生物研の竹澤俊明らの研究グループは、新素材「コラーゲンビトリゲル®」を利用して角膜の培養モデルを作製し、これを用いた「眼に対する安全性試験法」を開発しました。この成果は国内の新聞各社で報道されたほか、ロイターなど海外メディアからも注目を集めました。その意義と今後の展開についてご紹介します。
化学物質の眼に対する安全性は、現在はウサギの眼を使って調べられています。今回その代替となる、培養細胞を使った試験法を開発しました。
化粧品や医薬品、農薬などを開発する際には、成分として含まれる化学物質のヒトに対する安全性(毒性の有無)を確認する必要があります。現在このような「安全性試験」の多くは、動物を用いて行われています。しかし、動物での結果が必ずしもヒトでの安全性を反映しないことや、動物愛護上の問題などがあり、欧州では既に化粧品開発を目的とした動物実験が禁止されています。このような背景から、動物の代わりにヒトの培養細胞等を用いる「動物実験代替法」の必要性が高まり、各国でその開発が進められています。
安全性試験の一つに、眼に対する化学物質の安全性を調べる「眼刺激性試験」があり、現在はウサギの眼を使って調べられています。私たちは、この眼刺激性試験の代替法の開発を目指し、まずは試験に適した培養モデルの作製に取り組みました。私たちはこれまでに、細胞培養の「足場」として優れた特性を持つ新しい培養基材「コラーゲンビトリゲル®膜チャンバー」を開発しています。この培養基材を足場に用いてヒトの角膜上皮細胞を3次元的(多層的)に培養し、ヒトの角膜の構造を再現した培養モデルを作製しました。
コラーゲンビトリゲル®膜チャンバー(左、9月に関東化学(株)より製品化)と、これを利用して作製した角膜の培養モデル(右)
次に作製した培養モデルを用いて、新たな「眼刺激性試験」を開発しました。従来法では化学物質の刺激性を、投与後のウサギの眼の「白濁」「腫れ」「細胞死」などを指標として測定していましたが、新たな方法では、培養モデルに化学物質を投与した際の「電気抵抗値の変化」を指標とします。30種類の化学物質について、新たな方法により刺激性を測定したところ、従来法の結果がきちんと再現されました。さらに、新たな方法は従来法よりも高感度で、従来法では無刺激とされた物質の中からも、微弱な刺激性を持つ物質を見つけることができました。
今後は新たに開発した試験法について、正確性と再現性の確認などのプロセスを経て、国際的な公定法「OECDテストガイドライン」への登録を目指します。また、コラーゲンビトリゲル®膜チャンバーを用いて、消化管や血管などの培養モデルの作製と動物実験代替法の開発を進めていく予定です。
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