農作業安全コラム

韓国における農作業事故状況について

R4年5月 井上 秀彦

 以前、アメリカにおける農作業事故状況についてお話をしましたが、今回はお隣の韓国の農作業事故について紹介いたします。

 まず韓国における農業の動向について、日本と同様に高齢化が進んでおり、大きな問題となっています。KOSIS(Korean Statistical Information System)によりますと、2020年における農家人口231万人のうち、42.3%が65歳以上となっています(※1)。この人数は農業を営む家族の子供も含む全体の人数であるため、実際に農作業を行う農業従事者においては、更に割合が高くなると考えられます。

 2020年の死亡者数は267人であり、そのうち150人と最も多くの原因が日本と同じく農業機械による事故となっています(※2)。また、常時5人以上雇用する事業場や農業法人で働いている労働者10万人当たりの死亡者数は12.7人となっています(※3)。他産業と比較しても死亡者数が多い状況は日本と共通です。なお、本統計は従業員5人未満の農家が含まれておりません。これらの小規模の農家を含めた場合の発生率は全体産業より10倍ほど高いという情報もあります(※4)。

 このような状況の中、韓国においても、国を挙げての農作業事故防止の取組が進められています。その中の取組の一つをご紹介します。韓国農村振興庁が運営する「農業技術ポータル」というサイト(※5)では、今ご覧いただいている農作業安全情報センターのように、農業機械による事故事例が183件掲載されています。それぞれの事例には簡単なイラストと共に事故の概要と対策が書かれています。このサイトはハングル文字で書かれているため、なかなか読むことは難しいですが、パソコンのブラウザの拡張機能による翻訳を使ったり、文字をコピーしてGoogle翻訳等を用いたりすることで読解可能です。例えば、田植機で狭い農道を移動していた方が、普段は他の農機とすれ違う際には退避所で待つようにしていたにも関わらず、そのときは急いで田植えをしなければいけない状況だったため、待避所で待たずに路肩に寄って耕運機とすれ違おうとしてしまい、転落に至った事故などが紹介されています。このように、日本でも起こりうる、もしくは実際に起こってしまっている農作業事故に近い事例もあり、農作業安全について改めて考えるきっかけになるのではないでしょうか。

※1:KOSIS、年齢及び性別農家人口
https://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=101&tblId=DT_1EA1040&conn_path=I3
※2:農機資材新聞、農作業事故 年間4万5千人余り、2021.09.27.
※3:KOSIS、全体災害現況及び分析
https://kosis.kr/statHtml/statHtml.do?orgId=118&tblId=DT_11806_N000&conn_path=I3
※4:京郷新聞、死角地帯に放置された「農業災害」(上)、2020.10.17.
※5:韓国農村振興庁、農業技術ポータル、農業機械事故事例
https://www.nongsaro.go.kr/portal/ps/psz/psza/contentMain.ps?menuId=PS00456

 

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