ブタゲノム及び遺伝子配列の高精度解読
ブタにおける抗病性、高繁殖性、高成長性、良食味などの有用形質の改良を効率化するためには、ゲノム解読による原因遺伝子の単離が重要である。また、医療用実験動物としてのブタの開発においても、ゲノム塩基配列とともに正確な遺伝子配列情報が極めて有用な情報となる。本研究では、国際ブタゲノム解読コンソーシアム(SGSC)に参加し、ゲノム塩基配列の解読に貢献するとともに、ブタゲノム塩基配列上の遺伝子の配列(完全長cDNA)を正確に解読することによって、ブタ遺伝子の数や構造の正確な予測に貢献した。
SGSCにおいて生物研と農林水産先端技術研究所(JATAFF研)の日本グループは、食肉生産において重要なデュロック種の第6および第7染色体の一部の解読を担当し、最終的にSGSC全体ではブタゲノム(約28億塩基)の約90%の配列を高精度で解読した。日本グループは、様々な臓器や細胞を用いて完全長cDNAを収集し、31,079個の完全長cDNAの配列を解読した。完全長cDNAの配列とSGSCで明らかにしたブタゲノムの概要塩基配列との比較からcDNAのブタゲノム上の位置を特定した。解読した完全長cDNAはおよそ15,000個の遺伝子に由来するものと推定され、ブタゲノム概要塩基配列上の25,000個の遺伝子予測に大きく貢献した。SGSCでは、世界各地のブタやイノシシのゲノムについても並行して解読を行い、デュロック種のゲノムとの比較を行った。その結果、イノシシのブタへの家畜化がヨーロッパと東アジアで独立に行われたことや、ヨーロッパとアジアのイノシシがおよそ100万年前に分かれたこと等、進化学的に興味深い知見が明らかになった。


ブタゲノム発表論文
- Groenen M.A.M, Archibald A.L, Uenishi H,(他133名)(2012) Analyses of pig genomes provide insight into porcine demography and evolution Nature491(7424): 393-398
- Uenishi H, Morozumi T, Toki D, Eguchi-Ogawa T, Rund L.A, Schook L.B (2012) Large-scale sequencing based on full-length-enriched cDNA libraries in pigs: contribution to annotation of the pig genome draft sequence BMC Genomics 13: 581