前の記事 | 目次 | 研究所 | 次の記事 2000年5月からの訪問者数(画像)
農業と環境 No.141 (2012年1月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

2011年米国地球物理学連合秋季大会(12月 米国(サンフランシスコ)) 参加報告

2011年12月4日から10日までサンフランシスコで開催された2011年米国地球物理学連合秋季大会 ( American Geophysical Union 2011 fall meeting ) に参加しました。参加にあたっては、研究所の男女共同参画事業から渡航費を一部支援していただきました。

この学会は、おそらく世界でもっとも規模の大きい学会であり、2011年秋季大会の参加者は2万1千人を超えていたようです。本年度の大会には1万8千本の論文が採択され、うち口頭発表は6千件、ポスター発表は1万2千件でした。この大会の部門は多岐に渡り、宇宙から大気、海、陸上と、さまざまな分野の研究発表が行われるため、どこでどの発表があるのかを学会が始まる前に準備しておく必要があります。

レジストレーションの様子(AGU2011)(写真)

写真1 レジストレーションの様子

(Photo by Gary Wager Photos, courtesy of the American Geophysical Union)

大会の会場(AGU2011)(写真)

写真2 大会の会場

(Photo by Gary Wager Photos, courtesy of the American Geophysical Union)

報告者(児玉)は、Biogeosciences 部門で2件の口頭発表に関わりました。自身は Laser-based isotope techniques in Biogeosciences というセッションで口頭発表を行い、共著では、招待講演で共同研究者が Stable isotope fluxes in the carbon and water cycles of terrestrial ecosystems というセッションで発表しました。発表後には多くの人からフィードバックをもらい、今後、論文を書くために有用な情報を得ることができました。学会中は、米国やヨーロッパの研究所に滞在している元の同僚や共同研究者と再会して、情報収集と近況報告ができました。また、今回の学会に参加した目的の一つであった、植物や土壌のガス交換へのレーザー分光法の応用のための情報も得ることができました。筆者が発表を行った2件の口頭発表では、写真撮影や録音が禁止されていたため、発表の写真はありません。発表が10分、質問時間が5分と、厳しく時間が決められていたため、発表の練習にはかなり時間をかけました。

学会会場の近くには多くのレストランがあり、同じセッションに参加した元同僚や共同研究者と夕食やランチをとることで、アカデミックな議論だけでなく、それぞれの国における経済状況や研究者のポジションについての情報、あるいは個人的な情報をアップデートできました。また、共同研究の可能性についても探ることができ、たまたまポスター会場で会った農環研の同僚には自分の共同研究者を紹介することもできました。

レジストレーションの様子(AGU2011)(写真)

写真3 ポスター会場の様子

(写真: 飯泉仁之直)

大会の会場(AGU2011)(写真)

写真4 学会発表の反省会(ドイツマックスプランク、ポツダム、ライプニッツ研究所、フランス INRA の研究者と報告者)

女性研究者への特別な配慮は見られませんでしたが、報告者が参加した口頭発表のセッションでは8件の発表のうち3件が女性による発表でした。また、気付いただけでも日本の大学や研究所からの女性の口頭発表が少なくとも3件ありました。しかしながら、参加したセッションでは、女性のコンビーナーを見ることはあまりありませんでした。

ヨーロッパの研究者と女性研究者の優遇措置について話をしましたが、EUでは、かなり以前から女性研究者へのポジション優遇措置を行ってきたが、男性研究者の不満が大きくなるばかりであったようです。また、優遇措置によってポジションを得たり、グラントを得たりした女性も、その理由がサイエンスで優れていたからか、それとも単に女性であったからかが、自分自身にも、また周りの人間にも不透明なので、女性の尊厳を失わせることになりかねないという話をしました。

レーザー分光装置のメジャーなメーカーである Picarro 社の工場見学が、学会中にあったので、参加しました。Picarro 社は、比較的に安価なレーザー分光装置を世界中に売り出している会社で、本社はシリコンバレーにあります。非常に良いソフトウェア・エンジニアを雇用できるらしく、レーザーのエンジニアの数よりもソフトウェア・エンジニアの数が多いということでした。企業の展示場でも目立ったパフォーマンスをしており、セールスにかなりの投資をして売り上げをあげているようです。この会社の分光装置の精度について、今回の学会の中でも議論されていましたが、大学の研究者との共同研究によって問題点を改善し、良い方向に進化しているようでした。工場見学は興味深く、このような装置がどのように開発されていくのかをかいま見ることができました。

この学会は毎年同じ場所・会場で開かれています。大規模な学会なので、知り合いに出会うのは難しいと思われそうですが、部門ごとにポスター会場や口頭発表会場が分かれているので、関心の一致するような研究者と出会うのは意外と容易でした。世界中のさまざまな分野の研究者が集まるので、普段は直接会って連絡を取り合うことが難しい研究者に会って情報交換をするには絶好の機会といえます。また、この学会には多くの人が注目しているので、アップデートした研究内容を発表することが共同研究などにつながる可能性も大いにあります。

学会参加費が高いことや滞在費がかなりかかることから、今回の報告者のように旅費の援助を受けないと、参加しにくい学会ですが、この学会で発表することはインパクトが高く、また論文投稿の際のレビュアーになる可能性のある研究者が数多く出席しているという点でも、参加する意義はあると思われます。

(大気環境研究領域 任期付研究員 児玉直美)

前の記事 ページの先頭へ 次の記事