飼料作物病害図鑑

雪腐大粒菌核病 リスク評価スコア2.7 (2,3,3)

病徴(オーチャードグラス)
病徴と子座(ライグラス)
病徴(チモシー)
菌核(オーチャードグラス)

病徴:北海道、東北で株枯れを引き起こす重要病害。土壌凍結期間の長い地域に分布する。病徴は融雪直後に深緑色、水浸状になり、ゆでたように軟化する。乾くと灰褐色になり、その表面にネズミの糞状で、大きさ5-10mm程度の黒い大型菌核を形成し、オーチャードグラス上では扁平になることが多い。1960年代から道東で発生し、オーチャードグラスが特に大きな被害を受けた(農林水産研究文献解題〜オーチャードグラスの病害)。

病原菌:Myriosclerotinia borealis (Bubák et Vleugel) Kohn、子のう菌
病原菌は多犯性で、イネ科牧草ではオーチャードグラス、ライグラス、チモシー、フェスク、ベントグラス(レッドトップ)、リードカナリーグラス、ブルーグラス、ブロムグラス、トールオートグラス、メドウフォックステイル等での発生が報告されているが、イネ科食用作物ではオオムギおよびコムギに雪腐病として大きな被害を及ぼす。晩秋には菌核が発芽し、黄褐色で直径数ミリのキノコを形成し、ここから感染源となる子のう胞子を飛散させ、蔓延する(雪腐病菌の一般的な特性については雪腐小粒菌核病の項を参照)。


生理・生態:オーチャードグラスでは一般的に積雪が遅く、土壌凍結が深く、消雪が遅い年に本病の被害が大きいとされ、30cm以上の積雪日数が多いほど被害度は大きくなる(嶋田ら 1987, 1988a)。根雪前の日最低気温が-15℃以下の場合被害が大きくなることから、道東での年次別被害度が推定された(嶋田ら 1988b, 1993)。本病に対して抵抗性の高いチモシーはペレニアルライグラスと比較して耐凍性も高いが、水溶性炭水化物(TSC)含量は低い傾向にあり、TSC含量だけでは草種間の抵抗性差異は説明できない(松本・佐藤 1983a, 1983e)。高浸透圧培地上では菌糸生育適温が10℃から4℃にシフトしたことから、糖類が蓄積した植物体上での0℃付近での生存に適応していると推定された(Hoshino et al. 2010)。

防除法:抵抗性には草種間差異があり、幼苗検定によってオーチャードグラスおよびペレニアルライグラスは弱く、チモシーは比較的強いことが明らかにされた(能代・小関 1980b)。また、凍害が本病発生の誘因となるため、早めに刈り取るなど、凍害を避けるための適切な刈取時期に留意する(能代 1980a)。オーチャ―ドグラスでも抵抗性に品種間差がある(山川ら 1985)、圃場検定による耐冬性(抵抗性)の品種間差異の評価が行われた(嶋田 1991)。水溶性炭水化物含量が多い品種ほど抵抗性を示すことが知られ(新発田・嶋田 1986)、適切な施肥により肥料不足とならない肥培管理が被害回避のために重要である(能代・小関 1980b)。イミノクタジン酢酸塩の散布により雪腐大粒菌核病および紅色雪腐病菌を排除できる(高井ら 2004)。

総論:清水(2000)


畜産研究部門(那須研究拠点)所蔵標本 
標本番号 宿主和名 宿主学名 症状 採集地 採集年月日 採集者
N04-26 メドウフェスク Festuca pratensis Huds. 雪腐大粒菌核病 北海道中標津町旭ヶ丘(根釧農試圃場) 1965.5.6
N04-27 オーチャードグラス Dactylis glomerata L.


(月星隆雄,畜産研究部門,畜産飼料作研究領域,2021)


本図鑑の著作権は農研機構に帰属します。

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