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情報:農業と環境
No.37 2003.5.1

No.37

・第5回環境研究機関連絡会が開催された

・農業環境研究にかかわる日本・中国・韓国共催の
     国際ワークショップが開催された

・エネルギーの消費と人口の増加

・バングラデシュにおける米のヒ素汚染

・欧州で開発された8つの農薬環境リスク指標の比較と評価

・農業環境技術研究所案内(7):遺伝子組換え植物隔離圃場

・本の紹介 110:日本農業害虫大辞典、
     梅谷献二・岡田利承編、
     全国農村教育協会(2003)

・本の紹介 111:地球温暖化研究の最前線
     −環境の世紀の知と技術2002−、
     総合科学技術会議環境担当議員・
     内閣府政策統括官共編(2003)

・本の紹介 112:環境と農業、
     西尾道徳・守山 弘・松本重男編著、
     農文協(2003)

・本の紹介 113:講座「文明と環境」、
     第2巻、地球と文明の画期、
     伊東俊太郎・安田喜憲編集、朝倉書店(1996)

・本の紹介 114:環境・人口問題と食料生産
     −調和の途をアジアから探る−、
     渡部忠世・海田能宏編著、農文協(2003)

・本の紹介 115:世界の森林破壊を追う−緑と人の歴史と未来−、
     石 弘之著、朝日新聞社(2003)

・報告書の紹介:研究成果410、
     ダイオキシン類の野菜等農作物可食部への
      付着・吸収実態の解明、
     農林水産技術会議事務局(2003)

・研究、技術開発およびデモンストレーションのための個別計画
     「欧州研究圏の統合、強化」(2002-2006)の決定
      −その1−


 
 

第5回環境研究機関連絡会が開催された
 
 
 当所は平成14年10月から1年間、国立環境研究所に引き続き環境研究機関連絡会(略称:10所連絡会)事務局を務めている。第5回環境研究機関連絡会を以下の通り開催した。
 
日 時 平成15年4月18日(金)14:00〜17:00
場 所 (独)農業環境技術研究所 来賓室
出席者



 
(独)防災科学技術研究所・(独)森林総合研究所・
(独)水産総合研究センター・(独)産業技術総合研究所・
 国土交通省気象研究所・国土交通省国土技術政策総合研究所・
(独)港湾空港技術研究所・(独)土木研究所・
(独)国立環境研究所・(独)農業環境技術研究所
 
議事内容
1.(独)農業環境技術研究所理事長 あいさつ
 
2.近況報告と主要な14年度の研究紹介
 14年度の組織変更および行事、15年度の行事予定および最近の研究トピックスなどが、各研究所から紹介された。
 
3.研究成果合同発表会の開催
 平成15年7月24〜25、28〜30日の間の1日間、つくば国際会議場で「研究成果合同発表会」を開催する。各研究所でそれぞれ1題の発表を行う。
 
4.(独)建築研究所の入会希望
 入会に対して賛否両論があった。その内容を建築研究所に報告し、入会の可否は次回の連絡会で決定することになった。
 
5.所内研究施設見学
 温室効果ガス発生抑制施設・ミニ農村を紹介した。
 
 

農業環境研究にかかわる日本・中国・韓国共催の
国際ワークショップが開催された

 
 
 「情報:農業と環境」のNo.34 (http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn034.html#03401)で紹介した国際ワークショップ「東アジアの農業生態系における物質循環と環境影響評価 −国際共同研究に向けて−」が、平成15年3月25日から27日まで、「つくば国際会議場(エポカルつくば)」で開催された。国の内外を含めた参加人数は、139名であった。
 
 このワークショップは、農業環境研究を行っている日本、中国および韓国の3つの研究所の間の研究協力の第一段階として位置づけられ、3カ国の研究者が、東アジアの農業生態系における物質循環の不均衡をはじめとするさまざまな環境問題と研究の現状を紹介し、環境影響のよりよい解決をもとめて、実行可能かつ効果的な共同研究の行方を討論することを目的として開催されたものである。
 
 基調講演を含め全部で28の課題について講演を行い、最後に今後の研究協力に関する総合討論を行った。プログラムの概要は次の通りである。
 
 
1.Opening and Keynote Address 陽 捷行
 
2.トピックA Regional Agriculture and Environment in East Asia 3題
  座長 石井 康雄
 
3.トピックB Greenhouse Gas Emission and Sequestration in Agro-Ecosystem 6題
  座長 野内 勇・楊 林章(南京土壌研究所)
 
4.トピックC Cycling of Farm Chemicals in Agro-Ecosystem 10題
  座長 加藤 英孝・高 文煥(農業科学技術院)
 
5.トピックD GMO, Bio-Remediation and Bio-Diversity 4題
  座長 岡 三徳・朱 建国(南京土壌研究所)
 
6.トピックE Construction of Environmental Resources Inventory and Its Utilization 4題
  座長 上沢 正志・鄭 弼均(農業科学技術院)
 
7.Discussion for Future Cooperation
  座長 今井 秀夫
 
8.Closing 楊 林章(南京土壌研究所)
 
 
 中国科学院土壌科学研究所から8名、韓国農業振興庁農業科学技術院から5名を日本に招へいし、両国からの14題に加え農環研から13題の研究発表を行った。おもにメタンおよび亜酸化窒素の発生抑制や高二酸化炭素濃度の作物への影響、重金属やダイオキシンによる土壌汚染・水質悪化、導入・侵入生物や遺伝子組換え作物の拡散と安全性、農業環境インベントリーの構築と活用に焦点をあて、討議した。
 
 最後に、3カ国の今後の研究協力を中心とした討議を行い、「アセアン+3」諸国のなかで日本・中国・韓国がリーダーシップを発揮して農業環境問題を解決する重要性を認識するとともに、次回のワークショップは中国がホスト国となって開催する方針を取り決めた。また、この国際ワークショップの成果は、後日、当所の刊行物として公表する予定である。
 
 なお、プロシーディング(英語版)を希望される方は、まだ残部があるので、当所の地球環境部長:林 陽生(電話:029-838-8200)にご連絡いただきたい。
 
 

エネルギーの消費と人口の増加
 
 
1.人間によるエネルギーの消費
 20世紀の100年間に、人間圏は少なくとも4倍に拡大した。20世紀初頭の世界人口は15億人であったが、20世紀末には60億人に達した。2025年の世界人口は、80億人に達すると見積もられている。
 
 松井孝典は指摘する。1人の人間は、エネルギー代謝からみた場合、1頭のゾウに匹敵する。ゾウは草食動物だから、植物を食べて自らの生活に必要なエネルギーを得てそれを日常の行動や生理現象のなかで消費していく。ゾウを養っている植物は、太陽エネルギーを使う光化学反応によって生活に必要なエネルギーを得ている。ゾウは体重が1トンを超えるので、その生存に必要な代謝エネルギーは、人間の10倍以上になる。
 
 人間は雑食であるから、穀物以外に養育した動・植・魚類を食べる。その養育にも多大なエネルギーが消耗される。合計すると、膨大なエネルギーを消費することになる。そのうえ、食料のほかに衣と住と娯楽のためにも大量のエネルギーを必要としている。
 
 このことが、地球システムの物質やエネルギーの流れを変え、そのために環境が変わる。地球システムにおけるエネルギーや物質の流れの乱れが、人間圏に対する影響となって返ってきたのが環境問題である。そこで、産経新聞に平成15年2月17日から連載された「エネルギー新世紀」などを参考に、現在のエネルギー問題を追ってみる。
 
2.化石に依存するエネルギー
 火と道具と動物のエネルギーを活用して、人間は1万年前に人間圏を確立した。その後、薪炭・水車・風車・石炭・石油・天然ガス・太陽・原子力などの活用に伴って、世界全体のエネルギー消費は増大し続け、とどまるところを知らない。
 
 最近公表された国際エネルギー機関(IEA)の長期予測によると、2030年の世界全体のエネルギー需要は、現在の約1.7倍になるという。これを石油に換算すると153億トンに相当する。そのうち化石燃料(石油、石炭、天然ガス)の占める割合は、90%である。発電による電力量の伸びはさらに大きく、2030年には現在の2倍になり、そのなかで化石燃料による発電は70%を占める。このようなエネルギー消費に伴って発生する二酸化炭素(CO)の量は、放っておけば現在より70%も増え、381億トンに達するという。この値は、1990年比で90%の増加に相当する。
 
 化石燃料は有限であるから、いずれ枯渇する。石油は、枯渇するはるか前にその生産量がピークに達する。そのピークは早くて7年後、遅くとも27年後ごろと見積もられている。それ以降、生産量は減少して石油価格が高騰する。
 
 世界はCOP3の京都議定書に基づいて、協力して地球の温暖化に対処すべく、化石燃料などから発生するCOをはじめとするCHやNOなどの温室効果ガスの削減を図ることになった。2010年以降は、発展途上国も組み入れたさらに厳しい削減目標の設定が避けられない現状にある。それは、アジア地域のエネルギー消費が急増しているからである。
 
 後でも述べるが、FAOの予測によれば、現在63億人の世界人口は、石油が枯渇する2030年には83億に達する。また、現在50億人近くの途上国の人口は、2015年に58億、2030年には67億になる。アジア地域のエネルギー消費は、ますます増大することになる。いずれにしても化石燃料はそのうち枯渇するから、われわれ人類は、早晩この膨大なエネルギー消費を原子力エネルギーと水力、地熱、太陽、風力、バイオマス資源などの再生可能なエネルギーに依存するしかない。わが国でもこのことを見通して、すでにバイオマスに関するプロジェクト研究が展開されている。
 
 産業革命、とくに1950年以降の現代文明を支えてきた化石燃料の大量消費は、人類に生活の利便さ・快適さ・ゆとりを与えるとともに、人口の急激な増加をもたらした。しかし、このことにより、われわれ人類は地球環境の保全の必要性と資源の有限性に気づいた。そして、人類の来し方行く末を考えると、エネルギー利用の方向転換をせざるを得ない現実に迫られている。もちろん低価格で安定したエネルギーを、増加しつつある世界のひとびとの生活に供給しなければならない現実も一方では厳然としてある。
 
3.アジアのエネルギー消費の増加
 日本のエネルギー消費量は1997年には石油換算で5億トンであった。この年、日本を除くアジア地域の消費量は年間18億トンであった。しかし国際エネルギー機関(IEA)は、2010年の消費量は30億トン、2020年には41億トンに達すると予測している。これは、経済成長に伴って中国とインドの産業・運輸・家庭・職場部門が増加するためである。21世紀半ばになると、世界の3人に1人は、インド人か中国人になる。アジア地域のエネルギー消費が急増する所以(ゆえん)である。
 
 アジア地域の一人当たりの1999年の一次エネルギー消費は0.7トンで、クルマ社会の米国の1割にも満たない。経済協力開発機構(OECD)の平均の4.7トンに比べても7分の1程度である。
 
 今後、中国やインドに工場や情報技術(IT)ソフト開発センターなどが集中して設立されると、豊かになった人々が自動車を買い求め、衣食住を充実させるであろう。エネルギーの消費量は、ますます増大する。1999年のアジア地域における部門別の最終エネルギー消費構成比率は、産業、運輸、民政・農業でそれぞれ48%、23%、26%である。OECD平均に比べると、いずれもほぼ3分1の割合である。
 
 発展途上のどの国でも、まず工業化で産業部門のエネルギー消費が増える。同時に物流・交通が発達する。国民の所得が増えるに伴い、自動車や家電製品が普及する。こうして運輸や民生部門のエネルギー消費も増加し、最終的には、先進国と同じ消費構造に向かう。
 
 このような爆発するアジアのエネルギー需要に対し、世界は十分なエネルギーを供給できるのであろうか。世界の石油供給量は、最も多くの合意が得られる予想でも2020年をピークに減少する。アジア地域の石油資源はもともと豊富ではない。1980年代には石油輸出国だった中国が、1990年代には輸入国に転じた。その中国も、今後急速に中東への原油依存を高めざるを得ない。
 
4.日本のエネルギー消費
 わが国はこのように急増するアジアの消費に対して、温暖化を含むあらゆる地球環境問題を配慮し、率先してエネルギー自給率を高める必要がある。同時に、中国はじめアジア諸国との間で、省エネ技術の普及、新エネルギー源の共同開発、エネルギー流通について協力体制を築くことが重要になってくるであろう。
 
 電力・ガソリンのような二次エネルギーを生産するのに使う化石燃料・原子力・再生可能エネルギーなど、わが国の一次エネルギーの消費量は、第一次石油危機前の1970年に石油換算で3億2千2百万トンであった。これが、2000年には5億3千5百万トンに増加した。今後の一次エネルギーの総消費量は、頭打ちの傾向になる見通しである。日本エネルギー経済研究所(IEEJ)では、2020年時点で5億6千5百万トンになると予想している。
 
 日本のエネルギー政策は、第一次石油危機以降、石油の割合を減らし、天然ガスと原子力を積極的に利用して需要拡大に対応してきた。このようにエネルギー源の多様化は成功した。石油の割合は、第一次石油危機前の80%から現在の50%に減少した。政府は2010年の目途を45%にしている。一次エネルギーのうち電力に回る割合を示す電化率は高まり、電力消費量は増加し続けると見られている。日本にとって大きな課題の一つは、約20%しかない一次エネルギーの自給率を向上していくことである。
 
 環境保全の立場からは、化石燃料の燃焼に伴って発生するCOを削減しなければならない。1990年に2億8千7百万トンだったCOの排出量は、2000年に3億1千7百万トンにまで拡大した。政府は2010年の排出量を1990年水準に抑えることを目標にしている。しかし、達成はほとんど無理であろう。原子力エネルギーと再生可能エネルギーの割合を増すことが不可欠になろう。
 
5.米国のエネルギー消費
 米国はエネルギーの最大の消費国である。一国だけで石油換算にして年間23億トン、世界の全エネルギー生産量(88億トン)の4分の1を消費し、世界の発電電力量の3分の1を消費している。1人当たりの消費量は、日本人の2倍に相当する。今後とも、米国のエネルギー需要は増大していくであろう。
 
 米国には石炭と天然ガスが豊富にあるため、エネルギー自給率は74%と高いが、石油に限っていえば、自給率は42%にとどまっている。このままでは、2020年に30%にまで落ち込むと予測されている。2000年の実績によれば、電力の燃料構成は、石炭52%、原子力20%、天然ガス16%などである。石炭は100%自給しており、電力の第一の源になっている。
 
 第二の源は原子力である。全米で104基の原子力発電所が稼働中で、稼働率は90%という高率を誇っている。世界トップクラスの原子力発電国である。天然ガスの自給率は84%で、20年後には総電力量の33%に達すると予測されている。
 
 米国では、今後20年間で電力需要は45%伸びると予測されている。電源の多様化と増大する電力需要に備えるため、環境問題などを背景に停滞してきた新規発電所の建設が、今後は強く促進されていくことになるであろう。
 
6.EUのエネルギー消費
 欧州連合(EU)15カ国は、それぞれ自国産エネルギーを中心とするエネルギー構成を持っている。イギリスは北海油田をもつ産油国で、エネルギー自給率は120%である。ドイツは豊富な石炭層の上に位置しているため、国内で消費されるエネルギーの24%が石炭で、自給率40%を維持している。発電量の半分は石炭からで、原子力発電所の段階的廃絶を決めている。化石資源をもたないフランスは、第一次石油危機以降、原子力に傾倒した。いまや総発電量の約80%を原子力発電から得て、EU域内で最も安い電力を国民に提供し、周辺国へ電力を輸出している。エネルギー自給率は51%である。
 
 EU域内で消費される一次エネルギーは、化石燃料が80%、原子力と再生可能エネルギーが20%である。発電電力量のうち、化石燃料および原子力と再生可能エネルギーがそれぞれ50%である。EUの一次エネルギーの輸入比率は50%である。石油の75%を輸入し、天然ガスの40%をロシアから輸入している。
 
 国際エネルギー機関(IEA)の見通しによると、2020年時点でのEUの石油および天然ガスの輸入依存度は、それぞれ90%および70%に高まる。これまでエネルギー市場の統合を進めて来た欧州委員会(EUの行政機関)は、この将来予測に危機感を持ち、2000年末にEU域内のエネルギー安全保障に関するグリーンペーパー(協議用文書)を発表した。さらに昨年の最終報告書では、EU全体のエネルギー安全保障をにらんだ共通政策の方向性を示した。
 
 そこでは、2010年までに再生可能エネルギーを電力量の22%、一次エネルギーの12%(そのうちバイオマス=生物資源=燃料が半分)にする目標を指示した。地球温暖化防止(京都議定書の遵守)とエネルギー供給の安全保障のため、原子力の重要性を指摘し、天然ガス備蓄の必要性やクリーンコールテクノロジー(石炭)利用の推進も盛り込んでいる。
 
7.中国のエネルギー消費と環境問題
 中国は、米国に次ぐ世界第2位のエネルギー消費国である。2000年の実績によれば、発電の78%は石炭火力による。国際エネルギー機関(IEA)の見通しでは、2030年の中国の一次エネルギー需要は、現在の2.2倍の21.3億トンとなり、世界の14%を占める。18.1億トンの欧州連合を上回る。もう一つの人口大国インド(9.7億トン)比でも2倍強である。その内訳は石油換算(トン)にして石炭で12.8億トン、石油で5.8億トン、天然ガスで1.5億トン、原子力で0.6億トンという供給構造となる。
 
 中国は、米国とロシアに次ぐ世界第3位のエネルギー生産国でもある。とくに石炭は、世界最大の生産国で、2000年には世界の28%に当たる6.6億石油換算トンを生産している。原油の生産量は、2000年に320万バレル/日で、世界の4%を占めている。しかし、2030年の供給力は210万バレル/日に低下する見通しであるから、輸入依存度は80%強へと急上昇することになる。
 
 環境問題を見てみよう。中国は、世界第二位の二酸化炭素(CO)排出国である。これは、発電設備や工業炉の熱効率が悪く、燃料の中でもCOの排出量が多い石炭への依存度が極端に高いためである。化石燃料の燃焼に伴う環境問題は、中国でさらに深刻化している。とくに硫黄酸化物(SO)や窒素酸化物(NO)による大気汚染は都市部で激化している。1998年の世界保健機関(WHO)の調査では、世界の大気汚染ワースト10の都市のなかに、中国の都市が7つも入っている。
 
 中国は1996年に公害防止措置を提案し、その後も対策を強化している。1998年以降は、安全性の問題もあり、4万7千以上の小さな炭鉱を閉鎖した。また、石炭消費の抑制やクリーンな天然ガスへの転換、発電施設や工場への公害防止機器の装着、あるいは非効率な工場の閉鎖などで、大気汚染の問題は少しは緩和された。
 
 しかし、経済成長により今後も石炭火力に極端に依存した電力需要の拡大は続き、モータリゼーションによる石油消費の急増による影響は激化するであろう。従って、中国のCO排出量は今後も着実に増加し、2000年の31億トンから2030年には米国・カナダ両国合計の83億トンに次ぐ67億トン(世界の18%)に達する見通しである。
 
 国際エネルギー機関(IEA)は、このままだと今後30年間で世界のCO排出量が7割増えるとみている。そのうち、経済協力開発機構(OECD)諸国全体の増加量が40億トンなのに対して、中国だけで36億トンにのぼると予想している。
 
8.ロシアのエネルギー消費
 ロシアはエネルギー資源については大国である。世界の天然資源の確認埋蔵量のうち、ロシアのシェアは天然ガスが31%(世界1)、原油が14%(世界2位)、石炭が16%である。国際エネルギー機関(IEA)は、2020年には2000年比で37%増(電力の伸びは60%)と予測している。
 
 ロシアのエネルギー自給率は160%にものぼり、輸出総額の50%強が石油、石炭、天然ガスによる。ほとんどの原油輸出と天然ガス輸出の60%は欧州向けで、欧州連合(EU)にとってもロシアへの依存度(石油で4分の1、天然ガスで40%以上)は高い。
 
9.将来の石油生産
 2001年の世界の石油生産および消費量は、年間約272億バレル(40億トン)である。国際エネルギー機関(IEA)の見通しでは、2020年には約380億バレル(56億トン)になる。この間の年平均伸び率は約1.6%である。引き続き中東の生産割合が高く36%を占めると予想されている。
 
 一方、2020年の消費の地域別割合は、中国が9%、日中韓以外のアジアと中南米・アフリカ合計が24%に拡大すると予想される。2000年の割合は、それぞれ6.5%および18%であった。中国の消費は日本の倍近くになり、しかも7割以上が輸入に依存することになるであろう。
 
 採掘が可能と考えられる石油資源の総量は、調査研究の間でかなりの幅がある。一般的には、数兆バレルというのが一つの目安になっている。一方、石油生産のピークについては多くの研究がある。生産のピークは、2010〜30年ごろとする予測が大半である。さらに2010年以降、化石燃料の燃焼による炭酸ガス排出規制がますます厳しくなることからも、石油生産は冒頭の予測よりは下方修正される傾向にあるとの見方も強い。アジアの需要が増加している背景に、石油のひっ迫も予想され、今後世界的に石油消費を抑え、石油以外への燃料に転換したり、非在来型石油を開発したりする動きが進むであろう。
 
10.二酸化炭素の削減
 京都で1997年に開催された「気候変動枠組み条約第3回締約国会議(略称COP3)」において、先進各国は2008年から2012年までの間に、温暖化ガス排出量を平均1990年比の5%削減(日本:6%)することを約束し、議定書にこれをまとめた。その後、米国はこれを拒否したが日本は批准し、今年の夏には発効する見通しである。
 
 この目標を達成するには、エネルギー消費に伴い発生する二酸化炭素(CO)について言うならば、先進各国が平均で90年レベルまで減らす必要がある。国際エネルギー機関(IEA)の見通しでは、世界全体のCO排出量は、2000年に90年比の13%増、2010年に同36%増、2030年に同90%増に拡大する。経済協力開発機構(OECD)諸国の2010年の排出量は、目標値を29%上回る。さらに、2000年から2030年の間の途上国の増加分は、OECD諸国の増加量の2.6倍に相当する。
 
 仮に今後の排出量を90年レベルに抑えたとしても、大気中のCO濃度は、今世紀末に500ppmになると推定されている。この濃度を維持すること自体が至難の業であるが、それしか地球温暖化を防ぐ手立てはない。燃料の源を抜本的に転換するか、技術革新によるエネルギー利用システムの改革を行う以外に解決の道はない。
 
11.温暖化と炭素税
 21世紀に入って、地球温暖化の現象はますます、その深刻度を深めてきたことは衆目の一致するところである。地球温暖化の原因は、主として先進工業国の経済活動にある。その被害はもっぱら、発展途上国が背負わなければならない。また地球温暖化は、現在の世代の経済活動によって引き起こされ、その被害はもっぱら将来の世代がこうむる。地球温暖化の問題は、このように国際間の公正にかかわるとともに、世代間の公正とも、重要なかかわりをもつ。
 
 この現象を制止するのにもっとも効果的な手段は、炭素税の制度である。これは、二酸化炭素の排出に対して、炭素含量1トン当たり何円という形で課税しようとするものである。炭素税の制度を世界で最初に本格的に導入したのは、スウェーデンである。われわれはここから多くを学ばなければならない。とくに比例的炭素税の考え方は重要であろう。このほか、比例的環境税や大気安定化国際基金などの考え方の導入が必要であろう。
 
12.そのうえ、人口は増加の一途をたどる
 エネルギー消費と温暖化と炭素税のことを述べてきた。問題をさらに深刻にしているのは、絶え間ない人口の増加である。
 
 世界の人口は、文明の発祥以来数千年にわたって緩慢な増加を続けたが、産業革命が始まった18世紀半ば以降急増し、1960年ごろに30億人を超え、2000年には61億人に達した。国連は世界人口の将来について3通りの仮定を設けている。そのうち最も可能性が高いとされる中位推計によれば、2050年には93億人(高位推計は109億人、低位推計は79億人)に達する見通しである。
 
 世界人口の増加速度は、最も急速だった1960年代後半(年率平均2.04%)から近年減速してきた(同1.35%)。とはいえ、毎年の増加数は約8000万人にのぼる。21世紀半ばまでにさらに30億人前後が加わることは、地球の資源、エネルギーおよび環境問題にますます重大な影響を及ぼす。今後、地球の環境資源と、エネルギーと、人口と、経済と、環境問題は、いっさい切り離して考えてはいけないのである。これは、われわれ世代が背負っている最も過酷な課題なのである。
 
 

バングラデシュにおける米のヒ素汚染
 
 
 バングラデシュにおいて米の深刻なヒ素汚染が報告されている。バングラデシュとインドとにまたがる西ベンガル地域では、住民の多くがヒ素に汚染された地下水を飲料水や生活用水に用いている。その結果、皮膚や内臓の疾患、さらには癌(がん)などの健康被害が懸念されている。すでに、数十万人が皮膚疾患にかかっていると見られ、こうした事態に世界保健機関(WHO)も強い警告を発している。
 
 これまで、地下水の汚染調査や飲用による健康影響に関する調査が、様々な機関により実施されてきた。一方、バングラデシュでは米が主食であり、地下水を水田の灌漑(かんがい)用水としても用いている。このため、米にヒ素が蓄積し、これを摂取することによる人体へのヒ素吸収が懸念される。
 
 今年1月、アバディーン大学のA. Mehargらの研究グループは、バングラデシュ全域における水田土壌および米中のヒ素の濃度を測定し、米国化学会の Environmental Science & Technology 誌 Vol. 37(2)、(2003)に発表した。
 
 これによれば、水田土壌中のヒ素濃度は、地下水中のヒ素濃度が高いほど、井戸の設置時期が古いほど高くなる傾向があるが、最高で非汚染地域の約5倍のヒ素濃度が検出された。また、米のヒ素濃度は最大1.83μg/gと、非汚染地域に比べて1〜2けた高かった。
 
 さらに、同グループは、地下水と米の摂取によるヒ素吸収の割合を計算している。結果は、両者のヒ素濃度によって異なるが、米の摂取による寄与は地下水の摂取による寄与と概(おおむ)ね同じオーダーであり、重要なヒ素吸収経路として考慮する必要性が明らかになった。
 
 この地域は生活水準が低く、公衆衛生に対する意識も希薄であり、事態の把握や対策は遅れている。また、汚染されている地域は広く、表流水を地下水の代わりに利用するための社会資本整備には膨大な資金がかかることなどから、解決の糸口を見いだせないでいるのが現状である。わが国としても、この未曾有(みぞう)の状況の解決に向け、国際プロジェクトへの参加や、簡便で低コストのヒ素除去技術の開発などに積極的に取り組んでいくことが望まれる。
 
 

欧州で開発された8つの農薬環境リスク指標の比較と評価
 
Comparison and evaluation of eight pesticide environmental risk indicators
developed in Europe and recommendations for future use
J. Reus et al.
Agriculture, Ecosystems and Environment, 90, 177-187 (2002)
 
 農業環境技術研究所は、農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに、侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって、生態系のかく乱防止、生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の一つとしている。このため、農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが、今回は、欧州において開発、使用されている農薬環境リスク指標による影響評価についての論文を紹介する。
 
(要約)
 
 農薬に対するリスク指標を効果的に使用して農薬の環境影響を抑制するためには、それらの指標に関する情報が必要である。この研究は、欧州で開発された8つの農薬リスク指標を比較、評価し、これらの指標の今後の利用と統一化について提案するために実施された。
 
 対象とした8つの指標は、欧州の8か国でそれぞれ開発されたもので、目的や規模に違いがあった。また、対象とする領域(地表水、地下水、土壌、空気)、影響(人の健康、水生生物、土壌生物、生物濃縮、ミツバチ)および環境影響スコアの算出方法も異なっていた。土壌中の農薬の残留性と移動性、水生生物と土壌生物への毒性が、多くの指標で用いられていた。一部の指標は、スコアを計算するために複雑なコンピュータモデルを使っていたが、他のものでは、もっと簡易な手順を使っていた。
 
 15種類の農薬(殺虫剤5、殺菌剤5、除草剤5)を使用して、各指標による環境リスク評価を行った。農薬の種類数が少ないため、十分な差のある結果が出なかった指標1つを除いて、7つの指標についての結果を比較した。指標によってスコアの表示方法がまったく異なっていたため、スコアの順位相関によって解析を行った。
 
 各農薬についての環境影響評価の総合スコアの順位は、指標によって異なっていた。これは、扱っている環境領域が指標ごとに大きく違うことによると説明できる。地表水、地下水、土壌など個別の領域での環境影響スコアは、各指標で同様な順位が示された。各農薬の「有効成分のキログラム値」を指標とした順位は、リスク指標による順位とほとんど関連がなかった。
 
 リスク指標は、農薬の環境影響を軽減するための有用な道具と考えられる。農家が判断の基準として使用できる科学的なリスク指標の枠組みを開発することが、EUにおける農薬リスク指標の協調と使用の促進のために必要である。
 
 

農業環境技術研究所案内(7):遺伝子組換え植物隔離圃場
 
 
隔離圃場の全容
 フェンスと樹木で囲まれた正方形の土地が、研究所の敷地の南にある。面積が約80aのこの場所を訪れるのは容易でない。研究所の正面玄関から左に車で稲荷川を渡り、別棟や温室を眺め、防風林を南下し、トウモロコシや麦畑の間をぬってこの圃場(ほじょう)にたどり着く。少なくとも4分はかかる。道を間違えると10分とみても差し支えない。大切なお客を連れて行くときは、頭に地図をよく銘記しておく必要がある。
 
 ようやく到着したこの場所が、研究所構内に野外で遺伝子組換え植物の影響評価とその安全性を評価するために設置された「遺伝子組換え植物隔離圃場」である。この敷地の周辺は、高さ5〜10mの防風林で囲まれ、内部には7aの試験圃場(1カ所)、3aの試験圃場(4カ所)、2.5aの水田(2カ所)が設置されている。このほか作業区域内には、実験棟、機材庫、ビニールハウス、廃水処理用沈殿槽・貯留槽、焼却炉などが整備されている。
 
 このような隔離された屋外の試験圃場が設置された理由は、「農林水産分野における組換え体の利用のための指針」に基づいている。ここには、(1)関係者以外の立ち入りを規制するためのフェンスの設置、(2)隔離圃場内で組換え植物等を処分するための焼却施設、(3)人の履き物や機械に付着して土壌等が隔離圃場から外に出ないようにする洗浄施設と、洗浄水の土壌懸濁(けんだく)物質等をトラップする沈殿槽が設置されている。
 
 また、ここでは遺伝子組換え植物の栽培に当たって、隔離圃場から種子を含む植物体の圃場外への流出や花粉の飛散を抑制するため、隔離用防風林を設けている。水田施設には、縦1.25m、横10mの短冊形のコンクリート枠3枚が配置されている。そこで使用された灌漑(かんがい)水は、貯留槽で土壌懸濁物質を沈殿させた後、上澄み液を排水する仕組みになっている。遺伝子組換え植物を焼却処分するための再燃焼型焼却炉が、平成14年(2002)に更新された。
 
遺伝子組換え実験と規制
 ワトソンとクリックがDNA二重ラセン構造を解明したのは、今からちょうど50年前のことである。分子生物学はこの時点から飛躍的な発展をとげた。それから20年後の1973年、いまから30年前、コーエンとボイヤーは、大腸菌の遺伝子に黄色ブドウ球菌の遺伝子を組み込み、遺伝子組換えの基礎技術を開発した。
 
 人間によって、これまでになかった特性を持つ生物が作出されるようになったため、遺伝子組換え技術の取り扱いには慎重な対応が求められるようになった。1975年、遺伝子組換え技術の安全性にかかわる世界で最初の会議が、カリフォルニアのアシロマで開催された。そこでは、各国が遺伝子組換え研究の実験指針を設け、自主規制による安全性の確保を図ることが決議された。
 
 アメリカの国立衛生研究所(NIH)で、1976年に実験指針が公布されたのを契機に、各国で実験指針が公表されはじめた。わが国では、昭和54年(1979)に「組換えDNA実験指針」が内閣総理大臣名で決定された。平成元年(1989)には、「農林水産分野における組換え体の利用のための指針」(農林水産省事務次官依命通達)が示されたことによって、組換え植物の閉鎖系および半閉鎖系実験(文部科学技術省の指針に基づく)と、その後に行われる模擬的環境および開放系における栽培実験の流れが公的に定められた。
 
 この指針には、ある組換え植物の模擬的環境における栽培試験を行うための場として、組換え体隔離圃場の設置基準が示されている。当所の「組換え植物隔離圃場」も、この設置基準を満たしたものである。
 
隔離圃場の来歴
 農業環境技術研究所の前身である農業技術研究所は、昭和54年(1979)に東京都北区西ヶ原から現在のつくば市観音台に移転した。この農業技術研究所の移転にともなって、トウモロコシやアブラナ科植物の遺伝学的研究のための試験圃場が設置された。これは、外からの花粉の飛散によって自然交雑が起こらないように、既存の林を利用して造成した採種用の試験圃場であった。平成2年(1990)に、この圃場の約半分の面積をフェンスで囲み、上記の指針に沿って設置したのが当所の遺伝子組換え隔離圃場である。これは、わが国ではじめて農林水産省が認可した遺伝子組換え植物の隔離圃場になった
 
 その後、この種の隔離圃場が全国に設置され、今では全国に19カ所設置されている。内訳は、独立行政法人研究機関7カ所、公立研究機関4カ所、民間機関8カ所である。農作物の生育特性や地域特性に応じて安全性の確認が全国規模で行われている。
 
遺伝子組換え農作物の環境影響評価
 遺伝子組換え技術の進展に伴って、病害虫や除草剤に強い農作物が数多く作られはじめた。今では世界中の栽培面積は5,000万ヘクタールを超える。他方、不良な環境にも生育できる農作物や、ビタミンA含量の高い農作物の開発も進められている。こうした組換え農作物の開発、導入、栽培に際して、その安全性とともに環境への影響を適正に評価することが重要になっている。
 
 そのためには、組換え体植物の環境に対する安全性評価が必要である。評価項目は次の3つの項目からなる。(1)導入遺伝子の存在様式および安定的発現、(2)形態および生育特性、(3)環境(生態系)への影響。これらの評価項目は、評価対象とする組換え植物ごとに逐次検討して選択され、評価項目に沿って、非組換え植物と比較対照することによって、安全性の確認を行う。
 
 概して、輸入を目的とした安全性評価の利用申請に対しては、(1)から(2)までの調査項目を対象とする。一方、開放系栽培を目的とする利用申請には、(3)の項目がさらに加えられることが多い。平成12年3月には、Btトキシンを発現する組換えトウモロコシ(Btトウモロコシ)のうち、花粉でBtトキシンを発現するものの安全性評価が新たに運用として加えられた。それまで、(3)の環境への影響評価では、「周辺植物相への影響」と「土壌微生物相への影響」に限られていたが、「非標的昆虫種への影響」も評価することになったのである。
 
安全性の確認
 遺伝子組換え農作物の安全性評価は、政府が定めた指針にしたがって、いくつかの段階を経て進められている。実験室で遺伝子を組み換えた農作物は、最初に文部科学省の指針に基づいて、気密性の高い閉鎖系温室および半閉鎖系温室で安全性が評価される。次に農林水産省の指針にそって、模擬的な戸外の環境(これが隔離圃場)で、組換え農作物の導入遺伝子の発現、生育特性および環境への影響が評価・確認され、さらに農林水産大臣あてに開放形利用の申請・承認後に一般の圃場での栽培が認められる。最後に、厚生労働省の指針に基づいて、食品の安全性が評価される。ただし、家畜飼料の安全性については、農林水産省の指針にしたがって安全性が評価される。
 
日本で初めての安全性評価とその後
 平成3年(1991)、わが国で初めて模擬的環境における組換えトマトの安全性評価が、この隔離圃場で実施された。タバコモザイクウイルス外被タンパク質遺伝子をもつウイルス病に強いトマトの安全性評価試験であった。
 
 その後、平成13年までに当所で安全性評価を実施した組換え植物は29件に及び、すべてについて安全性が確認された。遺伝子組換え農作物と新たに導入された有用形質は次の通りである。イネ(縞葉枯ウイルス抵抗性・低アレルゲン性・除草剤耐性)、トウモロコシ(除草剤耐性・害虫抵抗性)、ダイズ(除草剤耐性)、アズキ(害虫抵抗性)、トマト(タバコモザイクウイルス抵抗性)、キュウリ(灰色かび病抵抗性)、メロン(キュウリモザイクウイルス抵抗性)、レタス(鉄分高含有量)、ペチュニア(キュウリモザイクウイルス抵抗性)。
 
これからの隔離圃場
 当所は平成14年度に、「組換え植物の模擬的環境利用に係わる隔離ほ場の運営要領」を改正し、隔離圃場で実施する研究を、(1)法人(農環研)が実施する基礎的研究、(2)他の独立行政法人や団体などとの共同研究(農林水産省の指針に基づいた遺伝子組換え植物の安全性評価試験)、および(3)団体などからの受託による研究、の3つに分類している。また平成15年3月18日には、カルタヘナ議定書を批准するための国内法の整備として、新しく「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律案」が国会に提出された。
 
 この法制化とともに、将来、組換え植物の安全性評価を実施する組織(事業ベース)が拡充され、組換え植物の安全性評価手法等を開発する研究が強化されるであろう。今後、当所の隔離圃場では、新たな安全性評価手法などを開発するための研究や、当所以外では実施が困難な安全性項目を含む評価研究、たとえば非標的昆虫や微生物などへの影響を評価する研究などに特化することが必要であろう。さらに、法制化と情報公開に対応して、これまで以上に精度の高い評価試験を実施するための圃場整備を進めることも重要である。
 
参考資料
1)解説シリーズ No.2:遺伝子組換えトマトの環境における安全性評価、農林水産省農業環境技術研究所(平成4年)
2)農林水産分野等における組換え体の利用のための指針関係通知集:農林水産省(平成12年)
3)パンフレット:組換え植物隔離圃場(平成13年)
4)遺伝子組換えトウモロコシの鱗翅目昆虫の影響:松尾和人ほか、農業環境技術研究所報告、第21巻(平成13年)
5)独立行政法人農業環境技術研究所組換え体利用に関する業務安全規則(平成14年改正)
6)独立行政法人農業環境技術研究所組換え植物の模擬的環境利用に係わる隔離ほ場の運営要領(平成14年)
7)遺伝子組換え作物の生態系への影響評価:農業環境研究叢書、第14号、農業環境技術研究所(平成15年)
 
問い合わせ先: 小川恭男(生物環境安全部植生研究グループ長)
  電話:029-838-8243 Eメイル:ogawa@niaes.affrc.go.jp
 
 

本の紹介 110:日本農業害虫大辞典、
梅谷献二・岡田利承編
全国農村教育協会
 (2003)

 
 
 この事典の編者二人は当所の先輩で、昆虫学の大家である。この事典は、「農林有害動物・昆虫名鑑」に登載された種を基本にして、その後に記録された害虫を補完したものである。農作物をはじめ、花卉(き)、庭木、貯蔵植物性食品を含む、いわゆる農業害虫およそ2、000種(のべ約5、000種)を網羅し、それぞれの分野の専門家により、形態・被害・生態・分布などを4,500枚のカラ−写真を挿入しながら解説している。 規模といい見やすさ・豪華さといい類を見ない画期的な大事典である。
 
 この大事典の特徴は、次の通りである。
1.「第I部−作物別害虫解説」、「第II部−主要害虫群の概説」で構成され、60人に及ぶ専門家によって書かれている。
2.第I部では、農作物をはじめ、花卉、庭木、芝、貯穀・貯蔵植物性食品の害虫を含む農業害虫が採録されている
3.害虫個々の形態、被害、生態、分布等の必要な情報が、要領よく、平易に記述されている。
4.害虫が作物ごとに記載されているので、害虫名がわからないときでも、調べたい害虫を容易に検索できる。
5.種の形態や被害を的確にとらえたカラー写真が挿入されているので、文字と視覚の両方から、より正確な情報を得ることができる。
6.各害虫には正確な和名と学名が記され、亜種名とその分布も記述されている。
7.第II部では、主要な害虫種15グループについて、形態や食性、習性、性行動、生息環境、主要害虫種(科)の概要など一般的な特性・特徴が記述されている。
8.付記された分類表(学名・和名・英名を併記)で、本事典に採録された害虫の分類上の位置付けを容易に知ることができる。害虫和名索引、学名(英名を含む)索引も完備している。
 
 

本の紹介 111:地球温暖化研究の最前線
−環境の世紀の知と技術2002−、
総合科学技術会議環境担当議員・
内閣府政策統括官 共編

(2003)
 
 
 さまざまな環境分野の研究者が手弁当でアメリカのマサチューセッツ州にあるハーバード大学に集まったのは、紅葉が始まる雨の降る1989年の10月のことであった。ここに集まった研究者の多くは、今では世界の環境研究のリーダーになっている。IPCCの議長になった Watson、カリフォルニア大学アーバイン校の学長 Cicerone、ほかにもAndreaeHarrisHoughton など著名な学者ばかりであった。
 
 この会合の成果は、翌年1990年のIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)の報告書「CLIMATE CHANGE: The IPCC Scientific Assessment」の第1章「Greenhouse Gases and Aerosols」として発行された。この報告書の第1章がもとになり、世界は温暖化の重要性を認識した。その後、IPCCは第2次(1996)、第3次(2001)報告書など数多くの報告書を発行する。
 
 この本は、これらの歴史的な産物の成果を分かりやすくまとめたものである。地球温暖化の最前線を理解するのに便利な書である。地球温暖化問題研究へのわが国の取組み、温暖化問題はどこまで解明されてきたかなどが、分かりやすく図入りで解説されている。内容は以下の通りである。
 
 刊行の辞(石井 紫郎・大熊 健司)
 序(市川 惇信)
 
第1部
 地球温暖化問題研究へのわが国の取り組み(笹野 泰弘・渡邉 信)
 1 地球環境問題新時代の始まり
 2 地球温暖化問題をめぐる問いにどう答えるか
 3 重点化された環境分野の研究開発
 4 地球温暖化研究イニシャティブ
 
第2部
 温暖化問題はどこまで解明されてきたか
 
第1章 地球の温暖化は本当に起こっているのか −地球観測が示すもの−
 1−1 はじめに(小池 勲夫)
 1−2 地球の気候はどのように変化してきたか?(小池 勲夫)
 1−3 気候を変える大きな要因としての大気中の温室効果ガス・エアロゾル濃度は、どのように変化してきたか?これからどうなるか?(井上 元)
 1−4 主な温室効果ガスの陸域と海域での生成源および吸収源
 
第2章 気候モデルと温暖化の予測
 2−1 温暖化予測のあゆみ(松野 太郎・野田 彰)
 2−2 温暖化予測はどのようにして行われているか
 2−3 温暖化予測研究の世界的な取り組み
 2−4 温暖化予測研究の日本の取り組み
 
第3章 地球温暖化の影響とリスク
 3−1 地球規模の影響(原沢 英夫)
 3−2 日本に対する影響(三村 信男)
 
第4章 温暖化抑制政策の評価(森田 恒幸・西岡 秀三・渡邉 理絵)
 4−1 はじめに
 4−2 100年のシナリオを描く
 4−3 ほぼ見当がついた京都議定書のコスト
 4−4 予想以上に進む技術革新
 4−5 高度化する政策デザイン
 4−6 合意のルールにも新しい知恵
 4−7 判断が難しい対策の損得勘定
 4−8 新たな局面を迎えた抑制政策研究
 
資料1 地球温暖化研究イニシャティブの全体目標、各プログラムの目標、平成14年度登録課題
資料2 「戦略的基礎研究推進事業(CREST)」による気候変動研究分野関連の研究課題
資料3 文部科学省科学研究費補助金による気候変動研究分野関連の研究課題
 
引用文献・略語一覧・索引・執筆者紹介
 
 

本の紹介 112:環境と農業
西尾道徳・守山 弘・松本重男編著、農文協

(2003) ISBN4-540-02271-7
 
 
 この本の題名は「環境と農業」である。このホームページは「情報:農業と環境」である。いずれのタイトルも、われわれの食料を生産する農の営みが、環境と切り離しては存在できないことを主張している。
 
 現在、わたしたちが営んでいる農業と環境の間には、大きく分けて三つの関係がある。ひとつは、農業の活動が環境に及ぼす影響である。たとえば、家畜の頭数が増えるとメタンガスの発生量がふえて地球が温暖化する。また窒素肥料を大量にまくと、地下水が硝酸態チッソによって汚染される。このように農業が営まれることによって環境に悪い影響を及ぼす問題である。
 
 ふたつめは、環境の変化が農業に与える影響である。たとえば、地球の温暖化が進めば南の方にいた害虫が北の方に移動して農業生産を妨げるとか、酸性雨によって農産物が被害を受ける、などといった問題がそれである。
 
 最後は、農業を営みながら環境を保全することである。このことは、農業がもつ多面的機能という言葉で表現されている。水田を考えてみよう。水田には生物多様性を維持する機能や、土壌浸食や土砂崩壊を防止する機能がある。また水を涵養(かんよう)する機能があって、下流の洪水を防止する機能がある。これらの機能を農業活動によってさらに発揮させることが重要である。
 
 この本は、これらの農業と環境のかかわりが詳しく書かれている。もともと農業高校の教科書として書かれたものであるが、農林業を軸にして、日常の生活の場から地球規模にいたる様々な環境について解説した優れた本である。環境と共存できる農林業のあり方を考え、具体的な実践へとつなげていくことに役立つきわめて有用な本である。
 
 この種の教科書は、これまであまり農業と環境のかかわりを取り上げてこなかった。編著者の西尾道徳氏と守山 弘氏のお二人は、当研究所の先輩である。農業と環境の問題を深く考察してこられた人がなし得る教科書とも言える。
 
  目 次
第1章 私たちの暮らしと環境
 1 私たちの暮らしと環境・農業
  1.環境・生命と向きあう時代
  2.環境・環境問題とはなんだろう
  3.環境の保全・創造に向けて
 2 地域の環境といろいろな生態系
  1.生態系と食物連鎖・物質循環
  2.いろいろな生態系とその特徴
第2章 地域環境の調査と発見
 1 生きものをとおして知る地域環境の特徴
   (1) 地域環境の成り立ちと特徴
   (2) 野生生物の変化と地域環境
  1.都市緑地の環境の特徴と生きもの
  2.水辺・水田の環境の特徴と生きもの
  3.畑地の環境の特徴と生きもの
  4.林地・草原の環境の特徴と生きもの
  5.森林の環境の特徴と生きもの
  6.河川の環境の特徴と生きもの
 2 環境調査の実際
  環境調査を始めるにあたって
   (1) なぜ、どうして、を大切に
   (2) 調査の目的と方法を明らかにする
   (3) 計画書の作成、実施、修正、記録
   (4) 調査のまとめと発表、今後の課題
  I 地域の自然環境の調査
   1.地形、地質、景観の調査
   2.気候・気象の調査
   3.土地利用調査
   4.自然度調査
   5.植生調査
   6.樹木の調査
   7.動植物の分布・生息調査
  II 水(水質)の調査
   1.五感による水質調査
   2.水生生物による水質調査
   3.透視度、浮遊物質量の測定
   4.pH(水素イオン濃度)の測定
   5.EC(電気伝導度)の測定
   6.DO(溶存酸素量)の測定
   7.BOD(生化学的酸素要求量)の測定
   8.COD(化学的酸素要求量)の測定
  III 土壌の調査
   1.五感による土壌調査
   2.雑草による土壌の判定
   3.土壌生物の調査
   4.土壌の三相分布の調査
   5.土壌水分、透水性の調査
   6.土壌pH・ECの測定
   7.硝酸性窒素、メタンの調査
  IV 大気・騒音の調査
   1.五感による大気調査
   2.指標植物による大気調査
   3.大気浄化能力の調査
   4.SPM(浮遊粒子状物質)の測定
   5.窒素・硫黄酸化物、酸性雨の調査
   6.騒音・振動の調査
 
第3章 農林業の営みと環境
 1 作物の生育と栽培
  1.作物の成長と一生
  2.体のつくりとはたらき
  3.栽培環境の要素と管理
  4.作物栽培の基本
 2 農業生産と環境
  1.作物生産のあゆみと発展
  2.わが国の農業発展と課題
  3.農業による環境問題
 3 栽培環境と作物生産
  1.大気(気象)環境と作物栽培
  2.土壌環境と作物栽培
  3.生物環境の特徴と作物栽培
  4.耕地生態系の特徴とはたらき
 4 森林・林業と環境保全
  1.森林のもつ機能と環境保全
  2.森林・林業の課題と今後の方向
 5 農業生物の栽培と利用
  1.花壇苗・樹木苗の繁殖と管理
  2.イネの栽培と水田での調査
  3.もみがらくん炭づくり、焼き土づくり
 
第4章 環境の保全と創造
 1 多様な生物による緑地・農地の創造
  1.堆肥づくりと有機栽培
  2.化学農薬を減らした作物栽培
  3.除草剤を使わない作物栽培
  4.耕作田・耕作放棄地などの多面的活用
  5.多様な農業生物、希少植物の維持・増殖
 2 生きものに配慮した環境創造の方法
  1.環境創造の基本的な考え方と手順
  2.水田、かんがい水路、ため池の整備
  3.森林・草原の整備
 3 地域の環境創造プロジェクト
  1.地域の環境改善の考え方
  2.地域の環境創造への発展のさせ方
  3.環境創造プロジェクトの実際
   (1) せん定枝・落ち葉・なまごみの堆肥化による環境整備
   (2) ため池(ビオトープ)による水質浄化
   (3) 渡り鳥がすむ水田環境をつくる
   (4) 鳥や獣に手伝ってもらう林づくり
   (5) 山野草が咲く草地や林の育成、自然公園づくり
 
第5章 環境問題と人間生活
 1 地球規模の環境問題
  1.地球温暖化(気候変動)
  2.オゾン層の破壊
  3.大気汚染と酸性雨
  4.土壌劣化
  5.砂漠化
  6.森林(熱帯林)の減少
  7.生物多様性の減少
 2 環境保全・創造に向けて
  1.農林業・農村のもつ多面的機能の発揮
  2.各分野の環境保全に向けた取組み
  3.地球環境問題の解決に向けて
 
 付 録: 1.環境基準値 2.環境や緑を守る仕事(資格)の例
 索 引
 
 

本の紹介 113:講座「文明と環境」
第2巻、地球と文明の画期、
伊東俊太郎・安田喜憲編集
朝倉書店
(1996) ISBN4-254-10552-5

 
 
 この講座の第1巻は、「情報:農業と環境」のNo.36 (http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn036.html#03608)に紹介した。ここでは続いて、第2巻「地球と文明の画期」を紹介する。この講座は文明と環境とのかかわりについて、さまざまな局面から考察し、環境問題と文明のあり方を反省し、ひいては地球と人類の未来に対して、あり得べき指針を示そうとするシリーズである。
 
 人類が当面しているこのような現代的な課題に立ち向かうには、まず過去において文明と環境とが、いかなる関係にあったかが見定められねばならない。第1巻と第2巻はこの総体的考察に向けられている。すでに紹介したように、第1巻の「地球と文明の周期」は地球環境と文明の周期性をテーマとしたものである。これに対して、第2巻は地球環境と文明の「画期」を主題にしている。
 
 総論Iでは、文明の画期すなわち人類革命、農業革命、都市革命、精神革命、科学革命および環境革命のそれぞれが、どのような地球環境の変動と連関しているかが概観される。ついで総論Uでは、詳しい実証的データに基づき、これらの革命が綿密に検討される。
 
 第I部は「地球環境の画期」の主題が、地球史全体と氷河時代とに分けてとり上げられる。第U部は、各文明圏ごとに、その文明の興亡と画期が現時点の歴史学的・考古学的成果に基づいて論じられる。第V部は、地球と文明の画期が文明論、考古学および人口論の立場から述べられる。
 
 そもそも「地球と文明の画期」というテーマは、新しい研究領域である。とくに人類文明の誕生・展開・衰亡を地球環境の変動との関係において考察するという試みは、まだ十分なされていない。従来の歴史学や考古学においても、事実の確定や記述にとどまっているにすぎない。
 
 この本は、このように過去において研究されていない分野の問題を取り上げた画期的なものである。
目次は次の通りである。
 
総論1 文明の画期と環境変動
  人類革命・農業革命・都市革命・精神革命・科学革命・環境革命
 
総論2 地球と文明の画期
  人類の進化・農耕の誕生と発展・都市文明の誕生と民族移動・世界宗教の誕生・歴史時代の文明の盛衰と地球の画期・地球と文明の画期
 
I.地球環境の画期
 1.地球史の画期
  生命の誕生・原核生物から真核生物へ・単細胞生物から多細胞生物へ・海から陸へ・ペルム紀末の大絶滅・白亜紀末の大絶滅・哺乳類から霊長類へ
 2.氷河時代の画期
  氷河時代の年代スケールと文明・氷河時代を特徴づける現象・後氷期における環境変化・氷河時代の画期
 コラム:植物の進化と環境
 コラム:考古学的年代と炭素14年代の対応
     −−炭素14キャリブレーションカーブ−−
  炭素14年代と歴年代の対応
  炭素14キャリブレーションカーブ
  最終氷期へのキャリブレーション年代域の拡大
  暦年代の推定
  高精度年代測定法:ウイグル・マッチング法
 
II.文明の興亡と画期
 3.エジプト文明盛衰と環境変動
  古代エジプト王朝の興亡・門戸と穀倉
 4.メソポタミア文明の興亡と画期
  洞穴から堅穴住居へ・円形から方形の建物へ・北イラクの初期農耕の発展・文明の黎明期・紀元前2000年紀の転換・文明の衰退
 5.ギリシア文明とその画期
  ギリシアの石器時代・ギリシアの青銅器時代・クレタ島の青銅器文明・ミケーネ文明・ギリシアにおける青銅器文明の終焉・暗黒時代・ポリス世界の始まり・ポリス世界の終焉・ギリシアにおける古代文明と環境破壊
 6.インダス文明の興亡と画期
  文明の背景・文明の成立・インダスの諸都市・構造体としての文明・文明の衰退
 7.メソアメリカ文明の興亡
  メソアメリカ・歴史の変遷・オルメカ文化・オルメカの神・テオティワカン・マヤ文化・ケツァルコアトル・アステカ・自然との共生
 8.中国文明のサイクル−−異文化接合の歴史過程
  農耕複合を基礎にした中国文明・世界システムと中国文明
 9.草原遊牧民文明は成立するのか?
  牧畜の発生・最初の遊牧国家・遊牧国家の発展
 
III.文明興亡のメカニズム
 10.トインビーにおける文明の興亡
  危機意識・文明の興亡
 11.考古学の時代区分と環境
  トムゼンからチャイルドまで・三時期法の検討・日本列島の時代区分・画期をもたらすもの
 12.文明システムの転換−−日本列島を事例として
  生態史観と二系列説・人口圧力−−文明転換のメカニズム・日本人口の長期波動・文明システムの転換・文明転換と外部文明・日本文明史の画期・経済社会化・文明史における「近代」・転換期としての現代
 
あとがき・索引
 
 

本の紹介 114:環境・人口問題と食料生産
−調和の途をアジアから探る−
渡部忠世・海田能宏編著、農文協

(2003)ISBN4-540-02227-X

 
 
 「まえがき」は、次のように始まる。私たちの問題意識は、きわめて単純であるといっておそらく間違いないであろう。20年後あるいは30年後、−それほど遠くもない近未来の地球の上において、果たして人類はその生存に足る食料をなお生産し続けるだろうか。そのことが果たして疑いもなく可能なのであろうか。この問題を、願望などをまじえずに、率直に考えてみたいと思うのである。
 
 財団法人・国際高等研究所は、1998年4月から「環境と食料生産の調和」に関する共同研究班を組織し、これを2001年3月まで3カ年間継続した。研究は委員会方式で、農学の諸分野と環境学のほかに、人口学、文化人類学などの領域から選ばれた12名の委員が年にほぼ5回の会合をもち、関連する諸問題について討議を重ね、さらには、2回の公開セミナーで広く意見を聴取し、報告書を作成した。本書は、その報告書の内容である。
 
 報告書は序章と終章とをあわせて全9章からなる。序章に研究の意図と方法など、第1章に環境、第2〜3章に農業技術、第4章に食料需給バランスの問題点が取り上げられている。中国およびインド・バングラデシュの現地調査結果が第4および5章に述べられている。第7章は、現地調査のまとめとして、21世紀においてアジア農業と農村が目指すところに焦点が当てられている。
 
 本書は、この種の21世紀的課題に対しての、少なくとも日本からする最初のまとまった発言であると思われる。研究会は専門が多岐(農耕文化論、農村開発論、土壌学、昆虫学、農業土木学、熱帯農学、農業経済学、人口学、農耕技術論、文化人類学、地球環境学、地域開発論)にわたる12人のメンバーで構成されている。目次は以下の通りである。
 
まえがき
序 章
 1 研究の出発と経過
 2 アジア認識をめぐる前提−人口、都市、農村
 3 研究の問題意識、目標、手法
 4 本書の内容
 
第1章 アジアの特異性とその環境資源の特質
 1 アジアの特異性
 2 環境資源の特質
 3 おわりに−「アジア」の豊かさと脆さ
 
第2章 20世紀農業の光と影
 1 はじめに
 2 食料需要の見通しが楽観的である根拠
 3 転換期を迎えた科学農業
 
第3章 新しい農業技術への期待と限界
 1 はじめに
 2 期待される農業技術−生物改良・栽培・飼育の視点から
 3 病害虫防除の問題点と新しい防除体制
 4 むすび−楽観と悲観と
 
第4章 世界とアジアの食料需給の分析
 1 世界食料需給バランスの危機と対応戦略
 2 世界食料需給予測の比較検討
 3 アジアにおけるコメの特殊性とその農業政策への含意
 4 先進・途上国間の消費格差
 5 結論
 
第5章 ケース・スタディーからの視点
     中国の場合
 1 はじめに
 2 中国食料危機の予測と反論の検証
 3 中国農業をめぐる最近の研究と農村の変容
 4 中国農業の注目すべき動き
 5 むすび
 
第6章 ケース・スタディーからの視点
     インド・バングラデシュの場合
 1 はじめに
 2 インドの農業政策−ポスト「緑の革命」を目指して
 3 インド農村の現状と苦悩
 4 インドの農業・農村問題のまとめ
 5 バングラデシュの農村を歩いて
 6 バングラデシュにおける一つの試み
 7 この章のまとめ−次章とのつなぎ
 
第7章 複合的循環農業システムと「デサコタ」型農村開発
     ケース・スタディーのまとめとして
 1 はじめに
 2 複合的循環農業システムの構築−「緑の革命」を越えて
 3 「デサコタ」型農村の創設−小都市と村の共存を考える
 4 むすび
 
終 章
 1 はじめに
 2 委員会での論議から−書き残したことなど
 3 最終委員会での共同討議の結論
 
<座談会>研究会を終えて
あとがき
■研究会メンバー (所属は2001年3月、研究会終了時のもの)
 
研究代表者 渡部忠世 京都大学名誉教授(作物学、農耕文化論)
委 員 海田能宏 京都大学東南アジア研究センター教授(農村開発論)
  久馬一剛 滋賀県立大学環境科学部教授(土壌学)
桐谷圭治 農林水産省農業環境技術研究所名誉研究員(昆虫学)
  高瀬国雄 (財)国際開発センター理事(農業土木学)
  高村泰雄 京都大学名誉教授(作物学、熱帯農学)
  辻井 博 京都大学大学院農学研究科教授(農業経済学)

 
坪内良博
 
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授(人口学)
  西尾敏彦 (財)日本特産農産物協会理事長(農耕技術論)
  福井勝義 京都大学総合人間学部教授(文化人類学)
  陽 捷行 農林水産省農業環境技術研究所所長(地球環境学)
  向井史郎 前国際高等研究所特別研究員(地球開発論)
 
 

本の紹介 115:世界の森林破壊を追う
−緑と人の歴史と未来−
石 弘之著、朝日新聞社

(2003)ISBN4-02-259825-5

 
 
 この「情報:農業と環境」で、この著者が書いた本を紹介するのはこれで4冊目(本の紹介:
 41(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn014.html#01408)、
 81(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn026.html#02607)および
 91(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn031.html#03107))である。
すでに紹介したように、これまで125カ国を訪れた著者が、今回は問題を森林破壊に絞って中国、インド、マレーシア、ケニア、アメリカ、ブラジル、オーストラリア、ロシア、ドイツ、イギリスおよびスイスを追う。
 
 地球の歴史46億年を1年にたとえ、10月末にオゾン層が一部生成され、11月初旬に現在の酸素21%が確立され、11月中旬に土壌の原型ができたとする表現は、この本を紹介している筆者のよくするところである。これとは違い、石氏は、宇宙から見える地球を超低速カメラの撮影にたとえて森林の破壊を解説する。過去1万5千年のできごとが、15分間の早送りの映像に収められる。1000年を1分間に縮めた勘定になる。
 
 映像の最初のシーンは、最終氷期が終わって地球が温暖化に向かう時期である。2分も経過しないうちに、再び地球が急激に冷え込んでくるが、そのうち人間は野生のムギを選んで、栽培するすべを身につける。農業のはじまりである。5分も経過すると、高緯度地帯から氷や雪が消えて、森林に置き換わる。地表の6割近くは緑に塗りつぶされる。10分が過ぎたあたりから、あちこちで森林を焼く火や煙が立ち上り、地表に緑を失った大地の肌が現れる。14分が過ぎるころ、つまり1000年ほど前から、地肌はじわじわと広がる。
 
 フィルムの終わる12秒前、産業革命以後の200年、ヨーロッパや中国で地肌が拡大する。6秒前、アメリカ北部の森林がまったく姿を消す。最後の3秒の1950年以降、日本では都市が広がり、高山帯まで林道や観光道路が延びる。そして、最後の2秒で残された森林は各地でかき消えていく。
 
 地球はこの1万年の間に自然林の半分を失った。アジア太平洋では9割、ヨーロッパでは6割、南北アメリカ大陸では4割の自然林が破壊されたという。これらの具体例が、11カ国にわたって克明に紹介される。現場を歩き続けた人の報告故に、その説得力はすさまじい。この種の本は、往々にして事実の引用に不親切さがつきものであるが、この本の各章の参考文献は見事である。この種の研究をしている人にも有益な文献である。
 
 著者も指摘しているが、最近ひとびとの関心が環境史に向けられている。この本を紹介している筆者も、ご多分に漏れず内外の環境史に関心が深くなった。こうした関心の高まりは、解決策が見つからないまま、さまざまな地球環境が悪化し続けているという閉塞感から、歴史に解答を求めはじめたためであろう。著者はそのことを充分ご存じで、本書において解決のためのヒントを探っている。目次は以下の通りである。
 
  まえがき  
ふたたび大災害の足音 中国
貧者のエネルギー危機 インド
ヤシ油が蝕む熱帯雨林 マレーシア
人口爆発に食われた森 ケニア
開拓を支えた原生林 アメリカ
砂漠と隣り合うアマゾン ブラジル
火入れが変えた森 オーストラリア
山火事に燃えるタイガ ロシア
酸性雨で傷めつけられた森 ドイツ
10 森林をめぐる戦いの歴k史 イギリス
11 国を救った人工の森 スイス
終章 森林はどこへゆく
  あとがき・索引・巻末
 
 

報告書の紹介:研究成果410
ダイオキシン類の野菜等農作物可食部への
付着・吸収実態の解明
農林水産技術会議事務局
(2003)

 
 
 農林水産技術会議事務局では、関係試験研究機関の協力を得て推進したプロジェクト研究等の成果を、研究や行政の関係者に総合的かつ体系的に報告することにより、今後の研究および行政の効率的な推進に資する目的で、昭和35年(1960)年から「研究成果シリーズ」を刊行している。2003年現在、410号まで刊行されている。
 
 この報告書は、行政対応特別研究として平成11年度から平成13年度までの3年間にわたって、農業環境技術研究所(現在:独立行政法人農業環境技術研究所)と埼玉県農林総合研究センターが共同で実施した研究の成果をとりまとめたものである。
 
 この研究には次の背景がある。廃棄物焼却施設等から排出されたダイオキシン類は、環境中に広く拡散し、大気、土壌、水系を汚染している。ダイオキシン類は超微量(pptレベル)で毒性を発現し、人工化学物質として最強の毒性を示すため、ヒトの健康に影響を生じないように耐容1日摂取量を設定し、食品および土壌、水、大気などの環境中における汚染実態が調査されている。
 
 このような背景のなかで、ホウレンソウなど農作物からのダイオキシン類検出に関するマスコミ報道があり、農業生産に大きな衝撃を与えた。しかし、環境中のダイオキシン類の作物移行性については、超微量のダイオキシン類の測定に高度な分析技術を要すること、ダイオキシン類の毒性が極めて高く、研究手法が確立されていないなどの要因から、ほとんど解明されていなかった。
 
 ダイオキシン類の健康影響を未然に防止するためには、食品由来のダイオキシン類の摂取によるリスクを低減化することが重要である。わが国では、野菜中のダイオキシン類について社会的混乱があったことから、消費者の不安に応えるためにも、とくに農作物の可食部におけるダイオキシン類汚染実態の把握が緊要であり、さらに、大気や土壌等の栽培環境に存在するダイオキシン類の農作物への付着、吸収、蓄積機構を解明することが重要である。そのため本研究では、ダイオキシン類の分析過程である抽出・精製操作の検討を行うとともに、高感度、高精度分析技術を駆使して、野菜等農作物中のダイオキシン類汚染実態の把握と、土壌、大気からの移行経路の解明を図り、さらに、ダイオキシン類の除去方法及び汚染防止方策が提案された。目次は以下の通りである。
 
研究の要約
第1章 ダイオキシン類の分析方法の開発
 1.ダイオキシン類分析の効率化のための抽出及び精製法の開発
 
第2章 各種作物における付着・吸収実態の解明と汚染軽減方策
 1.ホウレンソウ 2.ニンジン 3.キュウリ 4.カボチャ 5.メロン
 6.スイカ 7.茶
 
 

研究、技術開発およびデモンストレーションのための個別計画「欧州研究圏の統合、強化」(2002-2006)の決定
−その1−

 
 
 EU(欧州連合)は、1984年から数年ごとに、欧州規模での研究開発のための枠組み計画を策定してきた。この枠組み計画は、EU加盟国が独自に行う研究開発を補完して、国境を越えた共同研究を実施するもので、2002627日に、欧州共同体研究・技術開発第6次枠組み計画(2002-2006)が採択された。
 
 第6次枠組み計画は、欧州における各分野の研究開発活動を促進すると同時に、欧州共同体の産業の科学技術的な基盤を強化するために(1)「欧州共同体の研究の集中と統合」、(2)「欧州研究圏の形成」、(3)「欧州研究圏の基盤の強化」という3つの柱を中心に実施されている。研究の集中と統合の柱では、7つの優先領域が設定され、大規模な統合プロジェクトや研究組織のネットワークを組織、運営することによって「研究開発の規模」を確保し、重点分野の大幅な進展をはかることを意図している。
 
 ここで紹介する文書は、この第6次枠組み計画のもとで実施される業務をさらに詳細に規定する「個別文書」の1つであり、枠組み計画の「欧州共同体の研究の集中と統合」と「欧州研究圏の基盤の強化」に関する、欧州委員会による間接的な推進の戦略を、より具体的に定めたものである。
 
 「欧州共同体の研究の集中と統合」の直接的推進に関する個別計画である「共同研究センターが直接行動によって実施する研究、技術開発および実証についての個別計画」は、この「情報:農業と環境」の第36号(2003年4月)(http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/mgzn036.html#03609)で、すでに紹介されているので、あわせてご覧いただきたい。
 
 ここでは、欧州官報に掲載された文書(OJ L 294, 20021029, 1-43ページ)、"Council Decision of 30 September 2002 adopting a specific programme for research, technological development and demonstration: 'Integrating and strengthening the European Research Area' (2002-2006)"(2002/834/EC) (研究、技術開発およびデモンストレーションのための個別計画「欧州研究圏の統合、強化」(2002-2006)を採択する2002930日の欧州連合理事会の決定):
http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32002D0834 (最新のURLに修正しました。2014年5月)
を、最初の部分を日本語に仮訳して紹介する。内容が適切に表現されていない部分もあると思われるので、原文で確認していただきたい。
 
 
 なお、この個別計画(附則I)の各節の見出しは以下のとおりである:
 
附則I: 科学技術的な目的と活動の概要
 
  緒言
1.欧州共同体の研究の集中と統合
1.1.研究の優先テーマ領域
1.1.1.健康のためのバイオサイエンス、ゲノミクスおよびバイオテクノロジー
(i)  先進的なゲノミクスと健康への応用
(ii) 重大疾患のとりくみ
1.1.2.情報社会技術
1.1.3.ナノテクノロジーとナノサイエンス、知識ベース多機能材料、および新製造プロセスとデバイス
1.1.4.航空と宇宙
1.1.5.食品の質と安全性
1.1.6.持続可能な開発、気候変動、生態系
(i)  持続可能なエネルギーシステム
(ii) 持続可能な陸上・海上交通
(iii)気候変動と生態系
1.1.7.知識ベース社会における住民と統治
1.2.より広範な分野に該当する特定の活動
1.2.1.政策支援と科学技術ニーズの先取り
1.2.2.中小企業を含む横断的研究活動
1.2.3.国際協力を支える個別方策
2.欧州研究圏の基盤の強化
2.1.活動の協調のための支援
2.2.政策の整合性のある発展のための支援
 
官報 L 294、29/10/2002 P.0001-004
 
研究、技術開発およびデモンストレーションのための個別計画
「欧州研究圏の統合、強化」(2002-2006年)を採択する
2002年9月30日の理事会決定
 
欧州連合理事会は、
 
欧州欧州共同体設立条約、とくに第166条に留意し、
 
欧州委員会からの提案(1)に留意し、
 
欧州議会の意見(2)に留意し、
 
欧州経済社会評議会の意見(3)に留意し、
 

(1) OJ C 118E30.7.20021ページ。
(2) 2002612日に送付された意見(官報では未発表)。
(3) OJ C 22117.9.200297ページ。

 
以下のことに鑑み:
 
() 欧州共同体設立条約166(3)に従って、欧州研究圏の創設と技術革新に貢献する研究、技術開発およびデモンストレーションの活動のための欧州共同体第6次枠組み計画(2002-2006)に関する欧州議会と理事会の決定1513/2002/EC(4)(以下、「枠組み計画」と呼ぶ)は、それぞれの実施のための詳細な規則を定め、期間を限定し、必要と思われる手段を定めた個別計画によって実施される。
 
() 枠組み計画は、主要な3つの活動領域「欧州共同体研究の集中と統合」、「欧州研究圏の構築」、および「欧州研究圏の基盤の強化」で構成され、1番目と3番目の活動領域の間接的行動については、この個別計画で実施しなければならない。
 
() 枠組み計画に対する企業、研究センターおよび大学の参加のための規則、ならびに研究成果の普及のための規則(以下、「参加と普及に関する規則」と呼ぶ)を、この計画に適用しなければならない。
 
() 新たな方法(統合プロジェクトと優良ネットワーク(networks of excellence)の重要性は、限界規模(critical mass**、管理の簡素化および国レベルですでに着手している欧州共同体研究が寄与する欧州の付加価値***についての目的と、研究能力の統合についての目的を達成するための全体的な優先手段として認められている。第5次枠組み計画で使用した様式から第6次枠組み計画で使用する様式への円滑な移行を確保する。第6次枠組み計画の開始時から、各テーマにおいて、新たな方法を用い、また適切と思われる場合、優先手段の一つとして、特定の目標を定めた研究プロジェクトの使用と協調行動の使用を継続する。この計画の実施に必要な総額の最大6.0%まで、人件費と管理経費を削減することを可能にしなければならない。2004年に、この枠組み計画の実行中に、これらの方法のそれぞれの有効性を独立した専門家が評価を行う。
 

    : http://www.nttdata.co.jp/event/report/usinsight/us_2003.html (Report1) (最新のURLに修正しました。2010年5月)
      http://it.jeita.or.jp/infosys/f-office/paris0205/paris0205.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
**  : http://www.recruit.co.jp/cgi-bin/rperl5.pl/tmd/ja/ref/ref_vocabulary.html (対応するページが見つかりません。2010年5月)
***http://www.nttdata.co.jp/event/report/usinsight/us_2001/pdf/usi_vol11.pdf (Report2-3) (最新のURLに修正しました。2010年5月)

 
() 欧州設立条約第170条に定められているように、この計画には、実施に必要な協定を締結した国々が参加することが可能であり、これ以外の国からの参加や科学協力のための国際組織の参加も相互利益に基づいてプロジェクトレベルで可能である。
 
() この計画の実施においては、持続可能な開発戦略を促進するため、次のことに重点をおくべきである; 欧州委員会文書「欧州研究圏内の流動性戦略」に従い研究者の流動性; 技術革新; 中小企業のニーズと、締結国以外の国および国際組織との国際的な協力活動はもちろん、中小企業の参加を促進すること。加盟候補国に対して特別な配慮を払わなければならない。
 
() この計画の範囲内で行う研究活動は、欧州連合基本権憲章に反映されているものを含む基本的倫理原則を尊重しなければならない。
 
() 欧州委員会文書「女性と科学」、1999520(5)2000626(6)の欧州連合理事会の決議、およびこのテーマに関する200023日の欧州議会の決議(7)に従って、行動計画が科学と研究に関する女性の地位と役割を強化、向上するために実施され、さらに行動を強める必要がある。この計画を実施する際に、研究における女性問題を重視する。
 
() この計画の潜在力を十分に達成するために、国レベルの計画の開放化とネットワーク化、およびすべてのレベルの研究活動に関連する情報の自由な交換など、欧州で実施される研究活動の協調を強化する共通の行動によって、すべての関係国、とくに加盟国、締結した候補国、および他の締結国の積極的参加が、促進されなければならない。
 
(10) この計画は、利害関係者、とくに科学、産業、利用者および政策集団を考慮して、柔軟で、効率的、かつ透明なやり方で実施しなければならない; この計画のもとで行われる研究活動は、欧州共同体の政策のニーズと科学技術的発展にとって適切な場合には変更しなければならない。
 
(11) 地域の特殊な状況に合わせた適切な仕組みによって、欧州共同体の研究、技術開発およびデモンストレーション活動(RTD)のための枠組計画の活動において、もっとも遅れた地域の参加を容易にしなければならない。
 
(12) 締結候補国や他の締結国からの参加など、すべての関係者に迅速かつ完全に利用できるようにするために、内容、条件、および手順に関する必要な情報を公表することによって、この計画の活動への参加を促進する。個別活動は、ロシアおよび新独立国家(NIS)はもちろん西バルカン諸国を含む、発展途上国、地中海諸国の科学者と研究機関の参加を保証する。
 
(13) この決定の実施措置は、本来、管理措置であるので、欧州委員会に与えられた実施権限の行使手順を定めている1999628日の理事会決定1999/468/EC(8)の第4条で規定した管理手順を受け入れなければならない; 一方、ヒト胚とヒト胚性幹細胞の使用を必要とする研究は、科学的知見、倫理に関する欧州グループの意見、そして適切な場合には、国と国際的な倫理法と規則の進展に従って、確立すべき倫理的要素が必要となる; そのために、このようなプロジェクトの資金供給のための措置は、理事会決定1999/468/ECの第5条で定めた規制手順を受け入れなければならない。
 
(14) 欧州委員会は、すべての関係者に公明正大の精神で実施されるこの計画が欧州研究圏創設に貢献することを忘れずに、この計画が扱う分野の実施活動について、広範囲な実施データに基づいて、独立評価を適切な時期に計画する。
 
(15) テーマ別の優先領域は、欧州共同体の一般予算のなかで予算制限がなければならない。
 
(16) 科学技術研究委員会(CREST)に、この計画の科学技術的な内容について意見を求めた。
 

(4) OJ L 23229.8.20021ページ。
(5) OJ C 20116.7.19991ページ。
(6) OJ C 19914.7.20011ページ。
(7) OJ C 30927.10.200057ページ。
(8) OJ L 18417.7.199923ページ。

 
この決定を採択した:
 
第1条
 
. 枠組み計画に従って、欧州研究圏の統合、強化に関する個別計画(以下、「個別計画」とよぶ)を、本決定によって、2002930日から20061231日までの期間、承認する。
 
. 本個別計画の目的と科学技術的な優先項目を附則Iに示す。
 
第2条
 
 枠組み計画の附則IIに従って、個別計画の実行に必要な予算を、最大6.0%の欧州委員会の管理経費を含め、129.05億ユーロとする。この予算額の内訳(見込み)を附則IIに示す。
 
第3条
 
 個別計画の下で行われる研究活動は、すべて、基本倫理原則に従って実行されなければならない。
 
第4条
 
. 個別計画に関して、欧州共同体による財政的関与の詳細な規則は、枠組み計画の第2条(2)に記したものとする。
 
. 個別計画は、枠組み計画の附則IIIで規定し、附則IIIで述べた方法によって実施しなければならない。
 
. 参加と普及に関する規則を個別計画に適用しなければならない。
 
第5条
 
. 欧州委員会は、附則Iで示した目的と科学技術的優先項目および実施のための予定表を詳細に説明した個別計画の実施のための業務計画を作成しなければならない。
 
. 業務計画は、加盟国、締結国および欧州と国際的な組織が実施している関連研究の活動を考慮しなければならない。業務計画は必要に応じて更新しなければならない。
 
第6条
 
. 欧州委員会は、個別計画の実施に責任を負わなければならない。
 
. 以下の措置の採用には、第7条(2)で規定した手順を適用しなければならない:
 
(a) 優先項目に基づいて使用する方法、それらの使用のためのその後の調整、計画募集の内容ならびに適用すべき評価と選択基準など、第5条(1)で記した作業計画の作成と更新;
(b) 次に示す資金提供の承認:
(i)  優良ネットワークと統合プロジェクトを含むRTD活動、
(ii) 次の優先テーマ領域でのRTD活動:
「健康のためのライフサイエンス、ゲノミクスおよびバイオテクノロジー」、「情報社会技術」、「ナノテクノロジーとナノサイエンス、知識ベース多機能材料および新製造プロセスとデバイス」、「航空と宇宙」、「食品の質と安全性」、「持続可能な開発、気候変動、生態系」、
本計画のもとで欧州共同体がこれらに支出する推定額は、150万ユーロ以上である。
(iii) (i)(ii)で言及した以外のRTDの活動。この計画での欧州共同体の推定支出額は、0.6百万ユーロ以上である; 
(c) 枠組み計画の第6条(2)で定めた外部評価のための基準項目の作成;
(d) 附則IIに示した予算額の内訳(見込み)に対する調整。
 
. 以下の措置の採用には、第7条(3)で規定した手順を適用しなければならない:
 
ヒト胚とヒト胚性幹細胞を必要とする研究活動に関する詳細な実施規定、
ヒト胚とヒト胚性幹細胞の使用を必要とするRTD活動。
 
第7条
 
. 委員会(committee)が 欧州委員会を補佐しなければならない。
 
. 本項を引用する場合、決定1999/468/ECの第4条と7条を適用しなければならない。
 
. 本項を引用する場合、決定1999/468/ECの第5条と7条を適用しなければならない。決定1999/468/ECの第4条(3)と第5条(6)で規定した期間は、2か月とする。
 
. 委員会は、その手順の規則を承認しなければならない。
 
第8条
 
1. 欧州委員会は、枠組み計画の第4条に従って、個別計画実施の全体的な進捗について定期的に報告しなければならない; 財政面と方法の実施に関する情報が含まなければならない。
 
2. 欧州委員会は、個別計画で扱う分野で実行される活動に関して、本枠組み計画の第6条で定めた独立のモニタリングと評価を計画しなければならない
 
第9条
 
 この決定を加盟国に送達する。
 
ブリュッセルにて、2002年9月30日。  


 
欧州連合理事会
議長
B. Bendtsen
 
附則 I
科学技術的な目的と活動の概要
 
緒言
 
 本計画は、EUの政策ニーズと新規な最先端の研究領域で生じている機会を考慮して、枠組み計画の実施期間中に、非常に重要であると認められる項目はもちろん、20022006年の枠組み計画で特定した欧州にとって特別な利益と付加価値をもった重要な優先領域において、超一流の研究と産業競争力を促進する。
 
 本計画は、以下のことによって、欧州における研究のいっそうの統合にむけて努力する:
 
これらの優先テーマ研究領域が象徴する新たな課題のために、適切な構成で研究関係者を集める強力な資金調達方法(統合プロジェクトと優良ネットワーク)を使用して、限界規模で、優先テーマ研究領域に活動を集中すること、
 
欧州連合全域の関係者が示したニーズを考慮して、欧州共同体の政策を支援し、また、新たな科学技術領域を探究するために、研究を組織的に協調して企画し、実行すること、
 
研究と技術革新のために、国と欧州の枠組みのネットワーク化と共同活動を促進し、このような活動が欧州の研究基盤の達成のためになる他の領域はもちろん、欧州設立条約第169条による活動の利用が適切な場合を含め、これらの優先領域における国の研究計画の開放化を促進すること。
 
 本計画は、「欧州研究圏の構築」計画およびJRCの個別計画と相補的であり、計画の実施では、これらと協調する。
 
 国際協力は、枠組み計画の重要な側面である。この個別計画では、国際活動が、次の2つの形態で実施される:
 
世界的レベルで生じており、国際的な取り組みの対象になっている問題と関連するテーマ別の優先分野のプロジェクトにおいて、締結国以外の国からの研究者、チームおよび機関の参加、
欧州共同体の対外関係と開発援助政策の支援として、いくつかのグループの国々との個別の国際協力の活動。
 
 この枠組み計画における国際協力活動の目的と形態は、「より広範な研究分野に該当する特定の活動」の項目に記載されている。
 
 この計画においては、加盟候補国の参加を促進する。
 
 中小企業(SMEs)の参加を促進し、男女の平等を活動の実施の際に全面的に保証する。
 
 本計画で行われる活動は、それらのさまざまな要素間に整合性があり、相乗効果を保証にする統合方式で実施し、また必要に応じて、枠組み計画の他の部分を伴って実施する(1)
 

(1) この計画を、このように整合的に実施しやすくするために、欧州委員会は、確定した指針に従って、議事日程で決められた計画推進委員会の各会合において、加盟国あたり1名の代表者と、加盟国が特別な専門知識を必要とするような議事のときは、専門家または助言者1名の参加費用を返済する。

1. 欧州共同体研究の集中と統合 1.1. 研究の優先テーマ領域
 
 優先テーマ領域は、第6次枠組み計画経費の大部分となっている。欧州共同体の研究を高度に集中する取り組みの目的は、枠組み計画の他の部分の活動、そして地域、国、欧州および国際レベルでの他の枠組みとの開かれた協調による活動とともに、これらの枠組みの全体的な目的に対して、整合性があり、効果の高い共通の行動をもたらす実質的なレバレッジ効果(leveraging effect)を生み出すことにある。
 
 そのために、活動を次の点から説明する:
各優先領域において追求する全体的な目的と期待される成果、
欧州共同体の活動によって遂行すべき研究の優先項目。
 
 研究の優先テーマ領域を全体的な目的と主要な研究の焦点について説明する。関連する業務計画については、研究の細部内容をさらに詳しく述べる。
 
 テーマ別の優先領域のなかで、新たな方法(統合プロジェクトと優良ネットワーク)の重要性は、限界規模、管理の簡略化および国レベルですでに着手している欧州共同体研究が寄与する欧州の付加価値、ならびに研究能力の統合という目的を達成するための全体的な優先手段であると認められている。プロジェクト規模は除外する判定基準ではなく、新たな方法を利用することが、中小企業と他の小さな組織に保証されている。
 
 優良ネットワークと統合プロジェクトは、計画開始時から各テーマ別の優先領域において用いられ、そして適切と思われる場合、優先手段の一つとして、特定の目標を定めたプロジェクトと協調活動の使用を継続する。研究と技術開発に加えて、得ようとする目的と特別な関連がある場合は、次のような活動を組み入れることができる: デモンストレーション、普及および市場性開発; 締結国以外の国の研究者と研究チームとの協力; 研究者の育成の促進を含む人的資源の開発; 行われる研究と特別な関連がある研究施設と研究基盤の開発; および科学における女性の役割をはじめとする、科学と社会とのつながりの向上を促進すること。
 
 特定の支援活動はもちろん、特定の目標をもつ研究プロジェクトや協調活動は、優先テーマ項目を実施する際に、「優良への階段」の考え方によって利用することもできる。
 
 技術革新は、RTD活動の設計と実施において考慮しなければならない重要な側面である。とくに、優良ネットワークと統合プロジェクトには、情報の普及および市場性開発に関連する活動が含まれ、また関連する場合は、技術移転を確保し、成果の市場性開発を促進することが含まれる。適切と思われる場合には、中小企業への技術移転と、研究成果を利用する手段としての研究企業の設立に特別な関心を向ける。
 
 優先研究領域は、ある場合には、従来の専門分野との境界域研究が含まれ、そこで、進歩するためには、学際的な取り組みと複合領域的な取り組みが必要である。これらの領域では、適宜、その中の一つまたは複数の項目と密接に関係する課題について、最先端の知識で予備的研究も行う。計測と検査の面も、なくてはならない重要なものと受け取られている。さまざまな優先領域間の協調、ならびに、これらの領域と、「政策の支援と科学技術ニーズの先取り」の項目のもとでの活動の協調のために、本計画の実施期間中、とくに考慮する。
 
 持続可能な開発の原則と男女平の原則を十分に考慮する。さらに、科学技術の開発と予測の社会経済的影響はもちろん、取り組むべき研究およびその潜在的応用の倫理的、社会的、法的な状況を考察することは、関連がある場合、この項目のもとでの活動の一部になる。科学技術の開発に関連する倫理についての研究は、「欧州研究圏の構築」の計画のなかで実施する。
 
 本計画の実施期間中に、そこから生じる研究活動においては、基本的倫理原則を尊重しなければならない。これらには、次のことなど、EUの基本権憲章の中に反映された諸原則が含まれる: 欧州共同体法ならびに関連する国際条約と行動規範に従って、人間の尊厳と人間の生命の保護、個人情報とプライバシーの保護、および動物と環境の保護、たとえば、ヘルシンキ宣言の最新版、199744日にオビエドで調印された欧州評議会の人権と生物医学に関する協定1998112日にパリで調印されたヒトクローン作成禁止に関する追加議定書、子供の権利に関する国連条約、ユネスコが採択したヒトゲノムと人権に関する世界宣言、および世界保健機関(WHO)関連の決議。
 
 ヨーロッパ連合バイオテクノロジー倫理諮問委員会**1991-1997)の意見と、科学と新技術における欧州倫理委員会1998年から)の意見も考慮する。
 

  : http://www.riken.go.jp/r-world/info/report/pdf/report.pdf (最新のURLに修正しました。2010年5月)
** http://www.fine.chiba-u.ac.jp/database/siryou/02/data/KKutsuna-2002.pdf (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
 補完性原理と欧州における現行の多様な取り組みに従って、研究プロジェクトへの参加者は、研究を行う各国の現行の法律、規則および倫理規則に準拠されなければならない。いずれにせよ、欧州共同体は各国の規定を適用し、いかなる加盟国においても、その国で禁止されている研究に加盟国内で、資金調達を支援しない。
 

http://www.econavi.org/weblogue/back/25/backnumber/special/22.htm
http://jpn.cec.eu.int/japanese/europe-mag/1998_0102/buttonsp18.htm (対応するページが見つかりません。2010年5月)

 
 適切な場合には、研究プロジェクトへの参加者は、そのRTD活動開始前に、関連する国あるいは地方の倫理委員会の承認を求めなければならない。倫理的に微妙な問題を扱う申し込み、とくにヒト胚とヒト胚幹細胞の使用を必要とする計画書については、欧州委員会が倫理審査を組織的に実施する。
 
 ヒト胚とヒト胚性幹細胞の使用を必要とする研究プロジェクトは、すべて、上述の倫理審査に続いて規制委員会に提出する。
 
 特別な場合においては、倫理審査をプロジェクトの実施中に行うことができる。
 
 次の研究分野は、本計画で、資金提供を行わないものとする:
 
生殖を目的としてヒトクローンの作成を目指す研究活動、
遺伝性の変化を起こさせる可能性があるヒトの遺伝的遺産(genetic heritage)の改変を意図する研究活動(2)
研究目的あるいは体細胞の核移植によるものを含む幹細胞の獲得のみの目的で、ヒト胚を作成することを意図した研究活動。
 
 さらに、全加盟国において禁止されている研究活動への資金提供はいかなる事情でも排除される。
 
 動物の保護と福祉に関するアムステルダム議定書に従って、動物実験は、可能なかぎり代替法に替えなければならない。動物の苦痛を避けるか、または最小限にしなければならない。これはヒトに最も近い種を必要とする実験に(指令86/609/EECに従って)とくに適用する。動物の遺伝的遺産の改造と動物クローンの作成は、目的が倫理的に正当であり、動物の福祉が保証され、生物多様性の原則が尊重されるような条件の場合のみ認められる。
 
 これらの指針を本計画の実施の際に適用する。さらに、関連の新情勢を重視するために、欧州委員会が科学的進歩と各国の規定を定期的に監視する。この監視は、必要に応じてこれらの指針の改正につながるだろう。
 

(2) 生殖腺ガンの治療に関する研究への資金提供は可能である。

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