前の記事 | 目次 | 研究所 | 次の記事 2000年5月からの訪問者数(画像)
農業と環境 No.166 (2014年2月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

論文の紹介: 農地集約と耕作放棄がポーランドの鳥類に及ぼす影響

Impacts of agricultural intensification and abandonment on farmland birds in Poland following EU accession
F. J, Sanderson et al.
Agriculture, Ecosystem and Environment, 168, 16-24 (2013)

農地は食料生産の場であるだけでなく、多くの生物にとっての生息の場という役割も持っています。農地は人間が行う管理によってその環境が維持されているので、その管理強度によって物理環境が大きく変化します。同時に、管理強度を含む農地の利用形態は、国や地域の政策によって大きく変わる場合があります。農業の近代化にともなって、農地に強い環境負荷を与える「農地集約」と、農業活動という農地への負荷をなくしてしまう「耕作放棄」が世界的に発生し、それぞれ農地に棲(す)むさまざまな生物に影響を与えていることが明らかになってきました。

この論文では、ポーランドにおける鳥類の種多様性と、農地利用変化の関係を検討しています。ポーランドは比較的最近(2004年)にEUに加盟した国で、そのタイミングで農地管理の基本方針が、EUの統一ルールに変わりました。具体的には、農業生産物の増加をねらって、小規模な伝統的農業が大きく減って集約化が進み、効率が悪い農地が放棄されることとなりました。EU加盟の直前と加盟から5年後に実施した、農地180サイトでの鳥類調査の結果を比較したのがこの研究です。これらのサイトの中には、上述のように農地利用が変化した場所と変化しなかった場所とが含まれています。

調査の結果、EU加盟によって農地そのものの面積は広くなったのに対し、小規模な伝統的農業が行われている農地面積は減ったことが示されました。すなわち、EU加盟によって全体的に農業の近代化が進んだことが明らかになりました。鳥類データの検討から、伝統的な農法を行っている農地では鳥類の多様性が高いことが示されました。伝統的な農地は小規模で境界にやはり小規模な森が存在していますが、農地が集約されることで森林も失われ、木を利用する鳥類には大きな負の影響を与えるようです。もちろん、それを利用しない鳥もいるため、農地集約がすべての鳥に負の影響を与えるわけではありませんでした。減少傾向が強かった種を検討したところ、それらはEU全体で減少傾向にある種と一致しました。すなわち、政策によって地域に関係なく負の影響を受ける種がいることが示されました。

著者らは、政策の変化は長期的に鳥類の群集構造を大きく変えるだろうと結論しています。農地における生物多様性の重要性が、近年、世界的に見直されています。食料生産を目的とした農地ですが、それに向けた人間の政策決定が、生物多様性にも大きく影響することを念頭に置く必要があるでしょう。同時にこの論文は、将来的に起こる環境変化をいち早く察知するために、継続的な環境モニタリングを実施し、得られた情報を活用可能な形式でアーカイブすることの重要性も示しているといえます。

大澤剛士(農業環境インベントリーセンター)

前の記事 ページの先頭へ 次の記事