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農業と環境 No.144 (2012年4月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

刊行物の紹介: 環境報告書2011

農業環境技術研究所は、「環境報告書2011」 を刊行・公開しました。農環研の7冊目の環境報告書となるこの冊子では、2010年度の実績を中心に、研究所における環境負荷低減の取り組みや、農業環境の安全性と持続性を確保するための研究活動などを報告しています。

今回の報告書では、50年以上にわたって継続している農作物等の放射能モニタリングを、とくに紹介しています。

報告書冒頭の農業環境技術研究所理事長からの「ごあいさつ」と目次を以下にご紹介します。

農業環境技術研究所 環境報告書2011 「ごあいさつ」

独立行政法人 農業環境技術研究所 理事長 宮下清貴

2011年は、東日本大震災と原子力発電所事故という、とてつもない複合災害に見舞われました。犠牲者・行方不明者の数は2万人にも及び、多くの方が住居や生活基盤を失いました。津波は農業や水産業の場を破壊し、また原発事故では、放出された多量の放射性物質が農耕地を始め環境を広く汚染しました。地元の仮設住宅で暮らし、あるいは地元を離れて生活している多くの方々が、一日も早く新しい生活を始められるよう、心よりお祈り申し上げます。

今回の大地震による農業環境技術研究所(以下、農環研)の被害は、幸いなことにごく軽微なもので済みました。これは、建物自体にほとんど損害がなかったことに加え、室内の棚の転倒防止等の地震対策をここ数年重点的に進めてきたことによる効果といえます。このため、水道・電気等の公共インフラの復旧とともに業務を再開することができました。実験系の研究が多い研究機関にとっては環境・安全管理は社会的な責務でもあり、今回の震災を教訓に、自然災害への対策も含めより一層の環境・安全管理に努めていく所存です。

こうして短期間のうちに業務を再開できたことから、原子力発電所の事故直後から、国や県と連携して農産物や土壌の放射性物質濃度の測定に取りかかることができ、出荷自粛要請等の一連の緊急の施策に貢献することができました。その後、事態の進展に応じて、土壌調査と土壌の汚染マップ作り、さらには福島の一部地域で発生した23年産のコメの暫定規制値超えの原因究明まで、様々な問題に関し、専門研究機関として国や県からの要望に応えてきています。

また、こうした緊急対応とともに、50年以上にわたり実施してきた環境放射能調査の情報が活用されています。農環研の環境放射能研究の歴史は、終戦後間もない1950年、前身の農業技術研究所(以下、農技研)の時代に、日本で初めて人工放射性同位元素(RI)の利用が開始された時にまで遡ることができます。

1953年には日本で初めてとなるRI実験施設が農技研に完成し、当時最新の分析機器とともに実験体制が整備されました。ところがその翌年の1954年、ビキニ環礁で行われた米国の水爆実験によりマグロ漁船第五福竜丸が放射性降下物に被災するという事件が発生し、大気圏内原水爆実験による環境汚染・食品汚染が社会的に大問題となりました。こうした状況を受け、放射性同位元素研究の施設、機器、人材が揃っていた農技研が環境放射能調査研究を開始していったのです。1959年には全国15カ所に定点観測網を設け、以後今日に至るまで、その調査は継続されています。その間、1986年のチェルノブイリ原発事故や1999年のJCO臨界事故を経験し、今回の福島第一原子力発電所の事故という事態に至りました。これらのことは、環境を守るためには継続的な基盤研究がいかに重要であるかを示しています。

今回の事故による汚染問題は現在進行形であり、対策は急を要しますが、同時に放射性物質の環境中の動態については中長期的な監視が必要です。農環研は1950年代からの研究の蓄積を踏まえ、汚染問題の解決に向け、最大限の努力をしていきたいと考えています。

東日本大震災と原発事故により、国民の科学に対する信頼が揺らいでいるといわれています。しかしその一方で、現代の社会は科学と深く結びついており、震災の復興はもとより日本再生のためにも科学の力が大いに期待されています。農環研は、今世紀人類に突き付けられた大きな課題である、農業・食糧問題と環境問題を対象とした唯一の公的専門研究機関です。地球温暖化への対応、生物多様性の保全、有害化学物質による食品汚染等、いずれも緊急を要する課題です。農環研は、社会のための科学という視点をより一層明確にし、研究所の基本理念にあるように、自然、社会、人間の調和と共存を目指す高い水準の研究を推進し、世界の食料問題と環境問題の克服に貢献することをめざします。その際、環境問題は多くのステークホルダーが関与しているグローバルな問題であることから、国内・国外の諸機関・諸団体との連携協力を追究します。

この報告書は、平成22年度に実施してきた研究所の環境配慮の取り組みとともに、一般向けのシンポジウム・セミナーや各種イベントへの出展、さらには専門家の派遣や技術相談等、社会貢献をめざす様々な活動をとりまとめたものです。また、中期計画課題を推進するリサーチプロジェクトの概要や研究トピックスについても紹介しています。皆様にはご一読の上、忌憚のないご意見を頂ければ幸甚です。

環境報告書2011 目次

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