飼料作物病害図鑑
トウモロコシ すす紋病
リスク評価スコア2.7 (3,3,2)
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病徴 | 病原菌(分生子) |
病徴:冷涼地での代表的な葉枯性の糸状菌病。冷涼多湿条件で発生が増加し、大発生すると圃場全体が枯れ上がるほどの被害がでる。絹糸抽出期以降に発生することが多く、葉に黄褐色〜灰色、紡錘形、長さ3〜10cmの大型病斑を形成する。病斑は古くなると中央部が黒くかびたようになり、そこから縦に裂けやすくなる。九州・沖縄地方でも梅雨入り前後の発生が多い。
病原菌:Exserohilum turcicum (Pass.) Leonard et Suggs (=Setosphaeria turcica (Luttrell) Leonard et Suggs)、子のう菌
ソルガムすす紋病菌と同種だが、寄生性が異なり、ソルガムに感染することはない(菅原ら 2000, 2002a)。病原菌は分生子を風雨で飛散して、まん延する。日本で完全世代(Setosphaeria)の発見、交配による形成の事例はない。日本ではいずれの抵抗性遺伝子も抑制効果のあるレース0が発生していると考えられるが、一部の菌株はトウモロコシの抵抗性品種を侵すことから他のレースも発生している可能性がある(月星ら 2015)。
生理・生態:特に発病時期が早く、罹病が進むと乾物収量が大きく低下し(増子ら 2002b, 高宮 2011, 佐藤 2014)、飼料品質が低下することが明らかになっている(山川・井澤 1985, 1986)。重度に罹病した材料からサイレージを調製すると採食量、消化率および発酵品質が低下するが(増子ら 2001, 2002a)、雌穂の収量が変わらない場合は発酵品質も低下しないとされる(岩渕ら 2004)。トウモロコシの抵抗性遺伝子(Ht, Ht2, Ht3, HtN)に対して、それぞれレースが存在する。衛星データを用いた圃場での罹病程度の推定方法が開発された(牧野ら 2011)。本病に罹病すると根腐病およびフザリウム茎腐病の発病も促進されるとする報告がある(林ら 2011, 高村 2014)。感染好適日と平均気温および葉面濡れ時間との関係が検討されている(岡部 2017c, 2018, 2019, 2020, 2021)。
防除法:真性抵抗性遺伝子および圃場抵抗性を利用した育種が進められ(門馬・岡部 1984, 高宮・千藤 2000)、また病斑進展や収量と抵抗性との関連も検討され(佐藤ら 1992, 2004)、その結果数多くの抵抗性品種が育成・検定されている(佐藤ら 2005a, 濃沼・伊東 2012)。最近ではQTL解析による抵抗性マーカーの選抜が行われている(大浦ら 2010)。スイートコーンでは殺菌剤による防除が報告されている(市川ら 1997)。抵抗性品種利用や輪作を行い、肥切れを避けるなどの肥培管理対策が示されている(橋爪 2001, 北海道技術普及課 2010, p.59, 高橋 2011, 田中 2012)。殺菌剤プロピコナゾールが飼料用トウモロコシでも農薬登録されており、収穫7日前まで2回に限り使用できる(佐藤 2020)。ドローンによる空撮画像で圃場での発病後期の罹病程度を推定できる(秋山ら 2019, 黄川田ら 2020)。
総論:月星(1999f, 2010e): 菌の扱い方、菌株情報、分類, 御子柴(2004b), 月星(2011c), 菅原(2019)
畜産研究部門(那須研究拠点)所蔵標本
標本番号 | 宿主和名 | 宿主学名 | 症状 | 採集地 | 採集年月日 | 採集者 |
N14-11 | トウモロコシ | Zea mays L. | すす紋病 | 宮崎県小林市 | 1975.9.2 | 西原夏樹 |
N12-53 | 〃 | 〃 | 〃(菌の競合がみられる) | 福岡農試 | 1979.10.13 | 西原夏樹 |
(月星隆雄,畜産研究部門,畜産飼料作研究領域,2021)
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