前の記事 | 目次 | 研究所 | 次の記事
農業と環境 No.185 (2015年9月1日)
国立研究開発法人農業環境技術研究所

GRA農地研究グループ会合(7月 ブラジル) 参加報告

GRAロゴ(Global Research Alliance on Agricultural Greenhouse Gasses)

2015年7月11日と12日に、ブラジルの首都ブラジリアにおいて、農業分野の温室効果ガスに関するグローバル・リサーチ・アライアンス(GRA) の農地研究グループ(Croplands Research Group)およびインベントリー・モニタリング横断ワーキンググループ(Inventory & Monitoring Cross-Cutting Working Group: 以下、I&M グループ)の会合が行われました。この会合に農業環境技術研究所から岸本(物質循環研究領域 主任研究員)と白戸(農業環境インベントリーセンター 上席研究員)の2名が出席しました。

図1 GRAの組織体制(国名は議長国);理事会には事務局(ニュージーランド)が付属する。理事会の下には、「畜産」(オランダ、ニュージーランド)・「農地」(米国、ブラジル)・「水田」(日本、ウルグアイ)の3研究グループ、「炭素窒素循環」(フランス、オーストラリア)・「インベントリー」(カナダ・オランダ)の2分野横断ワーキンググループがある。

なお、GRA の設立経緯・目的、組織構成などについては、「農業と環境」の No.133No.134、No.135 をご参照ください (GRA のグループ構成を図1に示しています)。農地グループのこれまでの会合の報告については、「農業と環境」の No.149, No.164, 岸本ほか(2015)(注1)をご参照ください。

今回の農地研究グループ会合は第7回であり、農牧林統合システム世界会議(WCCLF −World Congress on Integrated Crop-Livestock-Forest Systems)のサイドイベントとして行われました。33メンバー国のうち11か国(ブラジル、カナダ、チリ、デンマーク、ポーランド、日本、オランダ、ノルウェー、韓国、イギリス、米国)が出席したほか、I&M グループのメンバー、会場となった ブラジル農牧研究公社(Brazilian Agricultural Research Corporation; Embrapa)本部の温室効果ガス研究の関係者など、あわせて約40名が出席しました。

Embrapa の Mauricio A. Lopes 理事長は、あいさつの中で Embrapa の歴史を振り返り、農業に不向きな貧弱な土地を改良するための農業技術の開発や人材の育成、遺伝子組換えによる品種改良などを通して、ブラジルが南半球最大級の農業地帯に生まれ変わったことを紹介されました。また、低炭素農業への積極的な取り組みも印象的でした。

(写真)
写真 左:会場となった Embrapa 本部の建物; 中:あいさつする Embrapa 理事長; 右:会議のようす

農地グループは2011年から次の3つのコンポーネントにおいて、それぞれ行動計画(Action plan)をまとめ、活動を展開しています:

本会合では、まず、各コンポーネントの最近の成果が報告されました。コンポーネント 1 では、MAGGnet の登録サイトが前回の16か国202サイトから315サイトへ増加しました(日本からは9サイト登録)。MAGGnet の形成を加速させるため、EU 21か国が参加している FACCE-JPI(注2)(Finland、France、Italy、Switzerland、USA が funding member、Argentina、Japan が non-funding partner)のプロジェクトが2014年に採択されました。昨年度はその Data policy が加盟国のレビューを経て、ウェブに公開 されました。MAGGnet のデータ解析結果は 米国農学会・作物学会・土壌科学学会2015年大会 で発表される予定です。コンポーネント 2 では、泥炭地の農業利用および温室効果ガス削減に関する政策提案の論文(注3)が専門誌 Climate Policy に公表されました。コンポーネント 3 の活動がもっとも活発で、炭素窒素循環横断グループと連携し、温室効果ガスのモデルと観測の連携を促進するためのワークショップの開催や、GRA のモデルプラットフォーム GRAMP の構築を進めました。GRAMP は、DNDC(DeNitrification-DeComposition)など炭素窒素循環プロセスモデルの Version control、Metadata、User training などに利用される予定で、2015年6月5日「世界環境デー」に運営を始めました。公開した GRAMP には MAGGnet のサブページが設けられ、地図からサイトを選択でき、将来はワンクリックでサイトの詳細やメタデータがダウンロードできるようになります。メンバー間の情報交換の場として GRAMP を利用した定期的なウェビナー(ウェブ(Web)とセミナー(Seminar)を組み合わせた造語)を2か月に1回程度の頻度で行います。6月16日に行われた第1回は、DNDC 開発者の Li Changsheng 先生によるレクチャー「Modeling GHG Emissions Based on Biogeochemical Concepts」が行われました。その動画が GRAMP ウェブサイトで公開されています。2011年以降、各コンポーネントの活動が確実に目標を達成しつつあり、研究者ネットワークが広がっていることを実感しました。

(集合写真)
写真 GRA農地グループ会合 参加者(2015年7月)(GRA農地グループのFacebookより)

次に、各メンバー国の最近の活動の報告が行われ、GRA 関連の取り組みのほか、温室効果ガス(GHG)観測および緩和策に関するプロジェクトが紹介され、活発な情報交換が行われました。ノルウェーは食文化から低炭素社会へシフトするための国家プログラムを紹介し、チリは2020年までに20%の温室効果ガスの削減目標に向けて、気候変動枠組条約(UNFCCC)の NAMA−A Nationally Appropriate Mitigation Action に参加し、国を挙げて温室効果ガス緩和に取り組んでいることを紹介しました。全体の印象として、各国は温室効果ガス削減に関して、実行段階に移りつつあると感じました。

岸本は、日本における GRA 関連の農地グループの取り組みを報告しました。日本では農水省の強力な後押しによって、温室効果ガスの全国評価や削減など関連プロジェクトが実施され、その成果を MAGGnet に登録しています。日本が共同議長を務めている水田研究グループと農地研究グループでは、データベースの様式の共通化と拡張などについて共同で作業を進めています。

会合の最後には農地研究グループ内の情報交換の方針を再確認しました。農地研究グループは、GRA ウェブサイトや GRAMP ウェブサイトのメンバーエリア(登録が必要)をファイルの共有や意見交換・議論を行うプラットフォームとして活用すること、一般向けの情報発信のために開設した Facebookページ を通じてわかりやすく発信し続けることで一致しました。

I&M グループのメンバーは農地研究グループ会合に出席したほか、共同議長 Brian McConkey 氏(カナダ)からグループの活動および農地研究グループとの協力分野について報告しました。I&M グループの会合にはカナダ、ポーランド、日本、ノルウェー、オランダ、ニュージーランドから約10名が出席しました。Fact sheets の作成を短期目標として、各メンバー国の温室効果ガスインベントリー作成の現状や精緻化に関する取り組みなどを紹介する予定です。

GRA に国として加盟するには政府の承認が必要ですが、研究者や政策担当者が法的拘束や資金提供の義務なしに参加することもできます。個人が GRA 活動に加わるには、関心のあるグループの Contact point(注4)あてにメールで参加意思を表明するだけでできます。GRA の活動はウェブサイトで公開されるほか、メンバーエリアでは各国や各グループの温室効果ガスに関する研究の最新情報を受け取れるというメリットがあります。食料と地球温暖化の問題は、人類が今世紀の間に長期的な視点で乗り越えなければならない課題です。GRA は農業分野での温室効果ガス問題に対応する唯一のグローバルな研究ネットワークであり、これらの課題に立ち向かうための国際ネットワーク形成と共同研究の推進にイニシアチブを発揮しつつあります。わが国からも、より多くの研究者と政策担当者の参加が期待されています。

(注1)岸本文紅・八木一行・犬伏和之(2015) 農業分野の温室効果ガスに関するグローバル・リサーチ・アライアンスの会合に参加して. 日本土壌科学誌, 86 (1): 71-72

(注2)FACCE-JPI= The Joint Programming Initiative on Agriculture, Food Security and Climate Change
http://www.faccejpi.com/FACCE-activities/International-Call-on-Mitigation

(注3)Regina et al. (2015) GHG mitigation of agricultural peatlands requires coherent policies. Climate Policy, DOI:10.1080/14693062.2015.1022854.

(注4)日本の各グループの Contact point: http://www.s.affrc.go.jp/docs/research_international/english/GRA_contact.htm

岸本文紅 (物質循環研究領域)
白戸康人 (農業環境インベントリーセンター)

前の記事 ページの先頭へ 次の記事

2000年5月からの訪問者数(約183万人)