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農業と環境 No.121 (2010年5月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

本の紹介 286: 大絶滅 ―2億5千万年前,終末寸前まで追い詰められた地球生命の物語、 ダグラス・アーウィン(Douglas H. Erwin) 著、 大野照文 監訳、 沼波 信・一田昌宏 訳、 共立出版(2009年6月) ISBN978-4-320-05685-5

今年10月に名古屋で開催される生物多様性条約第10回締約国会議 (COP10) では、生物多様性の減少の進行をいかに食い止めるかが大きな課題であるが、地球の歴史を振り返ると、動物が多様化した5億4,300万年前のカンブリア紀以降、生物は少なくとも5回の大きな絶滅を被(こうむ)ってきたとされている。中でも2億5,100万年前のペルム紀末(ペルム紀−三畳紀の境界、P/T境界、古生代と中生代の境界)で起こった絶滅は最大級で、96%の種が絶滅し、本書の副題にあるように生命は終末寸前まで追いつめられたとされている。この絶滅は生命史におけるターニングポイントと考えられており、古生代の生態系は徹底的に破壊され二度と回復することはなかったが、そのとき生き残り新たに進化した生物たちによって、今日の生物界は築かれてきた。ペルム紀末の大絶滅については、先月紹介した「生命40億年全史」の中でも触れられているが、本書は詳しくこの謎に迫る。

著者は、原因として提唱されている多数の仮説の中で、もっとも可能性のある要因として、隕石(いんせき)か彗星(すいせい)の衝突、シベリアの大規模な火山活動による気候の崩壊、海洋中の酸素欠乏とそれを必要とする動物の消滅、そして、単一の要因ではなく相互に作用し増幅しあういくつかのできごとの組み合わせの4つをあげる。

過去6億年間でもっとも大規模な火山噴火がこの時期に起こっており、このことが原因となった可能性が考えられる。しかし、火山活動がどのようにして大絶滅を引き起こしたのかはわかっておらず、確かめるのは困難である。また、隕石の衝突が火山活動を引き起こしたという説も提唱されているが、地質学的な裏付けはない。

低酸素あるいは無酸素の水塊が拡大したという説は、証拠に支持されている。しかし、このことが海洋生物の絶滅の原因であったとしても、同時に起こった陸上の生物の絶滅を説明することは困難であり、陸上での絶滅を引き起こした他のプロセスと結びつくことが必要である。

絶滅は一つの原因によるものではなく、相互に関連した複数の要因が組み合わさった結果であるとする、いわば複数の容疑者が犯人であるとする説は、さらに検証が難しい。著者はこの説が気に入っているというが、検証が困難なものは科学者からは嫌われる傾向にあることも確かであろう。

ペルム紀末の絶滅がかなり短期間 (おそらく16万年以内) に起こったこと、海洋・大気間の炭素の流れが激変し陸上でも海洋でも絶滅が起こっていることから、隕石の衝突により恐竜が絶滅した6,500万年前の白亜紀末の絶滅が連想される。しかし、ペルム紀末に関しては多くの努力にかかわらず、衝突があった証拠は見つかっていない。

隕石の衝突という地球外部の要因によるものなのか、それとも本質的に地球内部のプロセスが原因となったのか。原理を求める物理学者たちは衝突説を、多様性を賞賛する学者たちはより内因的なできごとを好む傾向があるという。後者だとしたら、地球システムや生物についてもっと知ることは、地球や人類の将来について知ることにつながるかもしれない。

最後に著者は、第6の絶滅と呼ばれる現世の生物多様性の消失について、化石記録の絶滅率と現世の概算値との比較は、データの質が全く異なるものであるため本質的に欠点があると指摘し、我々が大絶滅の最中にいるのかどうかという議論について疑問を投げかけている。

目次

第1章 はじめに

第2章 原因の不協和音

第3章 南中国間奏曲

第4章 それは時間の問題だ

第5章 濾過食者たちの失敗

第6章 南アフリカの楽園

第7章 ペルム紀の海洋危機

第8章 結末

第9章 復活と回復

第10章 ペルム紀―三畳紀パラドックス

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