農作業安全コラム

コンバイン事故とヒヤリハット

R6年10月 原田 一郎

 R4年11月の当コラムにおいて、時計の紛失と関連付けてハインリッヒの法則とヒヤリハットを取り上げました。今回は農作業事故に関するヒヤリハットについて取り上げてみたいと思います。

 本コラムは9月中下旬に執筆しておりますが、筆者が勤務する埼玉県でも稲刈りの最盛期を迎えており、収穫作業中の自脱型コンバイン(以下、コンバイン)を多数見かけます。そうした中、コンバインの事故のニュースも多数目にするようになっています。少し調べただけでも、今年の9月だけで5件以上の死亡事故の報道がされていました。特に、機体が転倒・転落して運転者や補助者がコンバインの下敷きになった死亡事故も執筆時点で4件報道されており、深刻な状況です。
 10月も収穫作業は続くと思いますが、収穫時の安全な作業方法については字数の都合もあり今回は取り上げませんが、当農作業安全情報センターや農林水産省、自治体、メーカ、JA等が提供する情報を参考に十分に対策の上、作業して頂ければと思います。

 さて、コンバインの事故やヒヤリハットに関するデータとしては、少し古い情報ですが、2008年のアンケート調査結果が一例としてあげられます。この調査は全国の農業者に対して実施され、コンバインについては約900件の回答が得られています。その調査結果から、コンバインの転落・転倒事故におけるヒヤリハットと受傷程度の比を、ハインリッヒの法則でよく用いられる「重い傷害」:「軽い傷害」:「傷害のない事故」の比「1:29:300」に置き換えるとどうなるかを見てみます。
 この資料では、転倒・転落事故の受傷程度の調査で得られた事例は「死亡」2件、「入院」3件、「通院が必要なケガ」1件、「通院不要のケガ」7件、「無傷」52件(件数は比率から推測)となっています。この数値に、ヒヤリハット事例の調査で別途得られた、転倒・転落に関するヒヤリハット事例53件(件数は比率から推測)を追加し、さらに、入院以上のケガをハインリッヒの法則における「重い傷害」に、通院が必要なケガと通院が不要なケガをいずれも「軽い傷害」に、無傷及びヒヤリハットを「傷害のない事故」に置き換えますと、コンバインの転倒・転落事故におけるこれらの比は「5:8:105」、つまり 「14:23:300」となりました。今回のデータがハインリッヒの法則との比較に適切であるかどうかは議論の余地がありますが、この結果を考察すると、コンバインの転落・転倒に関しては、ヒヤリハットの数に対して、死亡・重傷事故の割合がかなり大きく、より重大な事故が起こりやすい作業であると言えるかと思います。
 なお、R4年11月の当コラムにおいて、ハインリッヒの法則における「傷害のない事故」に「ヒヤリハット」も含むべきかについては次の機会に取り上げる、と記しました。一般には同一として扱われることが多いようですが、ハインリッヒらの著書においては、物損事故など、なんらかの事故が起こった場合が「傷害のない事故」に当たる、と考えられます。今回の考察で、ヒヤリハット事例を「傷害のない事故」に含めない場合、コンバインの転倒・転落事故における「重い傷害」:「軽い傷害」:「傷害のない事故」の比は「5:8:52」、さらに、ヒヤリハットの件数を300に揃えると、「28:46:300」となり、重大事故の比率がさらに大きくなります。

 いずれにしても、重要なのは、コンバインの転倒・転落事故では、ヒヤリハットや物損事故が起きたら、直ちにそれを防ぐ対策を施すことが、死亡・重傷事故を減らすことに大きく寄与できる可能性がある、ということです。このことを念頭に、日々の収穫作業にあたって頂きたいと思います。

 

キーワード:事故/コンバイン(自脱型/普通型)/収穫・調製
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