トウモロコシの病害 (3)


根朽病(nekuchi-byo) Rhizoctonia root rot
病原菌:Rhizoctonia solani Kuhn AG-2-2、担子菌
 根が侵されて倒伏等の被害が生じる糸状菌病。九州で発生する。冠根及び支根に褐色〜黒褐色で中央部が陥没している病斑を形成する。病勢が進むと根量が極端に少なくなり、侵された個体は弱い風雨によっても根の片側をはね上げるようにして倒伏する。また、倒伏しなくても機械刈りの時にうまく刈れず収量が減少する。病原菌は様々な植物に根腐症状を引き起こし、ソルガムにも同様の病気を起こすことが確認されている。


汚点病(oten-byo) Epicoccum leaf spot
病原菌:Epicoccum nigrum Link、不完全菌
 北海道でまれに発生する以外は、ほとんど発生記録がない。


黄化萎縮病(ouka-ishuku-byo) Crazy top
病原菌:Sclerophthora macrospora (Saccardo) Thirumarachar, Shaw et Narasimhan、卵菌
 感染株が叢生し、奇形となる糸状菌病。上位節での分けつの極端な増加、葉の縮れ、雄穂の奇形・増生、雌穂の葉化など激しい病徴となる。罹病葉は雨が降った後、表面が白い粉を吹いたようになることがあるが、これは病原菌の遊走子のうで、これが水中で発芽して遊走子を出し、まん延する。病原菌は寄主範囲が広く、イネ、ムギなど140種以上のイネ科植物に寄生するため、イネ科の雑草が感染源になっていると考えられている。


ピシウム苗立枯病(Pythium-nae-tachigare-byo) Pythium seedling blight
病原菌:Pythium debaryanum R. Hesse, P. paroecandrum Drechsler, P. spinosum Sawada, P. sylvaticum Campbell & Hendrix, P. ultimum Trow var. ultimum
 出芽時に多湿条件にあうと苗が枯死する。種子が感染して出芽しないこともあるが、出芽後3ー4葉時に苗が萎凋枯死することが多い。葉は初め灰色のすじが入ったようになり、この時根は完全に褐変し、表面は菌糸に覆われる。苗立枯病が高温時に発生することが多いのに対し、本病は低温時に発生することが多い。圃場の排水を良くすることで発生を軽減できる可能性がある。


さび病(sabi-byo) Common rust
病原菌:Puccinia sorghi Schweinitz、担子菌
 北海道、東北で発生が多い最も一般的なさび病。冷涼多湿条件で発生し、絹糸抽出期頃から、葉の両面にオレンジ色〜茶色、やや細長く、長さ2〜5mm、幅1〜2mm程度の夏胞子堆を多数形成し、表皮が破れてそこから夏胞子が飛散し、まん延する。さび胞子堆は後にやや黒化し、冬胞子を形成する。カタバミ類が中間宿主である。病原菌はトウモロコシ系統を判別品種として数多くのレースに分類されているが、日本で発生するレースについては不明である。


炭腐病sumigusare-byo, 病名未登録) Charcoal rot
病原菌:Macrophomina phaseolina (Tassi) Goidanich、不完全菌
 幼苗または黄熟期に近い植物で発生する。初め根に黒褐色の病斑を形成し、植物体が成熟するにつれ、地際部の稈内に広がり、倒伏を引き起こす。稈内部には黒色の微少菌核が形成され、黒くすすけたように見える。子実にも発生することがある。マメ類など他の作物の炭腐病菌はトウモロコシには病原性を示さないとされる。


すす紋病(susumon-byo) Northern leaf blight
病原菌:Setosphaeria turcica (Luttrell) Leonard et Suggs (=Exserohilum turcicum (Pass.) Leonard et Suggs)、子のう菌
 冷涼地での代表的な葉枯性の糸状菌病。冷涼多湿条件で発生が増加し、大発生すると圃場全体が枯れ上がるほどの被害がでる。絹糸抽出期以降に発生することが多く、葉に黄褐色〜灰色、紡錘形、長さ3〜10cmの大型病斑を形成する。病斑は古くなると中央部が黒くかびたようになり、そこから縦に裂けやすくなる。病原菌は分生胞子が風雨で飛散して、まん延する。日本での発生レースは不明であるが、トウモロコシの抵抗性遺伝子に対して、それぞれレースが存在する。トウモロコシ菌とソルガム菌では寄生性が異なる。


炭疽病(tanso-byo) Anthracnose
病原菌:Colletotrichum graminicola (Cesati) G.W.Wilson、不完全菌
 梅雨明けから発生する斑点性の糸状菌病。病斑は周縁部黒褐色、中央部黄褐色〜灰白色、楕円形で、後に相互に融合して不定形となる。病斑が古くなると剛毛という菌組織が形成され、中央部が黒くかびてくるのが特徴。剛毛付近にはオレンジ色の粘塊状の胞子が形成され、これが風雨で飛散してまん延する。病原菌はソルガム、オーチャードグラス、ライグラスなどの菌と同種だが、それぞれ寄生性が分化しており、他の植物の菌がトウモロコシを侵すことはないとされる。


ワラビー萎縮症(wallaby-ishuku-sho) Wallaby ear
害虫:Cicadulina bipunctata (Melicher)、カメムシ目
 1988年に熊本県で初めて発見された。病徴は幼苗の葉脈がこぶ状に隆起し、新規の展開葉の成長が著しく阻害され、株が極端に矮化する。20世紀初頭にオーストラリアで発見され、罹病した株の葉がワラビー(小型カンガルー)の耳のように見えることから命名された。当初、病原はMaize wallaby ear virus (MWEV)とされたが、その後吸汁害虫であるヨコバイの一種(Cicadulina bimaculata)の吸汁害および虫の産生する毒素によるとされた。我が国ではアジアに分布するフタテンチビヨコバイ(Cicadulina bipunctata)によるが、気候温暖化に伴って北上しつつあり、今後の発生激化が懸念される。国内で抵抗性品種「なつひむか」が育成されている。


カルシウム欠乏症(calcium-ketsubo-sho) Calcium deficiency
生理障害
栄養生長期に葉縁が切れ込む症状。米国等ではあまり問題にならないが、わが国では家畜糞尿由来の有機物施用により土壌が肥沃化していることが多いため、散見される。これは牛糞等の堆肥施用により主としてカリウム供給過剰によってカルシウムの吸収が阻害されることによる。トウモロコシ品種により発生程度は異なるが、節間伸長期から絹糸抽出期にかけて発生程度を観察すれば、カリ過剰といった土壌のミネラルバランスの診断指針となり、これによりカリ施肥量等の見直しが可能となる。トウモロコシの収量には影響しない。

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