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情報:農業と環境
No.35 2003.3.1

No.35

・農業環境技術研究所と農林水産省大臣官房統計情報部
     との連絡会が開催された

・農業環境技術研究所が平成15年度に開催する
     研究会・シンポジウム

・ドリン系殺虫剤に関する情報

・農業環境技術研究所案内(5):ミニ農村

・侵入生物とその寄生生物の減少

・本の紹介 103:世界の土壌資源−入門&アトラス−

・本の紹介 104:世界の土壌資源−照合基準−

・本の紹介 105:環境科学の歴史1、P.J.ボウラー著、
     小川眞里子・財部香枝・桑原康子訳、
     朝倉書店(2002)

・本の紹介 106:環境科学の歴史2、P.J.ボウラー著、
     小川眞里子・森脇靖子・財部香枝・桑原康子訳、
     朝倉書店(2002)

・本の紹介 107:農の時代、進士五十八著、
     学芸出版社(2003)

・遺伝子改変生物の生態モニタリング

・遺伝子改変生物の環境への意図的放出に関する
  欧州議会と理事会の指令2001/18/ECの附則VIIを補足する手引き書


 
 

農業環境技術研究所と農林水産省大臣官房統計情報部
との連絡会が開催された

 
 
 農業環境技術研究所と農林水産省大臣官房統計情報部との平成14年度の連絡会が、農林水産省統計情報部において開催された。
 
日 時 平成14年2月7日(金)14:00〜17:35
場 所 農林水産省統計情報部 第1会議室
参加者 (統計情報部)







 







 
島田 企画調整室長、町田 課長補佐(調査改善班担当)、井上 調査改善班調査改善係長、小林 システム管理室長、西山 課長補佐(システム運営班担当)、都田 システム企画調整班調整係長、井上 システム運営班データベース係長、浅川 地域・環境情報室長、小林 課長補佐(環境班担当)、今井 生産統計課長、磯部 総括課長補佐、加藤 課長補佐(企画分析班担当)、藤沢 課長補佐(調査技術班担当)、村上 課長補佐(作物統計班担当)、石井 課長補佐(被害共済班担当)、佐藤 調査技術専門官
    (農業環境技術研究所)




 




 
清野 企画調整部長、今川 研究企画科長、今井 化学環境部長、斉藤 生態システム研究グループ長、鳥谷 気象研究グループ研究リーダー、ディビッド・スプレイグ 生態システム研究グループ研究リーダー、中井 土壌分類研究室長、大野 生態システム研究グループ研究リーダー
 
 島田統計情報部企画調整室長と清野農環研企画調整部長の挨拶に続き、農環研からは地理情報システム(GIS)を用いた研究事例、統計情報部からは事業の最新情報が紹介され、意見交換が行われた。
 
内容:
1 農業環境技術研究所からの説明
(1)WebGISによる土壌情報の入力システムについて
(2)GISを活用した気象要素と収量との関係解明
(3)迅速測図以降の地図を用いた生物生息域の変動解析
2 統計情報部からの説明
(1)農林水産統計・情報の新展開について
(2)農林水産統計情報総合データベースシステムについて
(3)持続性の高い農業生産方式への取組状況調査について
(4)面積調査等のための高度衛星画像処理技術に関する開発研究について
 
意見交換:
 農環研からの説明に対しては、1)土壌情報と統計情報部の作付け図の重ね合わせ、2)統計情報部が平成17年度から提供を予定している地図情報との相互利用、3)メッシュ気候値等から推定した出穂日、収穫日に対する温暖化の影響の検知、4)統計情報が更新される5年間の土地利用変化の把握について、それぞれの可能性等に関する意見交換がなされた。
 
 統計情報部からの説明に対しては、以下の2つの論議がなされた。1)持続的生産環境実態調査において農薬や肥料に関する有効な項目が調査されているが、これを研究場面で活用するには工夫が必要であり、相互の協力が重要であることが認識された。2)リモートセンシング技術やGISを活用した土地利用の現状把握に関して議論した。
 
 以上の議論を通して、今後の情報交換の重要性と交流会の必要性とを再確認した。
 
 

農業環境技術研究所が平成15年度に開催する
研究会・シンポジウム

 
 
 農業環境技術研究所は、平成15年2月4日の所議において平成15年度に開催予定の研究会・シンポジウム5件を以下のように決定した。
 

 
1.
 
第22回農業環境シンポジウムおよび
   第1回日韓共同研究合同国際シンポジウム

 
仮題:コーデックスのカドミウム新基準値に対する国際動向とわが国の対応
  予定時期:平成15年11月中旬
  予定場所:エポカルつくば
 
趣 旨
 
安全な食料・食品を通して国民に安心を提供するということは、農を営むうえできわめて重要なことである。食の安全性に関して、カドミウム、ダイオキシンなど有害化学物質のリスク評価には、耐容摂取量という摂取量の限界値が指標として使われるが、その値は多くの仮定の下に算出されており、真の安全性を担保するものではないとの批判も多い。現在、コーデックス委員会(FAO/WHO合同食品規格委員会)で食品中のカドミウム濃度に対して、わが国の現行基準値の数分の1という厳しい基準値案が討議されている。この新基準値案はデンマークが提唱する耐容摂取量に基づき算出されたもので、欧米諸国では、より厳しい基準値を望む声も多い。
 
このような状況を考えると、農作物中のカドミウム濃度を可能な限り下げ、国民の農産物に対する信頼を取り戻すことが急務である。本合同国際シンポジウムでは、コーデックスで審議中のカドミウム新基準値に対する各国の動向とわが国の対応を中心に紹介し、農業政策、国際貿易、毒性評価、吸収低減技術などに係わる問題点を総括的に検討すると共に、今後の方向を探る。
 
 

 
2. 第20回気象環境研究会
  仮題:農業のための水資源潜在量評価と有効利用
  予定時期:平成16年2月
  予定場所:農業環境技術研究所 大会議室
 
趣 旨
 
 地球温暖化は確実に進行しており、これにより地上の水循環が変化し、ひいては食料生産や環境に大きな影響が及ぶと考えられている。地球規模の水循環のこれまでの研究によると、温暖化によって全球が一様に変化せず、地域によっては洪水ばかりでなく干ばつも同時に発生するというような複雑な様相を呈する。このような不安定な水循環において、農業では食料の安定的確保を可能とするための水の確保と技術開発が重要な課題の一つになっている。
 
一方、経済発展により生活用水や工業用水の需要が高まり、農業用水との間での水の争奪がおこり、農業部門で使用できる水量の比率は将来的には減少傾向にある。しかし、人口の増加傾向は依然として止まるところを知らず、食料需要はますます増加し、農業用水の需要はさらに逼迫(ひっぱく)が予想される。また、灌漑技術を見ると、20世紀後半に急速に発達し普及した一方では、塩類集積などの環境問題を起こしている。
 
本研究会では、このような温暖化による水循環の変動と産業間での水の争奪、さらには環境負荷問題が存在する中で、(1)農業を取り巻く水環境がどのように変動するのか、(2)環境に負荷をかけずに必要な農業水資源を獲得するにはどのようにすればよいのか、(3)農業部門の水使用を効率化し、作物収量を実質的に高めていくにはどのようにすればよいか、などの題材を取り上げ、21世紀の農業水資源問題を解決するために必要な研究の方向性を探る。
 

 
3. 第6回植生研究会
  仮題:導入植物の生態系影響評価に向けて
  予定時期:平成16年3月
  予定場所:農業環境技術研究所 大会議室
 
趣 旨
 
耕作放棄地や休閑農地の緑化管理等を目的として、種々の外来植物が次々と広域的に導入されている。これに対して、外来植物を無差別に導入することは、生態系を攪乱(かくらん)する要因になるのではないかという議論がある。確かに、導入後、元の植物群集に大きく影響して生態系を攪乱したものもあるが、そういった例は必ずしも多くない。そこで、広域的な導入を図ろうとする外来植物の生態系影響評価を事前に行うことにより、植物多様性への悪影響を抑止することの意義、ならびにその評価方法について、以下の観点から討議したい。
 
(1)生態系に蔓延(まんえん)している外来植物の実態と侵入・分布拡大戦略を整理することにより、新たに導入する外来植物の生態系影響評価を、どのような側面から行うべきかについて明らかにする必要がある。
 
(2)導入植物で近年急速に広がり問題となっている事例として、日本ではニセアカシアなどが、海外では米国のクズ、英国本土のイタドリ、東南アジアのオジギソウ、ミクロネシア諸島のギンネムなどがある。また、これらは共通して強いアレロパシー活性を持つことが報告されており、化学生態的攻撃性が他種の抑圧と自種の優占に寄与している可能性がある。そこで、これらの植物の化学生態的特性に焦点を当て、その実態と分布拡大を抑止するための問題点等を把握する必要がある。
 

 
4. 第3回有機化学物質研究会
  仮題:化学物質が生態系に及ぼす影響の評価法−現状と問題点−
  予定時期:平成15年9月中旬
  予定場所:農業環境技術研究所 大会議室
 
趣 旨
 
 環境基本計画では、持続可能な社会を構築するためにすべての社会経済活動が生態系の構造と機能を維持できる範囲内で行われる必要があること、また、化学物質の生態系に対する影響を適切に評価し、管理する対策の推進をうたっている。国際的には、化学物質管理に生態影響を加えるという認識が大勢となっており、対応の遅れているわが国でも化学物質審査規制法(化審法)の改正に向けた検討が進められている。ここでは、新規化学物質等の登録審査段階で生態影響評価試験を実施し、この結果に応じて、管理や取り扱いに関する法的な措置が検討されている。しかし、生態影響に関して、実験室レベルでのOECDテストガイドラインが作成されているものの、わが国特有の生物種や環境要因、実験室レベルの結果を野生生物へ適用する上での問題点など、多くの課題が残されている。
 
 農業生態系には、農薬をはじめ多様な特性をもつ化学物質が分布している。これらの化学物質のリスク評価、さらに適切なリスク管理を行うためにも、生態系に対する影響評価が緊要になっている。本研究会では、現在検討されている生態影響評価法の問題点を整理し、今後、取り組むべき研究の方向を探る。
 

 
5. 第20回農薬環境動態研究会
  仮題:地域特産作物における残留農薬の評価
  予定時期:平成15年9月中旬
  予定場所:農業環境技術研究所 大会議室
 
趣 旨
 
 食品の安全性確保が重要な課題になっている。最近、輸入農産物における残留基準値を超過した農薬の実態や、無登録農薬の流通・使用が明らかになり、農薬に対する国民の不信感を払拭するための対応が求められている。これまでも、農薬の登録申請をする際には、急性・慢性毒性等に関する各種の試験データと、適用作物ごとの残留試験成績が求められており、それに基づき安全使用基準が策定されるなど、農薬使用によるリスクの評価と管理が行われてきた。しかし、生産量が少ない地域特産作物については、農薬登録に必要な残留試験の経費などの問題から、登録農薬数が少なく栽培が困難になっている。
 
このような状況を背景に、地域特産作物に使用できる農薬の種類を増やすため、作物種ごとに使用農薬の残留性を解明することが緊要となっている。さらに、農薬残留試験を効率的に行うため、作物のグループ化も重要な課題である。本研究会では、地域特産作物における農薬残留試験の方法とその解析結果を紹介し、問題点と方向性を検討する。
 

 
6. 第21回土・水研究会

 
仮題:イネ・ダイズなどを対象としたカドミウム吸収抑制
     および汚染土壌修復技術
  予定時期:平成16年2月下旬
  予定場所:農業環境技術研究所 大会議室
 
趣 旨
 
 第19回土・水研究会では、「作物によるカドミウムの吸収とその抑制技術」をテーマにコーデックス委員会の動向とわが国の現状について論議した。その中で、コーデックスで審議中のカドミウム新基準が、わが国の米に対する基準の五分の一であり、また、ダイズ、野菜等にも新たに基準値が設定されるため、カドミウムに対する効果的な吸収抑制技術の開発が急務であることを強く認識した。
 
 これを受けて、農林水産省は、農業環境技術研究所に地域や民間の研究機関をも巻き込んだ多くのプロジェクトの実施や類似の事業への技術移転等を委嘱して、現場に適応できるカドミウム抑制技術の緊急な開発を要請してきた。農業環境技術研究所では、平成14年度より農林水産研究高度化事業「カドミウム予測技術」でカドミウム汚染リスク予測手法の開発を推進し、さらに、平成15年度から「有害物質の総合管理技術の開発」でファイトレメディエーション等による汚染土壌の修復技術の開発に取り組む。
 
 このような状況を踏まえて、本研究会では、イネ・ダイズ等を対象とした現場で使えるカドミウム吸収抑制技術と汚染土壌の修復技術について、これまで開発された、また開発中の技術を紹介するとともに、その問題点や今後の発展方向について検討する。
 
 

ドリン系殺虫剤に関する情報
 
 
 ディルドリン、アルドリンなどのドリン系殺虫剤は難分解性であるため、2001年に採択された「残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約」での対象12物質に加えられている。わが国では、1954年に主として土壌害虫防除用としてこれらのドリン剤が登録されたが、1975年に登録失効している。しかし、これらは土壌中での残留性が高いため、現在でも残留している土壌が一部存在する。作物の中には、これらを吸収しやすいものもあるので、一部の作物から微量のドリン系殺虫剤が検出され、問題になっている。ここに、過去のドリン系殺虫剤に関する情報をまとめたので掲載する。
 
<ドリン系農薬の作物残留性に関する文献> 2002/10/3
1


 
川原哲城
中村広明


 
作物および土壌に残留する有機塩素剤に関する研究 第5報 なすによる土壌中の有機塩素材の吸収移行 Bull. Agr.chem.Inspect.Stn No.11 P.52-54(1971)

 
2


 
川原哲城


 
作物および土壌に残留する有機塩素剤に関する研究 第12報 かぶによるアルドリン、ディルドリンの吸収 Bull. Agr.chem.Inspect.Stn No.11 P.81-86(1971)

 
3
 
川原哲城
 
有機塩素殺虫剤の土壌中における残留と消長 植物防疫, 27(10) P.8-12(1973)
4
 
中村幸二
 
土壌・作物における難分解性有機塩素材の残留と挙動 埼玉県農業試験場報告, 46 P.5-22(1993)
5

 
大谷良逸

 
土壌処理農薬の土壌中での挙動
 
兵庫県立中央農業技術センター特別研究報告, 12 P.133-147(1988)
6
 
四国地域技術連絡会議 ドリン系農薬と野菜栽培
 
四国農業の技術情報 No.5 P.2-12(1973)
7
 
山本公昭
奴田原誠克
農耕地のディルドリン残留調査におけるサンプリング誤差 高知県農林技術研究所報告, 6 P.57-58(1974)
8

 
山本公昭
坂本信行
奴田原誠克
野菜の種類別にみた有機塩素系殺虫剤の残留比較
 
高知県農林技術研究所報告, 5 P.1-8(1973)
 
9


 
奴田原誠克
山本公昭
坂本信行

 
土壌処理農薬の作物体内残留分布に関する研究 第1報 有機塩素剤のキュウリ・ナスへの移行 高知県農林技術研究所報告, 5 P.9-16(1973)

 
10

 
永井洋三

 
アルドリン・ディルドリンの土壌残留および作物による吸収とその対策 徳島県立農業試験場試験研究報告, 13 P.12-16(1972)
 
11
 
永井洋三
 
ドリン系農薬の土壌残留と野菜の安全栽培対策 農業および園芸, 第48巻 第10号 P.44-48(1973)
12



 
半川義行



 
有機塩素系殺虫剤の農作物および土壌中における在留に関する研究 第3報 土壌中の腐植含量がアルドリン、ディルドリンの消長におよぼす影響 広島県立農業試験場報告 第35号 P.69-72(1974)


 
13

 
須田鉄弥
岩田直記
山田 要
ウリ科植物を接ぎ木台木としたキュウリによる土壌中のドリン剤の吸収 日本農薬学会誌, 1 P.59-63(1976)
 
14


 
北海道立中央農試環境化学部環境保全科 農薬(ディルドリン)の作物吸収特性と軽減対策

 
北海道農業試験会議(成績会議)資料 平成9年度

 
15
 
丸  諭
加藤三奈子
キュウリによるディルドリン、エンドリンの吸収 関東東山病害虫研究会年報, 24 P.142-143(1977)
16

 
中村多喜子
丸  諭
沼田 巌
メロンによるアルドリン、ディルドリンの吸収
 
関東東山病害虫研究会年報, 21 P.160(1974)
 
17
 
金沢 純
 
農産物中の残留農薬の現状と問題点〔2〕 農業および園芸, 第46巻 第12号 P.24-26(1971)
18


 
西本孝男
上田雅彦
田植 栄
近沢絋史
食品中残留農薬の研究(Y)
 野菜類のドリン農薬汚染について
 
食衛誌, Vol. 12 No.1 P.56-61(1971)

 
19
 
桐谷圭治
 
塩素系殺虫剤の環境汚染
 
四国植物防疫研究, 第6号 P.1-44(1971)
 
 

農業環境技術研究所案内(5):ミニ農村
 
 
 近代的な筑波学園都市の研究所のなかに、ありそうもない「虫塚」が農業環境技術研究所にあることは、「情報:農業と環境 No.27」で紹介した。今回はまた、当所の敷地の中にはありそうもない「農村」があることを紹介する。広辞苑によれば、「農村」とは住民の多くが農業を生業としている村落とある。しかし、ここでいう「農村」は、農業環境研究に携わる研究者が当所の敷地に谷津田(やつだ)、用水路、二次林、屋敷林、社寺林、ため池などを配置して、長い年月をかけて造成した生業のない「ミニ農村」なのである。まず、その規模と様子を知るために、 図1写真1写真2写真3写真4 をご覧いただきたい。
 











 



 


 











 

  図1
 

  写真1


 


 

  写真2
 

  写真3
 


 


 

  写真4
 
 
 
 

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  図2
 

 
 
 
 農業環境技術研究所には、B地区に約35ヘクタールの圃場区域がある。ここには、国道に沿って防風林の帯がある。その内側には畑、さらにその奧には20年以上も前に農用林として利用されていた二次林がある。研究所の敷地の外側には、民有地の畑が広がる。その先には、本物の農村集落が位置している。
 
 そこで、防風林の帯を集落の林の構成と同じに造りかえれば、集落−畑−二次林という平地農村の基本ユニットができ、敷地外の畑地−集落を含めれば、そのユニット2つ分の基本構造をもつモデルとすることができると考えた。この地域に実物大の農村のモデルを造成し、そこに出現・生息する生物相を調査することを目的として、1980年代後半より徐々に整備が進められてきたのが、ここで紹介する「ミニ農村」なのである。では、その全体像、造成の経過、研究成果やデータ、これからの研究などについて紹介する。
 
●ミニ農村の全体像
 「新・生物多様性国家戦略(平成14年3月決定)」にもみられるように、里地里山のような二次的な自然が、生物相の保全にとって重要であるとの考えが共通の認識になってきたのは、つい最近のことである。15年ほど前、農村地域に普通にある雑木林や農用林など人為の加わった二次的な自然が、わが国の生物相保全にとって大切だと説いていた人はそう多くなかった。農村に普通に見られた生き物はなぜ姿を消してしまったのか、それらを取り戻すにはどうしたらよいか、そうしたテーマを掲げ、ミニ農村の造成が始まったのは、そんな頃である。
 
 伝統的な平地農村は、一見乱雑に土地利用が行われているようだが、集落(ムラ)−畑地(ノラ)−二次林(ヤマ)という順序で配列されていた。そうした農村の景観構成要素の配置に見られる秩序が、生き物の存在と密接に関係していたというのが基本的な考え方である。生き物の生息環境として見た場合、こうした秩序は、言葉をかえれば、小規模な生息地のモザイク構造である。しかもそれぞれの生息地が人為の影響を受けるため、人為で一時的に失われた種は周辺から供給されて初めてもとの状態に回復することができる。こうした人為による消失と周囲からの供給のバランスの上に成り立つ系では、生息地間の種の移動距離が重要になってくる。
 
 生き物の縮尺モデルをつくることは困難であることから、生息環境は現実の規模を反映している必要があること。そして、生き物の移動距離を把握するには、やはり現実の規模が反映される配置である必要があること、そうした点が、あえて実物大のモデルが作成された理由である。
 
●造成の経過
 これまでの考えに基づいて、防風林の帯に社寺林(1996年6月造成)、ため池(1989年6月造成: 写真1)および谷津田環境(1989年6月造成: 写真2)と、それを囲む二次林が連続した塊状集落の林(1990年〜現在)を造成し、圃場区域を実物大の農村モデルと見なせるようにした( 図1)。かつて農用林として利用されていた二次林( 写真3 写真4)も、もちろんそれに相応しい環境となるよう、林床管理を行い(1985年〜1987年)、用水路のモデルも造成した(1987年〜)。
 
●これまでのデータや成果
 「ミニ農村」を研究のフィールドとして得られた研究成果のうち主要なものは、「農業環境技術研究所発行解説シリーズNo.1:ミニ農村をつくる(農村空間を科学するうえでの試み)」およびその改訂版に紹介されている(1991年、1998年に刊行)。ここでは、ため池の間隔や池さらいのローテーションを背景とした水辺環境とトンボ類やカエル類の生息の関係、二次林の配置と鳥類の関係、フクロウの生息を可能とする農村の構造などがおもなものである。こうした成果を、生き物にとって望ましい農村の姿としてまとめたのが 図2である。
 
 これら以外にも、以下のようなデータが蓄積されている。
(1) ミニ農村内の池・用水路等におけるトンボ類のモニタリングデータ(造成に伴う変化)
(2) 農業環境技術研究所構内のハチ類の分布データ
(3) 生態系保存実験圃場および屋敷林区域における鳥相データ(生態系保存実験圃場内でフクロウに捕食された動物の種類および個体数に関するデータを含む)
(4) 生態系保存実験圃場および屋敷林域(数か所)の植物の種組成データおよび毎木調査データ
(5) 生態系保存実験圃場における散布種子および実生データ
(6) 谷津田環境に導入した絶滅危惧植物の消長
 
●これからの調査研究
 これまでは、生息環境を新たに造成したミニ農村の構成要素に、農村の基本構造を背景として、どのような生き物が新たに出現するかを調べることにより、生物の移動能力と定着の可能性を中心として検討がなされてきた。屋敷林域の拡充が完了し、ミニ農村の基本構造が形成された後には、それを利用して、(1)生物相の変動モニタリング、(2)水田生態系における絶滅の恐れのある植物の動態、侵入・導入植物の農耕地外周辺植生への影響などに関する調査研究が推進されるものと期待される。
 
 農業環境技術研究所の中期計画には、現在、「人為的インパクトが生態系の生物相に及ぼす影響の評価」、「農業生態系の構造と機能の解明」、「農業環境資源情報の集積」などがあり、これらを含め、長期的なモニタリングやさまざまな意味での農村環境のリファレンスポイントを探るモデルとしての意義はますます重要になってくると思われる。
 
問い合わせ先 生物環境安全部植生研究グループ景観生態ユニット
    電話:029-838-8245 E-mail : idenin@niaes.affrc.go.jp
 
 

侵入生物とその寄生生物の減少
 
Introduced species and their missing parasites
Mark E. Torchin et al.
 Natute 421: 628-630 (2003)
 
 農業環境技術研究所は、農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに、侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって、生態系のかく乱防止、生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の一つとしている。このため、農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが、今回は、侵入生物の増殖と寄生生物の種類数との関係についての論文の一部を紹介する。
 
(要約)
 
 新しい環境に侵入した生物がその原産地よりも繁栄して有害生物になりやすいことには、侵入した生物に対する寄生生物が少ないことが関係しているという仮説がある。しかし、これを量的に検証した研究は少ない。欧州原産の浜辺のカニであるミドリガニ(Carcinus maenas)についての研究では、このカニへの寄生生物の寄生率は、カニの生物量(バイオマス)と体サイズの減少と関係しており、北米に侵入した集団は、寄生生物の寄生がないため、原産地の集団より体サイズが有意に大きく、生物量も大きいことがわかっている。
 
 この仮説を定量的に検討するため、7つの生物分類群(軟体類、甲殻類、魚類、鳥類、ほ乳類、両生類、は虫類)の26種の侵入生物について、原産地域と侵入地域の自然の生息場所での寄生生物の研究を解析した。その結果、原産地域の集団では平均して16種の寄生生物が見つかっており、そのうち3種だけが寄主生物とともに侵入地域に移り、4種の侵入地域の生物が新たな寄生生物となっていた。つまり、侵入地域の集団に対する寄生生物の種数は、原産地域の集団の約半分になっていた。
 
 侵入地域の集団では、各寄生生物の平均寄生率(侵入地域4%、原産地域15%)と、すべての寄生生物の合計寄生率(侵入地域71%、原産地域133%)が、どちらも原産地域集団にくらべて低かった。しかし、生物集団と寄生生物種の組み合わせごとでみた寄生率(その集団で見られない寄生種は除外する)については、侵入地域集団と原産地域集団のあいだで有意な差はなかった。すなわち、寄主生物とともに侵入した寄生生物の寄生率は、侵入地域でも原産地域と同程度であった。したがって、寄生生物種に対する寄主生物の感受性が侵入地域と原産地域とで遺伝的に異なることはないと考えられる。
 
 侵入地域で寄生生物の種数が少ないことは、侵入の過程で寄生生物が脱落、あるいは取り除かれることによるのだろう。侵入集団は、原産地の比較的に小さな部分集団がもとになっていることが多く、また寄生がない生活史段階の集団であることもある。このような場合には、寄生生物が寄主生物といっしょに侵入できる可能性は低くなる。寄生生物が侵入地域にうまく定着できない別の要因も考えられる。寄生生物の多くはその生活史の中で複数の寄主生物を必要とし、すべての寄主がそろっていないと定着できない。さらに、侵入した寄主集団の個体数が非常に少ないと、侵入生物についてきた寄生生物が増殖できずに絶えてしまうかもしれない。
 
 この解析結果は、侵入生物の問題を調査する際には、寄生生物の役割を評価することが重要であることを示している。また、生物の侵入を解析することによって、寄生生物が寄主生物の個体数をどの程度まで抑制しているのかを評価することができる。
 
 

本の紹介 103:世界の土壌資源−入門&アトラス−
J.A. Deckers, F.O. Nachtergaele, O.C. Spaargaren編
太田誠一・吉永秀一郎・中井 信監訳、
国際食糧農業協会編、古今書院
(2002)
 
 
 この本は、世界土壌資源照合基準(World Reference Base for Soil Resources: WRB)が第16回世界土壌科学会議(モンペリエ、1998)に向けて出版したものの訳書である。原書は、1.世界の土壌資源−入門−、2.世界の土壌資源−アトラス−、3.世界の土壌資源−照合基準−の3部作からなっているが、ここで紹介する訳書は、その第1部と第2部を合わせたものである。
 
 入門編は、読者が世界の土壌の特徴や分布を視覚的に理解できるように工夫されている。眺めていてきれいで、その土地の風景が容易に想像できる。「専門家だけでなく、より多くの人々にとって土壌の世界共通語をめざす」というWRBの理念が形になって現れている。30の照合土壌群の歴史、包括する意味、他の群との対応関係、分布、出現景観、形態、化学・物理的特徴とその意味、土地利用との関係などが、わかりやすく解説されている。土壌の分布がこれほど豊かなものかと感じ入る。
 
 アトラス編は、土壌の世界への誘いがそのまま世界の旅への誘いであることを感じさせる。また、世界にさまざまな動植物が分布しているように、世界には多種多様な土壌が分布していることを、一目で理解させてくれる好書である。
 
 翻訳には、当所の研究員の中井 信、江口定夫、小原 洋、白戸康人、戸上和樹、平舘俊太郎、牧野知之が携わっており、この分野での当所の研究員の活躍躍如たるものがある。
 
 照合基準編については、次の「本の紹介104」を参照していただきたい。目次は以下の通りである。
 
第1章 序説
 背景・目的・原則・世界土壌資源照合基準(WRB)を構成する基本要素・目標・本書の視点
 
第2章 照合土壌群の簡略検索表
 
第3章 世界の照合土壌群
 アクリソル/アルベルビソル/アリソル/アンドソル/アンスロソル/アレノソル/カルシソル/ カンビソル/チェルノーゼム/クリオソル/デュリソル/フェラルソル/フルビソル/グライソル /ジプシソル/ヒストソル/カスタノーゼム/レプトソル/リキシソル/ルビソル/ニティソル/ ファエオゼム/プラノソル/プリンソソル/ポドソル/レゴソル/ソロンチャック/ソロネッツ/ アンブリソル/バーティソル
 
引用文献・用語集・索引
 
 

本の紹介 104:世界の土壌資源−照合基準−
世界土壌科学会議・国際土壌照合情報センター・FAO編、
国際食糧農業協会
(2002)ISBN4-92-5-104141-5

 
 
 この本は、「本の紹介103」で紹介した書の専門的な解説書である。土壌の分類は、もともと農業生産と深く結びついている。したがって、土壌分類の体系はその国の農業事情や地域の特異性によって異なるのが自然なことである。とはいえ、土壌を科学するとき国際的な共通言語が必要であることは言うまでもない。
 
 FAOおよび国際土壌科学会議が中心となって、1998年に土壌の共通用語が統合され、世界の土壌資源−照合基準−が提案された。この本はその翻訳版で、「本の紹介 103」で紹介した訳書の兄弟書である。世界土壌図がはじめて作成された約30年前からの話が、訳者解説で述べられている。専門家たちの息の長い仕事が偲ばれる。
 
 この訳本には、以下の特徴がある。翻訳にあたっては、専門家以外の利用を考慮して、原文の単なる音訳でなく日本語になっていること。ただし、照合土壌群名については国際的に活用するため音訳になっている。特徴層位、識別特徴、識別物質および低次の分類のための修飾語は日本語になっている。また、既存の用語事典などとの整合性を図るため、「土壌の事典」(朝倉書店:1993)と「土壌肥料用語集」(養賢堂:1983)との対応表が巻末に添付してある。
 
 この訳本には、監修の中井 信ほか、井上恒久、江口定夫、小原 洋、加藤邦彦、白戸康人、牧野知之など当所の研究者あるいは元研究員が数多く参加している。目次や付録は以下の通りである。
 
第1章 背景
 歴史・目的・原理・世界土壌照合基準の要素・論議
 
第2章 照合土壌群の検索
 世界土壌照合基準の照合土壌群の検索
 
第3章 特徴層位、識別特徴、および識別物質
特徴層位 Diagnostic horizons
 漂白層 Albic horizon/黒ボク層 Andic horizon
 水田表層 Anthraquic horizon/人工層 Anthropedogenic horizons
 粘土集積層 Argic horizon/石灰層 Calcic horizon
 風化変質層 Cambic horizon/厚層黒土層 Chernic horizon
 凍土層 Cryic horizon/ケイ酸硬化層 Duric horizon
 鉄アルミナ質層 Ferralic horizon/鉄質層 Ferric horizon
 落葉層 Folic horizon/硬化層 Fragic horizon
 森林黒ボク層 Fulvic horizon/石こう層 Gypsic horizon
 泥炭層 Histic horizon/水田次表層 Hydragric horizon
 園芸人工層 Hortic horizon/灌漑堆積表層 Irragric horizon
 多腐植質黒ボク層 Melanic horizon/黒土層 Mollic horizon
 ナトリウム粘土層 Natric horizon/光沢構造層 Nitic horizon
 明薄表層 Ochric horizon/石灰固結層 Petrocalcic horizon
 ケイ酸固結層 Petroduric horizon/石こう固結層 Petrogypsic horizon
 鉄石固結層 Petroplinthic horizon/砂質人工層 Plaggic horizon
 鉄石層 Plinthic horizon/塩類化層 Salic horizon
 ポドゾル性集積層 Spodic horizon/硫酸層 Sulfuric horizon
 亀裂層 Takyric horizon/人工熟成層 Terric horizon
 酸性暗色層 Umbric horizon/膨潤層 Vertic horizon
 火山ガラス質層 Vitric horizon/砂漠層 Yermic horizon
 
識別特徴 Diagnostic properties
 土性の急変 Abrupt textural change/漂白化舌状侵入 Albeluvic tonguing
 アルミニウム粘土質特徴 Alic properties/乾燥特徴 Aridic properties
 連続する基岩 Continuous hard rock/鉄アルミナ質特徴 Ferralic properties
 老朽化特徴 Geric properties/グライ質特徴 Gleyic properties
 永久凍土 Permafrost/二次炭酸塩 Secondary carbonates
 停滞水特徴 Stagnic properties/強腐植特性 Strongly humic properties
 
識別物質 Diagnostic materials
 人工母材土壌物質 Anthropedogeomorphic soil material
 石灰質土壌物質 Calcaric soil material
 沖積成土壌物質 Fluvic soil material
 石こう質土壌物質 Gypsiric soil material
 有機質土壌物質 Organic soil material
 硫化物土壌物質 Sulfidic soil material
 降下火山堆積物土壌物質 Tephric soil material
 
第4章 照合土壌群の細分類
 下位ユニット識別の一般原理
 下位レベル単位に対する構成要素の定義
 
引用文献
付録1 土壌層位の命名
付録2 照合土壌群と土壌2次単位のコード
世界土壌資源に関する報告
付表 和訳対照表(訳者グループ作成)
 
表目次
表1 人為的土壌生成過程
表2 人工母材土壌物質の例
表3 下位レベルの土壌名のアルファベット順
表4 照合土壌群の下位単位の優先表
 
 

本の紹介 105:環境科学の歴史1、P.J.ボウラー著、
小川眞里子・財部香枝・桑原康子訳、
朝倉書店
 (2002)ISBN4-254-10575-4

 
 
 これまで、「本の紹介」で環境科学の歴史に関する本をいくつか紹介してきた。たとえば、本の紹介33の「環境の哲学」、41の「環境と文明の世界史」、68の「水俣病の科学」、81の「環境学の技法」などがそれである。しかし、これらはいずれも日本人が書いたものであった。
 
 ここに紹介する本は、イギリスの北アイルランドにあるクイーンズ大学の進化論史が専門の教授が書いたものの翻訳である。現在、ドイツ語とフィンランド語の翻訳が出ている。日本語への訳者は、比較文学、人間情報学および社会科学を学んだ人たちである。著者の私見によれば、この本は「環境科学」の包括的な歴史を扱った最初の本であるらしい。
 
 「序」にあるように、この本のねらいは、われわれの思考・行動様式に影響を与える諸科学の発達を、現代の歴史家がいかに理解しようとしたかを示すことにある。実のところ環境科学というと、環境問題のほうに思いが走り、温暖化、酸性雨、オゾン層破壊などを連想しがちである。しかしこの本は、「序」にあるように紛れもなく私たちの環境の歴史を描き出そうとした作品である。海や山や川などといった地理的環境の成り立ち、そこに生息する動植物のすべてが私たちの環境そのものであり、それらの成り立ちの歴史こそが環境の歴史なのである。この本の特色は、環境科学の歴史そのものではなく、その歴史観の歴史を描き出したところにある。
 
 したがって内容は、古代と中世、ルネサンスと革命、地球、自然と啓蒙、英雄、哲学的博物者、進化、地球科学、ダーウィニズム、生態学と環境主義など内容が多岐にわたり、読む者に幅広い認識をもつことを要求する。この本の紹介者は、最初の「認識の問題」を読んだだけで疲れてしまった。ここに紹介して読者にその続きをお任せする。目次は以下の通りである。
 
1.認識の問題
 1.1 広がる地平線
  a.文化と自然  b.科学とキリスト教の伝統
 1.2 科学の本質
  a.科学的方法  b.社会的活動としての科学  c.科学とイデオロギー
 
2.古代と中世の世界
 2.1 ギリシアとローマ
  a.競合する宇宙論  b.プラトンとアリストテレス  c.古代後期
 2.2 中世
  a.動物寓話集と本草書  b.学問の復興
 
3.ルネサンスと革命
 3.1 人文主義と自然界
  a.秘密の力  b.自然の豊かさ  c.動物、植物、および鉱物
 3.2 大復興
  a.博物学と革命  b.機械論哲学
 
4.地球の理論
 4.1 理性の時代の科学
  a.分類と説明  b.描かれた地球
 4.2 地球の起源
  a.化石の意味  b.新しい宇宙生成論
 4.3 火と水
  a.水成論  b.火成論
 
5.自然と啓蒙時代
 5.1 生命の多様性
  a.博物学の古典派時代  b.社会的環境  c.デザイン論
 5.2 自然の体系
  a.存在の連鎖  b.分類体系と分類法  c.リンネ
 5.3 自然の経済
  a.田園の調和  b.バランスの維持  c.生命の地理学
 5.4 変化の可能性
  a.間隙を埋めること  b.ビュフォン  c.唯物論と生命の起源
  d.自然の進歩
 
6.英雄時代
 6.1 科学の組織
  a.ヨーロッパによる地球調査  b.アメリカの巻き返し
 6.2 新しい地理学
  a.フンボルトと宇宙  b.フンボルト科学
 6.3 地質学上の記録
  a.化石と層位学  b.古代の岩石
 6.4 気候と時代
  a.冷却する地球  b.氷河時代
 6.5 山と大陸
  a.収縮する地球  b.浮遊する大陸
 6.6 変化の速度
  a.激変説論者の地質学  a.自然の斉一性  c.地球の年齢
 
7.哲学的博物学者たち
 7.1 知識と権力
  a.専門家とアマチュア  b.科学と政治
 7.2 自然のパターン
  a.連鎖、樹、そして円環  b.形態と機能
 7.3 植物の地理学
  a.植物学上の地区  b.歴史生物地理学
 7.4 生命の歴史
  a.種の絶滅  b.前進的発展
 7.5  変化の過程
  a.ダーウィン以前の転成論  b.ダーウィン理論の起源
  c.自然の選択
 
人名索引・書名索引・事項索引
 
 

本の紹介 106:環境科学の歴史2、P.J.ボウラー著、
小川眞里子・森脇靖子・財部香枝・桑原康子訳、
朝倉書店
 (2002)ISBN4-254-10576-2

 
 
 上述した「本の紹介 105」の第2部である。第1部は、第1章から7章。第2部は、第8章から第11章へと続く。
 
8.進化の時代
 8.1 開発かそれとも保護か
  a.科学と帝国  b.生物学の専門化  c.初期の自然保護主義
 8.2 ダーウィン革命
  a.ダーウィニズムの解釈  b.ダーウィン学派
  c.反ダーウィニズム
 8.3 生命の樹
  a.進化形態学  b.化石と祖先  c.人類の起源
 8.4 進化と環境
  a.移動の道筋  b.進化と適応
 8.5 生態学の起源
  a.新しい生物学  b.植物生態学
 
9.地球科学
 9.1 現代の科学
  a.拡大と細分化  b.巨大科学の時代  c.探検の終焉
 9.2 地球の物理学
  a.気象パターン  b.氷河時代再論
 9.3 移動する大陸
  a.地質学の危機  b.ヴェーゲナーの独創性
  c.ヴェーゲナーに対する反応
 9.4 プレートテクトニクス(造構運動論)
  a.古地磁気学  b.海洋底拡大  c.過去と現在
 
10. ダーウィニズムの勝利
 10.1 科学とイデオロギー
  a.権力のイメージ  b.自然と文化
 10.2 進化の総合
  a.平行進化  b.ラマルキズムの擁護  c.集団遺伝学
  d.新しいダーウィニズム
  e.ダーウィニズムの含意
 10.3 動物の行動
  a.精神と脳  b.進化と動物行動学  c.霊長類研究
  d.社会生物学
 
11. 生態学と環境主義
 11.1 変化する価値
  a.原野を征服すること  b.環境主義の台頭
 11.2 生態学の時代
  a.植物生態学  b.動物生態学  c.海洋生態学
 11.3 現代生態学
  a.個体群とシステム  b.生態学と環境危機
 
参考文献・解説・訳者あとがき
 
 

本の紹介 107:農の時代、進士五十八著
学芸出版社
 (2003)ISBN4-7615-2308-5
 
 
 日本は四季が明瞭な、自然に恵まれた国である。現代の都会に住む人たちが、このことをどこまで本気で思っているだろうか。たとえば、東京には四季などない。それはまちがいで、都会人は四季のない生活をしているといったほうが正しいのかもしれない。寒いと暖房、暑いとクーラーの生活である。四季折々の草花を見るわけでなし、愛でるわけでもない。忙しい人は、サクラの満開でも見過ごすかもしれない。ましてや、田舎で百姓がどのような思いで、自分たちがお世話になっている食べ物を作っているのか思い至らない人がたくさんいるだろう。いまでは、イネが田んぼでできることを知らない子供や、落花生が木になると思いこんでいる若い女性もいるときく。
 
 こんなことを思っているとき、一冊の本に出くわした。「農の時代」である。著者は、名刺一枚では肩書きがとても書ききれない人、東京農業大学学長の進士五十八氏である。これは、「都市の再生を農から」、「農でふるさと再生を」、「農で日本再生を」と掲げた元気の出る本である。著者の思いが全国規模で実行されれば、上述したような子供や若い人も減ることだろう。
 
 この本のキーワードは、癒し、園芸療法、市民農園、ファーミング、スローフード、環境福祉、手づくり、体験学習、環境教育、エコ・シティ、環境共生、循環型社会、百姓のデザイン、ヒューマンスケール、自然素材である。ぜひ、一読をお薦めする。目次は以下の通りである。
 
プロローグ「農」の発想
第1部 都市の再生
  1 対談 農景観の回復から超高層のスカイラインのランドスケープまで
  2 都市の生命は「みどり」と「農」
  3 ダイバーシティ・ランドスケープ
  4 東京のエコ・シティ化、その可能性
  5 日本型オープンスペース計画論
  6 都市公園から公園都市へ
  7 都市再生へ「農」の役割
第2部 ふるさと再生
  8 生きている樹木と郷土景観
  9 郷土景観と郷土設計論からの地域づくり
  10 対談 なぜ里づくりか
第3部 「農」と日本の再生
  11 「農」と多面的機能へ―市民からのアプローチ
  12 農村ランドスケープのための基礎
  13 山村地域の多面的意味と風景づくり
  14 多自然居住時代の農山村
  15 「田舎」観光の意義と魅力
エピローグ 都市生活者のファーミング―アグリ・スタイルの確立
初出一覧・写真出典・あとがき・Message from the author to the readers
 
 

遺伝子改変生物の生態モニタリング
 
Ecological Monitoring of Genetically Modified Organisms
Traxler A., Heissenberger A., Frank G., Lethmayer C., Gaugitsch H.:
(Monographien; Band 147)
Federal Environment Agency - Austria, Wien (2001)
 
 欧州議会と理事会は2001年3月12日に、遺伝子改変生物の環境への意図的放出に関する指令2001/18/ECを採択した。この指令はそれまでの理事会指令90/220/ECにかわるもので、欧州における遺伝子改変生物の環境への意図的放出についての基本法令を定めている。
 
 この論文は、指令2001/18/ECで示されている遺伝子改変生物のモニタリングのうち、とくに環境影響に関するモニタリングを扱っており、2001年にオーストリア連邦環境研究所からモノグラフシリーズの147巻として刊行された。原文はドイツ語である。ここでは、その英文要約を日本語訳して示す。内容が適切に表現されていない部分もあると思われるので、原文(英文要約)
http://www.umweltbundesamt.at/publikationen/publikationssuche/publikationsdetail/?&pub_id=1268 (最新のURLに修正しました。2010年5月)
で確認していただきたい。
 
 なお、情報:農業と環境のNo.35(本号)には、指令2001/18/ECの附則VIIを補足する手引き書の日本語仮訳
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn035.html#03512
も掲載しているので、合せてご覧いただきたい。
 
遺伝子改変生物の生態モニタリング(要約)
 
 遺伝子改変生物(GMO)の潜在的な環境影響に関しては大きな不確実性が存在する。生態モニタリングはGMOの商業利用における環境安全性を高める数少ない手段の一つである。そのおもな目標は国の自然保護対象(生物多様性, 生息地と生物種など)を保護することである。
 
 遺伝子改変生物(GMO)の生態モニタリングの目的は
 
・ 環境に対する有害な影響を検出すること、
・ 有害な影響を防止すること(早期警戒システム)、
・ 自然保護の生態学的対象を保護すること、
・ GMOのリスクを定期的に再評価すること、および
・ 新たな技術の適用についての知識を得ることである。
 
 GMOの意図的な放出と上市の潜在的リスクを抑制するためには生態モニタリングが必要であることが広範に同意されている。これは、新指令2001/18/ECの中でとくに強調されており、生態モニタリングの提言、基本的な目標と方法が幅広く述べられている。ただ、詳細にみると、生態モニタリングをどう実行するかについてまだ不明確な部分がある。モニタリングの対象, 方法, 期間および場所は、種々のモニタリングの概念の中でわずかしか扱われていない AMMANN VOGEL1999 MAYER ら、1995 NEEMANN ら、1999 RAPS ら、1999; SRU (環境諮問委員会)、1998 SUKOPP1998 FEDERAL ENVIRONMENT AGENCY (ドイツ連邦環境研究所) BERLIN, 1999)。
 
 今後の生態モニタリングの実施と運用はまだ明確にはなっていない。たとえば、GMOに関する用語「生態学的損害」は適切には定義されていない。荒れ地の植物群集の中に、ある遺伝子改変生物が発生しただけで生態学的損害(本質的な損害)と見なすべきだろうか。すなわち局地的な土着植物の集団は競争メカニズムによって抑圧され、損害のレベルにまで達するのだろうか。この問題には、生態モニタリングの「保留規準」が密接にかかわっている。発生時にGMOの上市の届け出が取消しまたは延期され、あるいは市場から製品が回収されることになる有害影響とはどんなものだろうか。生態モニタリングは中途半端な言いわけとして乱用されるべきではなく、逆に、保留規準のように、明確に定義され、目標を定めた評価基準に従ったものでなければならない。
 
 分子生物学者、産業の代表者、そして生態学者が集まって、GMOのモニタリングについて議論すると、まるで正反対の世界が出会ったように見えることが多い。「有害な雑草」対「貴重な小さな宝石」が典型的な例である。「原因−結果モデル」や「予測と正確な測定」が、「複雑で予見不能な生態系の反応」や「100年の間におこるかもしれない環境影響」と出会うのである(図1を参照)。意外なことに、生態モニタリングの必要性に関してはあらゆる関係グループの間に広範な合意がある。しかし、よく見ると、一方の側には産業の代表者が、もう一方には生態学者が位置して、実施すべき調査の性質、程度、期間について非常にかけ離れた考えを持っている。
 
 生態モニタリングは, 生態学者が分子生物学者と協力して計画し、実行しなければならず、GMOの放出につきもののめんどうな義務と受け取ってはならない。
 





 
生態学者




 
分子生物学者




 
産業の代表者




 
生態系の反応は複雑で予測できない; 間接的な予期しない長期的な影響; 自然保護の目標; 雑草群落の生物多様性... 測定可能な異系交雑率; 世代間の遺伝子発現の安定性; 雑種の遺伝子発現の安定性; 多面的非対象影響...   リスクのない取引はない; 費用対利益; リスクの制御; GMOと従来品種の比較; 農耕地は国立公園ではない...
       
  ━━━━━┓ ━━━━━┛  
       
       



 
  モニタリングの概念


 

  (意見の相違)
 
 



 
図1: 生態学者、分子生物学者と産業の代表者が、GMOのモニタング・プログラムについて議論すると、その結果はかれらの異なった考え方を反映することになるだろう。現在のところ、モニタリング計画に関する意見は一致していない。


 
 
 
 この調査の目的は遺伝子改変生物(高等な植物、すなわち種子植物のみ)の生態モニタリングのための枠組みの考え方を確立することである。枠組みの考え方は、指令2001/18/EC (欧州連合理事会、2001)に沿って、詳しく述べられており、今後の修正や調整が可能である。指令が2001年3月に成立したため、生態モニタリングの枠組みをさらに詳細に説明するガイダンスノート(手引き書)が指令の附則VII(「GMO上市のためのモニタリング計画」)に付け加えられることになる。ここで示している枠組みの考え方にはこのガイダンスノートへの予備的提案が含まれており、国内での議論の後、最終的にはEUレベルの議論にもっていくことになる。
 
 GMOの意図的放出あるいは上市のための各届け出には、詳細なモニタリング計画書が(個別事例ごとに)含まれていなければならない。われわれの枠組みの考え方は、特定モニタリング計画の開発と評価のガイドラインとするために作成された。このガイドラインは、GMOの生態モニタリングの基本的要件の概略を示しており、一般的に適用されるべきものである。
 
 このモニタリングの枠組み概念には以下に関する提案を含む:
 
・ 特定モニタリング、
・ 一般サーベイランス、
・ 最新技術のモニタリング、
・ および、生態系モニタリング。
 
 「特定モニタリング」は、仮説に基づいた試験区域と隣接地区における調査に限られ、期間の制限がある。また、ある特定のGMOの挙動についての調査に集中する。
 
 「一般サーベイランス」は、時間を制限しない全国的な長期モニタリング・プログラムと考えることができる。同意されたすべてのGMOの影響を観察できるように設計される。対象区域のサンプリングは、間接的で予測できない遅発的な影響を検出することを主目的とする全国的な環境モニタリング制度の一部とされる。
 
 「最新技術のモニタリング」は、各国のモニタリングと関連リスク評価の結果を収集し体系化することである。現在のモニタリング計画の手法と対象を定期的に修正する手段となる。
 
 「生態系モニタリング」は、1か所か少数の場所で実施するもので、生物的ならびに非生物的な要因を考慮した学際的な調査に集中することで、新たな知見が得られるだろう。そのような詳細な知見は、広い地理的スケールで行われる特定モニタリングや一般調査では、手法的あるいは経済的な理由で得ることができない。
 
 GMOのリスク評価は新たな形質転換植物をおもな対象としているが、GMOの影響を受ける可能性があり、十分な研究が行われてない「生態学的な保護対象」についての基礎データも必要であることは無視されている。この2つの視点は、GMOのモニタリングに対する異なった見方にも反映している。分子生物学者と産業の代表者はGMOを中心に考えるが、生態学者は環境的側面を重視する。
 
 この調査は、生態モニタリングのさまざまな要件を満たすための、たとえば試験場所の選択のための欧州の生物地理学的区域への分割など、基本的なガイドラインを確立しようとする。さらに、たとえばオーストリアの生態学的な保護対象が、このモニタリング制度の中心として考えられている。
 
 このような生態学的目的はモニタリングの関心と問題点の対象となる。生態モニタリングの目標は、問題の保護対象に加えられる生態的損害を防止することである。
 
 現在使用されているモニタリングの技術と調査パラメータが、生態影響を特定する際の手法的な限界とともに概説されている。このモニタリングの概念は、植物生態学, 鳥類学, 昆虫学, および土壌生態学などの分野を扱っている。GMOの影響を受ける生物社会は、はるかに多様である; ほ乳類、は虫類、両生類など重要な動物グループは実際的な理由からここでは検討されなかった。この分野でのさらなる行動と調査が必要である。
 
 今後GMOの届け出があるときに備えて、効果的な生態モニタリングに関して以下の点を明確にしなければならない:
 
 ・ 実施機関の決定
 ・ しきい値、保留基準、許容しうる変化の限界の定義
 ・ 環境被害の定義
 ・ 全国および多国間の情報ネットワークの確立。
 
 また、以下の点については、できるだけ早い段階で議論すべきである:
 
 ・ 動植物のための全国的、代表的なモニタリングネットワークの設計
 ・ GMOの影響を受けそうな生態保護対象の定義
 ・ 資金調達。
 
 

遺伝子改変生物の環境への意図的放出に関する
欧州議会と理事会の指令2001/18/ECの
附則VIIを補足する手引き書

 
 
 欧州連合理事会は、2002年10月3日、遺伝子改変生物の環境への意図的放出に関する欧州議会と理事会の指令2001/18/ECの附則VIIを補足する手引き書を定める決定を行った。
 
 欧州議会と理事会によって2001年3月12日に採択された指令2001/18/ECは、それまでの理事会指令90/220/ECにかわり、欧州における遺伝子改変生物の環境への意図的放出についての基本法令を定めたものである。
 
 新指令は、パートA(総則)、パートB(上市以外の目的でのGMOの意図的放出)、パートC(製品としてのあるいは製品中のGMOの上市)、パートD(最終条項)から構成される本文と、附則IA(第2条(2)で言及された技術)、附則IB(第3条で言及された技術)、附則II(環境リスク評価の原則)、附則III(届け出に必要な情報)、附則IIIA(高等植物以外の遺伝子改変生物の放出に関する届け出に必要な情報)、附則IIIB(遺伝子改変高等植物(裸子植物と被子植物)の放出に関する届け出に必要な情報)、附則IV(追加情報)、附則V(異なる手順の適用に関する規準)、附則VI(評価報告書のガイドライン)、附則VII(モニタリング計画)、附則VIII(旧指令との対応表)からなっている。
 
 この手引き書は、指令の附則VIIを補足して、モニタリングの目的と一般的原則、およびモニタリング計画の作成の一般的枠組みを、さらに詳細に述べた文書である。
 
 ここでは、欧州官報に掲載(OJ L 280, 2002年10月18日, 27ページ)された、手引き書を制定する理事会決定:
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2002:280:0027:0036:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年5月)
を、日本語に仮訳して示す。内容が適切に表現されていない部分もあると思われるので、原文で確認していただきたい。
 
 手引き書の各章の見出しは以下のとおりである:
 
  緒言
A.目的
B.一般的原則
C.モニタリング計画の設計
  1.モニタリングの戦略
  2.モニタリングの方法
  3.分析、報告、見直し
 
官報 L 280、18/10/2002、27-36ページ
 
遺伝子改変生物の環境への意図的放出および理事会指令90/220/EECの
廃止に関する欧州議会と理事会の指令2001/18/ECの附則VIIを補足する
手引き書(guidance notes)を定める2002年10月3日の理事会決定
 
(2002/811/EC)
 
欧州連合理事会は、
 
欧州共同体設立条約に留意し、
 
欧州議会と理事会の指令2001/18/EC(1)、とくに附則VIIの第1パラグラフに留意し、
 
欧州委員会からの提案に留意し、
 
以下のことに鑑み:
 
(1)指令2001/18/ECは、製品として、あるいは製品中に含まれる遺伝子改変生物(以下GMOと言う)が上市される前に、GMOを最初に上市する加盟国の所管当局に届け出を提出しなければならないことを定めている。
 
(2)指令2001/18/ECによると、申請者は、本指令の第13条(2)、第19条(3)、および第20条に従って、GMOを上市するための認可が定める条件に従って、GMOの意図的な放出に関するモニタリングと報告を行うことを保証しなければならない。そのために、このような届け出は、指令2001/18/ECの附則VIIに従って、モニタリング計画の期間についての提案など、モニタリングのための計画を含めなければならない。
 
(3)指令2001/18/ECの附則VIIは、モニタリング計画の目的、一般的原則および設計を定めているが、詳細な手引き書によって、この附則を補足しなければならない。
 
(4)指令2001/18/ECの第30条(2)をうけて設置された委員会は、2002年6月12日に協議したが、この決定のための欧州委員会の提案についての意見書を提出していなかった。
 
この決定を以下のとおり採択した:
 
第1条
 
この決定の附則に示した手引き書は、指令2001/18/ECの附則VIIの補足として使用するものとする。
 
第2条
 
この決定は、加盟国に送達する。
 
2002年10月3日、ルクセンブルクで採択された。
 


 
欧州連合理事会
議長
F. HANSEN
 

(1) OJ L 106、2001年4月17日、1ページ。

 
附則
 
緒言
 
 指令2001/18/ECは、製品として、あるいは製品に含まれるGMOが上市された後、人の健康や環境に対する直接的あるいは間接的、即時性、遅延性あるいは予見しがたいすべての影響を追跡し、確認するために、申請者がモニタリング計画を実施する義務を導入する。
 
 申請者は、指令2001/18/ECの第13条(2)(e)をうけて、GMOの上市についての届け出の一部として、本指令の附則VIIに従って、モニタリング計画を提出する必要がある。これにはモニタリングの実施期間を記入しなければならないが、この期間は同意期間と異なることがあるもしれない。附則VIIは、第13条(2)、第19条(3)および第20条で定めたモニタリング計画を設計するために達成すべき目的と従うべき一般的原則を一般的な言葉で記述されている。
 
 この手引き書は附則VIIと、指令の関連で規定した以下の情報を補足する:
 
−モニタリングの目的の内容、
−モニタリングの一般的原則の内容、
−適切な上市後のモニタリング計画の開発についての一般的枠組みの概要。
 
 GMOの上市後に、指令の第20条(1)をうけて、申請者は、同意書で定めた条件に従って、モニタリングと報告を実施する法的義務がある。第19条(3)(f)は、欧州委員会と所管当局に報告する義務を含め、附則VIIによるモニタリング要件をすべての場合に同意書に明記しなければならないことを詳細に述べている。さらに、第20条(4)に従って、透明性を確保するために、モニタリングの結果は、公開されなければならない。
 
 上市するGMOについてのモニタリング計画では、環境リスク評価、当該GMOに特異的な改変形質、使用目的および受容環境を考慮して、個別事例に基づいて開発することが明らかに必要であろう。この手引き書は、一般的枠組みに言及しているが、すべてのGMOを対象とするモニタリング計画の開発に対して、明確な詳細を定めようとするものではない。
 
 モニタリング計画のより具体的で補足的な手引き、あるいはGMOの特定の形質、作物あるいはグループに関する照合表によって、この枠組みを補足することが必要であろう。
 
 モニタリングは一般に、変数と時間の経過についての系統的な測定であると、定義することができる。たとえば、ある基準や条件が満されていることを保証すること、あるいはあるベースラインに関して起りうる変化を調査することなどのような、データ収集のための具体的理由があるということを前提としている。この背景のもとで、モニタリングすべき影響のタイプと変数を確認することが不可欠であり、そして重要なことは、それらを測定するための手法とシステムおよび測定のための適切な時間が欠かすことができない。けれども、モニタリングの結果は、新たな調査の発展に重要であろう。
 
 効果的なモニタリングと総合的サーベイランス(surveillance)は、適切な方法を開発し、モニタリングプログラムの開始前に使用可能であることが必要である。モニタリングは、本質的に調査とみなすべきではなく、上市前の調査と査定から生まれている潜在的リスクと調査についての結果と前提条件を査定し、検証する手段とみなすべきである。
 
 
A. 目的
 
 製品として、あるいは製品中に一つのGMOあるいはGMOの組み合わせが上市される前に、そのGMOを最初に上市する加盟国の所管当局に届け出を提出しなければならない。この届け出の中には、第13条(2)に従って、十分な環境リスク評価を含む専門的な情報の書類が入っていなければならない。
 
 環境リスク評価は、直接的か間接的か、あるいは即時的か遅延的にかかわらず、上市によって生じる人の健康や環境へのGMOの潜在的有害影響を個別事例に基づいて確認し、査定することを意図している。この評価では、他の生物や環境の相互作用に関連する潜在的な長期影響を考慮する必要もあるだろう。このような潜在的有害影響の査定は、それぞれに証明可能な科学的根拠に基づき、共通の方法によって行わなければならない。
 
 それぞれのGMOは、特定の遺伝子改変とその結果としての形質はもとより、改変された種の本来の形質に関しても、かなり異なると思われる。これらの形質は、GMOの上市によって生じる潜在的影響の性質の大部分を決定するだろう。
 
 GMOの上市前のリスク評価が間違っていないことを上市後に確かめる必要もある。さらに、査定の際に予見できなかった潜在的有害影響が発生する可能性を無視できない。指令の第20条で定めているように、上市後のモニタリングは、このことを予見する。
 
 この背景として、附則VIIの中で詳細に述べているように、上市後のモニタリングは次のことを予見する:
 
− 環境リスク評価の際の、GMOやその利用の潜在的有害影響の発生とその影響力に関する仮定がいずれも適切であるということを確かめること、そして
− 環境リスク評価で予測されなかった人の健康あるいは環境へのGMOあるいはその利用の有害影響の発生を確定すること。
 
 
B. 一般的原則
 
 指令2001/18/ECの第13、19および20条と、この手引き書の中で詳しく述べているモニタリングは、上市後のモニタリングを指しており、このモニタリングは許可を受けた市場にGMOを上市する同意が得られた後に行われる。
 
 指令第13条(2)(e)では、附則VIIに従って、モニタリング計画を届け出の一部として提出することを申請者に要求している。
 
 この同意書には、第19条(3)(f)をうけて、モニタリング計画の期間と、必要に応じて、その製品の販売者あるいは利用者のすべての義務、とくに栽培の場合、それらの立地に関する適切と思われる情報レベルを明記しなければならない。
 
 申請者が提出した報告書に基づき、明記されたモニタリング計画の同意と枠組みに従って、最初の届け出を受けた所管当局は、その結果について、欧州委員会とEUの所管当局に知らせなければならない。しかし、第20条(1)で述べているように、必要な場合には、この他の加盟国との協議で最初のモニタリング期間の後にモニタリング計画を変更することができる。
 
 計画は、モニタリングのすべてのタイプについて欠かすことができず、モニタリング計画を開発する際には、個別−特定モニタリングと総合的サーベイランスを検討しなければならない。これに加えて、潜在的な累積的長期有害影響のモニタリングをモニタリング計画の必須部分として検討しなければならない。
 
 個別−特定モニタリングでは、モニタリング計画を組み入れるときに、環境リスク評価の結論と仮定の結果、注目されたGMOの上市によって生じる潜在的影響に重点をおかなければならない。けれども、リスク評価と使用可能な科学的情報に基づいて、ある影響が生じるだろうと予測することが可能な反面、予見あるいは予測することができない潜在的影響や変数について計画することは、非常に困難である。しかし、そのような影響の早期発見の機会を最大限に利用することがモニタリングとサーベイランス計画を適切に立案することによって可能になるだろう。そのため、モニタリング計画の設計には、予期されない、あるいは予見しがたい有害影響のための総合的サーベイランスを取り入れなければならない。
 
 個別−特定モニタリングと総合的サーベイランスの費用効果においては、このことを考慮しなければならない。さらに、モニタリング計画は、最新の科学的見識と経験に従わなければならない。
 
 第4条(5)は指令の遵守を保証するために、所管当局が検証と他の規制措置を組織化を行うことを求めているが、この条項に従って、加盟国は一般的義務によってモニタリングを支援することもできる。それどころか、加盟国は、欧州共同体設立条約に従って、たとえば、各国の公共機関によって、上市された製品として、あるいは製品中のGMOのモニタリングと検査のために、さらなる措置をとることができる。ただし、このような行動は申請者が責任を負うモニタリング計画の代りにならないことを認識しなければならない(当事者の同意によっては、その一部になるかもしれないけれども)。
 
 モニタリングを通して集められたデータについての解釈は、適切なベースラインを決定するために現行の環境条件と活動を考慮しなければならない。一般に総合的サーベイランスと環境モニタリングプログラムは、同じようにこの点を助けることができる。環境中で予想外の変化が観察された場合、それらがGMOの上市の結果として生じたのか、あるいは他の要因の結果として生じたのかを確定するために、リスク評価をさらに検討する必要があるだろう。人の健康と環境を保護するために必要な措置も検討されなければならないことがその背景にある。
 
 
C. モニタリング計画の設計
 
 モニタリング計画の設計は、3つの重要な節で構成される枠組みに基づいて行われなければならない、すなわち:
 
1.モニタリングの戦略;
2.モニタリングの方法;
3.分析、報告、見直し。
 
1. モニタリングの戦略
 
 モニタリングの戦略には、GMOの上市によって生じるかもしれない潜在的影響を確認し、それらをモニタリングする必要があれば、その程度、そしてモニタリングを行うための適切な取り組みと時間のスケールがきわめて重要である。
 
 まず第一に、GMOによって生じる直接的あるいは間接的、即時性あるいは遅延性の潜在的有害影響の可能性の程度を、使用目的と受容環境に従って検討しなければならない。
 
 直接的影響は、GMO自体の結果であり、事象の因果連鎖を通して生じるものではない人の健康や環境に対する一次的影響を指す。たとえば、特定の昆虫に対する抵抗性をもつように改変された作物を検討する場合、直接的影響は、GMOが生産した毒素の結果として生じる標的昆虫と非標的昆虫の両個体群における死亡と変化が含まれるだろう。
 
 間接的影響は、事象の因果連鎖を通して生じる人の健康や環境への影響を指す。たとえば、上記の場合、間接的影響は、標的昆虫の個体数の減少が、通常、それらの昆虫を餌としている他の生物個体群に影響を与える場合に生じるかもしれない。
 
 間接的影響には、多くの生物と環境との間の相互作用が関係する可能性があり、このことが潜在的影響を予測することをより困難なものにしている。間接的影響の観測結果も遅れると思われる。けれども、これらの要因は戦略の一部として検討されなければならない。
 
 即時的影響は、GMOの放出期間中に観察される人の健康や環境への影響を指す。即時的影響は、直接的でも間接的でもあるかもしれない。
 
 遅延的影響は、GMOの放出期間中には観察されなくても、放出の後半の段階または放出の終了後に直接的または間接的な影響として現れる人の健康や環境への影響を指す。継続した暴露を通して、Bt毒素に対する昆虫の抵抗性が高まることは、遅延的影響の一例である。
 
 即時的影響と遅延的影響は、直接的でも間接的でもあるかもしれないが、変化に対する時間の尺度を意味する。直接的影響は、即時的、つまり短期間で検出可能なレベルになることが多い。間接的影響は、明らかになるまでにより長い時間が必要であるかもしれないが、やはり検討する必要があるだろう。
 
 リスク評価で注目されなかった予見しがたい、あるいは予期されない潜在的影響の発現を予測することは、不可能ではないとしても、非常に困難である。そのため、予見しがたい、あるいは予期されない潜在的影響のための総合的サーベイランスは、モニタリング戦略の一部として検討しなければならない。
 
1.1. リスク評価
 
 モニタリング戦略は、リスク評価から得られた査定がGMOの使用と受容環境に従って確認できる方法を特定しなければならない。これには専門委員会の科学的査定と勧告とに基づいて、リスク評価からの結論と仮定を考慮しなければならない。それに加えて、不確実性のあるリスク評価から生じる課題、たとえば放出が大規模である場合のみに発現する潜在的影響も、モニタリング戦略の一部として必要であろう。環境リスク評価の原則に関して、指令2001/18/ECの附則IIを補足する手引き書を参照することがこの点で役立つはずである。
 
1.2. 背景情報
 
 実験的な放出からのデータと情報、科学論文および他の放出による関連する比較可能な証拠など、当該GMOにかかわる背景情報が、モニタリング計画の立案と設計に利用できる。とくに、使用可能なリスク調査研究と実験的な放出のモニタリングによって得られたデータは、これに関連して非常に助けになる。
 
1.3. 方法
 
 モニタリング戦略の方法を記述しなければならない。多くの場合、重要な関心事(知る必要性)と、このプログラムの質を連続的に改善できるようにするための周期的なモニタリングプロセス(monitoring process)の確立に重点が置かれるだろう。
 
 その方法には、潜在的有害影響を発現初期に検出する手段を準備しなければならない。GMOに起因する有害影響の早期発見は、環境への影響力を減らするための方策の再評価と実施を速めるだろう。
 
 GMOのモニタリング計画の設計は、既存のデータとモニタリング方法を考慮して、段階的な取り組みを利用して構築しなければならない。段階的取り組みでは、多くの場合、放出の規模も考慮する必要があるだろう。最初の段階では、実験段階の検討結果に基づき、その後の段階では大規模な野外実地試験に基づき、最終的に商業的区画の監視に基づくことになる。そのため、GMOの実験的放出のモニタリングによって得られた経験と情報は、GMOの上市のために要求される上市後のモニタリングシステムを設計するのに役に立つだろう。
 
 現行の観測プログラムは、比較可能性を確保し、方法を開発する際に資源の消費を抑制する手段として、GMOのモニタリングの要求に適応することもできる。これには、農業、食品の検査、自然の保全、生態長期モニタリングプログラム、土壌観測と家畜衛生検査の分野における現行の環境観測プログラムが含まれるだろう。モニタリング計画の一部にこのようなプログラムを取り入れるには、申請者がその仕事を行う国の公共機関をはじめとする人や組織の適切な合意を得ることがまず必要である。
 
 この節では、附則VIIの2つの一般的目的に従って、個別−特定モニタリングと総合的サーベイランスに焦点を当てるが、他のタイプのモニタリングシステムも考えられる。
 
1.3.1. 個別−特定モニタリング
 
 個別−特定モニタリングは、環境リスク評価において、GMOとそれから生じる潜在的有害影響に関する科学的に信頼できる仮定が適切であることを確かめるために役立つ。
 
 この方法は:
 
− さまざまな立地、土壌タイプ、気候条件を考慮して、リスク評価で確認された人の健康と環境への潜在的影響のすべてに焦点をあて、
 
− 結果を得るまでの期間を明確に定めなければならない。
 
 個別−特定モニタリングのためのモニタリング計画を開発する最初の段階は、モニタリング戦略の個別−特定の目的を決定することである。これには、GMOやその使用による潜在的有害影響の発生と影響力に関するどんな仮定が環境リスク評価で得られ、個別−特定モニタリングによって確認しなければならないかを決定することが含まれる。けれども、リスク評価の結論として、リスクがないか、無視しうることが確認された場合は、個別−特定のモニタリングは必要ないであろう。
 
 環境リスク評価で確認された潜在的有害影響は、モニタリングがこれらの影響に関連する仮定を確認あるいは否定することに寄与しうるという根拠がなければ、モニタリング計画に入れるべきではない。
 
 GMOの使用目的に栽培が含まれる場合、花粉の移動、GMOの伝播と残存から生じる潜在的リスクのモニタリングを検討しなければならないだろう。これらの現象が起りそうな程度は、受精可能な慣行の作物種と野生近縁種が近くにあるかどうかと、生産規模など、GMOの栽培規模と受容環境にも依存するであろう。
 
 逆に、輸入と加工目的で承認されたGMOによって生じる潜在的環境リスクは、GMOが意図的に環境に導入されず、また伝播しそうもない場合は、非常に制限されていると評価されることが多いだろう。
 
 GMOの放出あるいは上市によって生じる人の健康あるいは環境への潜在的な影響は、そのGMOの本来の性質とそれ特有の遺伝子改変に、まず依存するであろう。たとえば、遺伝子改変作物から非遺伝子改変作物あるいは近縁の野生植物への花粉の伝播で生じる潜在的影響は、第一に遺伝子改変作物が他殖性か自殖性かに大きく依存している。このことから、近縁野生種の存在も考慮する必要があるだろう。
 
 けれども、その後の影響、たとえば、Bt毒素に対する昆虫の抵抗性の潜在的発達は、その特定の毒素を発現するように改変されたGMOのみに関係する。除草剤耐性のみの目的で改変されたGMOの場合は、Bt毒素の遺伝子が含まれないので、影響しない。
 
 同様に、改変の一部に抗生物質のマーカー遺伝子を含んでいる場合のみ、GMOに関する抗生物質の耐性遺伝子の潜在的移動と起こりうる影響力をモニタリングすることに意味があるだろう。
 
 潜在的有害影響に基づいて目的を確定した後の、次の段階は、これらの目的を達成するために測定する必要のあるパラメータを確定することである。測定し、査定するために使用した手法はもちろんパラメータは、事実に見合っており、目的に合っていなければならない。
 
1.3.2. 総合的サーベイランス
 
 総合的サーベイランスは、おもに経常的観測(「点検」法)に基づいており、リスク評価で予測されなかった、人の健康と環境に対するGMOあるいはその利用の予見しがたい有害影響の発生を確定するために使用すべきである。これには表現形質の観察が必要であろうが、より詳細な分析も必要であろう。
 
 個別−特定モニタリングと対照的に、総合的サーベイランスは:
 
− リスク評価で予想できなかった間接的、遅延的もしくは累積的な有害影響を確定し、記録することを求め、
 
− より長い期間、できる限り広い地域にわたって実施しなければならない。
 
 調査地、面積および測定すべきパラメータを含む、総合的サーベイランスの種類は、測定されている予期できない有害影響の種類に大部分、左右されるであろう。たとえば、生物多様性の変化、複数の放出による累積的環境影響および相互作用など、耕地生態系に及ぼす予期されない有害影響は、遺伝子移動によって生じるその他の影響の総合的サーベイランスと異なる方法が必要であろう。
 
 総合的サーベイランスは、適合する場合、生態モニタリング、環境観測および自然保全プログラムはもちろん、農作物、植物防疫、家畜用と医療用の薬品のモニタリングのような経常的サーベイランス業務を利用することができる。モニタリング計画には、第三者機関によって実施される確立した経常的サーベイランス業務によって集められた関連情報を、同意者がどのように回収し、あるいは入手可能にするかについての詳細を規定することもできる。
 
 確立した経常的サーベイランス業務を総合的サーベイランスに利用する場合、この業務は総合的サーベイランスを満たすために必要な業務の変更を同様に記述しなければならない。
 
1.4. ベースライン
 
 受容環境のベースライン状態の決定は、モニタリングによって観察される変化の確認と査定のための前提条件である。要するに、ベースラインは、GMOの上市によって生じるあらゆる影響を比較可能にするための基準点になる。したがって、ベースラインは、そのような影響を検出し、モニタリングしようとする前に決定しなければならない。「GMO区」と比較可能な「非GMO対照区」との並列モニタリングも選択でき、これは環境が非常に動的な場合に重要であろう。
 
 そのため、適切な環境観測システムに基づいた、受容環境の状態に関する信頼できる情報が、モニタリングプログラムと環境政策行動を実施する前に必要である。環境観測プログラムは、証明された、あるいはありえる、そしてもっともらしい生態系のつながりを考慮するように設計され、次の測定に役立つだろう:
 
− 環境の状態とその変化、
− そのような変化の原因、および
− 環境の予想される展開。
 
 受容環境の状態の指標の例としては、さまざまな生物群と生態系からの動物、植物と微生物があげられるだろう。関連指標は当該GMOとモニタリングすべきパラメータの特性に基づいて検討されるだろう。GMOと他の生物の性的和合性はこの点で関連するだろう。特殊な指標種について、測定可能なパラメータあるいは適応度変数には、個体数、成長率、バイオマス、繁殖効果、個体数の増加/減少率および遺伝子の多様性などのようなものが含まれるであろう。
 
 GMOの使用によって生じる管理業務の変化に関係するベースラインを検討することも適切だろう。これには、除草剤耐性また昆虫抵抗性のために改変された作物種の栽培に関する農薬使用の変更を含めることができる。除草剤耐性の遺伝子改変作物のためのモニタリング計画を検討する場合に、適切なベースラインの一部として慣行の作物に使用する除草剤を検討することも妥当であろう。
 
1.5. 期間
 
 即時的な潜在的影響を検出するだけでなく、必要に応じて、環境リスク評価において確認された遅延的影響を検出するために、モニタリングは十分な期間にわたって実施しなければならない。リスクの推定レベルが放出期間によって影響を受ける関係も検討しなければならない。長期にわたる放出は、累積的影響のリスクを高める可能性がある。他方、長期にわたって即時的影響が現われなければ、遅延的で間接的な影響に重点をおいたモニタリングになるかもしれない。同意期間を越えてモニタリング計画を延長することが必要かどうかも検討しなければならない。これには、たとえば、環境中でのGMOの残存が重要である可能性である場合が相当するだろう。
 
 モニタリング計画の提案期間は、視察/点検の目的に合った頻度とモニタリング計画の見直しの間隔の概要を含めて、明示しなければならない。これには、リスク評価において注目されたような潜在的影響の中で現われそうなものを考慮に入れなければならない。たとえば、上市後の環境中でのGMOの伝播、繁殖および持続/生残から生じる有害影響のすべてを検討しなければならない。これは、バイオレメディエーション(生物的環境修復)プログラムで放出される遺伝子改変微生物では数日あるいは数ヶ月程度であるが、ある作物種が問題となる場合にはかなりの年数に及ぶかもしれない。改変された配列(sequences)が伝播し、残存する可能性は、性的和合性のある種との交雑の観点から検討されなければならない。
 
 検査の立案は、おもにモニタリングすべき影響の種類に大きく依存する。たとえば、花粉の移動によって生じる影響は、開花してからでなければ見られないが、性的和合性のある植物が近傍に存在する範囲を確認するには、開花する前にその場所を視察することが適切であろう。同様に、次の生育期における自生種の出現についてのモニタリングは、種子の落下と残存の時期とその後の種子バンクからの発芽と関連があるだろう。
 
 事前の視察は、関連するベースラインを設定するためにも、適宜、モニタリングの開始前に必要であろう。
 
 モニタリング計画とそれらの期間は、つねに固定しておくのではなく、モニタリングプログラム期間中に得られた結果を考慮して見直し、改めなければならない。
 
1.6 責任の所在
 
 最終的に、申請者/同意者は、指令に従って、届け出の中にモニタリング計画を入れ、所定の場所に設定し、適切に実施することを保証する責任がある。
 
 はじめに、申請者は、指令の第13条(2)(e)、付属書VIIによるモニタリング計画をうけて、届け出の一部として提出する責任がある。提案されたモニタリング計画が適合していることが、GMOの上市のための申し込みの審査すべき基準のうちの一つである。この計画はそれが適切かどうかのみに基づいて判断すべきであり、この手引き書に厳密に一致するのではなく、指令そのものに定められた要件を満たすことが必要である。
 
 第20条(1)は、製品として、あるいは製品中のGMOの上市後に、モニタリングとその報告が同意の際に明記された条件にしたがって実施することを申請者が保証することを要求している。これは、モニタリング計画の適切な実施によって達成しなければならない。
 
 そのため、モニタリング計画の各段階についての責任を届け出の中で明確に割り当てなければならない。これは個別−特定モニタリングと、モニタリング計画の部分としての総合的サーベイランスの両方に適用される。申請者はモニタリングを実施することを保証する責任があるが、コンサルタントやユーザーのような第三者がモニタリング計画に必要なさまざまな仕事を実施することによって、モニタリングに参画することも可能である。総合的サーベイランスの場合には、欧州委員会、加盟国もしくは政策専門家(CAs)を入れることができる。第三者を雇用したり、モニタリング調査を実施することを契約した場合、それらの参加の構造を詳細に述べなければならない。申請者/同意者は、モニタリングのデータと結果のとりまとめに責任があり、有害影響の確認に特別に考慮して、モニタリング計画にしたがって、委員会と所管当局に対するその情報の伝達を確実にしなければならない。
 
 また加盟国が個別−特定モニタリング、または、総合的なサーベイランスの形で追加のモニタリングを実施できることにも注意しなければならない。このようなサーベイランスの目的は、望ましくない、また未特定の影響が事前リスク評価の枠組みの中で生じたなら、リスク管理者が遅れることなく適切な措置がとれるようにすることにある。けれども、これは、モニタリング計画の代用と見なすべきではなく、実施する責任は申請者にある(関連する関係者の同意によって、その一部となるが)。
 
1.7. 現行のシステム
 
 GMOの上市によって生じる潜在的有害影響に取り組むために現行のモニタリングまたは総合的なサーベイランスシステムを拡大することが可能である。これらのシステムには、農業、食品の検査、自然の保全、長期の生態モニタリングシステム、環境観測プログラムおよび家畜衛生検査の分野の観測プログラムが含まれるだろう。
 
 たとえば、OECDの認証規則に従った種子生産制度は、圃場とその周辺の定期検査が含まれているので、特定されたパラメータのための圃場モニタリングに適しているかもしれない。
 
 従来の商品作物のモニタリングとサーベイランスは、加盟国においては当然のこととして、すでに害虫、病気および雑草の防除はもちろん施肥量の計算について実施されている。関連の農業製品を販売しいるコンサルタントと栽培者はこのタイプのモニタリングとサーベイランスを生育期間中、経常的に実施している。
 
 したがって、遺伝子改変種子を販売する会社の代理店または契約コンサルタントが、少なくとも、総合的サーベイランスのある形態を定めるために、同様のサービスを加えることが可能である。サーベイランス、モニタリングおよび報告にかかわる説明書が遺伝子改変種子を購入している栽培者に配布され、契約の規約は販売または使用の条件として定式化することができる。
 
 明確な説明書があれば、栽培者や農業コンサルタントが隣接地への自生植物の伝播と定着といった重要な予見しがたい変化や影響の検査を行うことは、実行可能である。これらの状況の下では、有害影響のモニタリングとサーベイランスは、害虫と雑草の防除のための技術を決める経常的業務に組み入れることが可能であると思われる。
 
 
2. モニタリングの方法
 
 モニタリングする場所とモニタリングの頻度など、モニタリングを実施する手段はもとより、モニタリングプログラムの一部として確認すべき、またモニタリングすべき必要があるパラメータと要素の種類に関する手引きをこの節で述べる。
 
2.1. モニタリングのパラメータ/要素
 
 第一に、適切な理由によってモニタリングすべき関連パラメータ/要素を確認する必要があるだろう。これは、環境リスク評価の結論に主として依存するだろう。モニタリングすべきパラメータや要素に関する決定は、当該GMOの改変された形質に従って、個別事例に基づいて行わなければならない。これには、遺伝子改変によって生じる標的生物への意図的影響に関するモニタリングのようなものが入り、たとえばBtトウモロコシ品種の栽培に関するアワノメイガの密度のモニタリングがあげられるだろう。
 
 けれども、非特異的要素をモニタリング計画の一部として検討する必要もあるだろう。そのような要素の例を次に示すが、その他の要素もあるだろう:
 
− 野生近縁種や有害生物における抵抗性の発達、有害生物とウイルスの宿主範囲あるいは分散における変化、新たなウイルスの発生など、遺伝子改変によって生じる非標的生物への影響
 
− 対象外の環境や生態系への分散、定着および残存、
 
− 自然の個体群における性的和合性のある野生近縁種との異系交配/繁殖(たとえば異系交配/繁殖の発生頻度、平均値、割合など)−
 
− 生物の基本的行動の意図せざる変化(たとえば、繁殖、後代の数、発育挙動と種子の生存能力における変化)
 
− 生物多様性の変化(たとえば、種の数や構成)−
 
2.2. 範囲/標本
 
 モニタリング計画には、モニタリングをどこで実施し、どの程度の面積で実施するのかの詳細を含めることができる。これは、各加盟国、地理上の地域、地区、区画、あるいは適切と思われる任意の範囲の水準がある。
 
 GMOの上市によって生じると思われる影響に関してモニタリングすべき範囲もしくは標本は、基準あるいは対象のためのものを含めて確定しなければならない。基準あるいは対照とする範囲もしくは標本は、意味のある結論を引き出すためには、環境と使用条件の観点から十分に代表的なものでなければならない。さらに、いかなる標本抽出方法も、科学的にも統計学的にも信頼できるものでなければならない。これに基づいて、このようなデータは指標の変動に関する重要な情報を与えることが可能であり、影響を検出する能力を高めるであろう。
 
 たとえば、遺伝子改変作物に関してモニタリングの範囲を検討する場合、モニタリングする生息地を決定する際に、GMOの繁殖と伝播および影響を受ける生態系のタイプばかりでなく、GMOの特性(それ固有の特性と改変された特性)が検討されるだろう。モニタリングすべき適切な範囲には、作物が商業的に栽培されている選定農地並びに周辺生息地が含まれるだろう。
 
 隣接または近隣の耕作地と非耕作地、自生植物に対する収穫後のサーベイランス区および保護区のためにモニタリングやサーベイランスを拡大する必要もあるだろう。かく乱された場所と構成種が豊かな植物群集のような生息地のタイプは、他よりも侵入を受けやすい。草高が低い植生と、草本やイネ科植物が豊富なかく乱地は、モニタリングの目的にとくに適している。第一に、これらの場所は広く分布し、より集約的に耕起された農地の近くでよく見られる。第二に、これらの場所は、道端、溝および圃場の縁によくみられ、そこは、種子が偶然に落されたり、散布が最初に起りやすい。
 
 性的和合性のある有機作物や慣行栽培作物への遺伝物質の移動の可能性についてのモニタリングも検討されるだろう。これには、そのような作物が隣接、あるいは近隣の場所で栽培される区域を査定する必要があるだう。
 
2.3. 検証
 
 モニタリング計画は、検査の頻度の見込みを示さなければならない。計画には地区を視察する予定時期と予定回数を示した予定表が含まれる。この関連では、すでに、節1.5と2.2で詳細に述べたように、モニタリングすべき範囲とともに、潜在的有害影響がもっとも出現しそうな時期を検討しなければならない。
 
2.4. サンプリングと分析
 
 次に、これらのパラメータ/要素をモニタリングするための方法を、サンプリングや分析のための技術を含めてはっきりと特定し、大要を述べなければならない。環境中の生物のモニタリングについての欧州CEN標準やOECD手法などで規定されているような、標準的方法に適切な場合には準拠し、また定められた方法の出典を引用しなけばならない。モニタリングに使用する方法は、それらを適用する実験条件のもとで、科学的に信頼でき、検証されたものでなければならない。したがって、選択性、特異性、再現性、何らかの制限、検出限界あるいは適切な対照の入手可能性といった方法の特性を検討しなければならない。
 
 モニタリング計画には、選択したモニタリングの方法/戦略に従って、適切であれば、どのような方法で更新すべきかを同様に示さなければならない。
 
 影響の検出に必要とされる統計的水準を得るための最適な標本サイズと、最小限のモニタリング期間を決定するため、適切なサンプリングと検査方法を計画するときに統計分析を使用することもできる。
 
2.5. データの収集と照合
 
 モニタリング計画は、個別−特定モニタリングと総合的なサーベイランスの両方について、データがどのように、誰によって、どのような頻度で収集され、照合されるかを確定しなければならない。これは、第三者がデータ収集のために雇用され、あるいは契約している場合に特に重要であろう。申請者は、整合性を確保する手段として、データの収集と記録のための標準的メカニズム、様式および実験計画書を提出する必要があるだろう。たとえば、標準化された記録シートまたはポータブルコンピュータによる標準化された「スプレッドシート」上へのデータの直接取り込み、あるい登録を示すことができるだろう。申請者は、データをどのように収集するか、重要なこととしてコンサルタントや利用者など第三者からどのようにデータを回収するかを詳細に述べることが必要がある。
 
 モニタリングの結果を詳細に記述した報告書の提出期限と間隔も示されなければならない。
 
 
3. 分析、報告、見直し
 
 モニタリング計画は、どのくらいの頻度でデータを見直し、全体の分析において議論するかを示さなければならない。
 
3.1. 査定
 
 データの査定には、適切な場合、信頼できる基準で、取るべきその後の決定を可能にするために、適切な標準誤差値がついた統計分析を含めなければならない。これらには、リスク評価において注目された査定が正しいかどうかについての決定が含まれるだろう。この点について、受容環境の状態に関する正しいベースラインや対照も、正確な査定のために重要である。統計分析の利用では、サンプリングと検定法を含めて、調査方法のタイプが適切かどうかの情報も示さなければならない。
 
 モニタリングと調査の結果の査定は、そのプログラムに従って、他のパラメータをモニタリングすべきかどうかを明らかにするだろう。予備的発見への適切な対応を検討する必要もあり、とくに、ぜい弱な生息地や生物群に対する潜在的に悪影響が示唆される場合には必要である。
 
 モニタリングによって集められるデータの解釈は、他の現行の環境の条件と活動に照らして検討する必要がある。環境中に変化が観察された場合、その変化がGMOやその使用の結果であるのか、あるいは、そのような変化がGMOの上市とは別の環境要因の結果であるのかを確定するために評価がさらに必要であろう。この点では、比較のために使用するベースラインを再査定することが必要であろう。
 
 追加的調査はもとより個別−特定モニタリングと総合的なサーベイランスとの結果が、製品の更新承認のための意思決定過程に明らかに役立つような方法で、モニタリング計画を構築しなければならない。
 
3.2. 報告
 
 GMOの上市に続いて、指令第20条(1)を受けて、申請者には同意書に定めた条件に従って、モニタリングと報告が実施されることを保証する法的義務がある。このモニタリングの報告書は、欧州委員会と加盟国の所管当局に提出しなければならないが、提出期限は定めていない。この情報は指令第20条(4)の要件に従って、公開しなければならない。そのため、申請者はモニタリング計画の中の報告の条件を記述しなければならない。
 
 それに加えて、確定された経常的なサーベイランス業務によって収集された関連情報を同意者と所管当局にどのように利用可能にするかを、モニタリング計画に示さなければならない。
 
 申請者/同意者は、モニタリングプログラムの結果と方法の透明性を確保しなければならない。また、集めた情報をどのように報告/公表するかをモニタリング計画に明示しなければならない。これは、たとえば次のようなことによって達成できる:
 
− ユーザーおよび他の関係者への情報用シート、
− 関係者による情報の提出と交換のためのワークショップ、
− 社内文書の保管、
− 会社のウェブサイト上への掲載、
− 取引の情報と科学刊行物の公開。
 
 指令第20条の規定は、報告とも関係がある。第20条(2)に従って、もしリスクに関する新しい情報がユーザーまたは他のところから入手可能な場合、申請者は人の健康と環境を保護するのに必要な措置を直ちにとることが必要であり、また、それを所管当局に通知する必要がある。
 
 さらに、申請者は届け出に記載された情報と条件を改定することも必要である。
 
3.3. 見直しと変更
 
 モニタリング計画は固定的なものと見てはならない。モニタリング計画と関連の方法は適切な間隔で見直し、必要なとき、更新あるいは変更することが基本である。
 
 指令の第20条(1)は、申請者が提出した報告書に基づいて、また同意書と定められたモニタリング計画の枠組みに従って、届け出の原文を受けた所管当局に最初のモニタリング期間以後のモニタリング計画を変更することを許可している。けれども、修正されたモニタリング計画はやはり申請者の責任で実施しなければならない。
 
 見直しにおいては、サンプリングと分析を含め、データの測定と収集の有効性、効率性を調べなければならない。この見直しでは、モニタリング方法がリスク評価から生じる査定とすべての質問に取り組む際に有効かどうかを査定しなければならない。
 
 たとえば、特定のモデルを、予測目的で使用する場合、集められたデータに基づく検証とその後の査定が実施されるだろう。同じように、サンプリングと分析的技術における新たな開発や進歩も、必要に応じて考慮しなければならない。
 
 このような見直しの後に、方法、モニタリングの目標およびモニタリングプログラムの調整が必要であり、必要に応じて変更あるいは改善しなければならない。
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