ポスター会場の様子
農業生物資源研究所(生物研)は昭和58年に発足し、今年12月1日に創立30周年を迎えました。この節目にあたり、10月16日(水曜日)に東京・秋葉原のUDXカンファレンスにて、創立30周年記念シンポジウムを開催しました。シンポジウムでは「最新アグリバイオテクノロジーが拓く新たな世界」をテーマに、生物研のこれまでの成果を振り返るとともに、今後生物研が進めていく、バイオテクノロジー研究を基盤とした農業技術開発と新産業創出について展望しました。
農業生物資源研究所(生物研)の沿革
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生物研は昭和58年12月に、植物ウイルス研究所、農業技術研究所を統合し、農学及び生命科学分野における先端研究を行う「農業生物資源研究所」として発足しました。発足時は国立でしたが、平成13年に独立行政法人化され、現在に至っています。
開催当日の朝は台風26号が首都圏に接近し、鉄道など公共交通機関の運休が予想されました。そこでシンポジウムは、10時〜17時半の予定時刻を急遽14時〜19時半に繰り下げ・短縮して開催されました。このような状況にもかかわらず、企業、大学、独立行政法人等から関連分野の研究者など217名が参加しました。シンポジウムでは、3題の基調講演、10題の成果発表講演と47題のポスター成果発表、及び総合討論が行われました。予定変更の影響で、ポスター発表時間がわずか30分間とタイトなスケジュールとなりましたが、終了時刻ぎりぎりまで発表者と議論を続けられる、熱心な参加者が多くいらっしゃいました。
外部から招いた3人の先生方にご講演いただきました。東京農業大学の佐々木卓治氏からは、イネを中心としたこれまでの研究蓄積を活かし、生物研が今後目指すべき植物の基礎研究について提言がありました。また東京大学の嶋田透氏からは、カイコゲノムの成果の活用について、カイコの高度利用、カイコのモデル昆虫としての利用、昆虫学への展開、の3つの方向が示されました。さらに日経BP社の宮田満氏からは、アグリビジネスは今後我が国の産業を支える重要な産業になり得るとして、その実現に向け、生物研が「苦難の谷を越えて」遺伝子組換え研究の成果を実用化に結びつけ、人材育成と併せてしっかり遂行していくよう、提言を戴きました。
東京農業大学 教授
佐々木 卓治 氏
東京大学 教授
嶋田 透 氏
日経BP社 特命編集委員
宮田 満 氏
ゲノム研究を中心とした「食と農の明日を拓く」研究と、遺伝子組換え研究を中心とした「新産業を拓く」研究の2部構成で、生物研の研究者が最新の成果を紹介しました。
イネゲノム育種研究ユニット長 山本 敏央
最初に農業生物先端ゲノム研究センター長の矢野昌裕より、生物研が今まで取り組み、また今後進めていくゲノム研究について全体的な説明があり、続いて5題の研究トピックが各研究担当者より紹介されました。イネゲノム育種研究ユニット長の山本敏央と家畜ゲノム研究ユニット長の美川智は、それぞれイネとブタでのゲノム情報を利用した品種改良の状況について報告しました。イネについては「穂が出る時期を変えたイネ」や「乾燥に強いイネ」などの開発(関連記事:公開シンポジウム「ゲノム情報を駆使した次世代作物育種への展望」)、ブタについては「肉のやわらかさ」など肉質を改善した各種銘柄豚の開発などが紹介されました。一方、多様性活用研究ユニット長の友岡憲彦は、不良土壌でも育つなどの「望ましい性質を持つ作物の近縁野生種」を栽培化する、という新しい育種戦略を提案しました。
植物生産生理機能研究ユニット
上級研究員 井澤 毅
昆虫成長制御研究ユニット長
篠田 徹郎
品種改良以外のアプローチも紹介されました。 植物生産生理機能研究ユニット 上級研究員の井澤毅は昨年構築した「環境(気象)データからイネの遺伝子発現を予測するシステム」について講演し、近い将来、遺伝子発現の予測結果を元にイネの生育そのものを予測し、農業の最適化に役立てたいとの抱負を語りました。また昆虫成長制御研究ユニット長の篠田徹郎は、カイコの脱皮を司る遺伝子群の機能解明の状況と、その成果を利用した害虫の脱皮(成長)を制御するタイプの農薬開発について紹介しました。
機能性作物研究開発ユニット
主任研究員 小沢 憲二郎
まず遺伝子組換え研究センター長の野誠が生物研が進める遺伝子組換え研究の全体像を説明し、その後イネ、カイコ、ブタの組換え研究の現状について各研究担当者が紹介しました。イネについては機能性作物研究開発ユニット 主任研究員の小沢憲二郎が、食べると花粉症が治る「花粉症治療米」の研究開発状況を説明しました。花粉症治療米は「医薬品」としての製品化を目指しており、現在は医薬品開発プロセス(基礎研究、非臨床研究、臨床研究、承認申請)のうち、臨床試験に向けた様々な準備を進めていることや、前例のない「医薬品としてのコメ」の取り扱い方について専門機関と相談しながら進めている様子が紹介されました(関連記事:シンポジウム「植物を用いたバイオ医薬品の現状と今後の課題」)。またカイコについては遺伝子組換えカイコ研究開発ユニット長の瀬筒秀樹が、蛍光シルクや超極細シルクなど「新しい機能を持ったシルクの開発」と、医薬品や検査薬、化粧品に利用するための「カイコでの組換えタンパク質の生産」の2方面の研究開発と製品化の状況について紹介しました。さらにブタについては医用モデルブタ研究開発ユニット長の大西彰が、医療研究に利用するための各種疾患モデルブタについて、その開発の必要性と潜在的な需要、昨年開発した疾患モデルブタ「免疫不全ブタ」を中心に紹介しました。
医用モデルブタ研究開発ユニット長 大西 彰の講演の様子
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