【豆知識】

コラム

ノシメマダラメイガをチョコレートで飼育する方法

2012.01.20 宮ノ下明大

 

ノシメマダラメイガはチョコレート製品の混入害虫として知られていますが、チョコレートでは発育しないという報告と、発育するという報告があり、意見が分れていました。最近、私たちが行った飼育実験から、チョコレートで発育可能な条件がわかりましたが、どうしてこれまでの報告では意見が分れていたのでしょう。

ノシメマダラメイガとチョコレート
ノシメマダラメイガとチョコレート

昆虫の発育に影響を与える要素として、温度、餌の質、飼育密度等が考えられます。一般的に発育期間は、35℃付近までであれば高温なほど、餌の質は栄養価が高く柔らかいほど、飼育密度は低いほど短縮されます。これらの条件を整えればうまく飼育できる可能性があります。

それではチョコレートを餌とした場合の飼育方法を考えてみましょう。まずは普通に、温度25℃、チョコレートの形状は板状で、幼虫5頭で飼育しました。すると、発育期間は140日程度、成虫の羽化率は8%となりました。これでは、発育に時間がかかり過ぎますし、羽化率が低いことは飼育法としては不十分です。もっと飼育条件を良くしてみましょう。温度30℃、チョコレートの形状はスライスにして食べやすくし、幼虫1頭で飼育しました。その結果、発育期間は70日程度で、成虫の羽化率は90%となりました。発育期間は半分に短縮され、羽化率は10倍以上良くなったので飼育法として採用できそうです。これら飼育条件のどちらか一方だけの結果でチョコレートでの幼虫発育の有無を判断すると、全く異なった結果が出てしまうので注意が必要です。

発育期間、体重、成虫羽化率

過去の論文では、30℃以下で集団飼育して発育の有無を調べたために、羽化率が悪くチョコレートでは発育しないという結果が出ていたのです。また、別の論文では少量のチョコレートで集団飼育したために餌が不足し、チョコレートではなく幼虫同士で共食いが起こった結果として、短期間で発育したと思われました。発育試験を行う際は、十分な餌量で個別に飼育することが重要なのです。

幼虫は育つ?
幼虫は育つ?

でも、ノシメマダラメイガをチョコレートで飼育するなんてことあるでしょうか?それがあるのです。

ヘラブナの餌
ヘラブナの餌

ヘラブナ釣りの餌として釣り人がノシメマダラメイガの幼虫をチョコレートで育てていたという記録があります。私はなぜチョコレートなのかと不思議に思っていました。短期間で大量に育てたい場合は、玄米やナッツを餌にした方がいいでしょう。しかし、頻繁な餌の補充が必要で世話が面倒になります。魚の餌として幼虫を手間なく長期間維持するために、発育の遅いチョコレートを餌としたのかもしれません。ただ、この推測には大きな欠点がありそうです。チョコレートで発育した幼虫は小型で体重が軽いように見えます。やせた幼虫を魚が好んで食べてくれるでしょうか。これを確かめるためにはヘラブナを使った釣り実験が必要ですが、今のところその予定はありません。

「スライスして30℃で1頭ずつ飼育する」というチョコレートでのノシメマダラメイガの最適な飼育法を直接生かす場面はなかなか思い浮かびません。しかし、チョコレート製品に混入したノシメマダラメイガについて、その産卵された時期や混入時期を特定することが必要な場面があります。そのためには、様々な条件で幼虫の発育期間を調べておく必要があり、その基礎データとして大いに役立つと言えるのです。

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参考文献

  • 宮ノ下明大・今村太郎(2011)チョコレート製品でのノシメマダラメイガ Plodia interpunctella 幼虫の発育 ペストロジー 26(2): 53-57.
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関連情報

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更新日:2019年02月19日