飼料作物病害図鑑
チモシー がまの穂病
リスク評価スコア2.3 (2,2,3)
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病徴 | 病徴(拡大) | 病原菌(子のう殻) |
病徴:北海道での発生が多く、北日本を中心に各地で発生している(農林水産研究文献解題〜チモシーの病害, 但見ら 2010)。発生すると出穂を阻害し、採種栽培で問題となる糸状菌病。春の終わりの穂ばらみ期〜出穂期に止葉周辺の葉鞘を巻くようにして、がまの穂状に長さ1ー3cmの白色菌叢が形成される。病斑が古くなると、がまの穂様の菌叢が黄化し、内部に有性世代を形成する。
病原菌:Epichloe typhina (Pers. ex Fr.) Tul. (=Neotyphodium typhinum (Morgan-Jones & Gams) Glenn, Bacon & Hanlin 、子のう菌
白色の子座(がまの穂)は節間の葉鞘および稈を包んで形成され、表面には多数の分生子が形成される。子座が古くなると内部に洋梨形の子のう殻が並んで形成され、糸状の子のう胞子を放出する。この頃になると、子座がハエ類の幼虫に食害されることも多い。病原菌は植物体内で共生するいわゆるエンドファイトであり(但見ら 1990b, 1990d, 菅原 2005c)、球茎、葉、稈、分けつ芽に感染するが、種子伝染は高率ではないと推定されている(島貫ら 1983a, 1984b)。種子から菌糸が検出された事例もない(但見 2002)。株の発病率は年次により変動する(但見・島貫 1991b)。感染株は冬枯れすることがある(但見 ら2001)。
生理・生態:植物体内でエンドファイトとしてチョコールなどのセスキテルペン類やフェノール化合物等の抗菌性物質を産生する(越野ら 1988)。 培養濾液中には他の病原菌の胞子発芽阻害物質を生産する(御子柴ら 2004)。がまの穂病菌がこれらの物質を作ることにより、感染植物は斑点病など他の病害に対して抵抗性となるが(島貫・佐藤 1984c, Greulichら 1999)、黒さび病など罹病程度の変わらない病害もある(但見ら 2000)。他の病原菌との対峙培養により抗菌性を確認できる(但見ら 2005)。感染植物はトリフォリン剤などの浸透性殺菌剤処理により無菌化できる(島貫・佐藤 1983b)。人工接種法が開発され、接種植物の病徴発現が観察されている(睦月ら 2002, 2003)。
防除法:圃場での抵抗性個体の選抜により、チモシー品種内で発病しない個体が増加し(島貫・但見 1993)、品種間での発生頻度の違いもある(農林水産技術会議事務局 1995, 但見・島貫 1987)。トリフォリン剤の施用は圃場で防除効果があることが報告されたが(但見・島貫 1988b)、本剤はチモシーには農薬登録が無く使用できない。
畜産研究部門(那須研究拠点)所蔵標本
標本番号 | 宿主和名 | 宿主学名 | 症状 | 採集地 | 採集年月日 | 採集者 |
N5-1 | チモシー | Phleum pratense L. | がまの穂病 | 1983.8 | ||
N5-85 | 〃 | 〃 | 〃 | 北見農試 | 1984.6.22 |
(月星隆雄,畜産研究部門,畜産飼料作研究領域,2021)
本図鑑の著作権は農研機構に帰属します。