コラム
植物精油の食品害虫への殺虫効果
植物精油には、香りをもつ複数の成分が含まれています。アロマテラピーに使われる香り成分をイメージするといいでしょう。その中でも、蒸発しやすいテルペン類には、微生物や昆虫に殺菌、殺虫効果が知られています。動けない植物が身を守るための生体防御システムと考えられています。食品害虫の防除を目的とした植物精油の研究は、2000年頃から目立って増えました。くん蒸殺虫剤に代わる方法のひとつとして注目されたからです。その結果、様々な植物精油に殺虫効果が報告されました。
今回のコラムでは、私たちになじみのある植物オイルの殺虫効果を調べた論文(kim et al., 2003ab)の一部を紹介します。
植物オイルは、セイヨウカラシナのマスタードオイル、セイヨウワサビのホースラディッシュオイル、シナニッケイのシナモンオイルの3種類です。害虫はココクゾウムシSitophilus oryzae とタバコシバンムシLasioderma serricorne の成虫を対象としました。
実験方法を図に示します。①植物オイルをろ紙に染み込ませます。②網目状の布で蓋をした丸型容器に20匹の昆虫を入れます。③大きな丸型容器を用意して、オイル付きのろ紙を敷き、その上に昆虫入りの容器を入れて蓋をします。④オイルから蒸発した成分の殺虫効果を、24時間後に調べました。
この実験では、4種類の条件が設定されました。A:容器に蓋をした場合、B:蓋をしない場合、C:昆虫をろ紙の上に放ち蓋をした場合、D:昆虫をろ紙の上に放ち蓋をしない場合です。
実験結果を表に示しました。蓋があると、すべての条件で死亡率は100%でしたが、蓋がないと効果が著しく低くなりました。オイルから蒸発した成分が、密閉空間で十分に昆虫の体内に浸透すると効果があり、解放空間で拡散してしまうと効果がないようです。
また、ココクゾウムシは、開放空間でオイルに接触した場合は、しない場合よりも殺虫効果が上りました。しかし、タバコシバンムシは、開放空間で接触しても効果ありませんでした。昆虫の種類が異なれば、その効果も異なることがわかります。
今回紹介した論文では、各植物オイルに含まれる成分は記述されていません。精油に含まれるどの成分に殺虫効果があるのかは、現在進行形の研究分野です。
参考文献
- Kim, S.I et al.(2003a) Contact and Fumigant activities of aromatic plant extracts and essential oils against Lasioderma serricorne (Coleoptera: Anobiidae) Journal of Stored Products Research 39: 11-19.
- Kim, S.I et al.(2003b) Insecticidal activities of aromatic plants and essential oils against Sitophilus oryzae and Callosobruchus chinensis. Journal of Stored Products Research 39: 293-303.
関連情報
更新日:2023年10月06日