【研究手法と得られた主要な成果】

  1. コンピュータプログラム(RiceGAAS)を用いて、イネゲノム情報の中で、着色に関係すると予想される酵素遺伝子と調節遺伝子を推定しました。
  2. 推定した遺伝子をイネに形質転換することで、その遺伝子機能を直接証明しました。
    • 具体的には、白米のイネ(rcrd)に、推定したRcを導入することで、玄米色が赤褐色に変わりました。Rcは遺伝子発現を調節する因子(bHLHタンパク質)でした。
    • 赤褐米のイネ(Rcrd)に、推定したRdを導入することで、玄米色が赤褐色から赤色に変わりました。Rdは酵素タンパク質(DFR)でした。
    DFR はdihydroflavonol 4-reductaseの省略形
    bHLH はbasic helix-loop-helix motifの省略形

  3. 赤米から白米になった原因はRc遺伝子の内部で14塩基のDNA配列が欠失したことで、遺伝子の機能を失ったためであることが明らかになりました。調査したすべての着色米は欠失がなく、白米ではすべて欠失がありました。
  4. 偶然Rc遺伝子の中に生じた変異を、農民は積極的に選んで、白米を選抜育成していったことが明らかになりました。(RcとRdの遺伝はメンデルの法則で遺伝します。イネは2倍体です。そのためRcについては2つもっています。たとえばRcrcのイネが自殖するとRcRc, Rcrc, Rcrc, rcrc のように分離します。そのため白色になるにはrcrcの組み合わせを積極的に選抜しなければ不可能です。)

【波及効果】

   赤米にはカテキンやタンニンなどが豊富に含まれていることから、抗酸化機能に富んでいます。現在生産されている赤米には良食味のものはありません。今回の研究によって、赤色に関与する2つの遺伝子そのものが明らかになったため、今後は得られた遺伝子情報を利用することで、食味のよいコシヒカリを精米部分(胚乳)に持ち、果皮に赤色のカテキンを多く含む良食味米が短期間で交配育種できます。「アカコシヒカリ(名前のイメージ)」のような新しい良食味米の育種が期待されます。この米を使用すれば、アズキを使用しない、本物志向の赤飯もできます。これまでになく、おいしくて多収穫の赤米を初めて育種することができるため、良食味赤米のさまざまな利用が期待されます。