トップページ>新農業展開ゲノムプロジェクト>公募課題>イネ以外の作物の遺伝子導入技術の開発

公募課題

2012年6月26日更新

イネ以外の作物の遺伝子導入技術の開発 (略称:GMイネ以外、GMZ)

概要

イネは形質転換が容易になったが、イネ以外の重要作物では依然として形質転換が困難なものが多い。本課題では形質転換が困難な重要作物であるコムギ、トウモロコシ、ソルガム及びダイズについて効率的で安定した組換え体作出系を構築する。

研究目的

  1. アグロバクテリウムによる効率的なコムギの形質転換系を開発する。
  2. 我が国のトウモロコシ自殖系統を用いた効率的な形質転換系を開発する。
  3. 直接遺伝子導入法による効率的なソルガムの形質転換系を開発する。
  4. アグロバクテリウムによる効率的なダイズの形質転換系を開発する。

達成目標

  1. コムギ
    @ これまでに成功実績のある手法について、効率の安定化や適用品種の拡大などの技術の高度化を進めるとともに、アグロバクテリウム法によるコムギ形質転換系の確立を目指す。
    A コムギにおける形質転換技術の活用に向けて、RNAi法を用いた遺伝子破壊技術と導入遺伝子の種子胚における発現制御技術を開発する。
    B 形質転換に適したコムギ品種での形質転換効率を従来の5倍に向上させ、日本のコムギ栽培品種での形質転換系を1品種以上開発する。

  2. トウモロコシ
    @ 我が国で育成された優良トウモロコシ自殖系統における組換え体作出系が確立される。
    A 遺伝子型に左右されない、花粉を介したトウモロコシ組換え体作出系が確立される。
    B PAを得られやすいセルフクローニング組換え体作出系がトウモロコシで確立される。

  3. ソルガム
    @ ソルガムの未熟胚由来カルスを用いた直接遺伝子導入技術を開発する。
    A 遺伝子導入の基盤となる安定した培養系と再分化系の確立を行ない、遺伝子導入効率の安定化を進める。
    B 遺伝子型に左右されない、花粉を介したソルガムの組換え体作出系が確立される。

  4. ダイズ
    @ アグロバクテリウム法による形質転換効率を従来の5倍に向上させる。
    A 複数の日本品種に適用可能な形質転換系を開発する。
    B RNAiにより内在する標的遺伝子を効果的にサイレンシングする技術を確立する。
    C 遺伝子組換え技術を利用した遺伝子機能の解析と活用を可能にする。

研究内容

  1. コムギ
    @ アグロバクテリウム法によるコムギ形質転換系の確立
     パーティクルガン法に比べて導入した遺伝子の発現が安定的であるアグロバクテリウム法では、未だコムギの組換え体は得られていない。将来性を考慮して、アグロバクテリウム法によるコムギ形質転換系の確立に取り組む。
     コムギでの形質転換実績のあるアグロバクテリウムの系統(AGL1)およびバイナリーベクター(pAL156: T-DNA領域に、選抜マーカー遺伝子としてbar遺伝子、レポーター遺伝子としてイントロンが挿入されたGUS遺伝子が組み込まれている)を入手しており、これらを用いて条件検討を行う。
     アグロバクテリウム法においても植物材料の育成環境が大きく影響し、かつパーティクルガン法の場合とは条件が異なることが考えられる。そこで、平成22年度から@と同様にBobwhiteを材料に用いて育成環境の条件検討を行いながら、導入実験を繰り返し行う。また、アグロバクテリウムの感染前の前培養時間、感染時の界面活性剤の種類と濃度は、形質転換効率を左右することが報告されており(Wu et al. 2003, Plant Cell Rep 21:659-668 )、植物材料の育成条件と同時にこれらの最適条件について検討する。さらに、他作物において還元剤の添加やエチレン作用の抑制技術によるアグロバクテリウムの感染効率の向上が報告されており、これらの適用についても検討する。
    A コムギ形質転換関連技術の開発
     遺伝子の機能解明などの基礎的研究と実用作物の開発を想定した場合のコムギ形質転換に関連する技術開発として、RNAi法による遺伝子破壊技術と導入遺伝子の発現制御技術の開発を行う。
     異質複倍体であるコムギでは、突然変異を利用した遺伝学的解析が困難であるため、RNAi法の適用効果が他作物に比べて大きいものとなる。パーティクルガン法を用いて、形質変化の評価が容易であり、遺伝子変異の情報などが蓄積されているWaxy遺伝子の破壊を試みる。平成20年度にベクターの構築を行い、@でのルーチン化の進行状況を考慮して、平成21年度から導入を開始する。世代促進により遺伝的に固定した後、平成23年度までに形質の評価を行う。
     また、組換え技術の実用化を考えた場合、導入した遺伝子を精密に発現制御する技術が必要となる。この発現制御技術については、汎用性ということでなく、具体的なターゲットを設定して、その形質に合わせた開発が必要になってくる。コムギの組換え技術のターゲットを穂発芽と湿害に設定し、種子胚のどの時期に、どの部位で、どのように発現させるのか設計できるようなプロモーター配列の整備を行う。すでにマイクロアレイ解析によるコムギ種子胚での遺伝子発現情報を有している。そこで、平成20年度に、この情報を元に特徴的な発現誘導を示す遺伝子を選定し、BACクローンのスクリーニングを行う。平成21年度中に複数の遺伝子の上流配列をクローニングし、これにGUS遺伝子を連結して、順次未熟胚や完熟種子胚でのトランジェントアッセイを行っていく。平成22年度から、トランジェントアッセイにおいて有望な発現誘導を示す配列について、ステイブルな組換え体を作成し、遺伝的に固定した後、平成24年度に発現誘導部位や時期を詳細に解析する。

  2. トウモロコシ
    @ 形質転換実験の確立
     トウモロコシでは「A188」等、農業的形質が劣る実験系統についてすでにアグロバクテリウム法による形質転換系が(株)JTにより確立されているが、一般の優良自殖系統への適用は未達成である。そこで上記方法を国内の優良自殖系統に適用できるように畜産草地研究所が(株)JTの研究協力を得ながら培養・感染等の条件を最適化していく。具体的な検討パラメータとしては、培地への添加物及び、コムギの課題と同様の植物体の生育条件制御等である。また、遺伝子型の影響を受けにくい花粉への導入も検討する。具体的にはパーティクルガン法や超音波法により、各種条件の最適化について検討する。
    A ALS遺伝子のトウモロコシからのクローニング及びその点変異による除草剤耐性遺伝子コンストラクトの作成
     トウモロコシ自身から単離したALS遺伝子に点変異を加えた薬剤耐性遺伝子を選抜マーカーとして、よりPAを得られやすいセルフクローニング組換え体作出系を確立する。即ちトウモロコシからALS遺伝子を単離した後、ALSプロモーター及びターミネーターの機能解析を行った後、セルフクローニングトウモロコシ組換え体作出のために必要なトウモロコシ由来ALS変異遺伝子コンストラクトを構築する。さらにALS変異遺伝子コンストラクトを導入した組換えトウモロコシの発現解析を行う。これらの試験研究は再委託先の(株)クミアイ化学工業生物科学研究所が担当する。

  3. ソルガム
    @ 効率的なカルス培養系の確立と遺伝子導入
     ソルガムでは遺伝子導入の基盤となる安定した培養系と再分化系の確立を行ない、遺伝子導入効率の安定化を進める。1990年代初頭以降、ソルガムへの直接遺伝子導入例が報告されているが、その殆どは海外で行われており、国内では2例の報告があるにすぎない。そのため、まず報告例の多いソルガムの未熟胚由来カルスか未熟胚を用いた直接遺伝子導入技術の開発を行なう。次に、遺伝子導入効率の安定化を行なう。これには手法の改良の他に材料の安定供給が不可欠である。つまり、通年で未熟胚を得る栽培環境を作るか、完熟種子からのカルス誘導と再分化を行なう必要がある。通年で未熟胚を得るためには、日長などの開花制御を行なう必要がある。一方、完熟種子は通年で得られるが、多くの系統では再分化能が未熟胚由来のカルスを下回ること、産出するポリサッカライド様物質がカルス細胞への直接のアクセスを困難にしていることなど、直接遺伝子導入を行なうには問題点が多いと考えられる。これらの点を踏まえて以下の研究内容を推進する。
    材料:ソルガムカルスからの再分化能は系統間でも大きく異なることが知られている。まず、報告された例を参考にカルス誘導能・再分化能といった培養特性の良い系統を選抜する。次に、培養特性の良い系統において未熟胚と完熟種子の培養特性の違いを検討する。
    培養条件:培地組成、特に窒素源、糖類、植物ホルモン、添加物(ポリビニルピロリドン等)と温度光条件、および継代期間などの培養条件全般について検討し、特に再分化能が最も良くなる培養条件を設定する。このようにして、材料および培養条件を検討した後、選抜されたカルスに対してパーティクルガン法等の直接遺伝子導入を行ない、その条件を検討する。
    直接遺伝子導入:パーティクルガン法を用いた遺伝子導入条件を検討する。特に、(1) 打ち込みの圧力、(2) 打ち込み直前の浸透圧培地の効果、(3) 金粒子のサイズ、(4) 導入するベクターとマーカー遺伝子について検討する。遺伝子導入処理を行なったソルガムのカルスは、通常のカルスよりも褐変化し易いことがわかっている。このため、遺伝子導入処理されたカルスの安定的な再分化に有効な培養条件の検討を行う ソルガムは比較的ゲノムサイズが小さく全ゲノムが解読され報告されている。
    A 花粉への直接遺伝子導入
     花粉への直接遺伝子導入は再現性が低い一方、遺伝子型の影響を受けないという点が優れている。パーティクルガン法に関してはカルスへの導入と同様の各種条件を検討し、さらに中国でソルガムでの成功例が報告されている花粉への超音波による遺伝子導入についても追試する。

  4. ダイズ
    @ アグロバクテリウム法による形質転換効率の向上と日本品種への適用
    材料:これまでに組換え体作出の報告がある米国品種「Jack」「Throne」や「Williams82」、日本におけるダイズゲノム研究に使用されている「エンレイ」を含め日本各地域の主要品種を材料として供試し、培養特性に優れた品種を選定する。予備調査の結果、「Jack」が子葉節からの不定芽誘導能と再分化能に優れていることが判明している。そこで、「Jack」を基準として他品種の培養特性を比較するとともに、「Jack」については、先行して、アグロバクテリウム法による遺伝子導入条件を検討し、引き続き培養特性に優れた日本品種への遺伝子導入を実施する。
    培養条件:米国で実績のある子葉節からの不定芽誘導系を使用する。本法では浸漬(催芽)あるいは発芽した種子から根と大部分の胚軸を取り除き、子葉節基部へアグロバクテリウムを感染させ、除草剤などに対する耐性遺伝子を用いて遺伝子が導入された細胞を選抜し、再分化させる。培養に供する子葉の状態を検討するとともに、再分化シュートの発根条件について検討する。
    遺伝子導入条件:不定芽誘導系を用いた形質転換では再分化能を有する細胞へのアグロバクテリウムの感染と遺伝子導入が全体の効率を大きく律速する。そこで、(1) 共存培養時の還元剤や界面活性剤の添加、(2) 外植片への超音波処理やメスによる傷つけ、(3) アグロバクテリウム内で発現させたACCデアミナーゼによるエチレン生成の抑制、などがアグロバクテリウムの感染効率に及ぼす効果を検討する。また、選抜マーカー遺伝子(除草剤耐性遺伝子、抗生物質耐性遺伝子や形質転換細胞の可視選抜が可能なDsRedなどの蛍光タンパク質遺伝子)やベクターについて検討する。
    A 内在遺伝子を効果的にサイレンシングする技術の開発
     ダイズは4倍体に起源するため、多くの遺伝子が重複し、遺伝子機能解析を困難にしている。そこで、遺伝子配列の相同性によってジーンサイレンシングが可能なRNAi技術をダイズに適用し、内在する標的遺伝子を効果的にノックダウンする技術を開発する。まず、@において開発したベクターを基に、標的配列のヘアピン型siRNAを容易に構築できるベクターを開発する。また、目的に応じてプロモータを選択できるようにする。構築したベクターをアグロバクテリウム法で導入し、標的遺伝子のノックダウンを試みる。
    B 遺伝子組換え技術を利用した遺伝子機能の解析と活用
     ダイズゲノム研究の進展と要望に応じて遺伝子組換え体を作出し、遺伝子機能を解析するとともに、実用化に向けた外来遺伝子の導入を図る。研究開始当初は、すでに確立している遺伝子銃法を主体として組換え体を作出し、閉鎖系温室において遺伝子機能の解析を行う。アグロバクテリウム法の適用が可能になり次第、手法のマニュアル化を行い、遺伝子組換え作業をアグロバクテリウム法に転換する。

実施課題一覧(〜平成24年度)

↓課題番号をクリックすると、各実施課題の研究成果を見ることができます

課題番号 実施課題名 課題責任者 所属機関
GMZ1001 効率的で安定したコムギ形質転換技術の開発 作物研究所
GMZ1002 我が国育成優良自殖系統を用いたトウモロコシ形質転換系の開発 畜産草地研究所
GMZ1003 ソルガム属植物の遺伝子導入技術の開発 農業生物資源研究所
GMZ1004 効率的で安定したダイズ形質転換技術の開発 農業生物資源研究所

Copyright © All rights reserved.