飼料作物病害図鑑

紅色雪腐病 リスク評価スコア2.7 (3,2,3)

病徴(ライグラス)
病徴(フェスク)
病原菌(分生子、ライムギ)

病徴:関東以北および中国地方などで発生し、積雪下で株枯れを引き起こす糸状菌病。積雪下の茎葉が軟化・枯死し、ピンク色に見える。菌核は形成しない。牧草では比較的被害は少ないが、芝草では非積雪地域でも発生が報告され、被害が大きい。

病原菌:Monographella nivalis (Schaffnit) Müller、子のう菌
多犯性で、イネ科牧草・飼料作物ではライグラス、オーチャードグラス、チモシー、フェスク、ブロムグラス、ベルベットグラス、ブロムグラス、ライムギ等での発生が報告されているが、芝地ではベントグラス(レッドトップ)、ブルーグラスおよびノシバで発生し、イネ科食用作物でもオオムギ、コムギで発生する。病原菌はかつてFusarium nivaleに分類されていたが、分生子が脚胞を欠くなどの形態的相違からMicrodochium属に移され(有性世代はMonographella)、Fusarium属とは分類的に近縁だが異なる。北海道ではFusarium sp.によると推定される雪腐病の発生報告がある(大同ら 1995)。


生理・生態:芝草で被害が大きいが、牧草では比較的被害が少ない。草種間の抵抗性差異は明確ではないが、接種試験ではペレニアルライグラスはオーチャードグラスよりも強いが(中山・阿部 1994)、イタリアンライグラスの系統によっては多発することがある(農林水産研究文献解題〜ライグラスの病害)。雪腐病には積雪・凍結条件下でのみ発生する絶対的雪腐病菌と積雪下以外でも(夏季でも)発生する条件的雪腐病菌があり(松本 2005Matsumoto and Hoshino 2009)、後者には紅色雪腐病菌が含まれ、雪腐枯死植物体上から胞子を飛散させ、これが夏季に牧草やムギ類などの葉に斑紋を形成したり(通称、暗紋病)、穂にも北海道(道東)でも多発するコムギ赤かび病を引き起こす(Tronsmo et al. 2001)。(その他の雪腐病菌の一般的な特性については雪腐小粒菌核病の項を参照)。病原菌はマイコトキシンとして、ニバレノールおよびデオキシニバレノールを産生するとされてきたが、少なくとも日本産の菌は産生しないことが分かっている(中島 1995, 中島・内藤 1995)。

防除法:シバでは各種銅剤等の根雪前散布により防除できる。イタリアンライグラスで紅色雪腐病に対する抵抗性選抜が行われた(石黒ら 1982a)。イミノクタジン酢酸塩の散布により雪腐大粒菌核病および紅色雪腐病菌を排除できる(高井ら 2004)。ペレニアルライグラスでは種子伝染することがあるため、種子を乾熱殺菌すると防除効果がある(佐藤ら 1998a)。

総論:清水(2000)


畜産研究部門(那須研究拠点)所蔵標本 
標本番号 宿主和名 宿主学名 症状 採集地 採集年月日 採集者
N18-11 イタリアンライグラス Lolium multiflorum Lam. 埼玉農試 1965.6.17
N18-14 暗紋病 茨城県友部町 1966.6.23
N18-10 マウンテンブロムグラス Bromus marginatus Nees 千葉雪印農場 1958.6.16
N18-12 千葉畜試 1958.6.2
N13-43 スムースブロムグラス Bromus inermis Leyss. 畜産試験場(千葉市) 1965.6.2 西原夏樹
N18-15 レスクグラス Bromus catharticus Vahl 暗紋病 茨城県友部町 1966.6.23
N18-9 スレンダーホイートグラス Agropyron trachycautum Link. 千葉雪印農場 1958.6.16
N19-65 ライムギ Secale cereale L. 栃木県西那須野町草地試験場 1975.6.12 西原夏樹
N9-66 オオムギ(ビールムギ交C) Hordeum vulgare L. 千葉市都町 1957.5


(月星隆雄,畜産研究部門,畜産飼料作研究領域,2021)


本図鑑の著作権は農研機構に帰属します。

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