ブタゲノム情報を活用した品種改良
多くのほ乳類では、背骨(椎骨)の数は生物種ごとにほぼ決まっていて、ヒトでは17個、ブタの祖先であるイノシシでは19個です。しかし豚肉生産によく使われるブタの改良品種では、椎骨数が20~23個と個体によりバラバラであることがわかりました。ブタの胴体は椎骨数が多ければ長く、少なければ短くなります。また胴が長ければ、1頭当たりの肉量が増えます。つまりブタでは、「椎骨数」が「肉量」という農業上重要な形質に大きく関わっていたのです。
そこで私たちの研究グループでは、ゲノム情報を利用して「ブタの椎骨数を決める遺伝子」の探索に取り組みました。2つの遺伝子が見つかりましたが、片方の「VRTN」という遺伝子がブタ改良品種での椎骨数のバラツキの原因となっていることが分かりました。VRTN遺伝子は、イノシシ、椎骨数が少ないブタ、椎骨数が多いブタの全てが持っていましたが、椎骨数が多いブタではVRTN遺伝子のDNA配列が少し変化しており、これが「椎骨数を増やす遺伝子」の正体でした。
「椎骨数を増やす遺伝子」を利用して、椎骨数が多いブタ(=胴が長く肉量が多いブタ)だけを生産できないだろうか? そう考えた私たちは、椎骨数を増やす遺伝子の有無を簡便に調べる技術、すなわち「椎骨数の遺伝子診断法」を開発しました。遺伝子診断によりオス豚の「椎骨数を増やす遺伝子」の有無を判定し、実際に生産農場で「遺伝子有り」「遺伝子無し」と判定されたオス豚を使ってそれぞれ子豚を生産しました。その出荷時の肉量を比較たところ、狙い通り「遺伝子有り」のオス豚の子豚の方が肉量が増えていました。それだけではありません。肉量に加えて、肉質も改良することができました。「遺伝子有り」のオス豚の子豚の肉の方が、サシが多く、やわらかくなり、肉の格付けも上がっていたのです。将来的には、母豚の遺伝子診断を併せて行うことで、より肉量、肉質を改良したいと考えています。
