チモシーの病害 (1)


赤葉枯病(akahagare-byo) Narrow leaf spot
病原菌:Rhynchosporina meinersii (Sprague) von Arx、不完全菌
 主に北海道で発生する葉枯性の糸状菌病。初め葉に赤褐色の斑点を形成するが、これが長く伸びて中央部灰白色、周縁部赤褐色の長楕円形病斑となる。大きさは長さ1ー3cm、幅1ー3mm程度で、病斑の境界は明瞭である。多発すると、病斑が相互に融合して葉枯状態となる。


麦角病(bakkaku-byo) Ergot
病原菌:Claviceps purpurea (Fries) Tulasne、子のう菌
 穂に麦角(菌核)を形成し、これが家畜毒性を持つ。開花直後から穂にあめ色の蜜滴を形成し始め、蜜滴内に含まれる多量の胞子が風雨で飛散して伝播する。感染した穂には種子のかわりに表面白色、その下は黒紫色、牛の角状で、長さ2〜18mm、幅0.6〜2.4mmの麦角を形成する。麦角は地上に落ち、翌年に発芽して伝染源となる。病原菌は寄主範囲が広く、オーチャードグラス、フェスク、コムギなどにも感染する。麦角中のアルカロイドはエルゴバリンなど毒性の強いものであり、家畜の流産などを引き起こす。


がまの穂病(gamanoho-byo) Choke
病原菌:Epichloë typhina (Pers. ex Fr.) Tul.、子のう菌
 発生すると出穂を阻害し、採種栽培で問題となる糸状菌病。春の終わりに止葉周辺の葉鞘を巻くようにして、がまの穂状に長さ1ー3cmの白色菌叢が形成される。この表面には多数の分生子が形成される。病斑が古くなると、がまの穂様の菌叢が黄化し、内部に子のう殻が形成され、子のう胞子が放出される。病原菌は植物体内で共生するいわゆるエンドファイトであり、抗菌性物質等の産生が知られる。また、感染植物は斑点病など他の病害に対して抵抗性となる。


葉枯病(hagare-byo) Helminthosporium Leaf blight
病原菌:Drechslera phlei (Graham) Shoemaker、不完全菌
 春先から発生する葉枯性の糸状菌病。葉の先端付近から淡褐色、長方形から長楕円形、大きさ2ー5×1ー2mm程度の病斑が形成される。病斑周辺は黄化することが多い。多発すると病斑が相互に融合し、葉枯を引き起こす。病原菌はヘルミントスポリウム菌で、チモシーにのみ寄生する。

葉枯菌核病(hagare-kinkaku-byo) Leaf rot (病名未登録)
病原菌:Sclerotium rhizoides Auerswald、不完全菌
 2011年6月、北海道新得町、清水町および日高町のチモシーで発生した。病徴は葉の先端が白く枯れ、葉身全体が展開できずに巻くように枯れ上がる。病斑は楕円形から不定形で、周縁部は淡褐色、中心部は白色となり、表面には灰黒色、球形〜亜球形、表面平滑、直径1-3 mmの菌核を連なって形成する。罹病個体は草地にパッチ状に広がる。病原菌はオーチャードグラスおよびリードカナリーグラスには病原性を示さない。本病はシバムギでも発生する。


葉腐病(hagusare-byo) Summer blight
病原菌:Rhizoctonia solani Kühn AG-1 TA, TB、担子菌
 全国で発生し、草地の夏枯の一因となる重要な糸状菌病。初め灰緑色、水浸状に葉が変色し、やがてゆでたように軟化していく。さらに病気が進むと、茎や葉が倒れて重なって腐り、これをつづり合わせるようにしてくもの巣状の菌糸が見られる。罹病植物上には、明褐色〜褐色、直径5mm程度の菌核が形成される。この時点で草地はつぼ状に枯れ、徐々に裸地化が進む。病原菌はほとんどのイネ科及びマメ科牧草を侵すきわめて多犯性の菌。TA菌およびTB菌が関与する。


斑点病(hanten-byo) Purple spot
病原菌:Cladosporium phlei (Gregory) de Vries、不完全菌
 北部及び高冷地で最も一般的なチモシーの斑点性病害。春から秋にかけて発生するが、夏に最もまん延する。初め紫黒色の小点であるが、後に中央部灰白色、周縁部紫黒色の円形病斑となる。病斑の大きさは直径2ー3mm程度だが、多発すると葉先から巻き上がるように枯れる。病原菌はチモシーにのみ寄生する。


ひょう紋病(hyoumon-byo) Zonate leaf spot
病原菌:Gloeocercospora sorghi Bain et Edgerton ex Deighton、不完全菌
 関東で発生する、葉に大型の斑点を生じる糸状菌病。初めは紡錘形、銅色の小斑点を葉に生じるが、やがて葉を横切る大きな病斑となり、銅色の不規則な豹紋状となる。後に病斑が融合して葉枯を引き起こす。古い病斑では小黒点(菌核)が認められることがある。病斑周辺はあまり黄化しない。病原菌はソルガムなどの菌と同種だが、寄生性は若干異なるとされる。


角斑病(kakuhan-byo) Stem speckle
病原菌:Pseudoseptoria stomaticola (Baumler) Sutton、不完全菌
 冷涼地で発生する斑点性の糸状菌病。葉および葉鞘に発生し、病斑内部は灰白色、周縁部は褐色の細い縁状となり、長さ1ー2mm程度の角斑となる。病斑は葉脈で区切られ、境界のはっきりした明瞭なものとなる。病斑上に形成される柄子殻内の胞子が風雨で飛散してまん延する。


黄さび病(kisabi-byo) Stripe rust
病原菌:Puccinia striiformis Westend. f.sp. poae Tollenaar et Houston、担子菌
 さび病の一つだが、被害はさほど大きくない。葉、葉鞘および稈の表面に橙黄色、楕円形、長さ1mm程度の腫れ物状の病斑が縦に連なるようにできる。病斑は成熟すると表面が破れて夏胞子を飛散させる。冬胞子堆は葉では裏に生じることが多く、灰黄色、あまり隆起しない。病原菌はケンタッキーブルーグラスの黄さび病菌が寄生したものとされる。


黒さび病(kurosabi-byo) Stem rust
病原菌:Puccinia graminis Persoon f.sp. phlei-pratensis (Eriks. et Henn.) Stakman et Piemeisel、担子菌
 チモシーの代表的なさび病。春先から発生し、さび病独特の腫れ物状の病斑を形成する。病斑は赤褐色または鉄さび色、楕円形〜条状で、長さ1〜2mm、幅0.5〜0.6mm程度となり、これが融合して不規則な形になる。成熟すると表皮が破れて中から赤褐色の夏胞子を飛散し、まん延する。夏から秋にかけて病斑は黒褐色になり、冬胞子を形成して越冬する。病原菌の中間宿主はメギ属植物とされるが、確証はない。他の植物の黒さび病菌とは同種だが、寄生性が異なる。

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