合った研究者たちにメールを送り、プロジェクトに関する情報、土壌炭素貯留ポテンシャルに関する本のコピー、アメリカで使われている作物残渣率の情報などをもらいました。今後も、連絡をとり続けていきたいと思います。機会が与えられれば、また発表させてもらえるように、論文を書いていきたいと思います。

(農業環境インベントリーセンター 農環研特別研究員 レオン愛)

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