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情報:農業と環境
No.36 2003.4.1

No.36

・平成14年度農業環境研究推進会議が開催された

・農業環境研究成果情報−第19集−が刊行された

・NIAES Annual Report 2001/2002 が刊行された

・農業環境技術研究所年報−平成13年度−が刊行された

・農業環境技術研究所案内(6):環境化学物質分析施設

・オーストリアの農業景観におけるコケ類の多様性

・本の紹介 108:遺伝子組換え作物の生態系への影響評価、
     農業環境研究叢書、第14号、
     農業環境技術研究所編(2003)

・本の紹介 109:講座「文明と環境」、
     第1巻、地球と文明の周期、
     小泉 格・安田喜憲編集、朝倉書店(1995)

・欧州共同研究センターが直接行動によって実施する研究、
     技術開発および実証についての個別計画(2002-2006)の決定


 
 

平成14年度農業環境研究推進会議が開催された
 
 
 平成14年度農業環境研究推進会議が、3月3日と4日に、農業環境技術研究所において開催された。この会議は、農業環境研究の推進を図るため、農林水産省関係行政部局と関係研究機関等からの農業環境研究に関する要望等を受けるとともに、意見交換を行い、農林水産省関係行政部局および関係する独立行政法人、都道府県の研究機関等からの出席のもとに開かれたものである。
 
本会議
 
 農業環境研究推進会議本会議は、農水省の農業環境関係行政部局、農林水産技術会議事務局、および農業環境に関係する検査・研究機関から32名、農業環境技術研究所から23名が参加して開かれた。
 
1. あいさつ
    独立行政法人 農業環境技術研究所 陽 理事長
 この会議は、行政や他の独立行政法人および県の研究機関の方々と、農業環境について意見の交換ができる唯一の場として、非常に重要に考えています。
 
 国際・学際・地際ということで、いろいろなつながりを重視してやってきました。国際では、昨年12月にダイオキシンの国際会議を開催しました。学際では、この3月に、中国と韓国の研究者に日本に来てもらって、さまざまな農業環境問題をテーマにした国際会議を2日間かけて開催します。地際では、昨年度以来、私ども役員が北海道から九州まで行脚して、農環研と地域のつながり、農業環境研究のあり方を考えてきました。午後の研究推進部会では、昨年に続き『グローバル化が地域農業におよぼす影響と農業環境問題:その2』として、カドミウムの問題を取り上げます。北海道、秋田、長野、富山、鳥取、熊本の方々と、農水省生産局の朝倉さんに話題提供していただき、現場のカドミウム問題について検討します。これで、国際、学際、地際がすべてそろうことになります。
 
 実は、カンボジアから昨日帰ってきたばかりなのですが、ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国と中国、韓国、日本で二つのプロジェクト(持続的農業・多面的機能)が実施されている現場を見てきました。カンボジアの農家で、堆肥を作り、畑をおき、水田をおき、その次にため池をおくという、物質循環を考慮した持続的農業が行われている現場を見て、感慨を深くしました。OECD(経済協力開発機構)の多面的機能、ランドコンサべーション(国土保全)の考え方が、ASEANに事業として広がっている。この取り組みが持続するかどうか、予算の面で心配しているのですが、例えばJICA(国際協力事業団)などが入って発展してくれれば大変喜ばしいと思います。
 
 各省庁の環境関係の研究機関が10所集まって、環境研究機関連絡会を作りました。昨年の幹事は国立環境研究所でしたが、今年は農環研が引き受けることになりました。7月か8月に、10所の発表会を開催し、環境研究をなぜ一緒にやらなければならないかを示したいと思っております。
 
 世の中には3つの「分離の病」があるとつねづね考えています。「知と知の分離」、「知と行の分離」、「知と情の分離」ですが、3番目は一番難しい。知と知、知と行をどうくっつけるかが今日の会議の大きなテーマです。皆様のおかれている研究現場と行政現場から、これについて認識を新たにするようなご意見、ご提案をいただければ、会議開催の意義が深まるものと思います。とくに、農業環境研究を、どのようにインタディシプリナリーに(学際的に)推進できるかという問題について、貴重なご意見をいただくことを希望します。
 
  農林水産省 農林水産技術会議事務局 土肥 研究開発企画官
 研究開発課長が所用のため、代理でごあいさつさせていただきます。環境研究分野は、農水省、総合科学技術会議、他省庁からの期待の高い分野です。総合科学技術会議のもとで地球温暖化、ゴミゼロ型、自然共生流域圏がすでに始まっており、来年度からは化学物質総合管理、地球規模水循環というイニシアチブ研究が新たに始まります。省庁間連携ということで農水省に対する期待も高まっています。
 
 昨年12月に、地球温暖化防止、自然型循環社会の形成を目指してバイオマス・ニッポン総合戦略が閣議決定され、バイオマスに関する技術開発を今後いっそう進めていくことになります。地球温暖化対策については、プロジェクトチームを作って概算要求に向けての作業を進めています。
 
 今国会で食品安全基本法を提出するとともに、食品等のリスクを科学的に評価する食品安全委員会(仮称)が内閣府に設立され、これを受けて農水省では、食品等のリスク管理を担当する消費・安全局(仮称)が設立されます。リスク動態評価、リスク低減技術の開発が今後ますます求められるので、農環研に対する国民、行政の期待は大きいものがあります。
 
 独法化して2年目になり、自由度が増したと思います。機能的な研究運営を進めていただきたいと考えています。すでに2年目の独立行政法人評価委員会に向けて作業をお願いしていますのでよろしくお願いします。さらに、来年度の分野別評価委員会では、環境も対象になっていますのでご協力をよろしくお願いします。
 
2.
 
平成13年度農業環境研究推進会議において行政部局から出された要望等への対応状況
 昨年13年度の推進会議で出された要望等と、それに対する当研究所の対応状況等を報告した。
 
3.
 
農林水産省独立行政法人評価委員会農業分科会による農業環境技術研究所の平成13年度に係わる業務の実績に関する評価結果について
 「I 業務運営の効率化に関する目標を達成するため取るべき措置」、「II 国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する目標を達成するため取るべき措置」、「III 予算(人件費の見積もりを含む。)、収支計画及び資金計画」および「IV その他農林水産省令で定める業務運営に関する事項」について評価があり、すべてについて、中期計画の達成に向けて順調に進捗しており、全体として業務は順調に進捗していると判断され、Aと評価されたことを報告した。
 
4. 平成14年度評議会報告
 法人が独自に行う機関評価として、昨年5月に当研究所で開催された「平成14年度独立行政法人農業環境技術研究所評議会」の概要を説明し、評議員からの指摘事項とそれに対する対応を報告した。
 
5. 平成14年度研究推進状況の総括
 平成14年度の研究の実施状況について、中期計画小課題、受託プロジェクト研究等、法人プロジェクト、他の研究機関等との連携研究などを説明した。昨年の研究推進部会で議論された地域との共同研究は4件実施された。また、昨年7月に、当所と中国科学院土壌科学研究所との間でMOU(協定覚え書き)を締結したことを紹介した。
 
6. 平成14年度に実施した研究会・シンポジウムの概要報告
 過去1年間に農業環境技術研究所が開催した研究会・シンポジウム(8件)の概要を報告した。このうちの一つは、「農林水産業におけるダイオキシン類の動態と生物影響」をテーマとした国際ワークショップである。
 
7. 平成15年度のプロジェクト・研究会・シンポジウムの予定
  当研究所が中心となって実施する来年度のプロジェクト研究等の実施予定、および、研究所が開催する研究会・シンポジウムの今後1年間の開催予定(9件)を紹介した。
 
8. 行政部局及び研究機関からの要望
(1) 農水省 大臣官房 企画評価課 西郷環境対策室長
 バイオマス・ニッポン総合戦略が閣議決定され、内閣府以下5府省で連絡を取りつつ農水省が幹事になっている。これについていろいろアドバイスをいただきたい。
 
 京都議定書は、ロシアが批准すれば発効する状況である。二酸化炭素排出量は1990年度比6%減であるが、その後増えているので、2000年度比では14%減にしなくてはならない。環境税の検討がされているが、農水省関係では、森林が吸収するというプラスの部分だけでなく、水田や牛のメタン、亜酸化窒素、さらに水産の冷凍に使う代替フロン等のマイナスの部分もある。これについて技術的なアドバイスをいただきたい。
 
 昨年、生物多様性国家戦略ができ、カルタヘナ議定書を閣議決定する運びとなっている。遺伝子組換え農産物に関して、ガイドラインではなく法制度になると罰則などの影響が及ぶので、基本的なデータの提供をお願いしたい。
 
 化学物質の審査と製造に係わる法律(化審法)の改正が閣議決定される。これまで人体影響のみを審査対象としていたのが、生態影響も対象になった。肥料、農薬、動物に使う薬品、エサはそれぞれの法律があり、化審法の適用除外であるが、化審法と同程度の審査をしていくことになるだろう。
 
 自然再生推進法が、昨年1月にできた。ある地域がある自然を再生したいとまとまったときに、利害関係者を集めて地域協議会を作ることになるが、科学的にそれに答える専門家が少ないので、NGOや農環研のような研究所にお願いすることがあるかもしれない。
 
 環境対策室は7月から環境政策課(仮称)にかわる。WSSD世界環境開発サミット)があった。OECD関連では5月に京都で国土保全指標の会議、6月にウィーンでバイオマスの国際会議がある。OECDの「農業と環境」については、きちんと指標を見た上で判断したいと主張しているので助言いただきたい。化学物質については、去年はPRTR、今年はロッテルダム条約とPICなどがある。データの薄いところと濃いところがあるので、何かあったらご指摘いただきたい。
 

解説
WSSDWorld Summit on Sustainable Development:持続可能な開発に関する世界首脳会議、別名ヨハネスブルグサミット):2002年8月26日から9月4日まで、南アフリカ共和国のヨハネスブルグで開催された国連の環境/開発会議
PRTR(Pollutant Release and Transfer Register):有害性のある多種多様な化学物質が、どのような発生源から、どれくらい環境中に排出されたか、あるいは廃棄物に含まれて事業所の外に運び出されたかというデータを把握し、集計し、公表する仕組み。
PIC(Prior Informed Consent:事前通報同意):化学品や農薬の国際貿易において、あらかじめ輸入国の輸入に係る同意を確認した上で取引を進めるための手続きであり、先進国で使用が禁止または厳しく制限されている有害な化学物質や農薬が、発展途上国にむやみに輸出されることを防ぐためのもの。

 
(2) 農水省 生産局 農産振興課  朝倉技術対策室課長補佐
 水稲のカドミウムの吸収抑制マニュアル等を作っていただいたこと、水稲以外の作物についても作っていく予定であること、また、調査のナショナルプロトコルを出していただいたこと等について、農環研に感謝したい。
 
 食品安全基本法にリスクアナリシス(分析)の考え方を導入する。リスク管理をリスク評価に基づいて、利害関係者の間でリスクコミュニケーションしながらやっていくことになる。その際、技術のコスト、ベネフィット、デメリット等とあわせて、リスクマネジメントオプション(管理選択肢)を提示する必要がある。定量的に提示するために、農環研のご協力をお願いしたい。また、技術を適用するに当たって、予測に基づいて調整する科学が求められているので、これについても農環研のご協力をお願いしたい。
 
 昨年要望した二酸化炭素と土壌の件については、来年度は層土の厚さと容積重を測定するので、土壌のリザーバの話に持っていけると考えている。
 
 都道府県がGISを使っていく上で、農環研のインベントリーセンターに先導的役割を期待している。バイオマス総合戦略の中にはリスクを適正に管理したリサイクルという概念が入っており、有機物を投入しすぎないように管理していく必要があり、これにも利用したい。
 
 ダイオキシンを水際で調査するには膨大なお金がかかる。食品汚染を低減させるために、排出抑制と食品汚染低減の実行規範を作ることで、消費者の理解が得られるようにしたい。リスク低減型技術を示していく上で、農環研の知識の提供をお願いしたい。
 
(3) 農水省 農村振興局 計画部 資源課 富田農村環境保全室長
 農環研には、栄養塩類負荷を水田を使って削減する浄化技術検討委員会と、農業用用排水路に蓄積されるダイオキシン類の実態調査と除去対策委員会に参加していただいている。風評被害も生じやすいところなので、科学的なメカニズムに基づいた提言をお願いしたい。
 
(4) 独立行政法人 肥飼料検査所 逸見肥料管理課長
 ノニルフェノールの検査に関する昨年の要望について、きちんと対応していただき感謝している。
 
 食品安全基本法が上程されて、肥料取締法、農薬取締法、薬事法、家畜伝染病予防法が改正される。これまでの「公正な取引」に「国民の健康保護」という目的が加わるので、重金属など安全性に関わる成分について、十分注意を払う必要がでてくる。
 
 BSE(牛海綿状脳症)の関連で肉骨粉入りの配合肥料が不足している。汚泥発酵肥料の登録が増えており、悪臭とか重金属など環境関連の問題が出てきているので、他省庁所管の各種法規を総合的に判断して、各県にご協力をいただきながら総合的に判断する時期になっている。
 
(5) 独立行政法人 農薬検査所 渡辺検査部長
 無登録農薬の使用が全国的に問題になり、消費者の信頼が著しく損なわれることになった、臨時国会で農薬取締法の一部改正がなされ、特定農薬が新設され、罰則を伴う使用基準が導入された。環境化学分析センター長、有機化学物質研究グループ長をはじめ、アドバイスをいただいた方々に感謝する。
 
(6) 独立行政法人 農業技術研究機構 野菜茶業研究所 保科茶業研究部長
 茶業研究推進に今後ともご協力をお願いしたい。日本の農耕地土壌はおおむね良好に保たれているが、施設土壌と茶園土壌は過剰施肥等で悪者扱いされている。茶園については、県の指導もあって3割程度の施肥削減が達成できそうである。また、地下水中の亜酸化窒素について農環研の研究協力をお願いしたい。
 
(7) 富山県農業技術センター 農業試験場 土壌肥料課 大野副主幹研究員
 成果情報の取り扱いについて、参考資料として掲載するだけでなく、成果になる前の討論の部分でアドバイスをいただきたい。国の研究機関が独立行政法人になってから、草の根の交流がしにくくなっている。スムーズな情報交換ができるような努力をお願いしたい。
 
(8) 独立行政法人 水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所
  有馬環境保全部長
 有害化学物質は水域を通して海に流れ込むので、農林水が全体の流れの中で環境を考えていく必要がある。内分泌かく乱物質について、プロジェクト研究の中で農林水の研究協力ができたことは有意義だった。有害化学物質のリスク評価の問題では、有機スズの使用禁止に伴う代替塗料など新たな化学物質の問題が出てきており、連携協力を必要としている。研究協力をお願いしたい。
 
(9) 独立行政法人 農業工学研究所 袴田農村環境部長
 自然再生法については、行政現場からの要望が強く、対応を始めている。バイオマス研究にも取り組もうとしている。用排水路の改修も住民合意の下でやっていく。農環研の情報の蓄積をいろいろな形で使わせていただきたい。
 
(10) 独立行政法人 農業技術研究機構 北海道農業研究センター
  高橋生産環境部長
 カドミウムのプロジェクト研究に参画している。他法人の研究成果の検討をしていただけなくなったことで、農環研が遠くなったと研究員が感じている。
 
(11) 独立行政法人 農業技術研究機構 東北農業研究センター
  地域基盤研究部 田村土壌環境制御研究室長
 県からは、リスクを管理したリサイクルについての要望がある。今の亜鉛の管理基準では、汚泥入りの堆肥は10年で施用できなくなるという現実がある。施用基準を見直すことはできないのか。
 
(12) 独立行政法人 農業技術研究機構 近畿中国四国農業研究センター
  長野間地域基盤研究部長
 小規模な水道用のダムについて、近くに養豚場・養鶏場がある場合、水質に問題が出ているが基準値がない。マサ土地帯について、野菜畑、果樹園で溶脱が多く問題になっている。産業技術総合研究所ではバイオマスの分布と施用について、モデル流域でバイオマス資源マネジメントモデルを作製している。また、里地、里山では人手が届かず、イノシシ被害が大きくなっている。農業生態系の管理について、連携をお願いしたい。
 
(13) 独立行政法人 農業技術研究機構 九州沖縄農業研究センター
  金森環境資源研究部長
 他機関からの研究成果の検討に関して、農研機構の方にも要望を上げたい。農業環境に係わる部分は、地際の融合ということで、農環研と共同で検討する場を作っていただきたい。
 
(14) 独立行政法人 農業技術研究機構 畜産草地研究所 加納草地生態部長
 バイオマスの問題では、家畜糞尿をメタン発酵させることで解決するように言われているが、窒素や廃液が残り、地域における物質の循環には問題が残る。地球環境変動では、草地はメタンを吸収している。ダイオキシンの研究で、土、草、家畜への移行の実態が明らかになりつつある。生物多様性・自然再生について、ススキを含む野草地の保全が行われているが、生物多様性を保全する観点からの科学的根拠を提供していただきたい。
 
研究推進部会
 
議 題: 「グローバル化が地域農業に及ぼす影響と環境問題:その2」
−食品中カドミウム濃度に関するCODEX新基準が
地域農業に及ぼす影響とその対策−
 
 本会議の出席者のほかに各研究機関の研究者などが加わり、約90名が出席して開催された。
 
開催趣旨
 CODEX(コーデックス)委員会食品添加物・汚染物質部会(CCFAC)において、食品中のカドミウム最大基準値案が検討されている。2003年6月に開催予定のFAO/WHO合同食品添加物専門家会合(JECAF)において、わが国で実施している疫学調査結果に基づき、カドミウムのリスク評価を再度行い、これに基づいて基準値案を見直すことが合意されている。提案されている米のカドミウム新基準値は、精米で0.2mg/kgである。また、果実、ダイズ、小麦、野菜等他の農産物に対しても、それぞれ基準値案が提案されている。一方、わが国では食品衛生法に基づいて、玄米で1ppmの基準値が制定されているに過ぎない。もし、これらの新基準値案が承認されるとなると、わが国の農業に与える影響は計り知れない。
 
 本部会では、当方からCODEX委員会新基準値案検討状況、疫学的調査結果の解析、当所を中心に行っている農作物中カドミウムの低減化技術等について総括的な説明を行う。また、地域農業研究センター及び関係公立場所から、グローバル化が地域農業に与える影響を「CODEX新基準等に見られる国際環境基準値の引き下げ」を例に解析し、合わせて、その対策についても提示する。さらに、その問題の解決に向けて当所がどう支援・協力できるかを議論する。これらの論議を通じて、農業環境技術研究所と地域の連携・協力のあり方を探る。
 
議事次第
1.理事長挨拶
2.食品中のカドミウム濃度に関するCODEX新基準値への対応
今井秀夫(農業環境技術研究所化学環境部長)
3.カドミウムの国際的な基準値の検討及び対応状況
朝倉健司(農林水産省生産局農産振興課技術対策室課長補佐)
4.北海道におけるカドミウム新基準に対する影響評価と対策技術
日笠裕治(北海道立中央農業試験場農業環境部環境保全科長)
5.食品中カドミウム濃度に関するCODEX新基準が地域農業に及ぼす影響とその対策 秋田県の場合
飯塚文男(秋田県農業試験場次長)
6.長野県農耕地土壌における重金属類含有実態とその対策
和田健夫(長野農業総合試験場環境保全部長)
7.カドミウム新基準に対する影響評価と対策技術
稲原 誠(富山県農業技術センター土壌肥料課)
8.鳥取県における重金属汚染の実態とその対策
伊藤邦夫(鳥取県農業試験場長)
9.熊本県におけるカドミウム新基準に対する影響評価と対策技術
久保研一(熊本県農業研究センター農産園芸研究所長)
10.総合討論  連携・協力のあり方
 
討論の概要
 最初に、理事長より、カドミウム問題については日本が中国・韓国・ASEAN諸国のリーダーとなって取り組んでいくべきであるとの話があった。
 
 CODEX新基準をめぐる問題について、活発な討論が行われた。
 
 議論は以下の4点に集約される。
1)リスクに基づく個々の食品中カドミウム基準値の決定
 カドミウムは特に腎臓に蓄積され、低濃度であっても、長期間にわたって暴露を受けていると数十年後に腎機能障害を起こす可能性がある。そのため、耐容摂取量以下にカドミウム摂取量を抑えることが必要となる。個々の食品中のカドミウム濃度は、できるだけ低い方が望ましいが、カドミウム濃度が高い食品であっても、それが少量で、かつ一時的摂取であれば、耐容摂取量を超えていたとしても許容されるというのが、リスクの考え方である。そのため、日常的に、しかも多量に摂取する可能性の高い食品群についてのみ基準値を設定することになった。
 
2)カドミウム吸収抑制技術
 水稲については出穂前後3週間程度、湛水状態におき土壌を還元状態に保つことで、玄米中のカドミウム濃度を大幅に低減させることが可能である。
 

参照: 情報:農業と環境No.30、「水稲のカドミウム吸収抑制のための対策技術」
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn030.html#03005

 
 畑作物については、土壌改良資材の施用や、カドミウム吸収が少ない品種を選択するなどの対策が可能である。また、カドミウムを多く吸収する植物を用いて農用地土壌からカドミウムを回収し、土壌を浄化する研究も推進中である。
 
 汚染米を生産するおそれのある水田については、恒久的対策として客土が実施されてきた。しかし、水田を畑に転換すると、乾燥によって土壌に亀裂が生じて下層土からカドミウムが上がってきたり、根の深い畑作物の栽培によって下層の土壌からカドミウムを吸収したりするおそれがある。また、カドミウム基準値が下げられ、これまで対象外であった農地への恒久対策の必要性が生じた場合は、その費用は誰が負担するかなどの問題がでてくる。
 
3)CODEX新基準値決定までのスケジュール
 CODEX委員会(FAO/WHO合同食品規格委員会)の下部組織であるCCFAC(食品添加物・汚染物質部会)において、食品のカドミウムの基準値を検討している。また、リスク評価についてはCODEX委員会とは別組織のJECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会合)において行われている。
 
 わが国では、厚生労働省が中心となって疫学的調査を、農林水産省が中心となって農作物などに含有するカドミウムの実態調査をとりまとめ、2002年11月末にJECFAに提出している。2003年6月のJECFA会合において、各国からのデータに基づくリスク評価を行い、CCFACではこのリスク評価を踏まえて、基準値原案の見直しを検討することになっている。
 
4)リスクコミュニケーションについて
 カドミウムに限らず、食の安心・安全の面からリスクコミュニケーションは、今後、ますます重要になってくる。「あそこの農作物のカドミウム含量は高い」といった風評が流れただけで、消費者は拒否反応を起こす。しかし、消費者は、他に信頼すべき情報がないから風評に頼らざる得ないわけで、きちんと対応すれば理解してくれる。
 
 CODEXの新基準値に対しても、0.2ppmといった数値だけがひとり歩きして、基準値が提案された背景やリスクが説明されなければ、基準値を一度超えただけで、その田畑はつぶせといった極論になる。必要なことは、まず、研究がきちんとしたリスク予測技術を開発し、それに基づく農耕地の線引き(ゾーニング)とリスクの大きさに応じた対策技術を提案する。それを国や地域の行政が政策に反映させ、対策を行うとともに生産者や消費者に説明し、納得してもらう努力を続ける。
 
 すなわち、リスク評価に基づいて、リスク管理を行っていることをしっかり消費者に伝えることがリスクコミニケーションである。厚生労働省は消費者を向いて規制値を作り、農林水産省は生産者を向いて対策を講じるようなことがあっては、国民の信頼を得ることは不可能である。関係する国の行政機関、研究機関、地域の行政や農業研究機関、農業者団体、消費者等が同じ土俵の上でコミュニケーションを行い、リスクの内容、リスクに応じた対策技術の開発、また、それに必要なコスト等について、忌憚(きたん)のない意見交換を行うことが必要である。
 
 これについて、すでに関係行政部局、農業環境技術研究所、地域農業試験場、それに民間等も含めた綿密な連携の下に、カドミウムに関するリスク評価とリスク管理技術の開発が行われており、その成果は農水省および農環研のホームページ等を通じて一般公開している。
 
評価部会
 
 本会議の出席者など33名が出席して、農業環境研究の主要成果候補について検討した。
 
 検討の結果、農業環境技術研究所から提出された平成14年度主要成果27課題全部が、主要成果として採択された。
 
 なお、これらの主要成果は、北海道立根釧農業試験場からの主要成果3件と富山県農業技術センターの主要成果1件とともに、「農業環境研究成果情報(第19集)」として、平成15年3月末に公表された。(この号の「農業環境研究成果情報が刊行された」を参照)
 
 

農業環境研究成果情報−第19集−が刊行された
 
 
 この冊子は、当所の平成14年度農業環境研究推進会議評価部会で選ばれた主要な研究成果を研究成果情報としてまとめたものである。
 
はじめに
 われわれは、新しい農業環境研究を目指して研究所の構造をさまざまな角度から改革してきました。さらに、この構造がうまく「機能」するためのシステムを構築してきました。農業環境技術研究所は、明確な目的のために存在する集団です。すなわち、共同体ではなく機能体なのです。したがって、「機能の向上」をさらに追求することが、わたしたちの使命でなければなりません。
 
 もちろん、共同体と機能体がはっきり区別できるわけではありません。むしろすべての組織は、両者の性格をいくらかずつ帯びています。しかし多くの組織が、ある目的のために存在するのにもかかわらず、ほとんどの組織が共同体化していきます。いつのまにか、その存在自体が、そこの組織に属する人たちのためのものになってしまいます。これだけは阻止しなければなりません。
 
 われわれは、お客様(クライアント)が誰であるかをいつも意識し、農業環境研究という「機能の向上」を目指さなければならないのです。
 
 そのために、研究所が忘れてならないことに、受信(社会・専門・政策)、研究(自己増殖・成長)、討論(セミナー・啓蒙)、貯蔵(インベントリー・発酵)、評価(組織・課題・成果)、発信(専門・一般・パブリックアセスメント)、提言(リスク評価・マスタープラン)および宣伝(新聞・TV・雑誌)があります。
 
 これらの要素が有機的に結合し、研究所が一つの生命体のように生き生きすることができれば、立派な機能体と見なすことができます。
 
 この成果情報は、上に掲げた「評価」と「発信」の部分を担うもので、平成14年度に実施した研究のうち、「農業と環境」に関わる主要な成果をまとめたものです。成果の要点が簡潔にまとめられているので、細部については不明な点があると思われます。不明な点、ご意見、ご質問があれば、当所の研究企画科にお問い合わせください。
 
 この成果情報が、みなさまにとって有意義な情報になることを願っています。
 
 平成15年3月
(独)農業環境技術研究所  
理事長  陽 捷行  
 
 
目 次
 
A. 農業生態系の持つ自然循環機能に基づいた食料と環境の安全性の確保
1. イネは土壌からダイオキシン類を吸収しない
2. 化学資材による土壌中ダイオキシン類の分解
3. 土壌表層中ダイオキシン類の光分解反応実験装置の開発
4.
 
連続遠心分離法を用いた土壌懸濁物質の粒径別ダイオキシン類濃度の測定
5. 湖沼底質中ダイオキシン類の流域土地利用別寄与率の推定
6. 流域単位で河川への懸濁物質流出負荷量を算定するモデルの作成
7. 土壌溶液中カドミウム濃度による玄米中カドミウム濃度の推定
8. 113Cd標識肥料を用いた肥料由来カドミウムの土壌負荷量の推定
9. ダイズの子実カドミウム低蓄積系統における根の役割
10.
 
浅層地下水位変動の解析による水と硝酸イオンの移動経路・フラックスの推定
11. 水質モニタリングデータの図形表示・データ集約システムの作製
12.
 
分解菌集積木質炭化素材を用いたシマジンの現地におけるバイオレメディエーション
13. モミガラ成形炭粉末を用いた水稲用除草剤の系外流出削減技術
14. メダカを使って化学物質の内分泌かく乱作用を簡易に検出する
15. キセニアを利用したトウモロコシ交雑率の簡易調査法
16. 紋羽病菌に見出された菌類ウィルス由来の病原力低下因子の発見
17. スキムミルクを用いた黒ボク土からのDNA抽出法
18. キトオリゴ糖と特異的に作用するレセプターの検出法の開発
19. 分布を拡大しているハイマダラノメイガの雄成虫を誘引する物質の発見
20. 葉面バクテリアが生産する抗微生物活性物質の化学構造の解明
21. 湿性植生による土壌懸濁物質の捕捉機能の評価
B. 地球規模での環境変化と農業生態系との相互作用の解明
22.
 
FACE(開放系大気CO2増加)圃場では米収量が増え、タンパク含量が減る
23. 湿地ツンドラにおける二酸化炭素とメタンの年間収支とその年次変動
24.
 
水田の間断灌漑水管理・慣行施肥管理は水稲栽培期間中のメタンと亜酸化窒素の発生を共に抑制する
C. 生態学・環境科学研究に係る基礎的・基盤的研究
25. 3種のヤガ科新害虫の九州以北における発生の確認と同定
26. 日本野生植物寄生・共生菌類目録の作成とWeb上での公開
27. 飼育昆虫・ダニ類データベースの作成とWeb上での公開
 
参考資料 (都道府県の試験研究機関から提出があった成果情報)
28. チモシーを飼料とする乳牛のふんを用いた重窒素標識堆肥の調整手法
29.
 
寒地火山灰草地の更新時にすき込んだ重窒素標識堆肥に由来する窒素の動態
30. 寒地火山灰草地の更新時における堆肥施用限界量と減肥可能量
31. 灌漑水が扇状地浅層地下水の硝酸性窒素濃度に及ぼす影響
 
 

NIAES Annual Report 2001/2002 が刊行された
 
 
The Role of NIAES
The former National Institute of Agro-Environmental Sciences (NIAES) of the Ministry of Agriculture, Forestry, and Fisheries (MAFF) was founded in 1983 to conduct advanced and basic technological development pertaining to the control, maintenance and utilization of the agro-environment, including the biological environment.
 
Already one and half years have passed since the National Institute for Agro-Environmental Sciences (NIAES) was turned into a semi-autonomous agency. The new NIAES concentrates to fulfilling its research mission on a global scale as follows:
1) strategies to ensure stable food supplies under global environment change,
2) assuring the safety of food and environment utilizing the natural circulation function of agriculture, and
3) succession of the agro-environmental resources to future generations.
 
In order to efficiently pursue the research targets outlined above, the new NIAES was reorganized:
1) the Department of Research Planning and Coordination was reinforced to facilitate the processing of research problems and funding,
2) the research sections were divided into three departments to tackle the issues of global change, biological safety and environmental chemistry,
3) the Natural Resources Inventory Center was established with the aim to sustain and pass on agro-environmental resources to future generations,
4) the Chemical Analysis Research Center was established to collaborate in the analyses of environmental trace chemicals, such as dioxin and radioisotopes, and
5) research groups and teams were established up in each department. An innovative and flexible unit system was established within the research groups. A researcher is able to be work in two departments simultaneously.
 
In order for the structure to function efficiently, we aim to pursue the following key concepts:
1) publicity, autonomy and transparency,
2) safety, secure, restraint and the succession of environmental resources to future generations, and
3) international, interdisciplinary and interregional contribution.
 
There is an old famous proverb by King Tang of the Yin Dynasty (BC 16) said to have been engraved in the washbasin where he washed his face every morning, "If you can today renovate your world, do so day to day. Yea, let there be daily renovation."
 
The researchers who work with environmental issues should remember these words at all times. Let me cite two examples. People in the world have noticed theimportance of understanding environmental risk. Living with risk requires understanding manifold ideas, such as risk management, risk assessment, risk communication and risk trade-off. Another example is the concept of "eco-economy" represented by Lester R. Brown. This is also a new concept all over the world derived from environmental problems.
 
It is a great challenge for us to make the most of our organization's capabilities for applying these concepts of "risk" and "eco-economy".
 
It is true that these concepts are very important for tackling the environmental issue in the future. However, I hope that we will be able to answer the many questions posed by environmental problems by combining the new organiza-tion system with our withdom.
 
National Institute for Agro-Environmental Sciences  
Director General Katsuyuki Minami  
 
 
CONTENTS
 
Highlights in 2001
Major Symposia and Seminars
Main Research Results
Visitors
Advisory Council 2001
International Research Collaboration
Academic Prizes and Awards
Seasonal Events
Research Organization
Research Overview and Topics in 2001
Department of Global Resources
Department of Biological Safety
Department of Environmental Chemistry
Natural Resources Inventory Center
Chemical Analysis Research Center
Research Projects
Invitation, Training and Information Events
Symposia and Workshops
Foreign Visitors
Overseas Research and Meetings
Appendix
Publications
Advisory Council and Staff List
Budget, Staff Number and Library Holdings
Internet Home Page
 
 
 

農業環境技術研究所年報−平成13年度−が刊行された
 
 
はしがき
 独立行政法人農業環境技術研究所が発足して1年と3ヶ月が経過した。
 
 設立に際して、研究所は、
1)農業生態系の持つ自然循環機能に基づいた食料と環境の安全性の確保
2)地球規模での環境変化と農業生態系との相互作用の解明、および
3)生態系・環境科学を支える基盤研究を行うわが国の中核的な研究所を目指した。
つまり、農業を中心とする環境研究の基礎的および中心的な研究所になることを志した。
 
 そのため、組織を次のように特徴づけた。
1)運営の円滑化を図るため、企画調整部門を強化した。
2)研究部は、地球環境問題、生物環境安全問題および化学環境問題を取り組む3つの部に再編した。
3)農業環境に関わるさまざまな情報を利用、活用、および提供できる農業環境インベントリーセンターを設置した。
4)さまざまな化学物質および放射性同位体などの分析に関わる共同研究ができる環境化学分析センターを設置した。
5)研究室制度による固定的な組織を改め、部の中にグループおよびチームを設けた。グループ内には研究リーダーを中心とするユニットをおき、機動的な体制をとった。また、部間の併任制度も設けた。
 
 研究所のこれらの構造をうまく機能させるために、
1)公共性・自主性・透明性
2)安心・安全・ブレーキ・環境資源の次世代への継承
3)国際・学際・地際、を目標に掲げてきた。
 
 法人化してからの韓国および中国の環境関連の研究所とのMOU締結や、大学および県の研究所との共同研究の開始、さらには「情報:農業と環境」の提供などは、その努力の一端である。また、この年報の内容そのものが機能の結果である。
 
 中国の殷(いん)王朝の湯王(とうおう)(BC16)の言葉に、「苟(まこと)ニ日ニ新タナリ、日々新タナリ、又日ニ新タナリ」がある。湯王は、毎朝顔を洗う洗面器にこの言葉を刻ませていたという。環境研究に携わる者は、いつもこの言葉を想起することが必要である。そのよい例えに、リスク(危険度など)問題が新たに注目されている。世界的な動きである。それは、リスク・マネージメント(管理・運営)、リスク・アセスメント(評価・予測)、リスク・コミュニケーション(情報伝達)、リスク・トレードオフ(選択肢)と多岐にわたる。
 
 さらに、レスター・ブラウンの著書に代表される「エコ・エコノミー」の概念もあらたな世界的な動きである。この概念は、環境の視点から近い将来世界を席巻するであろう。
 
 この「リスク」や「エコ・エコノミー」を当所の組織を活用して、今後どのように展開していくのか。私たちに課せられた課題は大きい。今後の環境研究の存亡に関わる事項であることはまちがいない。当所の組織とわれわれの英知を結集すれば、これらの問題も自ずと解決に向かうであろうことを大いに期待している。
 
 ここにお届けする平成13年度の活動をまとめた年報が、少しでも農業と環境のために役立つことを希望する。巻末に所員の研究成果などのリストを掲載した。関心のある方はいつでも必要な資料を
ご請求いただきたい。
平成14年7月 
独立行政法人農業環境技術研究所理事長 
陽 捷行 
 
目 次
 
I. 研究実施の概要

 
1.地球環境部 2.生物環境安全部 3.化学環境部
4.農業環境インベントリーセンター 5.環境化学分析センター
II. 平成13年度研究課題


 
1.年度計画研究課題一覧 2.受託プロジェクト研究等一覧・再委託先リスト
3.法人プロジェクト研究課題一覧
III. 研究成果と展望
1. 気候資源量を用いた地球環境変化による農業生産への影響の解明
2.
 
農耕地生態情報リモートセンシングのための分光デジタル画像計測システム
3.
 
湿潤熱帯林の土地利用変化にともなう土壌からの温室効果ガス発生・吸収量の変動
4.
 
生育阻害要因を考慮した日本の水稲生産の温暖化に対するぜい弱性の評価
5. 農業生態系におけるCOのフラックスの長期観測
6. ヘアリーベッチの多感作用と作用物質シアナミドの同定
7. 性フェロモン撹乱剤に対する害虫の抵抗性発現
8. 紋羽病菌における病原力低下因子の探索とその利用の可能性
9. トウモロコシの花粉飛散と環境影響評価
10. ハスモンヨトウの成虫と幼虫における農薬感受性の差異と抵抗性要因
11. 113Cdトレーサー法による圃場ダイズのカドミウム吸収・移行特性の解明
12. 牛久沼流入河川における懸濁物質、ダイオキシン類の発生、流下量
13. 稲体におけるダイオキシン類の分布と移行性について
14. ヤガ科害虫4グループ類似種を幼虫や蛹で識別する
15. わが国における米と麦の90Srと137Cs汚染
IV. 研究成果の発表と広報
1. 研究成果

 
(1)農業環境技術研究所の刊行物 (2)学術刊行物 (3)学会等講演要旨集
(4)著書・商業誌等刊行物 (5)その他
2. 広報


 
(1)所主催によるシンポジウム・研究会 (2)刊行物一覧 (3)情報:農業と環境
(4)個別取材一覧 (5)新聞記事 (6)テレビ・ラジオ等
V. 研究・技術協力
1. 会議等
2. 海外出張
3. 産官学の連携
  (1)共同研究
  (2)行政との連携

 
 1)行政機関等の主催する委員会への派遣 2)国際機関への協力
 3)研究会等への講師派遣
  (3)外部研究者の受入
4. 研修等
  (1)技術講習
  (2)外国人研修
  (3)職員研修
5. 分析・鑑定等
  (1)分析・鑑定
  (2)技術指導
VI. 総務
1. 機構
2. 人事
  (1)定員 (2)人事異動 (3)役職員名簿 (4)受賞・表彰
3. 会計

 
(1)財務諸表 (2)予算及び決算 (3)固定資産 (4)機械等購入 (5)特許等一覧表
4. 図書
5. 視察・見学者数
6. 委員会
 
 

農業環境技術研究所案内(6):環境化学物質分析施設
 
 
はじめに
化学物質は両刃の刃(もろはのやいば)である。化学物質が、20世紀に果たしてきた役割は限りない。一方、化学物質がこれまで多くの生命や環境に悪影響を与え続けてきたことも、厳然とした事実である。人類がこの負の遺産をどのように跳ね返すことができるのか。このことが、21世紀の人類に期待される叡智であろう。
 
「沈黙の春」や「失われた森」から「奪われし未来」にいたる警告や、現実のダイオキシンなどによる国内外の汚染問題は、いやがうえでも農業生産物の「安心」と「安全」と「制御」の必要性、さらには、土壌や水や大気などの環境資源を汚染しないで健全に「次世代へ継承」することの必要性を認識させた。
 
われわれは、これらの問題の解決を先送りにしてきた。この問題にまともに対応することを避けてきたきらいがある。しかし近年の内分泌かく乱化学物質の問題は、多くの人々や組織を目覚めさせてくれた。内分泌かく乱化学物質は、人類の将来を破壊する化学的な時限爆弾とも考えられる。これまで人工的に作り出され、利用されてきた化学物質とは違い、問題が出てから対応するのでは手遅れになる物質なのである。
 
このような流れの中で、平成12年に当所にも環境化学物質分析施設が設置された。今回は、その背景、経過、建物と分析機器などの紹介をする。
 
設立の背景
シーア・コルボーンらが、1996年に「奪われし未来(Our Stolen Future)」を発表したころから、多様な化学物質による生物への慢性毒性が次々に明らかになった。とくに、生殖・成長・免疫などの生体機能をかく乱し、ガンを発生させる様々な化学物質の影響が浮上してきた。なかでも残留性有機汚染物質(Persistent Organic Polutants:POPs)は、環境に長期間残留し(難分解性)、脂溶性が高いため、動物に摂取されると脂肪組織に残留しやすい性質を持っている(生物濃縮性)。また環境に放出されたPOPsは、地球の隅々まで拡散し、使用されたことのない南極圏や北極圏からも検出されていることが明らかになってきた(長距離移動性)。
 
環境庁は1998年に環境ホルモン戦略計画(SPEED 98)を作成し、内分泌かく乱作用を持つ疑いのある60種類を超える化学物質のリストを発表した。そこには、科学的な裏づけが十分でない物質が相当数含まれていたため、化学工業界から相当な反発があった。
 
内分泌かく乱作用を持つ疑いがある化学物質は、一般に「環境ホルモン」と呼ばれる。これらの化学物質は、ヒトに対しても免疫不全や発がん性があり、さらには次世代へも影響するなど重大な健康被害を引き起こすおそれがある。したがって、これら化学物質の環境への排出削減が強く求められているのが現状である。このため、国連では2001年に残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約が採択された。日本は2002年にこれに加盟した。これらの化学物質には、ダイオキシン類およびDDTなどの有機塩素系化合物が含まれている。
 
この施設では、このような社会情勢を受けて、ダイオキシン類をはじめとする有害有機化学物質とカドミウムや鉛など重金属類の高感度分析法を実施するための機器が設置されている。
 
施設の紹介
当研究所の本館の裏にある「環境化学物質分析施設」は平成10年度の補正予算で建設され、平成12年8月に完成した。建設にあたっては、旧農業環境技術研究所の総務部会計課および資材動態部農薬動態科長が建物内の配置や設置する測定機器の選定にあたった。建物内の種々の設備の種類と配置は殺虫剤動態研究室長が、設置する測定機器の選択は農薬管理研究室長がとりまとめを担当した結果、現在みられる充実した施設が完成したのである。
 
この施設は、もともと農林水産技術会議事務局筑波事務所(農林交流センター)の共同利用施設として運用されることになっていたため、当初は筑波事務所共同分析センター2号棟という名称で呼んでいた。管理運営は、農業環境技術研究所が受け持つことで施設の利用が開始された。しかし、平成13年4月1日付けで独立行政法人農業環境技術研究所が設立されたのを機に、管理運営と運営予算がすべて当研究所に移されることになり、名称を現在のように改めた。
 
この施設は、のべ面積が約1200mの2階建てで、総工費約15億円(建物:9億円、機器類:6億円)であった。施設内の分析装置等に関する概略は次の通りである。
共同研究室としての居室のほか、ダイオキシン類を除く有機および無機の一般化学物質の抽出・精製を行う前処理室、機器分析第1〜3室、試料保管室、試料粉砕室が1階に設置されている。
 
2階には、ダイオキシン類の測定のための抽出・精製室(高濃度用と低濃度用)が2室、測定器室、試料保管室、廃棄物保管室、廃棄物焼却炉室および温室が配置されている。毒性が強く、微量のダイオキシン類を分析対象とするため、実験者への安全性を確保するとともに施設外への排出を極力抑制するように、排気、排水への配慮が施されているのが、この施設の特徴である。さらに、ダイオキシン類の分析時に生じた廃棄物を自ら焼却できるように、焼却炉が設置してある。
 
最近の成果紹介
この施設を利用した最近の成果の実例を次に紹介する。
 
1)約半世紀にわたって収集保存していた農耕地土壌資料中のダイオキシン類を分析し、農耕地土壌のダイオキシン汚染の歴史的な経過を明らかにした。
2)稲、トウモロコシ、キュウリ、メロン、ホウレンソウ、ニンジンなど農作物のダイオキシン類の吸収性を調査し、農作物は土壌からダイオキシン類をほとんど吸収しないことを明らかにした。
3)農作物のダイオキシン類汚染は、大気中の粉塵や気体状のダイオキシン類が農作物の表面に付着するためであることが判明した。
4)根菜類や背の低い葉菜は土が付着しているので、土を落とすことによりダイオキシン類をほとんど取り除くことができることを明らかにした。
5)レーザーアブレーション装置とICP-MSを用いた微小試料の重金属測定技術を応用して、魚類の耳石(聴覚器官内にある生体鉱物)中の重金属濃度分布を測定した。その結果、1ミリメートルの千分の1の単位で耳石中に刻まれている成長線に沿った重金属濃度の測定により、魚が住んでいた環境中の重金属汚染の経過を知ることができた。
 
共同研究
この施設は、農林水産省試験研究機関との間で依頼研究員や共同研究の契約などを取り交わした大学・公立・民間などの研究者と共同して利用することを目的に建設され、多くの研究者に広く開放することで発足した。この施設は、現在では当所に属するが、設立の趣旨は変わっていない。したがって、当所の依頼研究員や共同研究契約を取り交わした研究機関の研究者の利用が可能である。
 
ダイオキシン類の分析装置とICP-MSは、共同研究のための利用者が多いため、順番待ちの状態であるが、施設の利用を希望される方は、環境化学分析センター長室に連絡されたい。連絡先は以下の通りである。また、参考のために主要測定機器の責任者も記載した。
受付窓口:環境化学分析センター長室(電話:029-838-8430)
 
主要測定機器の使用責任者(平成15年1月1日現在)
機器の名称
 
仕  様
 
設置場所
 
使用責任者
1.ダイオキシン分析測定システム・高分解能質量分析装置No.1 Micromass社AutoSpec-Ultima
高分解能80000以上、
測定感度は2,3,7,8-TCDDで100fg。
ダイオキシン機器分析室

 
環境化学物質分析研究室
殷 熙洙
2.ダイオキシン分析測定システム・高分解能質量分析装置No.2 同上


 
ダイオキシン機器分析室

 
環境化学物質分析研究室
殷 熙洙
3.超臨界流体抽出クロマトグラフ




 
日本分光社 SCF-201
超臨界CO2 送液ポンプ(SCF-Get)、
全自動圧力調整弁(SCF-Bpg)、
MD-1510マルチチャンネル検出器装備付き
機器分析室2





 
環境化学物質分析研究室
殷 熙洙



 
4.ICP質量分析装置・レーザアブレーションシステム

 
Mcromass社Platform ICP
V-Grooveネブライザー、HPLC付き。
レーザーアブレーション装置付き
機器分析室1



 
環境化学物質分析研究室
馬場浩司

 
5.原子吸光光度計


 
日立偏光ゼーマン原子吸光光度計。
フレーム分析、グラファイト炉分析可能
機器分析室1


 
植生研究グループ
平館俊太郎
6.キャピラリー電気泳動装置

 
HP社AgilentG1602A。
ミセル動電クロマト、等速電気泳動等が可能
 
機器分析室2


 
植生研究グループ
平館俊太郎
7.イオンクロマトグラフ





 
Dionex社DXi-500イオンクロマトグラフ、CD-25A電気伝導度検出器、ED-50A電気化学検出器付き。
デジタルプロセサ(DSP)を利用したポンプ、陰イオン・陽イオンともに交換容量の高いサプレッサの使用
機器分析室2






 
放射性同位体分析研究室
木方展冶




 
8.原子吸光検出器付ガスクロマトグラフ
 
HP社Agilent6890/G2350A。
感度1〜150pg/sec、測定元素約30種
 
機器分析室2


 
環境化学物質分析研究室
馬場浩司
9.濃縮導入装置
(加熱脱着式試料導入装置・四重極質量分析計検出器付ガスクロマトグラフ)


 
PerkinElmer社TurboMass Goldガスクロマトグラフ質量分析装置
加熱脱着装置ATD400付き。
測定感度はC10F8の1pgでS/N≧10。
大気、固体、液体中の揮発性成分の高感度分析が可能
機器分析室2






 
有機化学物質研究グループ
小原裕三




 
10.蛍光検出器付高速液体クロマトグラフ
 
HP社Agilent1100。
ダイオードアレイ検出器、3D蛍光検出器付
 
機器分析室2


 
環境化学物質分析研究室
馬場浩司
11.電気化学検出器付高速液体クロマトグラフ
 
HP社Agilent1100。
電気化学・ダイオードアレイ検出器等
 
機器分析室2


 
植生研究グループ
平館俊太郎
12.四重極型質量分析計検出器付ガスクロマトグラフ
(大量試料注入装置付)
HP社Agilent6890/5973N。
質量範囲1.6〜800a.m.u.
感度1pg(EI)


 
ダイオキシン機器分析室


 
ダイオキシンチーム
清家伸康

 
13.四重極型質量分析計検出器付ガスクロマトグラフ
(パージ&トラップ試料導入装置付)
HP社Agilent6890/5973N。
質量範囲1.6〜800a.m.u.
感度1pg(EI)
VOC対応注入装置装備
 
機器分析室2



 
環境化学物質分析研究室
石坂眞澄

 
14.液体クロマトグラフ質量分析装置
(トリプルステージ型)

 
Applied Biosystems API3000LC/MS/MS。
イオン源:ESI(TurboIonSpray),APPI
質量範囲:m/z30〜3000
機器分析室3



 
環境化学物質分析研究室
石坂眞澄

 
15.イオントラップ型質量分析装置


 
Thermo Finnigan LCQ DECA LC/MS
イオン源:ESI, nano-ESI,APCI
質量範囲:m/z15〜4000
機器分析室3



 
環境化学物質分析研究室
石坂眞澄

 
16.液体クロマトグラフ・四重極型質量分析計


 
Waters社LC‐ZQ、ベンチトップAPIシングル四重極MS検出器付き。
最速5000 amu/sec スキャンスピード、感度は1pgのレセルピンでS/N≧70(EI)
試料粉砕室




 
環境化学物質分析研究室
渡辺栄喜


 
17.液体クロマトグラフ・飛行時間型質量分析計



 
日本電子社JMS-T100LC(AccuTOF)
イオン源:ESI、測定範囲:6〜10,000(m/z)、分解能:6,000(半値幅、レセルピンm/z609)、感度:レセルピン10pg、S/N≧10以上
試料粉砕室





 
環境化学物質分析研究室
馬場浩司



 
18.走査型電子顕微鏡

 
日本電子社 JSM-5610LV
高真空SEMモードと低真空SEMモード、エネルギー分散形X線分析装置(EDS)付き。
試料調製・保管室

 
環境化学物質分析研究室
殷 熙洙
 
 
 

オーストリアの農業景観におけるコケ類の多様性
 
Biodiversity 'hot spots' for bryophytes in landscapes dominated by agriculturein Austria
H. G. Zechmeister et al.
Agriculture, Ecosystems and Environment 94, 159-167 (2003)
 
 農業環境技術研究所は、農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに、侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって、生態系のかく乱防止、生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の一つとしている。このため、農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが、今回は、農業環境におけるコケ類(蘚苔類)の種多様性の「ホットスポット」と環境要因との関係についてオーストリアで行われた調査の論文の一部を紹介する。
 
要 約
 オーストリアの農業景観の中から層化無作為抽出によって選択した32の調査地区の、1286の生育場所でコケ類の種多様性を調査した。調査地区は7つの農業景観タイプに分類された。調査の結果、46タイプの生育場所で465種のコケ類が記録された。
 
 景観のタイプごとに見た場合には、コケ類の種数は年間降水量のみと(正の)相関があった。調査地ごとに見た場合には、種数は土地利用の強度、年間平均気温と負の相関、年間降水量、コケ類が付着できる場所(樹木の皮、岩、倒木など)の数と正の相関があったが、生育場所の種類数や生育場所の総数とは相関がなかった。
 
 コケ類の種数が多い最重要な場所(「ホットスポット」)は、3年をこえる休閑地、古木のある牧草地、林地、利用強度が中程度の牧草地、古木のある並木道などであった。あるタイプの生育場所にいる絶滅危惧(きぐ)種の種数は、多くの場合、種の総数と相関があることが知られている。農業に利用されている沼沢地のような数少ない生育場所に、絶滅が危惧される多くの種が生育していた。種多様性のホットスポットは、絶滅危惧種についてのホットスポットでもあると結論づけられるだろう。
 
 

本の紹介 108:遺伝子組換え作物の生態系への影響評価
農業環境研究叢書 第14号、 
農業環境技術研究所編
 (2003)

 
 
 本書は、当所が1986年から発刊し続けている叢書のひとつである。農林水産省農業環境技術研究所が1983年に設立されてから、当所では、その時代に即応した農業と環境に関わる問題をとりあげ、当所主催の農業環境シンポジウムで問題解決のための検討を行ってきた。その結果をまとめてきたのが農業環境技研究叢書である。これまで刊行された叢書については、本書の「序」と「目次」のあとに紹介する。
 
 近年、分子生物学の急速な進展にともなって、微生物から高等動植物に至る様々な遺伝子組換え生物が作出されている.遺伝子組換え作物は、増大する世界人口を養うために作物生産を飛躍的に向上させる技術の切り札として期待され、わが国においても研究開発に力が注がれている.現在、殺虫性蛋白遺伝子や除草剤耐性遺伝子を導入した作物が米国を中心として、カナダ、アルゼンチンなどで栽培されている.これらの組換え作物の利用によって、有害生物による被害が軽減し、収益の増加や省力化が促進されているところから生産者に受け入れられ、1996年以降急速に作付け面積が拡大し、2000年には世界全体で4,300haに達している.
 
 このように、組換え作物は減農薬や省エネルギーなど環境負荷の軽減も含め大きな利点があるものの、その栽培面積の急速な拡大に伴い、市民の一部から環境への安全性に対する懸念が持たれるようになった.すなわち、雑草化や野生植物への遺伝子拡散、有害物質の産生・放出等による生態系への影響に対する疑念である.1999年、米国で人々に親しまれているオオカバマダラという名のチョウの幼虫が、Bt組換えトウモロコシの花粉の載った食草を摂食すると死亡するという報告があり、新しいタイプの環境影響として世界的に波紋が投げかけられた.この問題を契機として、わが国でも農環研が中心になって、Bt組換えトウモロコシの花粉が非標的鱗翅目昆虫に及ぼす影響評価に関する緊急調査を実施した.その成果は、組換え作物の環境影響評価項目の策定に用いられた.有用な組換え作物の栽培を進めていくためには、食料、飼料としての安全性に留まらず、生態系への様々な影響について多角的な研究を行い、その基礎の上に総合的な評価を実施し、生態系への安全を事前に確認することが求められる.
 
 先進各国では、遺伝子組換え作物の環境影響などに関する安全性確認のための法令による規制およびガイドラインを設けている.また、遺伝子組換え生物の国境を越える移動に先立ち、輸入国が生物多様性の保全などへの影響を評価し、輸入の可否を決定する手続きなどを取り決めた国際的枠組「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」が2000年1月に採択された.日本国内でもこの議定書に沿って国内措置の検討が行われており、今後、組換え作物などの環境影響評価法の国際的協調と国内でのリスク評価基準の策定が進展するであろう.
 
 今後、世界的に遺伝子の構造と機能が一層解明されてゆくことから、組換え作物の開発がますます進展し、利用される遺伝子や対象作物の範囲も拡大するものと思われる.それに伴って、組換え作物と生態系との関わり方もより多様になることが予想される.例えば、現在普及段階にある害虫や雑草対策としての組換え作物の他に、各種の病害抵抗性、環境ストレス耐性、環境修復機能を付与した組換え植物などの開発が進められていることから、今後、新たな環境影響評価のあり方や評価方法を見据えた基礎研究がますます重要性を増すと考えられる.
 
 本書は、上記のような背景から、199911月に農業環境技術研究所で開催された農業環境シンポジウム「遺伝子組換え作物の生態系への影響評価研究」の内容をもとにまとめたものである.遺伝子組換え作物の環境影響研究についての動向を理解する上で役立てていただければ幸いである.最後に、シンポジウムでの講演および本書の執筆にご協力いただいた方々に感謝申し上げる.
 
2003年1月
(独)農業環境技術研究所 理事長  陽 捷行 
 
 
目  次
 
I. 遺伝子組換え作物の栽培状況と環境影響問題(三田村 強)
1. 遺伝子組換え作物生産の現状と問題点
2. 海外における遺伝子組換え生物に関する規制・規則についての経緯と概要
  2−1 OECD  
  2−2 米国  
  2−3 EU  
3. わが国における組換え作物の安全性評価の手続き
4. 組換え作物の栽培ならびに開発動向
5. 組換え作物栽培に伴う環境影響に関する研究課題
  5−1 組換え作物そのものの問題
  5−2 組換え作物栽培に伴って生じる二次的問題
6. おわりに
   
II. 害虫抵抗性作物が産生する物質と昆虫の相互作用(斉藤 修)
1. はじめに
2. 害虫抵抗性遺伝子導入作物の種類とその作用
  2−1 害虫抵抗性遺伝子導入作物の種類
  2−2 Btトキシンの種類とその作用
3. 害虫抵抗性作物が産生する物質が昆虫に与える影響
  3−1 標的昆虫への影響(意図された効果)
  3−2 非標的昆虫への影響(意図しなかった影響)
4. 害虫抵抗性作物が産生する物質に対する昆虫の反応
  4−1 昆虫の反応
  4−2 作物が産生する物質に対する害虫の抵抗性発達
  4−3 害虫抵抗性物質導入作物の圃場生態系への影響
  5.おわりに
   
III. 農業環境技術研究所におけるBtトウモロコシ緊急調査
1. 緊急調査の経緯と成果の利用(松尾和人・松井正春)
2. トウモロコシ花粉の飛散と堆積状況(松尾和人)
  2−1 トウモロコシの花粉飛散期間と花粉数の日変動
  2−2 圃場からの距離と花粉数との関係
  2−3 天候と花粉の流出
  2−4 花粉の飛散距離と落下花粉総数の分布
3. トウモロコシ花粉の飛散モデルの作成(川島茂人)
  3−1 花粉飛散量は気象条件で大きく変化する
  3−2 モデルの概要
  3−3 モデルの再現性
  3−4 まとめ
4. Bt組換えトウモロコシ花粉中のBtトキシンの検出
  4−1 免疫化学的検出(大津和久)
  4−2 生物検定による検出(松井正春・斉藤 修)
5.

 
わが国における鱗翅目のレッドリスト掲載種へのBtトウモロコシ花粉の影響評価
(山本勝利・大黒俊哉・松村 雄)
  5−1 はじめに
  5−2 調査の方法
  5−3 結果
  5−4 考察と今後の課題
6. 要約(松尾和人・松井正春)
 
(参考)
 
米国におけるBtトウモロコシ花粉のオオカバマダラなどのチョウへの影響評価 (松井正春)
 
IV.
 
ナタネを例とした他家受精を介した組換え遺伝子の拡散についての考察
 (山根精一郎・柏原洋司・眞鍋忠久)
1. はじめに
2. ナタネと他植物との交雑
3. 遺伝子組換えナタネと非組換えナタネの繁殖性について
4. 遺伝子組換えナタネの自然交雑性に関する隔離圃場試験
5. 結論および考察
   
V. 病害抵抗性遺伝子導入作物の栽培と微生物との関わり(田部井 豊)
1. はじめに
2.
 
外被タンパク質を発現する遺伝子組換え農作物における3種の相互作用による環境影響
  2−1 組換え
  2−2 共生
  2−3 トランスキャプシデーション
3. パパイアリングスポットウイルス(PRSV)の外被タンパク質遺伝子を
  導入した組換えパパイアに対する米国農務省の判断について
  3−1 育成の経緯

 
3−2
 
「サンセット」パパイヤ55−1および63−1系統により新たな植物病害虫を誘導するリスクに関する解析
4.

 
わが国におけるキュウリモザイクウイルス(CMV)の外被タンパク質遺伝子を
導入した組換えメロンの環境に対する安全性評価
  4−1 CMV抵抗性組換えメロンにおける環境に対する安全性
  4−2 組換えメロンの花粉の飛散性
  4−3 CMV外被タンパク質遺伝子と他のウイルスとの組換え、共生およびトランスキャプシデーションについて
5. おわりに
   
VI. 植物表生菌における遺伝子の水平移動(澤田宏之)
1. はじめに
2. ゲノムの進化の道筋を明らかにする
  2−1 分子進化の解析によって明らかになったゲノム進化の道筋
  2−2 本群菌のゲノムは可塑性に富んでいる
3. argK-tox cluster は水平移動を経験している
4. argK-tox cluster は本群以外の菌種からやってきた
  4−1 OCTase系統樹と16SrDNA系統樹の比較に基づく検証
  4−2 GC%プロフィールに基づく検証
5.

 
本群菌のゲノム上におけるOCTase遺伝子の進化史
−水平移動とゲノム再編成がその進化に大きな役割を果たしてきた―
  5−1 argFは本群菌のゲノム上に最初から存在していた遺伝子である
  5−2 argFの類似遺伝子(P. aeruginosaarcBの直系遺伝子)は進化の過程で欠失した
  5−3 OCTase遺伝子の進化史における水平移動とゲノム再編成の役割
6. おわりに
   
VII.
 
ストレス耐性等の機能性を付与した次世代型組換え植物の環境への安全性評価
 (萱野暁明・松井正春)
1. はじめに
2. 次世代型組換え植物
3. ストレス耐性組換え植物の環境に対する安全性評価の考え方
 −ヒートショックタンパク(HSP)遺伝子を導入した植物を例として−
  3−1 植物のHSP遺伝子の解析と組換え植物の作出
  3−2 HSP遺伝子組換え植物の環境中での挙動
  3−3 HSP遺伝子組換え植物の想定される利用目的
  3−4 HSP遺伝子組換え植物の環境影響評価
  3−5 導入遺伝子の機能が環境とかかわる可能性のある場合の考え方
4. おわりに
   
補遺:
 
第20回農環研シンポジウム「遺伝子組換え作物の生態系への影響評価研究」 −総合討論での主要な質疑内容−
 
資料: 遺伝子組換え体の安全性に関連する事項の年表
 
 
 なお、これまで発行された農業環境研究叢書は以下の通りである。
第1号 農・林・水生態系へのアプローチ(1986年)
第2号 環境中の物質循環(1987年)
第3号 農林水産業における環境影響評価(1988年)
第4号 農業環境を構成する生物群の相互作用とその利用技術(1989年)
第5号 微量元素・化学物質と農業生態(1990年)
第6号 環境インパクトと農林生態系(1990年)
第7号 地球環境と農林業(1991年)
第8号 農村環境とビオトープ(1993年)
第9号 農林水産業と環境保全−持続的発展を目指して−(1995年)
第10号 水田生態系における生態多様性(1998年)
第11号 21世紀の食料確保と農業環境(1998年)
第12号 農業におけるライフサイクルアセスメント(2000年)
第13号 農業を軸とした有機性資源の循環利用の展望(2000年)
 
 また、英文の叢書も刊行している。NIAESシリーズとして、これまでに発行されたものは、次の通りである。
No. 1 Ecological Processes in Agro-Ecosystems 1992
No. 2
CH4 and N2O; Global Emissions and Controls from Rice Fields and other Agricultural and Industrial Sources 1994
No. 3
 
Biological Invasions of Ecosystem by Pests and Beneficial Organisms 1999
No. 4 Plant Nutrient Acquisition 2001
 
 

本の紹介 109:講座「文明と環境」
第1巻、地球と文明の周期、
小泉 格・安田喜憲編集、朝倉書店
(1995)ISBN4-254-10551-7

 
 
 講座「文明と環境」は、全15巻からなる。本書はその第1巻である。この「地球と文明の周期」のあと、「地球と文明の画期」、「農耕と文明」、「都市と文明」、「文明の危機」、「歴史と気候」、「人口・疫病・災害」、「動物と文明」、「森と文明」、「海と文明」、「環境危機と現代文明」、「文化遺産の保存と環境」、「宗教と文明」、「環境倫理と環境教育」、「新たな文明の創造」と続く。この講座のもとは、文部省の重点領域研究「地球環境の変動と文明の盛衰」(略称:「文明と環境」領域代表者 伊東俊太郎)である。本書は、研究が終わったあと、梅原 猛・伊東俊太郎・安田喜憲の3氏によって編集されたものである。各巻の表題からもわかるように、この講座は自然科学と人文・社会科学の学際的研究の成果である。
 
 ここ20年間の科学の成果は、われわれに地球を俯瞰的視点で捉えることを教えてくれた。そして、文明は人間の叡智の産物であり、歴史は人間がつくるもので、人間の歴史はバラ色の未来に向かって一直線に発展し続けるという発展史観に見直しを迫っている。
 
 太陽活動や火山・地震活動さらには海洋環境や気候変動、それらの影響を受けた生物相の変遷には周期性が存在することが明らかになってきた。そして、それらは個々バラバラではなく、相互に有機的に深く関連しながら一つのシステムとして周期的に変動しているのである。
 
 この書では、これらのことが「宇宙の周期性」、「深海底に記録された周期性」、「火山・地震活動・風成塵の周期性」、「湖沼に記録された周期性」、「同位体に記録された周期性」、「文明興亡の周期性」に分けて証明される。
 
 「文明興亡の周期性」の「15.地球のリズムと文明の周期性」では、気候脈動説が展開される。すなわち、気候が脈動的に変化することによって、文明の盛衰や歴史にも脈動的な変動が現れるという説である。文明の盛衰には700〜800年の周期があり、その背景には気候変動などの自然・宇宙の周期的変動が深くかかわっていると指摘する。ここには、文科と理科との止揚がある。
 
総論 地球環境と文明の周期性
はじめに/周期的変動とは何か/太陽活動の周期/火山活動の周期性/地球圏の周期性/文明の周期性
 
I.宇宙の周期性
1.宇宙の歴史から何を学ぶか
はじめに/地球史とは/地球史からみた現代とは/なぜ分化するのか/地球の未来と銀河系の物質循環/宇宙も生命も分化する/分化論の視点からみた人間圏の未来
2.気候変動を支配した太陽活動
太陽活動の変動からみた太陽放射/太陽活動の変動に伴う地球気候の変動/小氷河期の時代の太陽活動/太陽活動と地球環境
3.地磁気の変動と地球環境
変動する地球磁場/地磁気の逆転と生物/地磁気は気候を制御するか/環境に支配される磁化/生物をつくる磁石
コラム:ミランコビッチ時計
 
II.深海底に記録された周期性
4.日本近海の海流系は脈動していた
はじめに/海洋環境の変動/海洋環境の周期性/周期的変動の原因/近未来の気候予測解析/あとがき
5.日本海堆積物のリズムが語る環境変動
日本海の底を掘削する/縞を対比する/縞に時間目盛りを振る/縞の意味を考える/縞から環境変動を読む/環境変動のメカニズムを探る/日本海第四紀堆積物の堆積リズムがもつ周期性
6.気候変動に周期性をもたらすものがあった―インド洋やオーストラリア大陸の温暖・湿潤化をもたらした海洋循環の変動
はじめに/ジャワ島沖の堆積物柱状試料とその分析方法/有孔虫の酸素同位体比に基づく酸素同位体ステージ区分/P3コアの粘土鉱物組成とオーストラリア大陸の乾湿変動/ジャワP3コアの有機物組成変化からみた熱塩ベルトコンベアの消長/気候変動の周期性について
コラム:堆積物を採る―新しい堆積物採取法の開発と運用手順
堆積物採取の目的と方法/地震の化石を掘る―地震長期予測を目的とした採泥システム(長尺ピストンコアラーの製作と運用)/湖の環境変動を診る:高分解能環境解析に向けて―コアリング筏の製作と福井県水月湖/地盤変動をみる―バイブロコアラーの製作と陸域地盤の研究に向けて/おわりに
 
III.火山・地震活動・風成塵の周期性
7.爆発的火山活動の頻度・周期性と気候変化
はじめに/地球史の中で第四紀は火山活動が活発な時代か/噴火規模と頻度/第四紀気候変化−海面変化と火山活動/ヤンガードリアス期や小氷期における急速な気候変化の原因と火山活動
8.西南日本の被害地震発生のリズム
地震の発生場所はどこか/歴史時代の大地震からみた周期性/遺跡の地震跡は語る/室戸岬の隆起段丘に記録された約1000年の周期性/湖底堆積物は語る/被害地震発生に周期性はあるか
9.風成塵が記録する気候変動と文明
風成塵/氷河レスと砂漠レス/風成塵が記録する気候変動/古代文明を支えた砂漠の恵み/最後に
コラム:電子スピン共鳴年代測定
時の流れの追跡/ESR年代測定の原理/地球上物質から太陽系物質へ
 
IV.湖沼に記録された周期性
10.有機分子が記録する環境変動を読む
はじめに―情報記録装置としての湖/有機分子と環境情報/降雨・降雪量の変動を記録する高分子脂肪酸/情報解読の問題点/湖水域の変動を知る/高分子脂肪酸が記録する環境変動/三方湖集水域の環境変動の概要/過去約13万年間における降水量の変動の特徴/三方湖柱状堆積物から得られた結果の古環境学的意味/おわりに―降水と文明
11.化石花粉が語る植生変遷とその周期性
はじめに/湿地堆積物/植生の変遷/植生変遷の周期性
12.珪藻が語る湖の環境変遷―珪藻分析による古環境の復元
湖、われわれの母なる環境/ロングタームモニタリング/珪藻―生物と環境の深遠な関係/宍道湖、太古の湖そしてヤマトシジミ/三方湖、地震、消えては現れる湖/トルコ、塩の湖/まとめ
コラム:湖底地形を探る
湖の多様性と湖底地形の特色/湖底の調査法/三方五湖の湖底地形/琵琶湖の形成と湖盆の変遷
 
V.同位体に記録された周期性
13.氷の中の周期性
氷床コアから解読された気候変動の記録/氷床雪氷層に保存される気候・環境シグナル/氷コアシグナルの周期性の形成過程/エアロゾル起源の物質が示すシグナルとその周期性/氷床に記録された地球環境と気候の変動
14.年輪に刻まれた太陽活動の周期性
はじめに/木の年輪の14Cと太陽活動度/太陽活動の周期性/太陽活動と気候変動/21世紀の地球環境/おわりに
 
VI.文明興亡の周期性
15.地球のリズムと文明の周期性
気候脈動説/危機に進歩した歴史/現代という時代の位置づけ/発展の中に衰亡の兆
コラム:人類文明に秘められた宇宙の法則
文明の周期交代は宇宙法則による―文明時計説/文明にも遺伝子がある―文明遺伝子説/文明にも耐用年数がある―文明寿命説
 
あとがき・索引
 
 

欧州共同研究センターが直接行動によって実施する研究、
技術開発および実証についての個別計画(2002-2006)の決定

 
 
 EU理事会は、2002年9月30日、共同研究センターが直接行動によって実施する研究、技術開発および実証ついての個別計画(2002-2006)を採択する決定を行った。
 
 共同研究センター(JRC)(Joint Research Centre)は、欧州委員会のひとつの総局(Directorate General)であり、欧州委員会の他の関係部局の活動とEU政策を科学技術の側面から支援する組織である。ブリュッセル(ベルギー)にあるJRC本部のほかに8つの研究所(IRMM、ITU、IAM、ISIS、EI、SAI、IPTS、IHCP)がEU各地に設置されており、生命科学、環境、情報技術、原子力、技術予測など、広範囲の研究・技術開発が実施されている。
 
 EUは、2002年6月27日に欧州共同体研究・技術開発第6次枠組み計画(2002-2006)を採択した。JRCは、この枠組み計画において、「欧州共同体の研究の重点化と統合化」を推進するための直接的な活動と、「欧州研究圏の形成」および「研究基盤の強化」への貢献を求められている。
 
 ここで紹介する文書は、第6次枠組み計画に関係する個別計画のひとつとして、この枠組み計画のもとでJRCが実施すべき業務を、より具体的に定めたものである。
 
 ここでは、欧州官報に掲載(OJ L 294, 2002年10月29日, 60ページ)された、JRCの研究、技術開発、実証の直接業務に関する個別計画(2002-2006)を採択する2002年9月30日の理事会決定:
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2002:294:0060:0073:EN:PDF (最新のURLに修正しました。2010年5月)
を、日本語に仮訳して示す。内容が適切に表現されていない部分もあると思われるので、原文で確認していただきたい。
 
 計画(附則I)の各章の見出しは以下のとおりである:
 
1.緒言
2.計画の内容
 2.1.食品、化学製品および健康
 2.2.環境と持続可能性
 2.3.技術の予測調査
 2.4.標準物質と標準測定法
 2.5.社会的安全保障と不正対策
 
 
官報 L 294, 29/10/2002 P.060-0073
 
共同研究センターが直接行動によって実施する研究、
技術開発および実証についての個別計画(2002-2006年)を採択する
2002年9月30日の理事会決定
(2002/836/EC)
 
欧州連合理事会は、
 
欧州共同体設立条約、とくに第166条(4)に留意して、
 
欧州委員会の提案(1)に留意し、
 
欧州議会の意見(2)に留意し、
 
欧州経済社会評議会の意見(3)に留意し、
 

(1) OJ C 181 E、30.7.2002、94ページ
(2) 2002年6月12日に送付された意見(官報に未公表)
(3) OJ C 221、17.9.2002、97ページ

 
以下のことに鑑み:
 
(1) 欧州共同体設立条約第166条(3)に従って、欧州研究圏の創設と技術革新に貢献する研究、技術開発および実証の活動のための欧州共同体第6次多年度枠組み計画(2002-2006)(4)に関する欧州議会と理事会の決定 No.1513/2002/EC(以下「枠組み計画」とよぶ)は、その実施について詳細な規則を定め、その期間を限り、必要と思われる手段を定める個別計画によって実施される。
 
(2) この枠組み計画は、主要な3つの活動領域、「欧州共同体研究の重点化と統合化」、「欧州研究圏の構築」、および「欧州研究圏の基盤の強化」で構成され、最初の活動領域において、共同研究センター(JRC)が実施する直接行動は、個別計画によって実施しなければならないが、また、一部は他の二つの活動領域の目的にも貢献しなければならない。
 
(3) 欧州共同体政策への科学技術的な支援任務の実施では、JRCは、とくに、各国の所管当局からなるネットワークに参加することによって、科学技術的な参照検索の欧州共同体システムを確立することに積極的に貢献する。
 
(4) この任務に一致する本計画の実施では、JRCは、環境保護、健康管理、不正対策などの観点から、住民の安全性にとくに重点をおく。
 
(5) この枠組み計画への企業、研究センターおよび大学の参加ならびに研究成果の普及についての規則(以下、「参加と普及に関する規則」とよぶ)は、研究成果の普及の点では、この計画を適用しなければならない。
 
(6) この計画の実施においては、欧州共同体内で、研究者の流動性と研修および技術革新を促進することに重点をおかなければならない。
 
(7) この計画の実施目的として、欧州経済圏協定や連合協定に該当する協力に加えて、とくに欧州設立条約の第170条に基づいて、第三世界の国々と国際機関に対して国際的な協力活動を約束するのが適切である。
 
(8) この計画の実施においては、候補国にとくに配慮しなければならない。JRCは、欧州共同体のさまざまな政策に関連する「アキ・コミュノテール(acquis communautaire)」を移すことに積極的に貢献する。
 
(9) この計画で実行される研究活動は、欧州連合基本権憲章が反映されることを含む、基本的な倫理原則を尊重しなければならない。
 
(10) 欧州委員会文書「女性と科学」、女性と科学に関する1999年5月20日の理事会決議(5)および、この大綱に関する2000年2月3日の欧州議会の決議に続いて、一つの行動計画が科学と研究における女性の地位の強化と向上のために実施されており、この行動を強化することがさらに必要である。
 
(11) この計画は、欧州共同体の財政保護の目的を尊重することはもちろん、JRCの利用者の関連するニーズや欧州共同体政策を考慮して、柔軟で、効率的な、また明白な方法で実施しなければならない。この計画に従って実施する研究活動は、必要に応じてこれらのニーズに適応し、また科学技術的発展に適応しなければならない。
 
(12) JRCは、JRCの利用者によって反映された欧州共同体政策の要求に対応する。これを効果的に行うために、JRCは科学的優秀性を達成することが求められる研究活動と、適当なつり合いを維持する。
 
(13) JRCは、技術革新と技術移転の活動を積極的に追求しなければならない。
 
(14) この計画の実施の際に、欧州委員会は、共同研究センター(6)の再編に関する1996年4月10日の委員会決定96/282/Euratomに関連する規定に従って、JRC理事会に意見を求めなければならない。
 
(15) 欧州委員会は、この計画に該当する分野で実施する活動に関して、独立した評価を適当な時期に取り決めなければならない。
 
(16) この個別計画の科学技術的な内容に関して、JRC理事会に意見を求めた。
 

(4) OJ L 232、29.8.2002、7ページ
(5) OJ C 201、16.7.1999、1ページ
(6) OJ L 107、30.4.1996、12ページ
: http://www.clb.mita.keio.ac.jp/econ/kaji/mitafest/suzuki.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
この決定を採択した:
 
第1条
 
1. 決定 No 1513/2002/EC(以下「枠組み計画」とよぶ)に従って、共同研究センターが実施する研究、技術開発および実証の直接行動に関係する個別計画(以下、「個別計画」とよぶ)を2002年9月30日から2006年12月31日までの期間、ここにおいて採用する。
 
2. 個別計画の目的、および科学技術的優先事項を附則Iに示す。
 
第2条
 
 枠組み計画の附則IIに従って、個別計画の実施のために必要な予算を7億6000万ユーロとする。この予算の内訳の見積もり額を本決定の附則IIに示す。
 
第3条
 
1. 欧州委員会は、個別計画の実施に責任を負うものとする。
 
2. 個別計画は、枠組み計画の附則Iと附則III、および本決定の附則IIIで定めた文書によって実施するものとする。
 
3. 企業、研究センターと大学の参加ならびに研究成果の普及についての規則(以下「参加と普及に関する規則」とよぶ)は、研究成果の普及の点では、個別計画に適用するものとする。
 
第4条
 
1. 欧州委員会は、個別計画の実施のための研究計画を作成するものとする。この研究計画は、附則Iに示した目的並びに科学技術的優先事項をより詳細に示し、実施のための予定表および実施の取り決めを示して、すべての利害関係者が利用可能なものにする。
 
2. 研究計画は、加盟国、加盟予定国、欧州および国際組織が実施する関連の研究活動を考慮する。
この研究計画は、必要に応じて最新のものにする。
 
第5条
 
 個別計画を実施するために、欧州委員会は決定96/282/Euratomに従って、JRC理事会に意見を求めるものとする。欧州委員会は、個別計画の実施に関してJRC理事会に定期的に報告しなければならない。
 
第6条
 
1. 枠組み計画の第4条に従って、欧州委員会は個別計画実施の全体的な進行状況を定期的に報告しなければならない;財政面の情報もこれに含めなければならない。
 
2. 欧州委員会は、個別計画に該当する分野で実施される活動に関して、実行すべき枠組み計画の第6条で定めた独立した評価を取り決めなければならない。
 
第7条
 
 この決定を加盟国に送達する。
 
ブリュッセルにて、2002年9月30日。  


 
欧州連合理事会
議長
B. Bendtsen
 
 
附則 I
科学技術的目的と活動の概要
 
1. 緒言
 
 JRCは、欧州連合政策の計画、実施とモニタリングに顧客主導の科学および技術的支援を行うことを任務とした研究計画を実施する。JRCは、個人や国の特別な利害関係に影響されず、加盟国共通の関心事に奉仕し、欧州介入の必要性があるときに、そのように支援を行う。
 
 JRCは、JRCの最近の評価の勧告と欧州委員会の改革で必要な要件を取り入れることによって、枠組み計画に貢献する。とくに、これには以下のことが含まれる:
 
− 利用者指向性を強化;
− 幅広い知識基盤を創設するためのネットワーク活動、ならびに欧州研究圏(ERA)の精神を発揮して、EU政策のための科学技術的支援として、加盟国と加盟予定国の試験機関、産業、および規制当局をより密接に結びつけるためのネットワーク活動
− 選定テーマに活動を集中する; とくに大規模施設や特殊な試験機関を使用している研究者の研修
 
 JRCは、とくに欧州委員会部局による明らかな表出的ニーズと必要条件に応えるが、これらのニーズと必要条件は、組織的、規則的な連絡(1)を通して確認され、更新される。
 
 JRCは、とくに間接行動と直接行動との相補性を追求することによって、またそこで実施された研究の価値を高めるための間接行動に参加することによって(たとえば、検査や手法を比較し、検証することによって、あるいは政策立案に必要な成績の集約によって)、他の個別計画の関連テーマ別優先事項との安定的相乗効果を目指すことによって、JRC対応能力の範囲で貢献する。
 
 JRCに及ぼす行政上、制度上の状況は、近年めざましく進展した。とくに、バイオテクノロジーと情報社会における急速な技術の発展は、政策立案者に新たな要求と同時に、住民を保護し、グローバル経済における競争力を確保するためにわれわれの社会を変えている。消費者の信頼の危機と日常生活における技術の影響の増大によって、欧州や世界中の政策立案者は、政策過程の全体にわたって信頼できる科学的情報を確保する責任が委ねられた。これには、予見し難い状況が生じた場合に、速やかに対応する能力と、科学技術の発展による潜在的な長期影響に関してより信頼できる見方をとる能力が含まれる。ERAで見越したように、科学技術的な参照検索の共同欧州システムの開発は、この方向の重要な第一歩である。
 
 JRCはEU 政策を支援する任務に再び焦点を合わせて実施することによって(2)、枠組み計画は、JRC活動の実行のあり方に新たな展開を示している。JRC単独では、このような状況で必要な科学技術的支援のすべての範囲を扱うことができないであろう。3つの特性がJRCが提案した研究計画に行き渡っている: (i) 集中、(ii) 開放性とネットワーク化、および (iii) 顧客指向。
特定の政策領域(附則III参照)に寄与するプロジェクトの集団化にとくに関心をもって、それらの目的を達成するため、適切な文書を出す。
 
 欧州委員会の研究技術開発の内部部局としてのJRCは、
 
− 欧州政策の立案、開発、実施およびモニタリングのための要求主導型科学技術支援を提供し、
− 欧州研究圏での共通の科学技術的な参照検索システムの確立に貢献する。
 
 EU政策へのJRCの眼目は、環境保護、住民の安全と安心および持続可能な開発に関連した問題について技術な裏付けを与えることにある。これには、食品の安全性、化学物質、大気質、水質、原子力の安全から、不正対策にわたる政策の全域を支援するため、リスク評価、検査、検証、手法、材料および技術の改良が含まれる。この支援のほとんどすべてが、加盟国と他の国々の試験機関と研究センターと緻密な協力で実施される。これを達成するために、JRCは横断的能力によって支えられた2つの中核領域にその原子力研究以外の活動を再び集中させた:
 
− 食品、化学製品および健康、
− 環境と持続可能性。
 
 中核領域は、次のような共通的活動によって補完される:
 
− 技術の予測調査、
− 標準物質と標準測定法、
− 社会的安全保障と不正対策
 

(1) 年1回の利用者ワークショップ、利用者総局内部グループ、相互合意、高レベル利用者グループとの連携。
(2) 欧州研究圏におけるJRCの任務の達成。

 
2. 計画の内容
 
2.1. 食品、化学製品および健康
 
 とくに食品中の汚染物質と化学製品の潜在的な有害影響に対する消費者の健康の保護は、欧州の重要な政策である。欧州食品機関の創設と化学物質に関する新たな欧州共同体政策の開発がこのことの現れである。
 
 2002-2006年の枠組み計画において、JRCは、次のことに関係する一連の個別の要求事項に対応する:
 
− 欧州共同体の食品政策と化学政策の急速な展開
− 予防原則の目的、
− 健康に関する公共の関心事。
 
 JRCは、食品の質と安全性、化学製品の安全性、欧州共同体規模での化学的測定/計量確認施設および健康関連の情報に関係する選定領域における科学的標準と検証のセンターとしてさらに発展するだろう。JRCの戦略は、加盟国の研究所との広範囲なネットワーク、進んだ試験施設の維持と標準測定と標準物質の生産、およびプロテオミクスとバイオインフォマティクスなど、ライフサイエンスの能力の拡大に大きく依存している。情報システム、データバンク(たとえば遺伝子登録)のようなサービス関連のEU政策の支援を提供する。目新しい問題が多く、規制環境が複雑であれば、研修も優先事項になるだろう。研究は、次の優先事項に重点をおくであろう:
 
− 食品の安全性と質、
− 遺伝子組換え生物、
− 化学製品、
− 生物医学的応用。
 
食品の安全性と質
 汚染物質(マイコトキシンのような天然物やPCBのような人工物)、残留物(農薬、成長ホルモンと動物用医薬品など)および食品ならびに飼料中の含有物と添加物の検出のために、信頼できる手法と標準物質の開発と検証に重点をおく。JRCは、手法と材料の検査を調整し、(動物用医薬品残留物についてのEC標準試験機関の密接な支援で)リスク評価とリスク管理を裏付けるための認証結果を提出することに最も重要な役割がある。食品から発生する病気は、ウイルス汚染を含め、微生物に由来するのがほとんどであるから、迅速な同定とモニタリングのための新たな研究法を判定することに重点をおく。ゲノミクスおよびプロテオミクスの研究は、アレルギーのような食品に関連する問題に多く、その原因や伝達性海綿状脳症(TSE)の性質を同定するだろう。JRCは、このような問題が生じたとき、新たな公衆衛生問題を処置するための柔軟性を保ち、微生物学分野において、新たな成果が納められるだろう。
 
 検査の標準化ならびに牛海綿状脳症(BSE)やTSEの高感度検出のための新しい手法の判定は、関連総局、TSE特別科学委員会および主要なTSE研究所と協力して屠殺場での大規模な屠体検査の精度管理を実施する必要があろう。JRCは、特定リスク物質の動態を調査する。食物連鎖にとってもっとも重要な経路である家畜飼料の安全面にとくに重点をおく。
 
 食品の質の問題は、健康と食品との関係から重要性が高まるであろう。不正品や不良品の検出のためのラベリング規則に従って評価することに加え、栄養補助食品と機能性食品の効能や副作用を審査することに強いニーズがある。有機食品の人気の高まりによって、その真正性を評価する手法の有効性が求められている。JRCは、「薬用食品(nutraceuticals)」の出現に対して食品の真正性とその有効性の分野における専門的技能を高める。
 
 技術予測の研究は、食品の開発、持続可能な農法および食品廃棄物、および農業・食品部門における食品安全政策の影響について行われるだろう。
 
遺伝子組換え生物(GMO)
 JRCは、食品や環境中へのGMOの混入の分野において、重要な科学技術的な支援を行う。加盟国の要請でJRCが調整するGMO試験機関の欧州ネットワークを用いて、この支援を実施する。仕事としては、GMOの検出、同定および定量のための開発と検証の手法が含まれ、認証標準物質(新生物種、加工食品)、生体分子データベースの開発および研修にまで範囲が拡大される。食物や飼料の新品種、あるいはEU内で使用するために未許可の生物問題に取り組むことに焦点を当てた研究活動(サンプリングやトレーサビリティー)は、規制ニーズを強化し、全欧州の整合化を達成することに作用する。
 
 環境中のGMOの調査には、環境中に導入され新生物の遺伝、生物多様性、農学面を扱うための新たな能力の構築が必要になる。
 
化学製品
 化学物質に関する欧州共同体の新政策は、この枠組み計画の中でJRCに求められている支援(3)に強く影響するだろう。JRCに対する役割には、化学物質を規制するための拡大計画を機能させることが含まれる; これは、関連加盟国の当局、産業およびOECDのような国際組織とすでにある緻密なつながりをさらに強化する。欧州化学品局のリスク評価の経験と専門的技能は、この分野における重要な研究成果のために強固な基盤にもなるだろう。
 
 動物実験の代替法の検証は、新化学物質政策の新たな検査計画の支援で重要性が高まるだろう。研究は、ワクチンの安全性について、また潜在的危険物質の反復低量投与による長期影響についての難しい領域においても行われる。
 
 EU加盟候補国の規制当局間での健康と医薬についての遠隔医療手段による認証ずみ情報の交換と、消費者や患者を含め、すべての利用者への普及を追求している。
 
 JRCは、玩具中の可塑剤など、人間が触れる物質や食品からの有害な化合物の摂取と化粧品の有害影響に注意を払うとともに、既存の危険物質のリスク評価に貢献する。欧州共同体政策と欧州化学産業界の革新と競争力との関係の予測分析も行う。
 
生物医学的応用
 高齢化は、EUの健康管理システムの要求内容を必然的に変えるだろう。JRCは、移植組織の生体適合性と長期の信頼性について、また低侵襲的医療システムにおける光学的技術の使用について、材料とライフサイエンスに関する高度の専門的技能を応用することを計画している。この研究では、研究所、病院、産業および規制当局とのネットワーク化が必要である。JRCは、国際臨床化学連盟と協力して、臨床診断測定のために世界的に受け入れられるシステムに向けた研究を行う(試験管内診断法と医療機器に関する指令)。
 
 放射性安定同位体の生産と利用におけるJRCの核と同位体の施設と能力は、臨床標準物質だけでなくガン治療の新たなタイプ(免疫療法、ホウ素中性子捕捉療法)として医療目的にも使われる。
 

(3) JRCの欧州化学局の研究を含める。

 
2.2. 環境と持続可能性
 
 水、大気および土壌の質と利用、エネルギーの持続可能な利用、および地球温暖化の脅威は、政治的関心事までに高まっている。これらの分野において欧州共同体政策が発展するためは、原因、過程、影響および動向についての十分な知識が必要である。JRCはこれらの要件を率直に考慮するような方法でこの計画を決定している。そのため、JRCは、欧州として重要な環境問題の情報と参照のセンターとして、その役割を強化する。そのためには、加盟国と国際的に、とくに候補国との基準ネットワークを次第に組み入れるようにすることが必要であろう。政策立案手続きの作業は、欧州委員会の関連部局とより密接な協力を発展させることによって、また、政策横断的、技術経済的な予測研究を追求することによって強化される。欧州環境庁との相乗効果を強化することにも注意し、同時に科学的結果の普及にとくに関心をもつ。計画は以下の領域を対象にする:
 
− 有害な地球規模の変動の評価と防止、
− 欧州環境の保護(大気、水および陸域資源)、
− 持続可能な開発への貢献(新エネルギーと再生可能エネルギー、環境評価)、
− 全地球的環境・安全保障監視(GMES)の支援。
 
有害な地球的変化の評価と防止
 JRCは、JRCの技術的、社会経済的、モデル化および研究を結合した技能を活用して、地球温暖化を防止するためのEU戦略の開発を支援する。京都議定書の実行には、温室効果ガスの循環を制御する根拠とプロセスの合意を必要とする。温室効果ガスに関するEUモニタリング・メカニズムの直接的支援はJRCの優先事項である(理事会決定1999/296/EC)(4)。これに関するJRCの重要な役割の一つは、個別研究の貢献によって知識のギャップを埋めることである。研究は、データの質を高め、不確実性を減らす参照検索システムを確立することに重点をおく。研究の重要な部分は、さまざまな規模での土地被覆、土地利用および森林地の変化をモニタリングすることである(GMESを参照)。将来のエネルギーシナリオならびに炭素排出の予測は、関連措置の実施においても重要である。経費効率がよい方法で排出を削減する政策の選択肢も調査する。その効果を最大にするため、JRCはこの地球変動に関する活動を専門組織で行う。気候政策の実施、炭素固定、大気質の測定、オゾンの動態および欧州上空の紫外線放射に関連する問題を検討することも可能である。
 
欧州環境の保護
 
− 大気質を保護する
 
 大気汚染は、欧州住民の重要な関心事であり、また多くの規制文書(たとえば欧州の大気浄化計画)の主要な焦点でもある。JRCの取り組みで必要不可欠なことは次の通りである:
 
− 輸送機関と定置機関からの排出の評価(新排出指令、ディーゼル/ガソリン、新燃料、粒子状物質、およびダイオキシン排出についての基準; 世界規模の標準試験の周期と産業廃棄物の測定法の整合化もしくは標準化)、
− 大気質指令の開発と実施のために参照となるものを用意すること(大気汚染の定量的分析、モニタリング、専門技術、前標準化研究、人体暴露に及ぼす大気質政策の影響を評価する手法、および軽減シナリオのデータ分析と比較のためのモデル化のツール)
 
− とくに市街化区域での大気汚染による公衆衛生影響の評価。
 
 排出と周囲の汚染程度の影響を決定するために輸送、エネルギー、保健および企業の政策の分野横断的統合分析を行う。この研究は、自動車産業とエネルギー産業からの代表を含む専門家による大きなネットワークによって実施する。
 
水質
 水は将来の重大な資源問題である; 自然の水供給源を維持し、質の良い飲料水を確保することは、とくに重要である。水枠組み指令は、次の6年間で、欧州共同体の規制の現行の文書のすべてについて、モニタリングと報告プロセスの調整と整合化を義務づける。水に関連するさまざまな指令の実施に関して、加盟国が報告する共通データベースの整合化に結びつく研究を追求する(たとえば未処理の都市排水、硝酸塩、地表水など)。JRCは、新たな規制枠組みの社会経済的関係はもちろん、生態学的な水質パラメータの決定(現行の一般的な欧州の計量確認施設の支援関連でも)、重要な汚染物質の特定、内水と沿岸水の水質指標、および、とくに廃水中の微生物のハザードに重点をおく。この関連で、JRCは、水質、廃水処理、土質、および健康への影響に関して統合的な改善を目的とした研究に貢献する活動を行わなければならない。健康への影響については、この計画の2.1節の「食品の安全性と質」で扱われている。欧州共同体の参照検索法を定めるために、統合的沿岸域管理の研究を続ける。
 
陸域資源
 土壌と景観はほとんどが人間の活動の場であり、それらの特性は管理業務によって決定されている。
いくつかの欧州共同体法(たとえば水指令、欧州空間開発の予測、都市アジェンダ、気候変動、その他)はもちろん農業政策のなかの環境分野もこれらの問題の領域を扱う。JRCは、政策決定と評価の基礎として統合型空間分析のための共通プラットフォームの開発を支援する。集水域はいろいろなプロセスと影響を評価するための調査単位として使用されている。欧州土壌局が管理する膨大なデータベースは、ネットワークを介して拡張される; EU統計局(Eurostat)と実施中の共同研究も強化される。
ツールの開発ならびに林業、土地利用および生物多様性保全の関係から自然景観に関する情報を提供することに配慮する。共通農業政策のなかの環境分野への支援は、景観の分析と指標の利用の点から行う。都市環境と地域環境の現状と変化に関する情報を出す。研究は、高度なリモートセンシング技術、地理情報システム、および空間プロセスのモデル化を利用する。
 
持続可能な開発への貢献
 持続可能な開発に関する研究は、JRCの計画のすべてにわたっており、経済的要素、社会的要素、環境的要素との統合に注意をむける。このような統合に関する研究は、持続可能な開発および、さまざまな関係者が果たすように求められている任務と、とくに関係がある。
 
 JRCは、持続可能な開発を実施するための効果的業務の知識と情報の普及を目的とする積極的な計画を開発する(この分野の研究者と技術者を支援する能力が含まれる)。開発と生物多様性もしくは景観保全を統合するための方法論とツールの開発を考慮する。
 
 JRCは、多くの加盟国が近年、設定したさまざまなエコサイトの欧州ネットワークをさらに発展させるためにその経験を利用する。
 
− エネルギーと省エネルギー
 
 京都議定書がエネルギー論争に重大な局面をもたらしているのは、エネルギーの利用と輸送が経済生活に必須なものであり、温室効果ガスの排出に大きな影響があるからである。供給を保障するためには、エネルギー利用効率ならびに技術の重要性はもとより、新エネルギー、再生可能エネルギーの重要性が、最近のグリーンペーパーと「再生可能」なエネルギー源に関する文書で強調された。
 
 再生可能なエネルギー、エネルギー政策とエネルギー技術の分野におけるJRCの経験は、規制が撤廃された市場で新たに生じている欧州共同体の問題を支援するために利用される;次の分野の研究に重点化されると思われる:
 
− 認定検査機関と証明制度を介して、(太陽光発電を優先して) 再生可能なエネルギー生産、貯蔵およびビルディング内でのエネルギー利用の標準システムの開発 
 
− 安全性、効率、省エネルギー、廃棄物、および廃棄物焼却性能はもとより、バイオマスによる発電技術に対して個々の基準によって、新エネルギー技術と従来のエネルギー技術の評価、エネルギーの節約方法、検証、およびモデル化活動 
 
− 温室効果ガスの排出に関連したエネルギーシナリオと予測、および競争力のあるエネルギー経済における新たな再生可能エネルギー技術に対する市場評価。
 
環境評価
 環境の質に関する「統合的」評価の必要性が次第に認識されている。JRCは、適切な統合的政策評価のツールの開発を通して、またEU政策における環境問題の統合に結びつく活動を通して、EUの持続可能な開発戦略を支援する。欧州総合汚染防止管理事務局は、選定された産業部門で汚染を減らすため、最も有効な技術の評価に関する指令の関連研究を継続する。大気汚染と地球規模の変化とを結びつけるために複雑な排出シナリオが必要である。廃棄物管理は、廃棄物の発生から処理、そして処分までの統合型解析が必要な重要な領域である。JRCが貢献する統合型研究のもう一つの領域は、環境の保全と人間の健康である。
大気汚染や水中の汚染物質(内分泌攪乱物質、殺生物剤、および医薬品など)のような今日的問題を扱うために、生態毒性学についての新たな評価のツールと方法を開発する。JRCは、開発援助の環境的な要素を統合することに対して、方法論的支援も行う。
 
 JRCは、平常時と緊急時の環境モニタリングデータ(放射能を含む)や情報(モデルの相互比較を通して)の交換のための欧州共同体法の遂行に貢献する。
 
 JRCは、共同体レベルの持続可能な開発の実施に向けた具体的貢献として、政策相互の結合と影響に重点をおく。
 
全地球的環境・安全保障監視(GMES)への支援
 世界の環境と住民の安全保障に及ぼす重要な問題についての、独自の情報の必要性が次第に認識されている。GMESは、環境の質、資源の利用性と管理、自然のリスクとハザードの変化に関わる情報を収集、分析および普及するために有効なサービスの実施に向けた欧州の新計画である。GMESは、地球規模の環境の保護と、住民の安全に対する脅威を軽減し、あるいは未然に防ぐという二重の課題をうけて、実施されている。GMESは、土地被覆、利用、資源の劣化や枯渇など、重要な景観パラメータに関する適切な長期監視をいろいろな地理的レベルで維持するための地球観測技術の利用に主に重点をおいている。自然のリスク評価と大きな災害の管理を支援するための技術も必要である。JRCは、次の3つの研究領域において、GMES構想の中に入るEU政策に適切に適用する開発に重点をおく: 国際的な環境合意の支援、リスクとハザードの評価、環境ストレスの評価。
 

(4) OJ L 117、5.5.1999、35ページ。

 
2.3. 技術の予測調査
 
 EU政策の確定には、科学技術開発と社会経済的状況についての迅速な予想と理解にますます依存している。JRCは技術と社会の相互関係を分析する専門的技能と世界的規模の分野横断的、学際的な予測調査研究を調整する経験をもち、これらの技能と経験がERAの目的の実現に寄与する。2002-2006年枠組み計画の全期間にわたって、JRCは、研究技術開発総局と他の顧客総局との密接な協力に基礎をおいて、この研究領域の活動を行う。活動は次のことに重点をおく:
 
− 技術−経済予測調査、
− 国際的予測調査の協力フォーラム。
 
技術−経済予測調査
 JRCは、EUに影響を及ぼす重要な技術開発ならびに成長、持続可能な開発、雇用、社会的結束、および競争力に関連する影響についての長期予測研究の基礎的な研究を行う。この研究活動は、JRCのもつ特定分野の能力によって、その研究をJRCが実施ことに価値があると思われる基礎的知見の解析や情報も提供する。これには、技術的な隘路と機会を特定するために、量的推定を含む次のような予測分析が含まれる;見込みのある技術の特定と、それらを採用する必要条件。
 
国際的予測調査の協力フォーラム
 JRCは、現行の成功した経験を継続することによって(たとえば欧州科学技術監視ネットワーク、高レベルの経済専門家グループ)、また国際的予測調査の協力枠組みの確立を追求することによって、国際的シンクタンクと最高水準のアドバイザーとの研究の結び付きを強化する。持ち上がっている主要な難題について、分析を分担するためのメカニズムを利用することが可能であれば、科学と統治の国際的議論での欧州の役割を高めることにとくに役立つことが証明されるだろう。政策志向の予測調査分析における共通の参照検索システムは、候補国にとくに配慮して地域運動の関連から設置される。
 
2.4. 標準物質と標準測定法
 
 製品の基準と測定法の認定は、消費者の安全、自由貿易、欧州産業の競争力、および対外関係と関連する欧州共同体政策の実施のための重要な構成部分である。JRCは、標準物質の世界的な認定を改善し、国際的な測定評価計画を組織化するために、品質証明の結果を出し、個別の基準測定法を開発し、標準物質(CRM)を生産する既存の、あるいは開発中の欧州計量確認施設をさらに支援し、またEU政策を支援の脱国家関係のデータベースを設立する。JRCの研究計画を通して、環境、食品の安全性、公衆衛生あるいは、原子力産業のいずれにおいても、合意された標準法と標準物質が必要である。これまでの節で述べた研究に加えて、JRCは欧州認証標準物質システムの創設の支援を計画している。これによって、JRCは、EU法と業務に適切な場合、委員会部局への有効な助言を与える立場になる。活動は、以下のことを対象にする:
 
− ヨーロッパ標準物質(BCR)(5)と産業認証標準物質、
− 化学的特性と物理特性の計量法。
 
ヨーロッパ標準物質と産業認証標準物質
 この活動は、JRCが貿易総局に勧告する際に、EUと米国の相互承認協定に従って、世界的に受入れを向上させるための、標準物質の生産と検定のための基本理念と技術を開発するのに重要である。JRCは、産業プロセスと製品の管理のための、ヨーロッパ標準物質と新たな標準物質(CRMs)の生産に集中する。科学技術開発総局を支援して、JRCは、可能な場合、ヨーロッパ標準物質の保管と頒布についての責務を、間接的な行動による新たな標準物質の生産と認証の管理までに拡大する。防衛手段と核物質計量管理のために使用した核標準物質は、環境に発展させることが可能である。
 
化学的特性と物理的特性の計量法
 中性子と物質の相互作用の研究によって生まれる情報は、多くの応用領域にとって基本的なものである。基幹施設は、広いエネルギー領域にわたる体系的方法で物理的特性の基本的計量法を調査するために維持し、同時に研修の関連性が重要である。放射性核種の計測活動は、食品、化学物質および環境の安全性を支援する。JRCは、世界的な化学計量システムの開発に責任がある国際組織において欧州委員会の代表として継続する。主要な任務として、重要な計量技術の開発、同位体標準物質の生産と認証、および国際測定評価計画の組織化が含まれる。今日的問題は、EU政策の要件に左右され、判定には多くの試験機関の参加にかなり依存し、とくにこれらの部門あるいは領域の問い合わせ先になる必要がある。ネットワーク(PECOMet-ネットワークとMetMED)の確立を通して、化学分野の組織化されたシステムを築くことために候補国と地中海諸国を支援する。
 

 BCR による標準物質
(5) 欧州共同体標準局。

 
 
2.5. 社会的安全保障と不正対策
 
 社会的安全保障の問題、すなわち大量破壊兵器の拡散、経済のグローバリゼーション、プライバシーへの侵害、およびインターネット脆弱性、自然あるいは技術的災害によるリスクなどについて、調整された国際的な取り組みが必要である。EUはいくつかの仕組みによる枠組みを作り、同時に、不正をいっさい許さないことを宣言した。これらの政治的な発議と公約には、科学技術的な支援が必要であり、JRCはそれらの個別の要件のいくつかに直接、答えるための計画を具体化している。JRCは、安全保障と不正対策の総合領域に関して、広範囲な情報の基幹施設を取り扱うことに関して、そして複雑系を処理することに関して、広範囲に十分受け入れられた専門的能力を長年にわたって開発してきた。2002-2006年枠組み計画では、このような専門的能力が、欧州機関の利用者にそれらの優先事項と必要性に応じて提供される。支援を深め、広げるために他の研究機関や利害関係者とのネットワークを利用することにさらに重点をおく。JRCは、以下の問題に集中する:
 
− 人道的な国際安全保障、
− 自然と技術のハザード、リスクおよび緊急事態、
− サイバー安全保障(cyber-security)、
− EU規則遵守モニタリングと不正行為規則
 
人道的国際安全保障
 第一に、検査と基準点によって地雷敷設区域の調査と検出のための既往技術の知識を向上させ、第二に、新たな技術を評価し、第三に、EUによる地雷除去実施の表示非表示、判りやすさ、および効率性の向上するために、JRCは、人道的地雷撤去に関するEUの努力の中で技術面を重点に継続する。JRCは、GMESの新構想を通して、人道的支援を含め、欧州安全保障政策の利用を可能にするために、統合した宇宙空間データ、環境データ、および社会経済データを供給する欧州の能力を開発することに貢献するだろう。
 
自然と技術のハザード、リスクおよび緊急事態
 JRCは、欧州共同体の中のリスクを予測、評価、管理および低減するための欧州枠組みを開発する努力に支援し続ける。2002-2006年枠組み計画においては、JRCは自然と技術のハザード管理を効率的に達成するシステム法をさらに開発する。航空機事故と産業的ハザードによる技術的リスクのために、JRCは、整合化された欧州モニタリングシステム(ECCAIRS(6)、MAHB(7)、EPERC(8))の完全な実施と改良に専念するように努力する。これらのシステムは今後、候補国に拡大される。自然のハザードに対しても、JRCは同様な能力を欧州に提供するように努力する。同時に、洪水と森林火災に対する欧州共通の取り組みを開発する努力を、進歩したモデル化、地上観測と衛星観測の統合化に焦点を合わせることによって継続する。GMES構想へのリンクを開発する。地震工学試験機関の欧州ネットワークをはじめとする、いろいろなネットワークは、国際的規模に拡大されるだろう。同様に、JRCは、欧州パートナーと協力して構造物の安全性に対する共通の統合した新構想を開発するために実験施設のネットワークを設立する。JRCは、リスク管理における意思決定を支援する仕組みの確立に貢献するために内部の科学的潜在能力と科学的ネットワークとの関係を利用する。
 
サイバー安全保障
 JRCは、EUの信頼性の新構想の支援では、電子支払いシステムの監視のみでなく、法廷外の紛争処理システムで得られる経験を利用する。欧州委員会の責任部局と加盟国組織と密接に研究を行ことによって、サイバー犯罪、プライバシーおよびインターネットの脆弱性のリスクへのEUの適切な対応の発展を支援する。これらのリスクの特性をよりよく特徴づける手法、技術的な対抗策を評価する基準、JRC施設におけるそれらの検査、およびヨーロッパ警察機構を含む他の利害関係のある関係機関との協議の際に、適切な整合化した措置、指標、および統計値を開発することに努力を集中する。JRCは、また、サイバー犯罪問題についてのインターネット・ウェブサイトを保守し、「情報基盤の安全性を高め、コンピューター関連犯罪と戦うことによる、より安全な情報化社会の創出」に関する委員会文書の枠組みで設定したEUフォーラムにその経過を報告する。
 
EU規則遵守モニタリングと不正行為規制
 JRCは、EUレベルで運営する組織に先端技術を提供することによって、そして最新の技術の使用に関して、加盟国を支援することによって、不正対策措置の有効性を高める欧州委員会の努力を支援する。JRCは、委員会の関連部局と密接に連携して、共通農業政策、共通漁業政策、および欧州不正対策局(OLAF)に対して適切な支援を継続する。家畜個体識別のためのDNA分析、作物栽培面積のモニタリングあるいは漁船識別のための衛星画像判読、含有量と生産地を決定するために飲料と食品のアイソトープ分析の交差相関、公開情報からの情報収集、多国語文書を分析するための言語技術など、新技術の応用を調査するだけでなく、JRCは、データ収集、データ融合、データ発掘から可視化ならびに推定までの、すべてのサイクルを含む統合された知識を顧客に提供し続ける。
 
 JRCは、時を得た情報、信頼できる情報、そして社会的により確かな情報によって政策手続きを提供するための方法論的経験も確立する。この研究はEU統計局との協調によって、短期指標、景気循環と財務分析を重点にしたテーマ別研究ネットワークと、統治の科学的情報のための品質保証方法を開発することによって、官庁統計を完成する。
 
 早期警戒と動向の検出、普及、意識の向上および加盟国の共同試験機関との知識の共有することに重要性がますます高まっている。不正問題については、個別事例ごとに取り組まないが、組織的レベルでは、複雑な手続のない、本質的に不正の起きにくい手続きや規則を開発する。
 

(6) 航空機事故強制通報システム欧州調整センター
(7) 重大事故災害局。
(8) 欧州圧力器材研究評議会。

 
 
附則II
個別計画実施のために必要な予算額の内訳(見積もり)
活動の種類 金額
(100万ユーロ)

食品、化学製品および健康
環境と持続可能性
横断的活動
− 技術予測調査; 標準物質と標準測定法;
  社会的安全保障と不正対策(1)
− 研究者研修; 基幹施設の利用(2)

212
286




262

合計
 

760(3)(4)
 
 
(1) この活動に222百万ユーロまで振り向けられる。
(2) この活動に40百万ユーロまで振り向けられる。
(3)
 
この約6%を予備的研究に配分、また2%までをJRC自体の業績と技術移転の開発に配分できる。
(4) この総額には、間接的行動への参加に必要なJRCの経費分担が含まれる。
 
 
附則III
本計画を実施するための個別規則
 
1. 欧州委員会はJRCの理事会と協議した後に、附則Iで述べた科学的な目的と内容に基づいて直接行動を実施しなければならない。この行動に関連する活動は、JRCの関連試験機関において実行されなければならない。
 
2. この活動の実施において、JRCは、適切かつ実行可能なときにはつねに、欧州政策立案手続きを支援する加盟国と欧州研究コンソーシアムの官民試験機関ネットワークに参加あるいは組織化する。産業界とくに中小企業との協力に特別に配慮する。第三世界の国々で設立した研究組織は、枠組み計画の第6条の関連規定に従って、欧州共同体と関連する第三世界の国々との間の科学技術的協力の協定に従って、該当する場合には、プロジェクトに協力することもできる。候補国と中央ヨーロッパと東ヨーロッパの国々、および旧ソ連の試験機関と研究機関との協力に特別な配慮をする。
 
JRCは、その顧客ならびに利用者の要求と必要性を常に確認し、また彼らを関係のある活動に参加させるために適切な仕組みも使用する。
 
プロジェクトの実施を通して得られる知識は、JRC自らが(守秘義務事項に起因する限界を考慮して)普及する。
 
3. 付随する措置には、次のことを含めなければならない:
 
− 国立の試験機関、産業試験機関と大学へのJRC職員の滞在について体制化すること、
− 女性の参加を奨励することに特別に配慮、とくに候補国から、若手科学者の移動性を促進すること、
− 多学問領域性に重点をおいて、欧州政策の推敲あるいは実施の支援に関する専門的研修を行うこと、
− 女性の参加を奨励することに特別に配慮、とくに候補国から、客員研究員と国の出向専門家のJRC研究所滞在について体制化すること、
- とりわけ、科学セミナー、ワークショップや討論会、および科学的刊行物の組織を通して情報の計画的交換を行うこと
- プロジェクトと計画の業績について、独立した科学的、戦略的な評定を行うこと。
 

: http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/8442/doc/gakusai/gakusai.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
 
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