情報:農業と環境 No.74 (2006.6)
独立行政法人農業環境技術研究所
平成18年度農業環境技術研究所評議会が開催された
平成18年度の独立行政法人農業環境技術研究所評議会が4月27日に開催されました。 第1回 (平成13年11月16日)、 第2回 (14年5月24日)、 第3回 (15年4月23日)、 第4回 (16年4月26日)、 第5回 (17年4月27日) に続く第6回の開催です。
ここでは、評議会の概要、開会あいさつ、評議員からのおもな指摘について報告します。
議事次第
開会あいさつ
平成17年度評議会における指摘事項とそれに対する対応
平成17年度の業務実績報告
平成17年度の具体的成果
第2期中期計画について
業務実績に係わる総合評価
講評
閉会あいさつ
出席者
【評議員】
木村 眞人 名古屋大学大学院生命農学研究科教授
古在 豊樹 千葉大学学長
永田 徹 前茨城大学農学部教授
藤原 俊六郎 神奈川県農業技術センター副所長
松永 和紀 サイエンスライター
山崎 洋子 NPO田舎のヒロイン・わくわくネットワーク代表
堀江 武 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構理事長
大熊 幹章 独立行政法人森林総合研究所理事長
秋山 敏男 独立行政法人水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所所長
藤本 潔 農林水産省大臣官房環境政策課長
【オブザーバー】
小泉 健 農林水産省農林水産技術会議事務局研究開発企画官
近藤 秀樹 農林水産省農林水産技術会議事務局研究開発企画官
天野 雅猛 農林水産省農林水産技術会議事務局総務課調整室長
田中 康治 農林水産省農林水産技術会議事務局技術政策課課長補佐
唐澤 敏彦 農林水産省農林水産技術会議事務局研究調査官
白戸 康人 農林水産省農林水産技術会議事務局研究調査官
開会あいさつ
(独)農業環境技術研究所理事長 佐藤 洋平
本日は評議員の皆様におかれましては、お忙しい中を私ども農業環境技術研究所の評議会にご出席たまわり、まことにありがとうございます。また農林水産技術会議事務局からも多数のご参加をいただき、ありがとうございます。本年度は評議員の構成を新たにし、古在豊樹さん、藤原俊六郎さん、松永和紀さん、山崎洋子さん、堀江武さん、それから藤本潔さんにご就任いただきました。
この評議会は当研究所の1年間の成果を評価していただき、今後の研究所の運営ならびに調査および研究の業務の円滑な推進に役立てるための会議です。平成17年度は第1期の中期計画が終了する年でもあります。したがいまして、平成17年度の研究・業務の実績には、それ以前の4年間の実績も反映されています。
平成17年度は第1期中期計画の最終年度ですので、研究業務などの運営の基本、あるいは研究組織などの運営体制は、ほとんど変更することなく進めて参りましたが、いくつかの新しい事にも着手しました。
お手元にある環境報告書の発行が、そのひとつです。私どもの研究所は従業者数が基準に満たないため、報告書を作成する義務はありませんが、環境に深くかかわる研究所であるため、率先して発行することにしました。
本日の評議会は、私どもが日常取り組んでいる業務について、1年間に何がどこまでできたかを、客観的に省みるよい機会であると考えております。ぜひ忌憚(きたん)のないご意見をたまわりたくお願い申し上げます。
さて本年度から、新しい5年間の中期目標のもとに新たな中期計画が開始されています。本日の評議会では若干の時間をいただき、新しい中期目標、中期計画ならびに研究推進体制などについてご説明します。本日は、昼の1時から夕方5時までの長時間ですが、農業環境技術研究所をより良くするために、忌憚のないご意見をいただきたいと思います。よろしくお願いします。
評議員からのおもな指摘
業務の効率化について
- 研究推進費の課題による傾斜配分はなにを基準にして行っているのか。
- 外部資金の獲得に向けて努力している。とくに科振調費の獲得は高く評価される。
- ISO14000(環境マネジメント規格)の取得を検討していただきたい。
連携・協力について
- 国際的な活動が顕著であり評価される。今後は、アジアに向けて仕事をする必要がある。中国、インド、およびエネルギー、食料などが今後のキーワードと考える。
- 国の研究要望をしっかりととらえ、行政に対してどのような成果を提示し、施策にどのように反映されたかを整理し、アピールすべきである。
- 民間企業や首都圏以外の大学との一層の交流が、人事も含めて、望まれる。
- 従来の組織の枠組みを超えた共同(融合)プロジェクトの提案など、新しい研究プロジェクトの構築を考慮してほしい。
- 有益なシンポジウムを数多く開催しており、県、民間、団体などからも参加が多い。継続していただきたい。
- 分析鑑定の費用を徴収して自己収入を増やすべきではないか。
成果の公表、普及の促進について
- ホームページへのアクセス数が月19,000は少ない。食や環境の安全といった情報を求めているのは、従来の農業関係者の枠を越えて、一般消費者などの国民である。そういった層へ研究成果を伝える努力が望まれる。研究所が学問的に発信したい情報と一般消費者がほしい情報の間にはかなりのズレがあるので、学問成果と一般消費者向けの情報とをきちんと分けるべきである。
- 農環研のミッションがわかりにくい。2行くらいで表す言葉、ミッションを作り、外部に対してだけでなく、内部の旗印にもするとよいのではないか。
- 農業技術が高度になってきた一方で、新聞・テレビ記者の方は農業に関する知識や常識がほとんどないことが多い。農業の現場と研究の内容がわかった上で研究者と生産者・消費者、行政、マスコミをつなぐ、通訳的な人材を研究所で育成する仕組みを作ってほしい。
- 特許出願、商標出願の件数が少ない。研究成果移転の促進と、研究所の役割の明確化が必要である。また、NPO等との連携を通じて研究成果を社会に移転するしくみを考慮すべきである。
第2期中期計画に対するコメント
- 第1期と第2期の中期計画のつながりが分かりにくい。また、第1期の組織での研究部長ポストから移行した研究コーディネータの役割を説明してほしい。
- 研究組織のマトリックス構造は一つの試みとして評価する。ミッションだけでなく、基礎研究の深化を期待する。不要不急の研究テーマの温存につながらないように内部的なコミュニケーションを十分とり、縦と横のバランスをとるようにしてほしい。
- 中期計画が5年先まで決まっており、計画の途中で新しい研究の芽がでてきてもそちらに移れないジレンマがある。ある程度は自由がないと、研究者のアクティビティは下がる。たまたま出てきた凄そうな成果にも投資する姿勢が必要ではないか。
研究課題について
- ダイオキシン類やカドミウムに関する研究成果は評価できるが、一般市民に分かりやすい成果の公表や、実用化に向けたコストの検討が必要である。木質炭化素材を用いたトリアジン系除草剤汚染環境への分解菌接種の技術は、現場のニーズにあっていると思われ、早期の実用化を図るべきである。
- 水田の脱窒機能による硝酸性窒素の浄化の研究に期待する。今後、畜産糞尿や食品廃棄物などの処理を考える上で、水田への有機物施用は重要であり、脱窒によるNサイクルへの寄与もアピールできるのではないか。
- 組換え体作物の生態系影響について、イギリスで行われているように、日本の生態系の中でも長期モニタリングを実施していただきたい。また、組換え作物の生態系影響や安全性について、もっと一般国民に分かりやすい広報が必要である。
- 水田除草剤が植物群落に及ぼす影響について、絶滅危惧(ぐ)種などへの影響を農薬登録の際にどの程度考慮するか、今後重要な問題になると思うので、十分に研究を進めていただきたい。
- 「地球規模の環境変動に伴う生育阻害要因を考慮した東アジアのコメ生産力の変化予測」の研究が、やや遅れている。他の研究機関とも協力し、アジア、とくにベトナムなどデルタ地帯などでの研究を期待する。
- 物質収支システムの研究は行政的にも重要な研究課題なので、研究を継続し、成果を上げてほしい。
- 137Csの長期モニタリングは長期的な実施が必要で、単年度の成果では意味がない。また、国の重要な施策を担っており、頑張って続けていただきたい。
- リモートセンシングデータを他機関と交換利用することはできないのか?
- 研究をやる上ではきちんとしたデータベースが必要である。データベースの集積は地味ではあるがきわめて重要な業務なので、継続して取り組んでほしい。価値を外部に広める広報をお願いしたい。