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食の広場

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第2話 『はい、お弁当!』

 さくらの花も散ってしまい、葉っぱだけがあおあおと繁っています。そんな5月の ある日、私たちの学校では体育祭が行われました。

勇太「おーい、おまえたちー。」

優子「ええ?何か呼んだ?」

勇太「さっき、今から昼休みって放送があっただろう、陽一がさ、班全員で昼飯食べたらいいんじゃないかって、いうからさ。」

ともよ「ごいっしょさせていただいても、よろしいんじゃないですか。」

陽一「やっぱさ、この一汗かいた後の弁当ってやつが一番なんだよね。」

勇太「ところでお前の弁当、なんかえらくあっさりとしてるけど、それってもしかして自分で作ったとか。」

陽一「いやー、昨日の夕方、急用でおかあさんが実家に帰ったんで僕が作ったんだ。」

ともよ「自分でお弁当を作るなんて、陽一くんってお料理が得意なんですわね。」

勇太「でもこれって『日の丸弁当』ってやつだろう。普通は料理って言わないんじゃないのか。」

陽一「日の丸弁当に見せておいて、ご飯の下を見ると・・・豪華絢爛、3段重ね。」

ともよ「すばらしいですわ。ところで優子ちゃんのお弁当はどのようなものなのでしょうか。ちょっと見せていただけますか。」

優子「いやー、ちょっと遠慮したいような気が・・・」



陽一「おっ、これは『たこさんウインナー』?」

ともよ「それにりんごも『ウサギさん』ですわ。こんなかわいらしいお弁当、優子ちゃんがお作りになったんですの?」

優子「実はお姉ちゃんが・・・。」

勇太「やっぱりな。ところでそこに入っているその小さいシール、なんだ?なんかチェリーの絵が描いているみたいだけど、なんかのまじないか?」

優子「なんか知らないけど、これを入れておくと弁当が腐りにくくなるっていってた。」

陽一「そういえばこの前、スーパーで売っているのを見かけたけど、これも梅干しみたいなものなのかな。」



ともよ「ということで陽一くんのお弁当がうちの班では一番ってことになったんですよ。」

先生「ほほー。ご飯の下におかずを隠しておくとはすごいねえ。でも『食中毒を防ぐ』っていう点から見るとこれにはちょっと問題があるんだよ。」

陽一「どこがでしょう。」

先生「君がおかずの上に置いたご飯は、まだあたたかかったんだろう。」

陽一「そうです。やっぱりご飯は炊きたてが一番ですから。」

先生「ということは、おかずはご飯に蒸されていたということになるね。こういう風に水分があって、適当な温度のときがばい菌が増えるのに一番、適した状態なんだ。だからもしおかずに何かわるい菌がついていたら、お弁当を食べるまでに一気に何万倍も増えてしまってもおかしくないんだよ。」

優子「そんなにばい菌って早く増えるんですか?」

先生「これは菌の種類とか条件によっても違うけど、早く育つ食中毒菌の中には約20分で2倍に増えるものもいるんだ。」

勇太「じゃあ、はじめに100匹ばい菌がいたとしたら、20分で200匹、40分で400匹って風に増えていくから・・・たしかにすごい数になりますね。」

先生「すると最後にはイヤな匂いや味が出てきて、誰でもゴミ箱に『ポイポイのポイ』と捨てることになる。だけど困ったことに食中毒の菌は中毒を起こすぐらい増えていても、なかなか匂いや味が変わらないんだ。」

ともよ「本当に困ったものですわね。でも、もしばい菌がついていたとしても、それを殺すか増えないようにすれば、食べ物は腐りにくくなりますわね。」

先生「そう。料理の時に熱をかけてばい菌を殺すというのは、もっともよく使われる方法だね。特にハンバーグみたいなものは、真ん中までよく火を通さないと食中毒のもとになるから注意が必要だよ。それから、食べ物を冷蔵庫に入れておくというのは、低い温度でばい菌が増えにくいことを利用しているんだ。でも、この中でもゆっくりとばい菌は増えているし、開け閉めを繰り返していると中の温度が上がっていることもあるから、あまり過信してはダメだね。」

優子「じゃあレトルトパックとか缶詰は、どうして長持ちするんですか。」

先生「密封して強い熱で菌を殺しているからなんだ。開封すると菌が入ってきて増殖するから、気をつけてね。そのほか長持ちさせるためには、カップスープみたいなフリーズドライ食品やジャムのように、乾燥したり、砂糖を加えるんだ。そうすると、腐敗や食中毒を引き起こす菌が、生育のために必要な水分を取り込むことができなくなるので、増えることができないんだ。カビはそれより少ない水分でも生育できるけど、酸素が必要なので、脱酸素剤で酸素を除くと増えることができなくなるんだ。だけど、水分の多い状態では、酸素を除いても、酸素を必要としない菌が増殖するので、水分調整と脱酸素を上手に併用しなければならないんだよ。」

陽一「じゃあ、弁当に梅干しを入れるのも、ばい菌を生やさないためなんですか。」

先生「うん、梅干しとか酢みたいな酸っぱいものは、普通のばい菌が増えるのを防ぐ働きをもっているんだ。ただし、ちょっと前に流行した病原性大腸菌O(オー)157なんかは、酢っぱいものには強いから注意が必要だね。」

優子「そういえばお姉ちゃんがこれを弁当箱に入れておくと食べ物が腐りにくくなるとか言ってたんですけど。」

先生「このフィルムにはからしのにおいが入っているんだ。」

陽一「からしって、おでんとか冷し中華につけるあれですか。」

先生「そう。からしとかわさびの辛くてツンとする香りのもとは、ばい菌とかカビが増えるのを防ぐ働きをもっているんだよ。そのままだと香りが気になるときは、ハーブとかオレンジなどの香りと組み合わせて使うんだけどね。」

陽一「ときどき防腐剤って言葉を聞きますけど、これもばい菌が増えるのを防いでいるんですか。」

先生「それも一つの目的だね。もちろん防腐剤は、食べ物として口に入ったときに人間に害がないことが確かめられているんだけど、それでもやっぱりこういうものがイヤという人も増えてきたから、自然界にもともとあるものを使おうという動きもあるんだ。」

優子「それって例えばどんなものがあるんですか。」

先生「ヨーグルトとかチーズを作るのに使う乳酸菌は、自分以外の菌を殺すために『バクテリオシン』というものを出すんだ。これなんかはうまくいけば、ばい菌を殺すのに使えるかもしれないね。あと変わったものでは、『焼成カキ殻カルシウム』っていうのもあるんだよ。」

ともよ「カキというと、やっぱり貝のカキですか?」

先生「そう。カキって中身を食べたら残りはゴミになるだけなんだけど、その殻を焼いて粉にすると、菌が増えるのを防ぐものになるんだ。」

勇太「へえ、廃物利用ってやつですね。でも本当に使い物になるんですか?」

先生「そうだねえ。例えばスーパーの惣菜売り場なんかにポテトサラダがよく売っているだろう。これに入っているきゅうりだけど、焼成カキ殻カルシウムを入れた水に漬けた後で料理に使ったら、2日たっても菌がほとんど増えていないことが分かったんだ。この他にも、から揚げ用の烏肉を洗うのに使うと、肉が柔らかくなって、しかもばい菌が生えにくくなるから、まさに一石二鳥なんだ。」

陽一「本当に、いいことずくめですね。」

先生「でも、いくらこういうものを使っていても、食べるときにばい菌をつけたらいっしょだから、きれいなふきんでふいてから乾燥させた食器を使うことと、食べる前には手を洗うことが大切だね。」

勇太「だけど、めんどくさくて・・・。」

--博士からのコメント--
 日本では毎年数万人程度の食中毒患者が出ており、これらの大半は、食中毒菌に汚染されたものを食べたことによって発生したものです。通常、食中毒菌は抵抗力の弱いお年寄りや子供などに病気を引き起こしますが、特に病原性が強いものは大人も発病させます。
 このような病気を防ぐためには始めから食べ物に菌をつけないことや、ついた菌を増やさない・殺す、ということを心がけることが必要です。特に病原菌は肉や魚類についていることが多いため、このような食材を調理するときには、生で食べる野菜類とは別の包丁やまな板を使用し、手をよく洗って次の食材の調理にかかることで病原菌が他のものに移ることを防ぐことができます。また可能な限り食材には熱を通すとともに、調理後、時間をおかずに食すべきです。なお保存が必要な場合には冷蔵庫内の温度を上げないため、熱をさましてから冷蔵庫に入れるようにすべきです。

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