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【要旨】【問い合わせ先】 【研究担当者の所属】 【別紙参考】 【用語解説】 【図(穂と小穂)】

別紙参考

背景:

  六条オオムギは食品や飼料として、二条オオムギはビール醸造に世界で広く栽培されている主要穀物です。オオムギは約1万年前に、野生オオムギから人間によって選抜され、栽培化されました。この栽培化にあたって重要な役割を果たした遺伝子、いわゆる野生植物を栽培作物にするための栽培化遺伝子が、ここ数年、オオムギを含めた作物研究の重要テーマとして注目されるようになっています。
  独立行政法人農業生物資源研究所(生物研)、農林水産先端技術産業振興センター、筑波大学、名古屋大学、ライプニッツ植物遺伝作物研究所等は国際共同研究グループを組織し、オオムギの穂の形を決める遺伝子(六条性遺伝子)が六条オオムギの形成にどのように関与するかを明らかにしました。
  なお、本研究は、農林水産省イネゲノムプロジェクト(「遺伝地図とミュータントパネルを利用した単離および機能解明」、平成12-16年度)と農林水産省グリーンテクノ計画(「多様性ゲノム解析研究」、平成17〜21年度)で実行されています。

詳細:

【穂の形と進化】
  全てのオオムギは穂軸に3個の小穂を着け、栽培オオムギは3個の小穂が結実するタイプの六条オオムギと3個のうち中央の小穂だけが結実するタイプの二条オオムギに分けられます(図)。一方、野生のオオムギは全て二条です。このため、最初の栽培オオムギは野生オオムギに由来する二条性であると考えられます。しかし六条オオムギがどのような進化をして現在の形になったかは、不明でした。

【六条性遺伝子の機能】
  今回発見した穂の形を決める遺伝子(六条性遺伝子)は二条オオムギでは正常に働き、中央の小穂以外の小穂の発達を強制的に抑え、発達させないように作用しています。一方、六条オオムギでは、この遺伝子の塩基配列のうち、1塩基に変異が生じ、その機能が失われ、3個の小穂全てが発育して、種を着けます。すなわち、この遺伝子は二条オオムギの一部の花器官の発達を強制的に押さえ、発達させないようにする(退化させる)という不思議な作用をしています。また、この遺伝子は222のアミノ酸からなるタンパク質をコードし、このタンパク質は他の遺伝子の転写の促進や抑制に働く、遺伝子の働きを制御する「転写因子」の一種であることが明らかになりました。

【六条オオムギの起源】
  考古学的には、野生にあった二条オオムギが最初に栽培化され、その過程で穂に3倍の種子を着ける六条オオムギが自然突然変異で生じ、灌漑技術の進展に伴って多収穫の望める六条オオムギの栽培が急速に普及したと考えられてきました。この突然変異は六条オオムギの3つの系譜で別々に見つかっており、約一万年の栽培の歴史の異なった時代・地域でこの進化が独立に生じたと考えられます。

【結論】
  六条オオムギが、二条オオムギから進化したこと、すなわち、二条オオムギの穂の形を決める遺伝子に自然突然変異が生じて六条オオムギになったことが明らかになりました。今回の発見は考古学的推論を、実際に遺伝子を単離することによって分子遺伝学的に証明したものです。
  なお、この成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS、http://www.pnas.org/)に掲載される予定で、これに先立ち2007年1月12日(米国東部時間)にオンラインで公表されました。

今後の展開

  オオムギの「六条性遺伝子」を誰が最初に発見するかは世界的な関心事でしたが、今回、私たちグループが世界的な競争に勝ち抜くことができたのは、生物研が中心的役割を果たして完成したイネゲノム塩基配列解読情報を近縁のオオムギに適用したこととスウェーデンの伝統的オオムギ遺伝学者やドイツの最先端オオムギゲノム研究者等との共同研究が大きいと考えられます。また、今回の発見は、イネ科作物の進化や栽培起源の研究ばかりではなく、作物の改良を進める上でも画期的な発見と考えられます。


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