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農業と環境 No.157 (2013年5月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

宇宙から科学の目で農地を見る
(日本農民新聞連載「明日の元気な農業への注目の技術」より)

最近は、テレビやインターネットで人工衛星の画像を目にすることが随分増えました。毎日の天気予報で使われている雲の画像、地図やナビの背景に使われる拡大した衛星写真など、人工衛星が撮った写真を見ない日はないほどです。

このように日常生活に溶け込んでいる衛星写真ですが、実は衛星が撮っている写真は、単なる写真だけではないのです。

私たちは、物にあたって反射した光を、目で捉えて物を見ています。そして光の波長の違いによって色を区別します。人間の目が捉えることができる波長の光を可視光と言い、人間の目で見えない光のうち、赤より長い波長のものを赤外線、紫より短い波長の光を紫外線と呼びます。さらに波長が長かったり短かったりすると電波やX線などと呼ばれるようになり、これら光の仲間を総称して電磁波と言います。動物の中には、人間が見ることのできない光を見ることができるものもいます。赤外線を捉えることができるヘビや、紫外線が見える昆虫や鳥類などです。

さて、人工衛星が写真を撮る部分はセンサーと言い、いわば衛星の目です。センサーは、目と同じように地表面にあたって反射した光を捉えます。また、その光の波長の違いで色を区別できるのも目と一緒です。衛星に搭載されたセンサーには、動物のように人間には見えない光を見ることができるものもあります。衛星写真は、このような人間の目を超えた能力を持った科学の目で撮影されることも多いのです。

農地を見るうえで最も効果的に利用されているのが、近赤外と呼ばれる波長の画像です。赤外線の中でも比較的可視光に近い波長のものを近赤外と呼びます。もちろん赤外線ですから、人間の目では見ることができない光です。この近赤外によって撮影された衛星画像は、例えば、田んぼに実ったお米のタンパク質含量を推定して、収穫されるお米の品質を判定したり、小麦の水分含量を把握して、刈り取り適期を判定したりするときに使われています。

このように人の見えない光まで見ることのできる衛星写真ですが、ひとつ弱点があります。それは天気です。衛星写真は、遠い宇宙から撮影しているため、曇っているときは雲の写真しか撮れません。梅雨の時期などはずっと曇っていて地面の農地の状態を見ることができません。

では、見えないものを見るにはどうすればよいのでしょうか? お医者さんはレントゲンや超音波を使って見えない体の中を調べることができます。これと同じように、人工衛星の中には、目に見えない電磁波を使うことで雲を突き抜け、その下にある田んぼを見ることができるレーダと呼ばれるセンサーを積んでいるものがあります。このレーダは、可視光よりも波長の長いマイクロ波という電磁波を衛星から照射し、地表面で散乱して戻ってくる強度を観測します。けれども、レーダの画像は、私たちがレントゲンの画像を見てもよくわからないように、専門家でないと判読が難しいのです。

そこで、(独)農業環境技術研究所ではこのレーダを使って、天気が悪くても確実に田んぼにお米がどのくらい作られているかを調べる方法を開発しました。

水面はマイクロ波を鏡面反射するが、成長した稲はマイクロ波を強く散乱する(概念図)/観測時期の異なる同じ範囲のRADARSAT画像(2000/07/02 および 2000/07/27)(写真)

田植期と水稲生長期におけるマイクロ波散乱の違いにより作付けされた水田を検出する

衛星から出て田んぼにあたったマイクロ波は、田植のころには水面で鏡のように反射して衛星には戻らないため、衛星画像では黒っぽく写ります。一方、水稲が生長すると植物体で散乱されたマイクロ波の一部が衛星に戻るため、白っぽく写ります。この二つの時期の画像を比較することで水稲の作付けされた水田を検出できるのです。現在、水稲の作付面積は、無作為に選んだ田んぼを実際に人が調査する標本調査法によって推定されていますが、将来的には衛星画像を利用して省力的に精度よく面積を把握する日が来るかもしれません。

衛星に搭載された科学の目で農地がどのように見えるのか? そして、どのように農業に役立てることができるのか? 農業環境技術研究所では研究を続けています。

生態系計測研究領域 石塚 直樹

農業環境技術研究所は、農業関係の読者向けに技術を紹介する記事 「明日の元気な農業へ注目の技術」 を、18回にわたって日本農民新聞に連載しました。上の記事は、平成24年(2012年)2月5日に掲載された記事を日本農民新聞社の許可を得て転載したものです。

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