飼料作物病害図鑑

トウモロコシ 黒穂病 リスク評価スコア2.7 (3,2,3)

病徴(雌穂) 病徴(節部) 病原菌(黒穂胞子)

病徴:植物体の奇形を伴う糸状菌病。梅雨明け頃から、外部は白色で中に黒い粉のつまったゴール(肥大組織)を形成し、葉、節、穂に発生する。ゴールは成熟すると表面が破れ、中の黒い粉(黒穂胞子)を飛散してまん延する。菌えい内部にはゼラチン化した菌糸塊を形成する(樋浦 1977)。

病原菌:Ustilago maydis (de Candolle) Corda、担子菌
黒穂胞子は厚壁胞子でもあり、地面に落ちて翌年の伝染源となり、地中で5年位は生きているとされる。病原菌には多数のレースおよびバイオタイプがあるとされるが、日本では未確認である。


生理・生態:黒穂胞子は温暖湿潤条件下で発芽し、担子胞子を多数形成する。担子胞子には2遺伝子座により支配される交配型(親和性型)が複数あり(佐藤・月星 1984c)、異なる交配型の菌系が対合することにより、2核菌糸となり、トウモロコシへの病原性を獲得する。異なる交配型の菌株を選定し、これを混合して幼苗に注射接種することで安定した発病が得られる(君ヶ袋ら 1988, 1989)。黒穂胞子が直接発芽して形成された2核菌糸も病原性を持つ。感染は一般的に湿潤条件下で多いとされるが、乾燥条件で多いとする報告もある。黒穂菌腫内の菌糸は感受体組織の細胞間隙に認められる場合が多い(樋浦ら 1974, 野津・山本 1974)。若い感染組織を食用にする国もあり、毒性は低いが、ゴール自体をラットに給餌すると産生アルカロイドにより脳充血などの影響が出るとの報告がある。植物細胞に働きかけるタンパク質effectorに関する網羅的調査が行われ(Tanaka et al. 2015)、病原菌のTin2エフェクターは、トウモロコシのプロテインキナーゼに作用して菌の定着と病原性に関わり(Tanaka et al. 2019)、Sta1エフェクターは胞子発芽時に分泌され、植物への感染確立に関与する(Tanaka et al. 2020)。

防除法:トウモロコシ品種・系統の抵抗性評価が進められ(井上ら 1985)、胞子懸濁液を巻葉に滴下することで圃場抵抗性を簡易に検定する方法が開発された(重盛ら 2000, 2001, 2002, 黄川田ら 2003, 2004, 大久保ら 2005)。最近では抵抗性のQTL解析も進められている(黄川田ら 2006, 2007, 2009, 川口ら 2008)。圃場衛生の改善、輪作体系、抵抗性品種利用などの対策が示されている(橋爪 2001, 北海道技術普及課 2010, p.60, 高橋 2011, 田中 2012, 佐藤 2020)。現場では使用できないが、殺菌剤トルクロホスメチルは本菌の細胞分裂に影響を与え、小生子の出芽を抑制する(中村・加藤 1984)。

総論:月星(2011c), 月星・田中(2019):分類, 分離, 接種, 日本農業新聞解説記事(2013), 菅原(2019)


畜産研究部門(那須研究拠点)所蔵標本

標本番号 宿主和名 宿主学名 症状 採集地 採集年月日 採集者
N8-62 トウモロコシ Zea mays L. 黒穂病 千葉県松ヶ丘 1969.8.7 西原夏樹

(月星隆雄,畜産研究部門,畜産飼料作研究領域,2021)


本図鑑の著作権は農研機構に帰属します。

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