V.繰糸法のいろいろ

 人間が繭の繊維を利用して絹製品を作るようになったのは新石器時代の中国のことといわれています。何千年も前のことですので確かなことは分かりませんが、はじめは湯につけて軟らかくした繭から繊維の糸口(緒糸)を引き出し、それを何本か合わせ指先でより合わせて生糸にしたと考えられています。やがてできた生糸のもつれを防ぐため丸太や木の枠に巻き付けるようになり、さらに巻き取りも手の平で叩いて丸太や枠を廻す方法からプーリーや歯車を使って速く回転させる方法へと進歩してきました。また、繰っている生糸に新しい繭を補給するときは繰糸を止めて糸口を指先でからみつかせたと考えられますが、繰糸が速くなるにつれて繰られている繭の繊維に新しい繭の糸口を投げつけて補給する方法(添緒といいます)、接緒器という回転中のプロペラの羽根に新しい繭糸を接触させて補給する方法(接緒)へと変わってきました。現在、わが国ではこのような手作業のすべてを機械化した自動繰糸機が使われていますが、外国には古い時代の繰糸法も多く残っており、繰糸技術の基本を理解するのに役立ちますので、ここで主な繰糸法を簡単に紹介することにします。

1.手挽き(てびき)法
 鍋の湯に潰けて軟らかくした繭から糸口を引き出しそれを指先でより合わせながらあや振り(巻き取る糸が同じところに重ならないように動かすこと)を与え、別の手で枠を廻して生糸を巻き取る繰糸法です。日本ではほとんど見られなくなりましたが、タイの田舎ではこれに近い繰糸法が使われています。
 タイでは、鍋に水と繭を入れ下から加熱しながら左手で持った木の棒でかき廻して糸口を出します。その数10本を鍋の上の木の細い穴と鼓車(こしゃ)を通して1本にまとめ、右手で右方向に引っ張ってから下の篭の中に落すことを繰り返します。生糸は篭の中で乾燥して縮み、紬(つむぎ)のような生糸になりますが、こしと膨らみのあるタイシルクの原糸として使われています。

2.座繰り(ざぐり)法
 これは手挽き法を進歩させたもので、歯車を組み合わせて巻き取る速度を速くするとともに、あや振りを枠の回転に連動させ、鼓車を使って繭糸を1本にまとめ、さらにより掛けも行うようになったために片手を自由につかえるようになり、枠の回転を止めることなく指先による添緒ができるようになりました。日本では極く一部で普通の生糸製造に適しない不良繭の繰糸に使用しているだけですが、インドでは繰糸する人と枠を回転する人とが2人1組になって作業する座繰り法(チャルカ)が全国各地で盛んに行われています。
 この方法では、まず、繰糸者が大きな鉄鍋の前に座り、数百粒の繭を入れて下から加熱し、木の棒でかきまぜて糸口を出してから鍋の周りに上げておきます。繰糸する繭を湯に戻しその糸口をまとめて鍋の上の木の孔を通して引き上げてから鼓車を通して下におろし、別の鼓車を使って下から上がってきた糸と2〜3回より合わせてできた生糸を少し離れたところにある大きな枠に巻き取ります。生糸は枠の下に置いた炭火で乾燥させて枠から外し、綛に仕上げます。なお、この繰糸法では同時に2〜3緒の繰糸を行っているのが普通です。

3.座繰(ざそう)繰糸法
 明治初年にイタリーから輸入された繰糸法、またはそれを日本式に改良した繰糸法で、動力によって枠を回転させ、蒸気を使って湯を温めます。また小さな孔のあいているボタン状の集緒器を通して繭糸をまとめるとともに、繭糸が塊状で出てきたときそこで糸を止めます。またケンネルと呼ばれるより掛け装置(後述)で仮よりを掛けることにより繭糸が良く引き揃い、節の少ない良質生糸が作れるようになりました。両手が自由に使えますので繰糸者は繰糸鍋の前の椅子に座って繭から糸口を出すことと、指先で繰られている繭糸の中に新しい繭の糸口を投げ付けて添緒することができますので、1入で4〜6緒の繰糸を行います。日本では極く一部の工場で使われているだけですがインドではコテージベースンと呼ばれる工場で多く実施されています。

4.多條繰糸法
 回転するプロペラの軸の中心に繰糸されている繭糸を通しておき、新しい繭の糸口をプロペラの羽根に接触させると糸口は軸芯を走っている繭糸にからみついて簡単に接緒を行うことができます。この回転接緒器を採用して同時に沢山の緒の繰糸ができるようにしたものが多條繰糸法で、繰糸者は立って左右に移動しながら18〜20緒の繰糸を行います。この繰糸法も日本ではほとんど見られなくなりましたが、現在、中国では最も多く使われています。

5.自動繰糸法
 今までの繰糸法で最も大変な作業は生糸の繊度を一定に保つため繰られている繭の粒数とその内容を管理することです。そのため繰られている生糸の繊度の変化を感知して細くなったとき自動的に新しい繭の接緒を行うようにし、糸口を探し出して繰糸しているところに供給する作業、繰糸槽で落ちた繭を集め、まだ繰糸できる繭を分別して再び糸口を探し出す作業などを自動化した繰糸法です。日本・韓国などに普及しているほか、中国にも普及しつつあります。


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